大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

くノ一その一今のうち・57『ホームズのメモ』

2023-05-28 11:55:18 | 小説3

くノ一その一今のうち

57『ホームズのメモ』 

 

 

 スタジオに入ると、幾つもあるセットの中、ホームズの探偵事務所だけに明かりが灯っていた。

 雑然としたところは相変わらず。でも、二回目なのか、メインのテーブルは直ぐに分かった。

 板ガラスと緑のフェルトの間には、様々なメモやら地図やら領収書やらが挟まれていて、大方は黄ばんでしまった中に、まだ白さを保ったメモが目に留まった。

――お宝は大阪城内にある模様だが、大阪城のどこであるかは不明――

 なんだ、そのことは、とっくに知っている。

「下に、もう一枚あります」

 えいちゃんが見つけたそれは、黄ばんだメモの中に紛れていて、一見しただけでは分からない。横着なのか、探偵らしく擬装したのかは判断しにくい。

――空堀の坂道で木下の連中が目撃されている――

 空堀の坂道!?

 これは有力な情報だ!

「えいちゃん、大阪城に行くよ!」

「はい!」

 足元に注意しながらセットを出る。ホームズの事務所も散らかってるけど、スタジオのフロアは照明のケーブルや道具やらが散らばっている。隣のセットにも明かりがともったので、比較的楽にスタジオの扉にたどり着けた。

 大阪の地理には不案内だけど、大雑把には調べた。地理情報の収集は忍者の基本。

 大阪は東京に比べて300平方キロメートルも狭く、山手線と環状線の内側で比べると大阪は東京の半分も無い。

 下手にタクシーを待つよりは公共交通機関を使った方が早い。

「あ、ここから先は……」

 撮影所の門を出たところでえいちゃんが立ち止まる。

「どうした?」

「わたし二次元だから、このままリアルには出られません」

「え、あ、そうか」

 えいちゃんはポスターから抜け出したばかりで、まだ奥行きが無い。わたしには、横向きであろうと後ろ向きであろうと、平面の側を見せてくれるので、二次元だと言うことは忘れていた。

「よし、じゃあ、こうしよう!」

「え、あ、ちょ……」

 四の五の言わせず、えいちゃんをクルクル巻いてカバンに突っ込む。学校帰りにアキバでポスターをゲットしたJKの感じだ。

 撮影所の前の橋を渡ると長瀬川沿いの二車線の道路、右を向くと緩くカーブした先に長瀬駅が見える。

 とっとと歩く、ちょうど下校時間と重なって、駅に向かう高校生や大学生に紛れる。

『地味に目立ちますね』

 丸めたままのえいちゃんが心配する。わたしは東京の制服のまま、地元のK付属高校の制服とは、ちょっと違う。

「大丈夫よ、これでどう?」

 制服は変えられないけど、少しだけ背中を丸めて緊張感を抜き、歩く速さを高校生たちに合わせる。

『あ、溶け込みましたね!』

 骨柄はまあやにソックリだけど、顔のパーツは地味子そのもの。周囲の人たちは犬が歩いているほどにも気を停めない。

 面倒だけど切符を買う。ICカードだと履歴が残るからね。

 長瀬駅は先頭車両が地獄のように混む。

 スタスタ歩いてホームの後ろの方へ、ちょうどやってきた上六行きの普通に乗る。

 電車は長瀬駅を過ぎて高架になる。途中JR東線を跨ぐので、けっこう高く、進行方向左側の窓からは大阪の街が一望に見渡せる。

 ああ、あれがあべのハルカス……ビルとしては日本で一番高い。

 他に高いビルが無いので格好のランドマーク、少し北に目を向けると通天閣、ちょっと低くて地上に降りたら目印にはなりにくい。大阪城はもう少し北……これは見えない。

 ざっと見渡して環状線の内側なら、自分の脚で走っても40分もあればどこにでも行ける。

 この任務、あたりを付けるところまでなら比較的簡単に済むかもしれない。

 少し冷静になったところで、景色が回る、布施駅が近づいて電車は大きく西に首を振った。

 鶴橋に向かって環状線に乗り換えれば、三つ目が大阪城公園。

 しかし、大阪城の中心に至るには手前の森ノ宮駅で降りた方が早い。

 ざっと下調べしただけだが、もう半分済んだような気になった。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手

 


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« RE・かの世界この世界:11... | トップ | RE・かの世界この世界:11... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

小説3」カテゴリの最新記事