REオフステージ (惣堀高校演劇部)
127・ミッキーのカミングアウト
姫ちゃん先生(姫田先生)の授業はよう脱線する。
四時間目の授業で、誰かのお腹が鳴ったりすると、先生の高校時代の学食に話しが飛んで、高校時代の思い出なんかを語り出すと止まらんようになる。
この物語も啓介が先生の学食の話しで、うちの髪の毛から冷やし中華を連想して涎を垂らしたとこから始まった(001・ただ今四時間目)。
今日の姫ちゃんは「うちの両親って、従姉妹同士なんだよ」という話をした。
今朝は寒かったせいか、いつもはヒッツメかポニテにしてる先生が髪を下ろしてた。これが、けっこうイケてて、ちょっと清楚系のベッピンさん。
それをセーヤンが「姫ちゃんて美人やってんなあ……」と呟いたところから話が脱線して「あ、じつはうちの両親は従兄妹婚でねえ」という話になった。
「従兄妹同士って、血が濃いから、遺伝子の組み合わせで時々特徴のある子が生まれるのよ。3+3は6だけど、3×3は9みたいな。で、うちの両親が少しだけ持ってた美人とイケメンの遺伝子が掛け合わさってぇ……(n*´ω`*n)」
他の人が言ったらイヤミになる話でも、姫ちゃんが言うと、なんかホノボノ系の話になる。姫ちゃんは自分が美人やということよりも、ボンヤリした性格なことに悩みがある。人の容姿にあんまり重きを置かへん人なんで、そのボンヤリコンプレックスの枕の話しとして従兄妹婚の話をしたんよ。
で、昼休のミッキーはお弁当食べながらボンヤリしてる。ボンヤリの机の上にはお弁当と並んで書きかけの航空郵便の便せん。
サンフランシスコ出身のミッキーの手紙は言うまでも無く英語。
日本語に慣れ親しんだうちやけど、やっぱり英語の文章はパッと見ただけで大よそのところが分かってしまう。
「へえ、今どき手紙でお便りいうのんは珍しいねえ」
うちの言葉は、もう半分は手紙の趣旨を理解した上での好奇心の響きがある。うちのハンナリした大阪弁(このごろのミッキーは大阪弁でも話ができる)も功を奏したのか、ちょっと仲間の感覚で返してきた。
「あ、ああ……従妹のキャシーにね……」
「ほう」
子どもの頃にカンザスから越してきたミッキーは、従妹のキャシーと仲がよくて手紙のやりとりをよくやっているらしい。こまめに書いているんで、ミッキーが手紙を書いているところはよく目にする。
オハコの歌詞を書くようにリラックスしてサラサラ書く手紙は英語ということもあって、わたしを含めクラスのもんは気にも留めへん。せやけど、今日は数行書いたとこで停まって、それも思い詰めたような顔してるんで目についた。
「従兄妹同士の結婚があるなんて考えもしなかった……」
うちは、留学四年目やし、日本のことはシカゴの隣のお婆ちゃんからもよう聞いてたんで従兄妹同士の結婚言われても、それほどの驚きはない。
せやけど、一般のアメリカ人。特に法律で従兄妹同士の結婚を認めてない州の者にとってはビックリする話。
LGBTQとか流行のアメリカでは、同性婚なんかも普通になってきてる。
せやけど、血族の結婚は普通やない。州によっては法律で禁止してる。禁止してなくても、その数は日本よりもうんと少ない。
クレオパトラとかは弟と結婚した言われてるけど、遠い昔の歴史上の話しやし、普通は思わへん。
めちゃ子どもの頃に「大きなったらパパ(or お兄ちゃん)のお嫁さんになる!」言う子はおるけど、学校行く年頃になったら言わへん。せやから、従兄妹同士は最初から考えの外。
「姫ちゃん先生の話を聞いて、自覚したんだ……」
「ひょっとして……」
「うん、ぼくはキャシーのことが好きだったんだぁ(◎‐◎)!」
遠い目になってカミングアウトしてしまいよった!
そして、ホストファミリーの美晴に「明日帰る」と一言言うただけで、今朝の飛行機で帰ってしまいよった。
美晴は、もともとミッキーを持て余してたとこもあって「あ、そ」の一言でしまいやったらしい(^_^;)。
☆彡 主な登場人物とあれこれ
- 小山内啓介 演劇部部長
- 沢村千歳 車いすの一年生
- 沢村留美 千歳の姉
- ミリー 交換留学生 渡辺家に下宿
- 松井須磨 停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
- 瀬戸内美春 生徒会副会長
- ミッキー・ドナルド サンフランシスコの高校生
- シンディ― サンフランシスコの高校生
- 生徒たち セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
- 先生たち 姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
- 惣堀商店街 ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)