せやさかい・391
前回は飛行機の他に鉄道を使ったり、途中で泊まったりして四日もかかったけど、今回は大回りしたとはいえ、なんとか二十時間ほどでヤマセンブルグに着いた。
全行程の操縦を覚悟してたソニーやけど、操縦桿を握ってたのは離陸の時と途中の四時間余り。今回の操縦は、操縦技能の昇級テスト兼ねてるんやとか。
大半はお馴染みのジョン・スミスのおっちゃん。おっちゃんは、ソニーの昇級テストの教官と検定官も兼ねてるんやとか。
ジョン・スミスは領事館の勤務を解かれて情報局に戻ってたんやけど、ソフィーが頼子さんと共に国に戻ると決まった時に、また領事館に戻ってきた。ヤマセンブルグはNATOの中で一番小さな国やけど、大国に任せっきりにすることなく、積極的に動いてるらしいです。
空港には、頼子さん自身とソフィー、我が従姉の詩(ことは)ちゃんが出迎えてくれてて感激やった。
ソニーは到着の挨拶もそこそこ空港のビルへ。それでも、空港を離れて王宮に向かう頃には戻って来て『無事』に昇級テストに合格したことを嫌そうに教えてくれた。
頼子さんの話によると、昇級すると仕事もメチャ増えるらしい。
「それでは……聖真理愛学院2022年度の卒業証書授与式を行います。全員起立!」
卒業証書の授与は、なんと、歴代国王の戴冠式が行われるライオンキングチャーチ(獅子王教会)で行われる。
ライオンキングというのはディズニーとタイアップしたわけと違って、第三代国王が獅子王と呼ばれる勇猛な王様やったんで、それにちなんでるらしい。
それから、卒業証書の授与は女王陛下、つまり頼子さんのお祖母さまが聖真理愛学院学院長のローブを取り寄せて、本格的な代理として行われます。
式場には、日本大使や教育大臣、統合参謀本部議長、ヤマセンブルグ大司教、侍従長、侍女長、他にえらいさんいっぱい(^_^;)
式壇の上には、ヤマセンブルグ国旗、王室旗、日章旗、それから聖真理愛学院の校旗が並んでる。
でもって、式壇に近い右前列には、もう二度とは見られへんと思てた制服姿の頼子さんとソフィー。
左前列には、同じく制服姿のうちら(さくら 留美ちゃん メグリン ソニー)が控えてる。真鈴先輩は後ろの来賓席、真鈴先輩は卒業式終わってるもんね。せやけど、なんでか制服姿。
うちらが制服着てるのん見て、自分一人私服なのが寂しくなってトイレで着替えたんやとか。でも、校章やらは外しててケジメはつけてはります。
式そのものは小規模やけど、こないだやった卒業式よりも立派です(^_^;)
で、卒業式よりも凄いのは、参列してるヤマセンブルグ国民の人ら!
教会は800人入れるんやけど満席! 入りきれへん人らは教会の前に3000人余り(もっと居てるねんけど、教会前の広場は3000人が定員)、教会から王宮までは人垣ができて、もう、戴冠式かいうくらいに賑わってるそうです。
「Singing the national anthem Everyone stand up!(国歌斉唱 全員起立)!」
なんと、女王陛下の音頭で君が代斉唱。その後にヤマセンブルグ国歌。
教会の内と外からも大合唱! で、早手回しに花火の爆ぜる音。
もう、なんやお祭りですわ。
「卒業証書授与、ソフィア・ヒギンズ」
「はい」
ちゃんと日本語で返事して式壇に進む。ちなみに、女王陛下は英語。
「ヨリコ スミス メアリー アントナーペ エディンバラ エリーネ ビクトリア ストラトフォード エイボン マンチェスター ヤマセン」
毎回すごいと思うねんけど、女王陛下は、頼子さんの正式名を一息で言うてしまう。これに勝てる名前は落語の寿限無しかないやろね(^_^;)
名前呼ぶときは証書見てないから、空で言うてはる……と思て、あとで見せてもろたけど、小さな字でほんまに書いたった! 学校もきっちりやってます!
「在校生代表、送辞」
「はい」
え!?
ビックリした、留美ちゃんが静々と式壇に!
