RE・友子パラドクス
滝川のネットワークと推理でターゲットが絞り込めた。
かなりの人数がマインドコントロールされ、教祖的な存在、もしくは身内に重篤な病気を抱えた者。その中でも、表だった活動が認められないものを絞り込んだ。
世界的規模の捜索だったが、思いのほか早い。引退したとはいえ、かなりのネットワークがあるようだ。
活動が活発なところは、ゲリラ組織、名前の通ったカルト集団ばかりであった。
滝川は考えた。おそらく日常に溶け込んで、教祖の姿さえはっきりしない。そんなところが本拠地であると。
アメリカの中西部K州の丘の町、A郡T町が、そうであった。
靖国神社を放火しようとした犯人は、数か月前にアメリカへの渡航歴があり、その時アメリカでマインドコントロールされ、指令が与えられたようたようである。指令された時期に、なにかのサインが送られ、そのとき暗示された行動を起こすようにされていた。滝川は爆破装置が送られてきた時だと睨んだ。なぜなら犯行に及んだ男の頭から、爆発物を受け取った、あるいは準備した記憶が無いからである。警察もそこまでは掴み、催眠療法などで男の記憶を引き出そうとしているが、無駄だと思った。
そんなヤワな相手ではない。もし記憶を引き出すことができても、男は自殺、あるいは精神崩壊するように刷り込まれているだろう。
推理の最大の根拠は、このA郡T町で、ある日を境に犯罪が一件も起きていないことであった。
周囲の町は、程よく治安が悪く、それまでのT町も似たり寄ったりであった。
おそらく町ぐるみマインドコントロールされているのだろう。そして首謀者は目的以外には混乱を好まない。
しかし、こんな状況を長く続けていては、やがては目だって世界中の注目の的になる。聖骸布を手に入れた彼らの行動は早いと睨んだ。
ガツン
「ちぇ、またエンストかよ」
ケントはバンパーを蹴り上げた。
「またなのぉ?」
妻のジェシカが降りてきて腕を組む。
「ボクも手伝おうか?」
息子のマイクが窓から顔を出す。
「マイクはミリーを見てて、この状況で起きたら、ぜったいプータレるから」
「うん」
「ロトの10万ドルで、満足すべきだったのよ」
「かもな、でも、このキャンピングカーレースに勝てば100万ドルだぞ!」
「ボク、転校しなくて済むのかなあ」
「ミリー見といてって言ったでしょ」
「だいじょうぶだよ、爆睡してる、ケット掛けてきたし」
「こっちも大丈夫さ、ローンを返すあてなら、他にもあるしな」
「そうね、ロトの分で、取りあえずクリスマスまではしのげるし」
「あ、うん、そうだね、そうなんだ(^_^;)」
ジェシカは息子をハグし、ケントは、その頭をワシャワシャ撫でて、ちょっと訳ありのレース参加のファミリーの雰囲気ができあがった。
気づかないフリをしているが、キャンピングカーの直上にはドローンが飛んでいる。
そこに保安官の車が通り合わせた。
「あんたらも、トレーラーレースの参加者かい?」
「ああ、でもエンストさ、今日中には隣のS市にまでいきたいんだがね」
「あんた、この坂でスピード出し過ぎたんだよ。4マイル先から続いてるから緩く見えるがね、実際は見かけの倍の勾配がある。どれどれ……こりゃオーバーヒートだな。今日はこれで三台目だ。よかったら町の修理屋に電話してあげるが」
「ああ、仕方がない。頼むよ保安官」
「……デイブ、保安官のジェフだ。三台目の客だ。レッカーで来てくれるか……そう、場所はナビに出てるとこだ。よろしくな……よかったね、これ以上来たらは面倒見切れないところだったってさ」
「保安官、後ろに積んでる立て札は?」
マイクが聞いた。
「『スピード落とせ』だよ、付け替えに行くところだ」
「もうちょっと早く出してくれればよかったのにぃ……」
「保安官のせいじゃないさ」
ケントはもう一度息子の頭を撫でた。
「じゃ、神さまのせい?」
「そんな言い方するんじゃないの」
「そう、神さまはみんなお聞きになってるぞ、ぼうず」
「ごめん、お母さん、保安官」
「まあ、T町もいい町だ。一晩ゆっくりしていけばいいさ」
そう言って親指を立て、保安官は坂を下りていった。
「予定通りね、ジャック」
上空のドローンが居なくなったことを確認して、友子のジェシカが肩をすくめた。
「ミリーは、そろそろ限界」
と、ポチのマイクが後部座席のミリーを指さす。
ミリーのハナは擬態が解けかけて尻尾で出てきている、車から出さないで正解だった。
まずは敵地潜入に成功ではあった。
☆彡 主な登場人物
- 鈴木 友子 30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
- 鈴木 一郎 友子の弟で父親
- 鈴木 春奈 一郎の妻
- 鈴木 栞 未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
- 白井 紀香 2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
- 大佛 聡 クラスの委員長
- 王 梨香 クラスメート
- 長峰 純子 クラスメート
- 麻子 クラスメート
- 妙子 クラスメート 演劇部
- 水島 昭二 談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
- 滝川 修 城南大の学生を名乗る退役義体兵士