ひょいと自転車に乗って・21
お母さんに相談したのが間違いだった。
「そんなもの、すぐに除霊してもらいなさい!」
お母さんは非の打ち所がない。お父さんの共同経営者としても、一家の主婦としてもよくやっている。
もちろん、わたしのお母さんとしても、よくやってくれている。
尾道から大阪の高安へやってくるのは大冒険で、正直行きたくなんかなかった。絶対行きたくなかった。
もう、めちゃくちゃ嫌で、頭に禿ができるくらいに嫌だった。
でも、お母さんは「尾道から出ることが美智子には大事なの!」とまなじりを上げて、わたしを引っ越しさせた。
けっきょく、そのことは正しくって、わたしは、自分の世界が広がっていくことを実感できている。
お母さんなら、正しい選択を支持してくれる。そう思って相談した。
その結果、京ちゃんと輝さんに付き添われ、中河内中学校……元の千塚高校の体育館を目指してペダルを漕いでいる。
輝さんが、地元の繋がりをフルに活用して、中河内中学校の先生から許可をもらってくれたんだ。
「さ、ここから先は、ミッチャン一人で」
体育館の入り口で宣告された。輝さんは、むかし世話になった霊能力者にも連絡をとってくれて、事のあらましと除霊の方法を確認してくれた。
――中学生の女の子では持て余してしまうわ、除霊しておくのがいいでしょ。やり方は、むかし、あんたがやったのと同じでいける――
「なんかあったら、すぐに呼ぶんやで。叫んでもええし、スマホでもかめへんからね」
京ちゃんは心配してくれて、これで三回目になる確認をした。
ギギギーーーガシャン。
鉄の扉を開けて、入ってから閉めた。 きょうは日曜日で、部活とかで体育館を使っている者もおらず、なんだかオカルト映画の撮影みたいに一人ぼっち。
霊能者さんからもらった徳利に入った水を左に、お皿に盛った塩を左に置いて目をつぶり、手を合わせた。
五回ほど息を吸って吐いてして、目の前にイリヒコが現れた。
現れたと言っても、わたしは目をつぶっている。目をつぶっていても、イリヒコと、その周囲は見えるんだ。
「ごめんね、わたしが喋ったのがいけなかった。お母さんに反対されて押し通すことはできないから……」
イリヒコは気弱に微笑むだけ、怖い顔をして罵ってくれた方がやりやすい。
イリヒコの微笑みがいっそう満ちてくる。
そこで意識が途切れてしまった。
「あ、気が付いた!」
京ちゃんの声で目が覚めた。目が覚めたのは体育館の中にある教官室だ。
「よかった、救急車を呼ぼ思たんやけど、学校に迷惑かけられへんからね」
そりゃそうだろ、オカルトじみたことに手を貸して救急車の世話になったら、マスコミなんかにどう言われるかわかったもんじゃない。
「ありがとうございます、もう大丈夫です」 「うまいこといったん?」 「う、うん、きれいさっぱり」
きれいさっぱり覚えていない。でも、イリヒコの寂しすぎる笑顔が全てを物語っていると思う。
お礼を言って体育館を出ると、朝からの雨が、ジトジトと降り続いていた。