大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・274『朝ごはんを頂きながら』

2025-02-01 10:44:21 | 小説4
・274

『朝ごはんを頂きながら』 東鈴 




「いつもはたくさん作るんだけどね、今朝は、これで勘弁しとくれ」

 和食と洋食の選択式で文句は無いんだけど、お岩さんは申し訳なさそう。

 昨日の宴会は明け方近くまで続いて、大方の島民は河岸を変えたり自分の宿に帰ったらしいけど、何人かは座敷席で飲み続けていたらしい。むろん、我が主の悟兵もその中に入っていて、座敷の方でオイデオイデをしている。

「え、めずらしい、パンで朝ごはん~? さては飲みすぎたなぁ~」

「うるさいアルよ」

 と言いながらも席を詰めてくれる。

 和食のトレーを持って座敷に上がると、殿下は和食、悟兵はモーニングセットみたいなの。対面には仕事できそうなお姐さんが収まって納豆をかき回している。

「あら、五人じゃ狭いわね」

 マイさんが言うと悟兵は横の座卓を引き寄せる。

 実のところ、隣りの席に行きたかったんだけどね、マ、いいや。

「こちら、島の研究所の所長のメグミさんアル。こっち、秘書の東鈴アルね」

「あ、ども、先に頂いてます」

 温泉でハナが言ってたメグさんは、この人なんだ。

「東鈴です、えと、普通に喋っていいっすか?」

「ああ、もちろんよ。不躾だけど、いいボディーね」

「アハハ、再起動して間が無いんですけどね、調子はいいかな」

「ううん……触ってもいい?」

「え、あ、うん」

「東鈴、気を付けないと分解されるアルよ」

「しないわよぉ、本人の了解も無しにぃ~」

 了解したら分解しちゃうんだぁ(^_^;)

 しかし、だれかもそうだったけど、パット見だけでロボットと見抜くのはスゴイ。

「メグさんは、設備だけじゃなくて、島のロボットやら作業機械のメンテの元締めやってくれてるのよ」

 マイさんもお世辞ではない賞賛、大した人なんだろうけど、島の人間はお互いにもよそ者にも距離が近いというか隔たりが無い。

 人にしろロボットにしろ、こういうのはプログラムや規則でできるものじゃないと思う。
 島は落盤事故や日本政府の干渉やら戦争やらを経験して、うまく言えないけど練れてきてるんだ。悟兵がここにやってきたのは劉宏大統領のお使いだけじゃない、悟兵自身この島が好きなんだ。またどこかで冷やかしてやろう(^_^)

「そうそう、東鈴、あなたテルといっしょにモンゴルに行くんだって?」

「え?」

 あ……悟兵のやつ、勝手に決めたなあ!……一瞬むかついたけど、すぐに、それもいいかと思う。あのチビッ子博士は一人にはしておけない。それに、ちょっと面白いとも思う。

「あ、噂をすれば、本人が来ましたよ」

 殿下が首を向けた先、食堂の入り口でキョロキョロしているテル博士が見えた。


「いやあ、ちゃぶ台とはシブイのよさ!」


 和食と洋食のパンをトレーに載せてテル博士は座卓に感激した。

「あ、ちゃぶ台っていうんだ」

「うん、火星でもあんまり見かけないんだけど、友だちの家で見かけたのよさ」

「平賀博士、紹介しておきます。こちら、通称孫大人の孫悟兵」

「孫悟兵アルよ」

「あ、お目にかかれて嬉しいのよさ。昨日は遠目でしか見てなかったけど、なかなかいい感じのおじさんなのよしゃ」

 二人で握手、なんだか爺さんと孫娘。

「こちらが、島の研究所長の加藤恵さん」

「あ、気楽に片仮名のメグとかメグさんでいいから」

「お噂はかねがね、平賀テルなのよしゃ……ん?」

 ほんの一瞬フリーズするテル。でも、ほんのコンマ一秒くらいのことで、すぐに笑顔で握手。メグさんは普通にニコニコしている。

「わたしも興味あるから付いていくわ」

「モンゴルまでは、ワシの筋斗雲つかうヨロシ。東鈴、運転頼むアルよ」

「あ、うん」

「女性三人だと軽く見られることがありますから、ひとり男のお供を付けようと思います」

「あ、すみませんナノよさ、殿下」

 テル博士が恐縮していると、お岩さんがマーマレードのビンを持ってやってきた。

「きのうもらったマーマレード、ためしてみるかい」

「アイヤー、そのために来たんだったアル。試食するアル」

 マーマレードはパンにつけるのかと思ったら、紅茶に入れたり、舐めてから紅茶を飲んだり、濃茶のお茶うけにもいけることを初めて知った。

「あ、この味……」

 テル博士が、なにか思い当たったみたいだけど、すぐに話題は青銅の騎士やモンゴルの話しに戻る。

 なんか、和気あいあいとして、しまいに我が主のアルアル語もひっこんでしまう。

 悟兵が屈託なく過ごしているのは横に居て楽しい。

 みんなで、アハハと笑ったり、そうなんだと感心したり、ちょっと楽しいひと時が過ごせた。

 
 しかし、好事魔多しというか、調子に乗ったというか……。

 
 ドンガラガッシャーン!


 悟兵は食堂の階段を踏み外して頭を打ち、一晩付き添う羽目になってしまう(-_-;)。

 きのうはテル博士、今日は悟兵の看病……ま、いいけど。




☆彡主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士 
加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)         地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)          児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)   銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平) 島守を称す(270から)
村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
栗 尊宅(りつそんたく)       輸送船の船長  大統領府参与
朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった

※ 重要事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

 

 

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