アッ!と思うことはたびたびある。
山門脇の桜が見事に満開になったとき、紫陽花の花の色がコロッと変わったとき、校長先生の髪がアデランスやと分かったとき、ファイナルファンタジーⅦのリマスター版発売が発表さっれたとき、お父さんの失踪宣告が決まったとき、ほかにも色々……。
いま、アッと思たんは頼子さんのヘアスタイルが変わってたから!
頼子なんちゅう昭和チックな名前やけど、イギリス人とのハーフでブロンドの髪にブルーの瞳。フルネームは夕陽丘・スペンサー・頼子。いつもはロングの髪を肩に垂らして不思議の国のアリスみたい。
それが、なんちゅうか一見ショートヘア。
よく見ると、後ろの方でまとめてあって、ショートよりもかっこええ!
「アハハ、暑いからね。と言って、ショートにするのもなんだしね。おかしい?」
留美ちゃんと二人、フルフルと首を振る。
「素敵な人は何をしても素敵ですねえ……」
「そんな感心しないでよ、三つ編みをまとめただけなんだから」
「三つ編みなんですか?」
「うそ?」
留美ちゃんが後ろに回ってシゲシゲと観察。頼子さんはティーカップを持ったままクルリと回って見せる。下手に恥ずかしがらないし、はしゃぐわけでもなく、自然に留美ちゃんの興味に合わせてる。いかにもレディーという感じ!
「ダージリンに似てます!」
え? 似てますじゃなくて、文芸部の紅茶はダージリンなんですけど?
「あ、ああ、あのダージリンか!」
頼子さんも納得やけど、わたしには分からへん💦
「これだよ、桜ちゃん」
部室のパソコンをチャチャっと操作する留美ちゃん、なんとブラインドタッチです。
「ほら!」
嬉しそうに出したんは、ユーチューブ。ガルパン映画の予告編。
「あ、ああ……」
納得した。聖グロリアーナ女学院の隊長ダージリンにソックリや。
「わたしはダージリンほどには格言知らないけどね。ハハ、ローズヒップって言われなくてよかった」
「嫌いですか、ローズヒップ?」
「見てる分には好きよ。友だちに、こういうのが一人いたら面白いとは思うんだけど。あんたたちも十分面白いよ」
「そ、そうですか?」
「留美ちゃん、水泳の授業『うまい班』なんだって?」
「え、あ、まあ」
そうそう、見かけによらずと言うてはなんやけど、留美ちゃんは水泳の授業では『うまい班』なんだ。
「で、さくらは『金槌班』なんだ」
「そ、そうですけど」
「「アハハハ」」
二人そろって笑い出す。わたしもいっしょに笑てしまう。たった三人の文芸部やけど、ええクラブやと思う。
「『金槌班』はA班になるらしいわよ」
これには、留美ちゃんも「え?」やった。
「『苦手班』はB班、『うまい班』はC班なんだって」
「なんですか、それは?」
「名前の付け方が差別的だってクレームが来たらしいよ。来週の授業から変わるって」
うーーーーーん。
どうなんだろ?
田中さんの『制服切り裂き問題』には何の対応もせえへんのに、しょうもない水泳の班の名前のクレームにはアッサリ対応。
それも『金槌班』が『A班』……当たり前の感覚やったら『C班』やろと思うねんけど。
「それで、田中さんは?」
あとで思うと、頼子さんの関心は、田中さんのことにあった。
田中さんのことを真っ先に聞くと変に意識してしまうのんで、いろいろの前振りやったと思うのは、もっと後のこと。
「いや、それが、今では水泳の師匠なんですよーー!」
田中さんのスパルタ指導を説明すると、コロコロ笑う文芸部でありました。
☆・・主な登場人物・・☆
- 酒井 さくら この物語の主人公 安泰中学一年
- 酒井 歌 さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。
- 酒井 諦観 さくらの祖父 如来寺の隠居
- 酒井 諦一 さくらの従兄 如来寺の新米坊主
- 酒井 詩 さくらの従姉 聖真理愛女学院高校二年生
- 酒井 美保 さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
- 榊原留美 さくらの同級生
- 夕陽丘・スミス・頼子 文芸部部長
- 瀬田と田中(男) クラスメート
- 田中さん(女) クラスメート
- 菅井先生 担任
- 春日先生 学年主任
- 米屋のお婆ちゃん