大橋むつおのブログ

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高校ライトノベル・ひょいと自転車に乗って・21『朝からの雨が、ジトジトと降り続いていた』

2019-04-05 07:01:48 | 小説6

ひょいと自転車に乗って・21

『朝からの雨が、ジトジトと降り続いていた』     

 

 お母さんに相談したのが間違いだった。
 

「そんなもの、すぐに除霊してもらいなさい!」
 

 お母さんは非の打ち所がない。お父さんの共同経営者としても、一家の主婦としてもよくやっている。

 もちろん、わたしのお母さんとしても、よくやってくれている。

 尾道から大阪の高安へやってくるのは大冒険で、正直行きたくなんかなかった。絶対行きたくなかった。

 もう、めちゃくちゃ嫌で、頭に禿ができるくらいに嫌だった。

 でも、お母さんは「尾道から出ることが美智子には大事なの!」とまなじりを上げて、わたしを引っ越しさせた。

 けっきょく、そのことは正しくって、わたしは、自分の世界が広がっていくことを実感できている。

 お母さんなら、正しい選択を支持してくれる。そう思って相談した。
 

 その結果、京ちゃんと輝さんに付き添われ、中河内中学校……元の千塚高校の体育館を目指してペダルを漕いでいる。
 輝さんが、地元の繋がりをフルに活用して、中河内中学校の先生から許可をもらってくれたんだ。

「さ、ここから先は、ミッチャン一人で」

 体育館の入り口で宣告された。輝さんは、むかし世話になった霊能力者にも連絡をとってくれて、事のあらましと除霊の方法を確認してくれた。

 ――中学生の女の子では持て余してしまうわ、除霊しておくのがいいでしょ。やり方は、むかし、あんたがやったのと同じでいける――

「なんかあったら、すぐに呼ぶんやで。叫んでもええし、スマホでもかめへんからね」  

 京ちゃんは心配してくれて、これで三回目になる確認をした。
 

 ギギギーーーガシャン。
 

 鉄の扉を開けて、入ってから閉めた。 きょうは日曜日で、部活とかで体育館を使っている者もおらず、なんだかオカルト映画の撮影みたいに一人ぼっち。
 

 霊能者さんからもらった徳利に入った水を左に、お皿に盛った塩を左に置いて目をつぶり、手を合わせた。
 

 五回ほど息を吸って吐いてして、目の前にイリヒコが現れた。

 現れたと言っても、わたしは目をつぶっている。目をつぶっていても、イリヒコと、その周囲は見えるんだ。

「ごめんね、わたしが喋ったのがいけなかった。お母さんに反対されて押し通すことはできないから……」

 イリヒコは気弱に微笑むだけ、怖い顔をして罵ってくれた方がやりやすい。

 イリヒコの微笑みがいっそう満ちてくる。
 

 そこで意識が途切れてしまった。
 

「あ、気が付いた!」

 京ちゃんの声で目が覚めた。目が覚めたのは体育館の中にある教官室だ。

「よかった、救急車を呼ぼ思たんやけど、学校に迷惑かけられへんからね」  

 そりゃそうだろ、オカルトじみたことに手を貸して救急車の世話になったら、マスコミなんかにどう言われるかわかったもんじゃない。

「ありがとうございます、もう大丈夫です」 「うまいこといったん?」 「う、うん、きれいさっぱり」
 

 きれいさっぱり覚えていない。でも、イリヒコの寂しすぎる笑顔が全てを物語っていると思う。
 

 お礼を言って体育館を出ると、朝からの雨が、ジトジトと降り続いていた。  


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