せやさかい・432
「「「「おお!」」」」
モニターの画像に、散策部の四人は感嘆の声をあげた!
映ってるのは田んぼと畑、その間に学校やら工場やら資材置き場とかもあるねんけど、そこも元々は田んぼやったことが偲ばれる。
なんでか言うと、学校も工場も、ほぼ同じ真四角のかたち大きさ、あるいはそれを区切ったものやいうことが分かる。
『これがなぁ、大阪では珍しい条里制の跡なんやぞ』
車内のスピーカーからテイ兄ちゃんの解説が聞こえて、なるほどなるほどと四人でうなづく。
車の外では、テイ兄ちゃんが、墨染めの衣のままコントローラーを操作して、上空100メートルぐらいの空に虫が飛んでるみたいにドローンの姿。
「すごいなぁ、地上から見たら、どこにでもある郊外の景色なのに、空から見たら昔の条里制のまんまだ」
いまや、うちら以上に日本に詳しくなったソニーが感心する。
『……ほんで、あちこちに小さな神社やら祠やらが残ってる』
テイ兄ちゃんは、器用にドローンを操作させて、あちこちの神社や祠をズームアップしてくれる。
「あ、うちらの車や!」
神社の駐車場に車が停まってる思たら、うちらのワゴン車。
「せや!」
「ちょ、さくら」
留美ちゃんの前を無理やり通って車外に。
「どう、見えてる?」
「「「うわ」」」
「驚くことないやろがぁ」
「だって、いきなりさくらのドアップ!」
テイ兄ちゃんがいちびって、うちの頭をドアップにしたんや。
「イーーー(`皿´;)だ!」
アハハハハハハハ((´◇`))
駐車場を貸してくれた神社にお礼を言うて、八尾市街に入る。
「このあたりは、木村重成のお墓を見に行った時に通ったわね」
物覚えのええ留美ちゃんが感激。
たしかに、恩智川を跨ぐと、昭和の雰囲気の街並み。玉櫛川を渡ると昭和でも戦前の雰囲気を残す住宅街。
そこを坊主ならではの土地勘で、一通やら進入禁止を躱しながら第二の目的地のお屋敷。
「ここもすごいなあ……」
ソニーが振り仰ぎながら写真を撮る。きっと、お姉ちゃんのソフィーに見せびらかすんやろね。
今風の借家やら分譲住宅がならんでる街中に、忽然と茅葺のお屋敷。
けっこうな規模で、敷地は幼稚園ほどやけど、母屋はお寺の本堂なみの大きさ。
桜林堂
控え目に屋号の看板がかかってる。
「あたま打ちそう……」
入り口は大扉の脇の小さな通用口(?)から。
無事に入ると、昔ながらの三和土(たたき)の土間。へっついさんやらおくどさんが残ってて、天井の木組は丸出しで、煙出しから、仄かにお日様の光が入ってくる。
「松花堂弁当注文しといたさかい、ゆっくりしよ」
みんなでお座敷の席に収まる。
「ありがとう、テイ兄ちゃん、お昼までおごってもろて」
「「「ありがとうございます」」」
「ええ、ええ、言い出しべえはボクやねんしなあ」
そうなんよ、うちも留美ちゃんも仕事がオフ。テイ兄ちゃんも仏教会の会合が延期になって「散策部のみんな空いてるかなあ?」て言いだして、急に春以来お休みになってた部活ができることになった。
台風一過で、ひところの暑さもマシになって「穴場に行こう!」と、八尾の条里制跡を見に来ることになった。
「条里制って、都が碁盤目状になってることやと思てた」
「それは条坊制と云うんだよ、京都や奈良の区割りには残ってるよ。でも、条里制の跡が、こんな大阪の都心近くに残ってるというのはすごい事だと思う」
「いや、ちゃんと現役の農地なんだから、跡じゃなくて現役そのものだぞ。1000年以上昔の田んぼが、そのまんま田んぼで残ってるというのはすごいことだぞ!」
「そうだよね、駐車場貸していただいた神社も式内社だったし」
「シキナイシャ?」
「えと、延喜式に記載のある神社なんだよ」
「エンギシキ?」
うちらの会話も、だいぶレベルがあがってきたけど、うちは微妙に遅れてる(^_^;)
「905年に作られた律令の施行細則、つまり、補足説明だな。その中に、全国の大事にすべき神社の一覧があって3000近い神社が登録されているんだ」
「す、すごい」
式内社もすごいけど、それをスラスラ説明できるソニーは、もっとすごい。
「この桜林堂も、三百年前の庄屋屋敷を使ってるんや。ただ文化財として保護してるより、じっさいに使ったほうが傷めへんし、維持管理の費用も出るさかいなあ」
「うちのお寺もそのくらいやろ、うちもなんかやったら儲かるんやない?」
「お寺で商売やったら、そのぶん税金かかねんぞ。それに、三百年程度のお寺なんか掃いて捨てるほどある。さくらが思うほど値打ちは無い」
「あはは、そうなんや」
「ところで、自分ら、進路はどないすんねん? もう二学期やさかい、心づもりせなあかんねやろ?」
「自分は留学なので、元の勤務に戻ります」
「ああ、ソフィーは現役の軍人さんやったなあ、伍長やったっけ?」
「今月から二等軍曹になりました」
「わ、下士官だ!」
メグリンが幹部自衛官の娘らしく感動する。
「いや、将来はソフィーといっしょに王室護衛の任務に就くので将校の階級が必要なんです。そのための準備です」
「お姉さんは、どないしてんのん?」
「あ、はい、中尉に昇進して、王立民俗学学校の教官をやっています」
「王立民俗学学校?」
「はい、実質は魔法学校なんですが……」
説明しながらうちの顔を見るソニー『こんなことも言ってないのか?』という気持ちが籠ってる。
しゃあないやんか、このごろ声優と学校の掛け持ちで忙しいねんもん。
「古閑さんは?」
「はい……自衛隊に入ります」
「ああ、やっぱりなあ。親子二代の自衛隊やなあ、がんばってな(^▽^)」
「はい、ありがとうございます」
「留美ちゃんは?」
「大学に行きます」
「モデルと役者の道は?」
「はい、いまのお仕事はちゃんと勤め上げて、それが終わったら学生に専念します」
「うん、偉いなあ、ちゃんと見通し持ってて……さくらは?」
「え、あ……」
「おまちどおさまでした、松花堂弁当5つお持ちしましたぁ(^▽^)」
ラッキー(^▲^;)
ちょうどウェイトレスのおねえちゃんが注文を持ってきてくれて、言わんですんだ。
せやさかい 第一期 完
一部内容を『やくもあやかし物語・2』に引き継ぎますご愛読いただければ幸いです
☆・・主な登場人物・・☆
- 酒井 さくら この物語の主人公 聖真理愛女学院高校二年生
- 酒井 歌 さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
- 酒井 諦観 さくらの祖父 如来寺の隠居
- 酒井 諦念 さくらの伯父 諦一と詩の父
- 酒井 諦一 さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
- 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバンシー、リャナンシーが友だち 愛称コットン
- 酒井 美保 さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
- 榊原 留美 さくらと同居 中一からの同級生
- 夕陽丘頼子 さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 愛称リッチ
- ソフィー ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍中尉
- ソニー ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍二等軍曹
- 月島さやか 中二~高一までさくらの担任の先生
- 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
- 百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
- 女王陛下 頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
- 江戸川アニメの関係者 宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行)
- 声優の人たち 花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎
- さくらの周辺の人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん) 瀬川(女性警官)