大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・46『栄光へのダッシュ・2』

2018-10-11 06:42:57 | ボクの妹

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ボクのがこんなにニクソイわけがない・46
『栄光へのダッシュ・2』 
   


 優奈が倒れた、明後日が本番という稽古中に……。

「ゲホ」と言って口を押さえた優奈の手に赤いものが溢れ、そのまま前のめりに倒れ意識を失った。
「顔を横向きにしろ、窒息するぞ!」
 蟹江先生が、すぐステージに駆け上がり、呼吸と心拍を確かめていた加藤先輩を押しのけた。
「無し無し(無呼吸、無拍動)なんだな!?」
「はい」
「救急車を呼べ!」
 そう言うと、蟹江先生は、優奈の胸をはだけ、気道を確保すると人工呼吸を始めた。
 祐介は、顕わになった優奈の胸にたじろいで、一瞬目を背けた。
「アホ! こんな時は声をかけてやらなあかんのよ。みんな寄って、声を掛けて、マッサージしてやる!」
 加藤先輩が怒鳴り、みんなが優奈の側に寄り、手足をさすりながら声をかけた。
「優奈!」
「優奈先輩!」
「山下優奈!」
 蟹江先生と加藤先輩たちの介抱と処置で、優奈は、救急隊が到着するころには息を吹き返していた。

「みなさんの素早い処置が適切だったので、脳への障害はありません。声帯と気管を痛めているほかは、全身疲労だけです。三日ほど喉を使わずに安静にしていればいいでしょう」
 病院の先生は、本人を勇気づけるために、あえて、優奈の病室で、みんなに告げた。しかし、優奈には逆効果であった。
「そんな……明後日は本番なんです。なんとしても、明後日までには治してください!」
「そ、そんな無理を言われても……!」
 優奈は、医者のネクタイを締め上げていた……。

「参加辞退ですか……」

「仕方ないでしょう、ボーカルが倒れちゃったんだから」
「加藤先輩一人じゃだめなんですか?」
「もう、ずっとデュオで練習してきたんや、簡単にソロには戻されへん。それに、バンドの編成もデュオのまんまや……」
 一応ケイオンの全員が集められ、視聴覚教室でミーティングをしたが、結論は自然と参加辞退に傾いていく。あちこちから、すすり泣く声があがった。

 いやな沈黙が続いた。
 

 田原先輩が、謙三を促してステージに上がった。
 そして、ギターとドラムを即興で、めちゃくちゃに鳴らした。
「景子(加藤先輩の名前)、これで勢いついたやろ。蟹江先生に結論言いに行け!」
「分かった、長いことケイオンやってると、こういうこともあるよ。今度のレッスンで学んだことは、来年、あんたらが活かしたらええ」

「待って下さい」
 ドアから出て行こうとした、加藤先輩を幸子が呼び止めた。

「わたしが、代わりにやります」
「……そんな、サッチャンが出たら審査対象外やで」
「対象外でもいいじゃないですか。たとえ審査対象外でも、演奏すればスピリットは通じます。わたしたちが血を吐く思いでつかみ取ったメッセージを、みんなに伝えようじゃないですか!」
「メッセージ……」
「スピリット……」
「ようし、それでええ。賞がなんぼのもんじゃ。予定通り参加や!」
 蟹江先生が、入ってきてガッツポーズを決めた。
「桃畑中佐から、極東戦争当時の戦闘服借りてきた。みんな、これ着て、本番の舞台に立て!」
「ウオー!」
 メンバーから、どよめきが起こった。
「ボーカルは、元祖オモクロのステージ衣装貸してもろた、せいだいがんばれ!」

 この開き直り出場は、マスコミやネットを通じて、その日の内に世界中に広まった。

 火付け役は、お馴染みナニワテレビのセリナさんのようだ。急遽、プロで人気上昇中の幸子が出るので、予備の座席2000が追加された。
 その日、家に帰ると、チサちゃんが玄関で待ち受けていた。
「すごいわよ、ネットが炎上してる!」
 幸子のブログは、大会参加を祝するコメントであふれかえっていた。むろん中には、後輩の不幸を利用した売名行為であると非難するものもあったが、大半の賛成派と、ネット上で大論争になっていた。
「むかし、キンタローがデビューしたとき以来のブログ炎上ね!」
 お母さんまで、興奮していた。幸子も面白がっていたが、プログラムモードである。
「これで、良かったとは思えない」
 あとで、幸子の部屋に行ったとき、幸子はニュートラルモードで、冷ややかにニクソクつぶやいた。
「……幸子は、複雑だ」
 精一杯の皮肉を言ってやると、ドアホンを兼ねているハナちゃんが来客がきたことを告げた。

 ドアをあけると、そこにはねねちゃんが立っていた……。


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