せやさかい・334
朝食の食卓に着くと同時にバグパイプが鳴り出した。
みんなも「あれえ?」いう顔で、座りかけた腰を上げて窓の方を向く。
「ああ、アーネストさんだわ」
頼子さんは、一瞬で確認すると――こっちこっち――と目でサイン。
「練習かねて、朝食の間やってくれてるんだわ。彼も、どうやらかり出されるみたいね」
アーネストさんは、このお屋敷の執事。サッチャー……イザベラさんは女王陛下に付いてるメイド長やけど、アーネストさんはお屋敷に付いてる執事さん。
イザベラさんは女王陛下に付いて、夏の間だけここに居てるけど。アーネストさんは、陛下の移動に関係なくお屋敷に居て、維持管理と運営を任されてる。
「バグパイプの演奏付きって、素敵で贅沢ねぇ」
詩(ことは)ちゃんの目ぇがへの字になる。
「あはは、うちの朝は、どないかしたらお経のBGやもんね」
留美ちゃんが、いっしょにウフフと笑う。留美ちゃんも、すっかり如来寺の子ぉです。
「両方ともいいですよ、お経もバグパイプもライブですからね……」
多くは語らへんけど、メグリンは一人でご飯食べてるときが多いんちゃうやろか。
うちも、小6までは母子家庭で、半分くらいは一人飯やったから、雰囲気で分かる。
「さあ、さっさと食べちゃおうか、今日も予定がいっぱいだよ!」
「「「「はい!」」」」
昨日は、ジョギングの後、シャワーしてから、ジョン・スミスの運転でエディンバラの街に。
せやけど、前みたいに観光やないんです。
ミリタリータトゥーのための衣装合わせ。
さすがにオーダーメイドやないねんけど、試着した上で部分的な補正が入る。
詩ちゃんはウエスト、メグリンは胸のタック、頼子さんは肩のとこ、うちはスカート丈を補正……そうですよ、うちのんは、3センチも丈を詰めました!
留美ちゃん一人だけは、補正無しのピッタリ。ま、こういうこともある。
それが終わって、昼からはスコティッシュダンスの練習。
練習の前と後に、ちょっとだけ時間があって、ロイヤルマイル(エディンバラ城に続くメインストリート)を、ちょっとだけ散歩。
今日も似たようなスケジュールやねんやろね。
朝ごはんが済んで、部屋に戻る。
今年は、頼子さんの希望で、みんな揃って大部屋に寝泊まりしてます。
「あれ、バグパイプ、まだ続いてる」
「というか、増えてない?」
雁首揃えて窓の下を見る。
なんと、ソフィーとソニーの姉妹もやってるやおまへんか!
「お祖母ちゃん、どこまで広げるつもりなんだろぅ」
呆れたり、素敵に思ったりしてると、頼子さんのパソコンが着信のシグナル。
「あ、テイ兄ちゃんからだよ。スカイプやっていいかって」
よくない!
言おうと思ったら、すでに頼子さんは、スタートのボタンをクリックしてた。
クソ坊主の話は割愛やねんけど、途中でおばちゃんが割り込んできた。
『ねえ、バグパイプが聞こえてるわよね!』
おばちゃんらしからぬハイテンションで、画面に現れる。
「おばさま、バグパイプがお好きなんですか?」
プリンセススマイルで頼子さん。
『うん、そうよ、頼子ちゃん! バグパイプって言ったら《丘の上の王子さま》なんだからね!』
「「「「「丘の上の王子さまぁ?」」」」」
みんな、ぜんぜん分かってへんねんけど、おばちゃんの喜びようは、こっちまで嬉しくなってくる。
別にマイクを付けてカメラを持ってバルコニーまで出て、ちょうどソフィア姉妹に見本を見せてるアーネストさんを激写する。
あとで「丘の上の王子さまなんだって!」と、頼子さんが伝えてあげると、少年のように頬を染めるアーネストさんが、とっても可愛かったです(^▽^)/
で、『丘の上の王子さま』ってなんやろ?
☆・・主な登場人物・・☆
- 酒井 さくら この物語の主人公 聖真理愛女学院高校一年生
- 酒井 歌 さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
- 酒井 諦観 さくらの祖父 如来寺の隠居
- 酒井 諦念 さくらの伯父 諦一と詩の父
- 酒井 諦一 さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
- 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
- 酒井 美保 さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
- 榊原 留美 さくらと同居 中一からの同級生
- 夕陽丘頼子 さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
- ソフィー 頼子のガード
- ソニー ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド
- 月島さやか さくらの担任の先生
- 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
- 女王陛下 頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首