大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・272『湯あたりのテル博士』

2025-01-27 11:13:28 | 小説4
・272

『湯あたりのテル博士』 東鈴 




「いや、気にしなくていいのよさ。考え事してゆと、他のことはお留守になってしまうのよさ……」

 そう言って鼻の下までお湯に浸かって難しい顔の幼児体形、いやテル。

 いや、扶桑科学研究所の主任研究員に呼び捨てはマズイ。

「こちらの、ちゃんとした名前は、なんて呼んだらいいのぉ?」

 こっそりハナに聞いてみる。

「え、ああ……テル、おめえ、ちゃんとした名前はなんてんだ!?」

「え、あ、ちょ!」

 本人に聞くなよ!

「あ、平賀照……」

 気にすることも無く質問に応える。応えながらもハンベの仮想モニターを三つも出して調べものに余念がない。その表情は一人前の科学者のそれで、声をかけるのも憚られるよ。

 真ん中のモニターにはいろんなロボットのスペックや3D図面が続々と表示され、両脇のセカンドモニターにはパーツの構成や組成や構造式やらが10倍速ぐらいで流れている。

「ああ、やっぱり現物見ないと分からないのよしゃ!」

 モニターは青銅の騎士の三面図で停止した。

「あの、平賀博士……」

「え、ああ、ごめん……あ、呼び方はテルでいいのよさ」

「あ、いや、そんな(^_^;)」

「食堂のことなりゃ、もう気にしてないかりゃ、いいのよさ。で、あんたも島の人なのかにゃ?」

「え、あ、孫大人の秘書で東鈴といいます。昼に島に着いたばかりで」

「さっきの歓迎会、テルも出てたじゃねえかぁ(^▭^)」

「あ、ああ、えらく混んでゆと思ったら……」

「テルよぉ、風呂に入ぇるときぐらい、ハンベは止せよ、のぼせっちまうぞ」

 ハナが注意する。なんだかお姉ちゃんが妹に言うみたいでおかしい(^_^;)

「え、あ、ああ、しょれもしょうなのよさ……」

 ハンベは仕舞ったけど、心はまだ半分以上あっちに行ったまま。

「博士、青銅の騎士の研究をなさってるんですか?」

「え、あ、ああ、気になってりゅのよさ」

「あれは、頑丈で打たれ強いロボットでしたけど、弱点さえ分かればどうということのないしろものでしたよ」

「そうそう、ハナもマイさんといっしょに戦ったけど、コツさえつかめば楽勝だったぜ」

「え、二人ともあれと戦ったにょか!?」

「おお、バッチリな!」「わたしは観戦してただけだけど」

「話聞かしぇて!」

「お、おお」

 あの戦いは、モンゴル軍の戦闘術と戦術的機動性、漢明軍の戦略的展開に見るべきものがあった。だから、はるばる火星からやってきての調査なら、そっちの方かと思ったけど、テル博士の着眼点はあくまでも、あのコケ脅しの青銅の騎士。

「関節は?」「首のサーキットは?」「ケーブルは?」「ジェネレーターは?」「反応速度は?」「姿勢制御系は?」「外殻の反発係数は?」「瞬発時の内殻温度は?」「外殻塗装は?」

 矢継ぎ早の質問、そのほとんどは専門的過ぎて答えられるものではなかったけど、目の輝きと鋭さは見た目の体形と異なって、めちゃくちゃ鋭く、ハナもわたしもタジタジで、腕を組んだり天井を仰いだり。

「やっぱし、現物を見なきゃ分からないのよさ(>〇<)!」

 ザップーーン

 ユデダコみたいな顔で叫ぶと、そのまま仰向けにひっくり返って沈んでしまうテル博士だった(^_^;)。


 
☆彡主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士 
加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)         地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)          児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン(メアリ・アン・アルルカン)   銀河系一の賞金首のパイレーツクィーン
氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平) 島守を称す(270から)
村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
栗 尊宅(りつそんたく)       輸送船の船長  大統領府参与
朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった

※ 重要事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

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