RE・友子パラドクス
殺すなら簡単だ。
相手は動きの鈍いアンデッド、クリーチャーも物の数ではない。
友子は富士の樹海や渋谷で大勢の義体を相手に戦った。滝川も引退したとは言え歴戦の義体戦士。
千余のアンデッド、多少のクリーチャーなど五分もあれば殲滅できる。
しかし、御子の女の子と母親が居る。クリーチャーたちも司教によってメタモルフォーゼさせられているとはいえ町の住人、司教を一人を殺すか無力化できれば元に戻せるだろう。アンデッドたちを人として蘇らせることはできないが、倒せば人の亡骸、身体が爆散したり手足がバラバラになるような倒し方はしたくない。手間はかかるが四肢の関節を外すぐらいしか手が無い。
それに広場とは言え、洞窟の中だ、上下の動きは制約される。
「ポチ、ハナ、司教が逃げないように纏いつけ!」
「「ラジャー!」」
「御子とお母さんは、岩陰にでも隠れて!」
左右に分かれアンデッドを二分し、御子母子の安全にも気を遣う。
「「………………」」
しかし、御子親子からは返事は無い。返事どころか、乱戦になろうという状況で身を庇うそぶりすらない。
「マインドコントロール!?」
グボ! グス! グギ!
アンデッドたちの関節を攻めながら親子の様子を見る。
「眠らされている!」
滝川が三体まとめて相手にしながら親子の傍に跳んで確認する。
「ハナ、ポチ、二人を護って!」
「うん!」「でも……」
「あ、すまん!」
滝川がいなしたアンデッドの隙をついてクリーチャーが飛びかかって来る、そのあおりで、数体のアンデッドが弾き飛ばされて母子の方に飛んで行く。
「「トリャー!」」
ハナとポチが身をもって庇う。
「うわ!」「きゃー!」
しかし、アンデッドの中には100キロ近い体重の者もいて弾き飛ばされてしまう。
グス! グギ! グボ! グス! グギ!
ビシバシ! ドゲシ!
「ポチぃ! ハナぁ!」
数体のアンデッドを無力化し、クリーチャーを叩きのめし、その合間にポチたちと母子に目を向けるが、アンデッドたちに阻まれ、姿も見えない。
「司教が、そっちにぃ!」
ハナが叫ぶ。
四人とも司教には気が回らなくなってきている。
「くそ、逃がすか!」
滝川がジャンプするが、天井が低いために勢いがつけられず、アンデッドたちに引き倒され、すぐに数十体のアンデッドに覆いつくされる。そこへ、二体のクリーチャーが飛ぶ!
ズビン!
レベルを3に抑えて破動砲を撃つ!
クリーチャーの半分が千切れ飛び、その破片は人間の内蔵や手足に戻っていく。
――しまった、殺してしまった――
ビシャビシャビシャ!
一瞬たじろいだところをアンデッドたちが襲い掛かってくる!
セイ!
横跳びにアンデッドたちを避けるが、そこは洞窟がすぼまったところで行き場がない!
「ごめん!」
ビシャ!
目の前のアンデッドを叩き潰して広間中央を目指すが、そこにもアンデッドたちの壁がはだかり、クリーチャーたちが身を乗り出してくる。
「フフフフフフ、悪の天使ども、身の程を知ったか!?」
逆転勝利の予感した司教のほくそ笑みさえ聞こえて、もう、為すすべがなくなってきた……
☆彡 主な登場人物
- 鈴木 友子 30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
- 鈴木 一郎 友子の弟で父親
- 鈴木 春奈 一郎の妻
- 鈴木 栞 未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
- 白井 紀香 2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
- 大佛 聡 クラスの委員長
- 王 梨香 クラスメート
- 長峰 純子 クラスメート
- 麻子 クラスメート
- 妙子 クラスメート 演劇部
- 水島 昭二 談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
- 滝川 修 城南大の学生を名乗る退役義体兵士