大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

明神男坂のぼりたい・98〔The Summer Vacation・5〕

2022-03-13 07:26:07 | 小説6

98〔The Summer Vacation・5〕 

           


 鳥肌が立ってしまった!

 長崎県のS市で、友達殺して、その死体の手首と首を切った女子高生のニュース!

「ゲー……!」

 こういうときには、かわいらしく「キャー」は出てこない。我ながらオバハンのリアクションだと思う。
 だけど、反応してる心は17歳。殺した子も殺された子も15歳の高校一年生。あたしと一学年しか変わらない。

「またか……」

 沸きたての麦茶に氷を入れながらお父さんがポツリと言う。それほどショックではないみたい。テレビのコメンテーターは、なぜかスマホのせいにしてしたり顔。

――やっぱ、コミニケーションの取り方が、この年齢では未熟なところにもってきて、今は、みんなスマホでしょ。分からないんでしょうね、距離の取り方。やっぱ、スマホというのは……――

「オレが高校生やったころもあった……」

 何十年前だ?

「友達と喋ってたら、知らんオッサンが来て因縁つけるんで怖くなって一人で逃げた。心配になって戻ってみたら、友達は殺されてて首を切り落とされてたいうのがあったけどな、結局殺したのも首落としたのも、そいつだった……」

 あたしも、スマホに罪は無いと思う。鳥肌が立ったのは、心のどこかで同じような鬼が住んでる気がしたから。

―― 鬼って、あたしのことか? ――

 さつきが言う。正成のオッサンは、ちがう意味で鬼だ。

―― 首切るなんて、昔はいくらでもあったぞ ――

「戦の時とかでしょ、手柄の証拠に首切ったり」

―― 頭に血が上って、殺した末に首を切って晒しものというのは、今で言えば交通事故で人が死ぬくらいにはあったぞ ――

「交通事故とは同じにならない」

―― そうかあ、人が死ぬということには変わりはないだろう ――

「交通事故は、殺そうと思って殺してないよ」

―― よけい残酷じゃないのか、たかが人や荷物が移動するだけで殺されるというのは、理不尽ではないか ――

「絡むねえ。今日は」

―― 先月、鳥居の前で事故があったの憶えてるか? ――

「え?」

―― なんだ、憶えてないのか ――

 ああ、そう言えば、車同士の接触事故で、危うく鳥居にぶつかりそうになった……あれか?

―― 鳥居が無事だったんで、胸をなでおろしてるけどな、あの時重症だった七歳の女の子、今朝死んだ ――

「え、あ、そうなんだ」

―― な、そうなんだ ――

「……うん」

―― 親父殿は、うちの門前で起きた事なのに幼子の一人救ってやれなかったって、ちょっとしょげてたぞ ——

「そうなんだ……」

―― また、団子でも食いに来い。じゃ、わたしは出勤だからな ――


 気を取り直して、お母さんがUSJのハリポタで買ってきたバタービールのジョッキに氷をしこたま入れて麦茶入れて一気飲み。そのままお風呂に行ってシャワー浴びてたら、お腹が夏祭りになってしまった!

 急いで体拭いて、タオルを頭に巻き付けて、パンツ穿くのももどかしくトイレに駆け込む。日本三大祭り(祇園祭、天神祭、神田祭)いっしょにしたみたいなお腹の夏祭り。

「エアコン点けっぱなしで、お腹出して寝てるからよ」

 トイレ出たとこでお母さんに怒られた。

 ムググ……

 陀羅尼助を二人前飲んで、スタジオへ。うちからスタジオまで歩いて汗流したら、お腹も治ってきた。

「今日は、大江戸放送に選抜が出て顔売りにいきます。暫定的にリーダーは明日香。他のゲストはベテランの人ばっかりだから心配いらないけど、生だから気をつけて放送事故なんかおこさないように。他のメンバーは勉強のために見学。終わったら戻ってレッスンと夜のステージ。よろしく!」

 市川ディレクターの説明で行動開始。

 番組では、やっぱり長崎の殺人事件が話題になっていた。

 フッてこられたので、さつきと交わした話をしてみる。人の首を切り落とすのも鬼だけど、事故とかで死ぬ人に感覚が鈍ってるのも鬼だって。

 メンバーも出演者も感心して聞いてくれた……とこまではよかった。

 調子に乗って、お腹の夏祭りの話までしてしまう。

「それじゃ、明日香さん、パンツも穿かずにトイレに……!?」

 スタジオ大爆笑。

 この時、あたしはAKRのお祭り女王という称号をいただく、その原因の半分はこれですわ。

 

 


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