鳴かぬなら 信長転生記
あくる日には米粉ともち米を買って、クルミ団子とクルミ餅にして売り出す。
すると午前中には売り切れてしまった。
調理場は、代書屋の台所を借りてている。
台所を使うにあたって、台所の諸道具の手入れをしてやると、代書屋の奥方や子供たちにも喜ばれ、しばらくは売り物の団子と餅のおすそ分けをすることだけで使わせてもらえるようになった。
「これだけ繁盛したんじゃ路地では手狭だな」
気を良くした代書屋は、渡りをつけてくれて、四日目には表通りに店を出せるようにしてくれた。
「わたしに店番が務まるのかなあ……」
本人は、少し不安なようだったけど、リュドミラに店を任せて、五日目には皆虎の店々を見て回るようにした。
「見て回るのはいいが、出歩くのは、この大通りだけにしてくれ。店番をしながら目が届くのは、この大通りだけだからな」
「大丈夫よ、まだ、それほど目につくようなことはしていないから」
本格的に通りを歩くと、やはり焼物の店に目がいく。
さすがに一級品と呼べるような品物が目に留まることは無かったが、景色のいい常使いが一山幾らで売られている。
唐三彩と景徳鎮が面白い。
唐三彩は元来は副葬品に使われるものだけど、それだけに、茶碗や皿などの食器にこだわることなく、オブジェとしても面白いものが多い。扶桑人の好みに合うかもしれない。
景徳鎮は高級品のイメージだけども、それは輸出用の青磁・白磁などで、常使いの染付などには庶民の手に届くようなものもある。
……これを仕入れて扶桑で売れば、ちょっとした儲けになる(^▽^)
別に稼ぐことが目的ではない。
これで増やした軍資金で、もっといいものを買おう。そのためにはいいものが集まる上流階級にも接触しなければならない。いいものを愛でながら喫する茶は格別だからね。
そして、取引しながら三国志の様子を報告すれば隠密としての顔も立つだろうしね。そうなると、扶桑からやって来る商人とも渡りを付けなければなぁ……わたし自身は、とうぶん帰るわけにもいかないだろうしね。
南門の先にも出店が出ているようだけど、さすがに門外に出てはリュドミラに叱られる。
回れ右して戻る。中央の広場が近くなると、小気味のいいエスニックなサウンドが聞こえてきた。
おお、これは!?
二人の娘が三人の楽団を従えて、独楽が回るように舞っている。
むかし、堺の町衆から聞いた胡旋舞(こせんぶ)というやつだろうね。現物を見るのは初めてだ。
街を陽気にして商いを盛り上げるのにはうってつけだ。
両横には揚げ菓子やケバブのようなファストフードめいた出店も出ていて、どうやら、客寄せを兼ねた皆虎商店会のイベントのようだ。
うーーん……しかし、所詮は、つい先日まで置き忘れられたような旧軍都の田舎町。
胡旋舞と称しながら、踊っているのは平たい顔の中華娘。
唐三彩に比する奈良三彩。
世の粋人には唐三彩にヒケを取らないと言うけど、この織部の審美眼からはまがい物に見えてしまう。
で、閃いた!
この巧みな胡旋舞を舞っている中華娘の首を仏頂面で店番をしているリュドミラに挿げ替えれば……イケルかもしれない!
そう思いつくと、人をかき分け、まっしぐらに店に戻るわたしだった!
☆彡 主な登場人物
- 織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生(三国志ではニイ)
- 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
- 織田 市 信長の妹(三国志ではシイ)
- 平手 美姫 信長のクラス担任
- 武田 信玄 同級生
- 上杉 謙信 同級生
- 古田 織部 茶華道部の眼鏡っこ
- 宮本 武蔵 孤高の剣聖
- 二宮 忠八 市の友だち 紙飛行機の神さま
- リュドミラ 旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ
- 今川 義元 学院生徒会長
- 坂本 乙女 学園生徒会長
- 曹茶姫 魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
- 諸葛茶孔明 漢の軍師兼丞相
- 大橋紅茶妃 呉の孫策妃 コウちゃん