真凡プレジデント・42
放送局のコンピューターがウィルスに感染したんだって……ああ、おっかしい。
笑い死に寸前の涙目を拳で拭いながらお姉ちゃん。
「セキュリティーとかは効いてないの?」
切り替えたお姉ちゃんは、絶対に弱みを見せない。
だから、寸前までの爆笑を問い詰めることは諦めて、放送局の事に切り替えた。
「並以上のセキュリティーはかけてあるわよ。でも、どうやらとんでもないハッカーにやられたんでしょうね。メインコンピューターから個人のパソコンまで全滅らしいわ。ウィルスが勝手にプログラムを組み立てて、意図的に編集して流しているんだって。もう隠していた偏向映像がダダ洩れ……ひょっとして」
NHKや他の民放に切り替えると、どこも毎朝テレビの事故を報ずるニュースやワイドショーで一杯だ。
「あ、アンテナを壊すんだ!」
思い余った毎朝テレビは、局の屋上に立っている送信用のアンテナを破壊することを決心した!
局のアンテナは幾つかあって、東京タワーの縮尺版みたく赤白に塗り分けられたものから、おわん型のパラボラアンテナや、巨大なボールペンの芯のように真っ直ぐなものまで。
その全てのアンテナに放射電波を供給する太いケーブルを斧で切断している。
「よっぽど流しちゃまずい映像なんだね」
「だれがやったかは分からないけど、放送法なんて有って無きがごとし、日本のマスメディアはとんでもなく保護されてるし、めったにギャフンとは言わないんだけどね……今回は、相当こたえてるねえ……ネットの時代だよ、アンテナ壊しても停まるもんじゃないよ……さ、大学芋でも買ってくるかなあ~」
「あ、ジャージで行っちゃ……」
以前のように追いかけることはしなかった。
お姉ちゃんに負けたというよりは、なんだか、まだまだとんでもないことが起こりそうで、動けなかったというのが本当だ。
予想した通り、アンテナを壊しても事態は変わらなかった。
日本中、いや、世界中で毎朝テレビの映像はコピーされて拡散していった。
同時に、映像の情報を補完するような映像や資料がSNSを通じて大量に出回ることになった。
国会見学に来ていた中学生が撮った映像に「ここだけ切り取ればいけるよ」と笑いながら官邸を後にする毎朝テレビのスタッフが写り込んでいたり、バラエティーなどで仕込まれたフェイクがバラされたり、毎朝テレビを始めとしたマスメディアの不正のアレコレが暴露することが流行りになって来た。
しかし、これの原因になったウィルスを撒いたのはいったいどんな奴だろう……。
不謹慎かもしれないけど、なんだかワクワクしてきて閉口。
どうやら、わたしも、かなりのミーハーのようだ。
☆ 主な登場人物
- 田中 真凡(生徒会長) ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
- 福島 みずき(副会長) 真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
- 橘 なつき(会計) 入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
- 北白川 綾乃(書記) モテカワ美少女の同級生
- 田中 美樹 真凡の姉、美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
- 柳沢 琢磨 対立候補だった ちょっとサイコパス
- 橘 健二 なつきの弟
- 藤田先生 定年間近の生徒会顧問
- 中谷先生 若い生徒会顧問
- 園田 その子 真凡の高校を採点ミスで落とされた元受験生