大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

メタモルフォーゼ・3・呑み込みは早いんだけど……

2020-05-25 06:17:00 | 小説6

メタモルフォゼ・
呑み込みは早いんだけど……            

 

 

 留美アネキが会社帰りの姿で近寄ってきた……。

「オ、オレだよ、進二だよ……!」

 押し殺した小さな声でルミネエに言った。

「え、なんの冗談……?」
 少し間があってルミネエがドッキリカメラに引っかけられたような顔で言った。オレはここに至った事情を説明した。
「……だから、なんかの冗談なのよね?」
「冗談なんかじゃないよ。ここまで帰ってくるのに、どれだけ苦労したか!?」
「ねえ、進二は? あなた進二のなんなの?」

 オレは疲れも吹っ飛んで怖くなってきた。実の姉にも信じてもらえないなんて。

「だから、オレ、進二! ルミネエこそ、オレをからかってない? どこからどう見ても女装だろ?」
「ううん、どこからどう見ても……」
「もう、上着脱ぐから、よく見ろよ、これが女の……」
 体だった……ブラウスだけになると、自分の胸に二つの膨らみがあることに気づいた!

 小五までいっしょに風呂に入っていたことや、ルミネエが六年生になったときデベソの手術をしたこと、そして趣味でよく手相を見てもらっていたので、門灯の下で手相を見せ、ようやく信じてもらった。

「進二、下の方は?」
「え、舌?」
「バカ、オチンチンだよ!」
 ボクはハッとして、自分のを確認した。
「この状況に怯えて萎縮してる」
 すると、やわらルミネエの手がのびてきて、あそこをユビパッチンされた。小さい頃、男の子は、今は就職して家を出てる進一アニキしかいなかったので、油断していると三人の姉に、よくこのユビパッチンをされて悶絶した。それが……痛くない。

「よく見れば、進二の面影ある……」

 お母さんが、しみじみ眺め、やっと一言言った。ミレネエとレミネエは、ポカンとしたまま。

 この真剣な状況で、オレのお腹が鳴った。

「ま、難しいことは、ご飯たべてからにしよう!」
 お母さんが宣言して、晩ご飯になった。お母さんには、こういうところがある。困ったら、取りあえず腹ごしらえ、それから、やれることを決めようって、それでうちは回ってきた。

 女が強い家なんだ。

「進二、学校から歩いて帰ってきたから、汗かいてるだろ。ちょっと臭うよ」
「ほんと? う、女臭え……!」
 我ながらオゾケが走った。この汗の半分は冷や汗だ。
「進二、食べたら、すぐにお風呂入ってきな。それからゆっくり相談しよう」
「お風呂、お姉ちゃんがいっしょに入ってあげるから」
「え、やだよ!」
「あんた、髪の洗い方も分かんないでしょ」
「わ、分かってるよ。昔いっしょに入ってたから」
「子どもとは、違うんだから。お姉ちゃんの言うこと聞きなさい!」
 矛盾することを言っていると思ったが、入ってみて分かった。女の風呂って大変。
「バカね、髪まとめないで湯船に入ったりして!」
 ルミネエが短パンにタンクトップで風呂に入ってきた。後ろでミレネエとレミネエの気配。
「バカ、覗くなよ!」
「着替え、置いとくからね」
「下着は、麗美のおニューだから」
「え、あたしの!?」
「だって……」
 モメながらミレネエとレミネエの気配が消えた。お母さんの叱る声もする。

「進二……完全に女の子になっちゃったんだね」

 シャンプー教えてくれながら、ルミネエがため息混じりに言った。オレは、慌てて膝を閉じた。

「明日は、取りあえず学校休もう。で、お医者さんに行く!」
 風呂から上がると、お母さんが宣告した。
 寝る前が一騒動だった。ご近所の人との対応は? お父さん進一兄ちゃんへ報告は? 急に男に戻ったときはどうするか? 症状が続くようならどうするか? などなど……。
「もう寝るから。テキトーに決めといて」
 眠いのと、末っ子の依頼心の強さで、下駄を預けることにした。

 朝起きると、みんな朝の支度でてんてこ舞い。まあ、いつものことだけど。

「なによ美優、その頭は?」
「美優?」
「ここ当分の、あんたの名前。じゃ、行ってきまーす!」
 レミネエが、真っ先に家を飛び出す。0時間目がある進学校の三年生。
「あたし二講時目からだから、少し手伝う。髪……よりトイレ先だな、行っといで」
 トイレで、パジャマの前を探って再認識。オレは男じゃないんだ。
 歯を磨いて、歯並びがオレのまんまなので少し嬉しい。で、笑うとカワイイ……こともなく、歯磨きの泡を口に付けた大爆発頭「まぬけ」という言葉が一番しっくりくる。

「じゃ、がんばるんだよ美優!」
「え、なにがんばるのさ?」
「とにかく前向いて、希望を持って。じゃ、いってきまーす!」
 ルミネエが出かけた。

「ちょっと痛いよ」
 朝ご飯食べながら、ミレネエにブラッシングされる。
「こりゃ、一回トリートメントしたほうがいいね」
「……ということで、休ませますので」
 お袋が受話器を置く。

 オレはどうやら風をこじらせて休むことになったようだ。

「ああ、眠いのに、なんだかドキドキしてきた」
「その割に、よく食べるね」
「それって、アレのまえじゃない?」
「え……?」
「ちょっとむくみもきてんじゃない?」
 そりゃ、体が変わったんだから……ぐらいに思っていた。
「あんた、前はいつだった?」
「おかあさん、この子昨日女子になったばかりよ」
「でも、念のために……」

 お母さんと、ミレネエが襲ってきた。で、ここでは言えないような目にあった(^_^;)。

 ただ、女って面倒で大変だと身にしみた朝ではあった。

 

 つづく 


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