大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

宇宙戦艦三笠37[20年の歳月]

2023-02-28 06:49:38 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

37[20年の歳月] 修一  

 

 

 体が鉛のように重い……手足も痺れたように動かない……視界もボケている。

 でも、どうやら20年の眠りから覚めたんだ……そう理解するのに30分ほどかかったんじゃないだろうか。

「オ! 艦長の目が覚めたニャー!」

 一瞬ネコミミの女の子の顔が覗いたかと思うと、パタパタと音が続いて、ネコミミが四つに増えた。

 ネコの惑星……いや、耳以外は人間だし?

「ウフフ、寝ぼけているニャ」「可愛いニャ」「おひさニャ!」

 あ……シロメ……クロメ……チャメ……ミケメ……?

「おーい、はやくはやく、艦長目覚めたニャ(^▽^)/」

 あ……

 パタパタパタ……ネコメイドたちだと認識できた瞬間、四人とも誰かを呼びに行く気配。

 プシュっと音がしてカプセルの蓋が開く、恐る恐る上体を起こし、首をひねって息を呑んだ。

 え……!?

「もう、大丈夫ですよ」

 優しい声が聞こえたが、誰の声であるのか思い出すのに数秒かかった。

 えっ……え?…………ええ!?

 後ろでニコニコ笑顔で並んでいるネコメイドたちと、あまりにかけ離れた姿に言葉が出ない。

 目の前にいるのは、スケルトンだった。

 くたびれたユニホームと声からなんとか本人だと想像する。

「クレアなのか?、その姿は……?」

「生体組織のメンテナンスに使うエネルギーも三笠の蘇生に使いました。三笠がダルを抜けたら、元に戻します。しばらく見苦しいでしょうが辛抱してください」

「ごめん、他の乗員は?」

「こちらです」

 クレアが案内してくれたのは浴室だ。浴室は戦闘時には戦死者の安置室になる、血が流れてもシャワーで洗い流せるためで、日露戦争の時は数十名の戦死者が安置された。余計な知識が悪い予感をさせる。

「換気と密閉性に優れた施設だからです。艦長も一昨日まではここに収容していたんですよ」

「そ、そうか……」
 
 よかった、とりあえずは生きているようだ(^_^;)

 
 救命カプセルは、船内で使う場合、状態を視認できるように半面が透明になっている。樟葉と天音のカプセルを見てドキリとした。

「なんで裸?」

「服は、体を締め付けます。そこから皮膚や内臓に負担をかけてしまうので、みなさんが眠りについたあと、裸にしました」

「オレは、服を着てるけど」

「蘇生の兆候が見えたので、昨日服を着せました」

「え、クレアが着せてくれたの(#^_^#)?」

「はい、ちゃんと着せたつもりなんですけど、不具合があったら、ご自分で直してください」

「クレアこそ、そのスケルトン、なんとかしろよ。他の三人が目を覚ましたら、オレよりビックリするぜ」

「ダルを抜けるまで気が抜けません」

「そうか……トシのカプセルは?」

「トシさんのカプセルは、こちらです」

 トシのカプセルは、隣のキャビンに移されていた。


「お早う。東郷君が一番だったわね」


 みかさんがカプセルに寄り添ってくれていた。悪い予感がした。トシのカプセルには白い布がかけられているのだ。

「トシは……?」

「カプセルとの相性が悪くて五年しかもたなかった。ごめんなさいね……」

「そんな!」

 白布を剥ぎ取った。

 透明なカプセルの中にいたのは、ミイラ化したトシの変わり果てた姿だった。

「どうにもならなかったの……?」

「秋山君を助けようと思ったら、その分三笠の復旧が遅れる。カプセルは20年しかもたないのよ」

「機関長を助けようとしたら、全員助からなかったです」

「そうなんだ……」

「そこで相談があるの。三笠の復旧も終わったし、秋山君のクローンを作ろうかと思うの。これからの航海に機関長は欠かせないわ」

「どうしてオレに聞くんだよ。オレに黙ってやってくれたら、こんなショック受けずにすんだのに!」

「だって、あなたは艦長だもの、全てのことを知っておく必要があるわ」

「じゃ、クローンでもいいから再生してやってくれよ。トシは、やっと立ち直ったところなんだから」

「その前に、秋山……トシくんの最後をしっかり見ておいてあげて」

「う、うん……」

 トシのカプセルの蓋が開けられた。

 賞味期限が過ぎたスルメのような臭いがした。トシが胸に抱いているスマホを手に取った。

 皮肉なことに、スマホの電池は残っていた。日本の電池技術はすごいぜ。

 マチウケは、亡くなった妹の写真だった。

 ホームセンターで自転車を買ってもらったばかりの写真。

 嬉しくてたまらない顔でピースサインをしている。あまりにいい顔なので思わず撮ったのだろう。その数分後にバイクに跳ねられて死んでしまうとも知らずに。

「じゃ、カプセルを閉じて。再生するわ」

 ミカさんは、ミイラ化したトシの皮膚のかけらに息を吹きかけた。目の前のベッドが人型に光った。

 光が収まると、そこには寝息を立てているトシがいた。そして、みかさんが指を一振りすると、カプセルの中のミイラは、煙になって消えてしまった。

「ミイラがいたんじゃ、話のつじつまがあわないから。あくまで、トシくんは東郷君と同じように目覚めた……忘れないでちょうだいね。それからクレアさんも、それじゃあんまり。生体組織再生しときましょうね」

 クレアが、元に戻ると同時にクローンのトシが、ベッドで目覚めて伸びをした。

「ああ……よく寝たあ。やっぱ先輩の方が目覚めるの早かったっすね。樟葉さんと天音さんは?」

「隣の部屋、あ、おい……」

「せんぱーい!」

 お気楽に、トシは隣の浴室に行った。数秒後真っ赤な顔をしてトシが戻って来た。

「な、なにも着てないんですね(# ゚Д゚#)……で、ウレシコワさんは?」

「あ?」

 虚を突かれたような気がした。ウレシコワのことは、今の今まで忘れていた。

 ネコメイドたちが揃って目をそらせた。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊


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