真凡プレジデント・15
あ、ありがとうございました。
受話器に最敬礼してしまった。
天気予報の真っ最中で、まもなくNHKのニュースが始まろうという時間。藤田先生が電話してくださった。
――連絡が遅れてすまない。六時ごろには結果が出ていたんだけどね会議が長引いてね、圧倒的多数で真凡が信任されたよ。半年間よろしく頼むね、あした新役員の顔合わせと引継ぎがあるからよろしく。じゃ――
「スカイプなんかでなくてよかったね、ほら、もっかい横になって」
「う、うん。でも、なんで、お尻が痛むんだあ……イテ!」
「これは尾てい骨骨折だね」
「こ、骨折!?」
「しかし、仰向けに転んで、なんでオケツの骨折るんだあ?」
「ちょ、あんまし、しげしげ見ないでよ」
お風呂を上がって、お尻がズキズキ痛み始めた。
立会演説終わって演壇を踏み外してコケてしまったが、仰向きだ。お尻なんか打ってない。
「それから、どうしたのさ」
「候補者の席に戻ったよ、ウンコラショって」
「ほかに心当たりは?」
「骨折するほど打ったら覚えてるよ……あとは、帰りの電車で座れて……晩御飯で、そこに掛けて……」
「多分、候補者席に戻って、勢いよく座り過ぎたか妙な角度で座って椅子の角に尾てい骨引っかけたんだよ、演説の興奮で、その時は気づかなかっただけでさ」
「え、あの……もう仕舞っていいかな?」
「もちょっと……真凡のお尻って、いい形してたんだねえ」
「んなの感心しなくていいから!」
「これなら、お医者さん行って見られても恥ずかしくないよ(^▽^)/」
「それって、ルックスの方はイマイチってことに聞こえるんですけど(#'∀'#)」
「ヒガミすぎ、わたしの妹なんだからブスなわけないわよ」
「あ、それって、私ほどじゃないけどって、間接的な自慢入ってません?」
「ないない、じゃ、とりあえず……」
ピト
ヒエ~~~!
「ちょ、なにしたのよ!?」
「湿布、お医者さんに診てもらうまでのとりあえず」
「やっぱ、やっぱお医者さん?」
尾てい骨の骨折って、お医者さんでも見られるのはヤダ!
「そうだよ、よく見えるようにお尻を突き出して~」
「ヤダヤダヤダ!」
わたしは、逃げながら身づくろいした。
お尻の痛みなんて、家族でも言えないんだけど、風呂上がりのへっぴり腰を見られては仕方がなかった。
「ハハハ、ウソウソ、尾てい骨とか肋骨はギブスの当てようもないからね、自然治癒を待つしかないよ。それに、触診だけど、ヒビが入ってるだけみたいだし。ま、しばらく気を付けることね」
「も、もう……」
リビングのテレビはいつのまにか天気予報も終わって、ニュースもローカルニュースになっていた。
―― ……列車往来危険罪並びに動物愛護法違反の嫌疑で身柄を拘束されていた男子高校生の行動は、列車事故を防ぐには止むを得ない行動であったと弁護される一方、見ず知らずの人の飼い犬を線路上に投げ落とすなど、サイコパス的な行動であったという見方も根強く、動物愛護の見地からも許されることではないと…… ――
柳沢の扱いは、学校の職員会議だけではなく、マスコミや警察でも困っている様子だ。
寝床に入る時は気を付けたので、お尻が痛むことは無かった。
しかし、選挙に当選した……してしまったという重みがジワジワと胸にせき上げ、夜明け近くまで眠れなかった。
☆ 主な登場人物
- 田中 真凡 ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
- 田中 美樹 真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
- 柳沢 琢磨 急に現れた対立候補
- 北白川 綾乃 モテカワ美少女の同級生
- 橘 なつき 入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
- 橘 健二 なつきの弟
- 藤田先生 定年間近の生徒会顧問
- 中谷先生 若い生徒会顧問