まりあ戦記(神々の妄想)
005『初めてのベース』語り手 晋三
陸軍特任旅団のベースは首都の南にある。
それは二十年前のヨミのファーストアクトで出来た巨大なクレーターの中に潜むように存在している。
クレーターの直径は三キロほどもあり、所狭しと対空兵器が並んでいる。
中央にはベースのコアに通じる入り口があり、入り口はカメラの絞りのような構造になっていて、出入りするものの大きさに合わせて変化する。
直径二十メートルほどに開かれた入り口を、まりあたちを乗せたオスプレイが巣に着地する猛禽類のように下りていく。
隔壁三つ分降りたところがハンガーだ。
まりあはスターウォーズの基地のように思えてキョロキョロ。到着早々ヨミに出くわした衝撃はほとんど薄れて、小学生のような好奇心。これは性格というよりは、十七年の人生で無意識に培った力だろう、ちょと痛々しくはある。
「ウッヒョオオオオオ……」
こういう反射の良さが良くも悪くもまりあの個性だ。どっちかっていうと、生前の俺は、まりあのそういうところが苦手だったが、いまの俺には好ましく思える。過去帳を住み家として二年目、少しはホトケさんらしくなってきたかな。
「さ、ここからはリフトよ。三回乗り換えるから、迷子にならないでね」
みなみ大尉はテーマパークのベテランスタッフのようにまりあをエスコートしていく。
「大尉、またお腹がすいたんですか?」
二つ目のリフトに向かう途中、カーネルサンダースの孫みたいな曹長に声をかけられた。
「え、CICに行くとこだけど?」
「アハハ、そっちは士官食堂ですよ。CICはリフトを下りて三番通路を右です」
「わ、分かってるわよ」
見かけの割には抜けているところがあるようだ。
「この人、主計科の徳川曹長、ベース内での日常生活は彼が面倒見てくれるわ。こちら舵司令の娘さん、いろいろ面倒見てもらうことになるから、まず徳川君のところに連れて来たんじゃない(^_^;)」
強引な強がりに、徳川曹長もまりあも吹き出しかけた。
「えと、舵まりあです。お世話になります」
「こちらこそよろしく。司令からも話があるだろうけど、ここでは君は少尉待遇だ。一応士官だからベース内の大概のところには行けるよ。当面必要なものは後で届ける。ベースの詳しいことは、その時にレクチャーするよ、みなみ大尉に任せたら日が暮れそうだ」
「ちょっとねえ!」
「はい、回れ右して二つ目を左、二番のリフトに乗って……自分が案内しましょうか?」
「大丈夫、ここへは君に会わせに来たんだからね!」
「それはご丁寧に……じゃ、幸運を祈ります」
まりあは徳川さんに付いて来てほしかったが、目を三角にしたみなみ大尉には言えなかった。
曹長の案内が良かったのか、それからは迷うことなくCICに着いた。
「司令、まりあさんを連れてまいりました」
レーダーやインターフェースを見ていた四人が振り返った。まりあの姿を確認すると三人は任務があるようでCIC内のパネルやモニターをいくつか確認したあとCICを出て行った。残った一人が口を開いた。
「さっそくだが、まりあはウズメに乗ってもらう」
お父さん……そう言おうとした妹の口が固まってしまった。
「司令、まりあさんは来たばかりですが」
「社会見学に来させたわけじゃない。まりあは即戦力だ」
「し、しかし、エンゲージ(同期)テストもやらずに無謀です」
「待ってはおれない、テストは乗ってからやればいい」
あいかわらずむちゃくちゃを言う親父だ。
俺だったらブチギレてる。
「わかったわ、ウズメでもスズメでも乗ってあげるわよ」
こわ!
まりあの目が据わってきたぞ。