「The chirping of birds flying in the sky. warm spring light. Full bloom of plum blossoms
Cherry blossom buds in the schoolyard about to open. It seems that all of them are celebrating the departure of seniors……」
なんと英語で送辞をブチかまし始めた!
日本語やとトツトツとしてる留美ちゃんやけど、英語でやると、なんとクリアでハキハキしてることか!
これも後で聞いたんやけど、詩ちゃんを通じて極秘で要請があったらしい。
極秘やいうのは頼子さんの気遣い―― さくらが気にするからね ――です。
アハハ ちょっと複雑な心境。
続いて頼子さんの答辞やねんけど、これは、また改めてね。
どっちも感動的で、教会の内外から盛大な拍手が起こった。送辞答辞ともに日本語訳が式次第に挟んであって、あとで読み返してシミジミでした。
「真鈴ちゃん、やっぱすごいよねえ……」
詩ちゃんがしみじみ呟いたのは、全てが終わって、戻ってきた宮殿の庭。
外から引き込まれた小川が流れてたりしてて雰囲気。
実は、ソニーに教えてもろた―― お話するんだったら、小川の傍 ――やて。
無口で武骨で、そのくせ黙ってたら姉のソフィーよりも可愛らしい陸軍伍長という変な奴。
せやけど、こういう雰囲気のええとこを勧めてくれるとは、やっぱり持つべきものは友だち。この際、親友のカテゴリーに入れたろかと思ったりした。
で、真鈴先輩。
ライオンキング教会から駅前までのパレード、沿道は式が始まる前の三倍ぐらいに増えてて、街路樹に上ってる人もおってお巡りさんに怒られとった(王族を見下ろしてはいけないという伝統と警備上の問題)り、迷子案内の放送が掛かったり(^_^;)。
で、パレードに移ると、一番人気は頼子さんと女王陛下。ま、これはいつものこと。
で、同じくらい人気やったんが真鈴先輩!
キャーーマリン! コイスルマネキン! マネキ! ネキン! キャー!
声優百武真鈴の人気は日本以上かもしれへん。
頼子さんも最終回にノルンの女神役で出て評判やったんやけど、やっぱりレギュラーで、それも恋する二人の恋人の声を一人でやってのけたのは超有名な話で、ファンの数もハンパやない。
それに、女子高生の制服姿いうのは海外のオタクさんたちにも人気で、人気の真鈴が人気の制服姿やねんから、もう人気爆発!
で、地元の放送局の要請で、急きょサイン会。
むろんサインだけで済むはずもなく、放送局前でライブをおやりになっています。
「日本の放送局が企んだんだろうけど、あれは、今回の卒業式も含めて真鈴ちゃんの力だと思う」
「あ、それは思う!」
大江戸プロに呼ばれたことやら、文化祭のことやらが頭に溢れる。
「うん、わたしもSNSで見たし、ここじゃ、地上波でもやってたしね。真鈴ちゃんは声優としてもすごいけど、プロディユーサーの才能もあると思う」
「うん、頼子さんもノセてしまうほどの人たらしやしぃ!」
「さくらも、そういうとこあるよ」
「ええ、ないない、それはない!」
うちは単なるオッチョコチョイ。
「わたしね、こっち来て仲良くなった人がいるんだよ」
「ええ!?」
おっちゃん、おばちゃん心配するでえ!
「あ、男の人じゃないよ」
「いや、きょうびLGチーズの時代やし」
「え、ああLGBTS?」
「アハハ そういうボケも才能だあ」
「もう、いじらんといて!」
「ごめんごめん、仲良くしてくださってるのはイザベラさんだよ」
「ええ、あのサッチャー!」
「うん、宮廷の作法や伝統に詳しくってね、フォークロアや民間伝承のことも造詣が深いの。さすがは女王陛下の秘書ね。近ごろじゃ月に三回ほど呼んでくださって、いろいろレクチャーしてもらってるのよ。陛下もたいてい顔を出されて、議論に加わってくださったり」
「いやあ、あのオバハンと五分以上話ができるのは、やっぱり超才能やしぃ!」
他の人が聞いたらリップサービスと思うかもしれへんけど、従妹のうちはよう分かる。
「ぜったい、才能や!」
「アハハ、ソニーがここを勧めてくれたわけが分かったよ(^_^;)」
「へ?」
小川のせせらぎが絶好の防音壁になると気が付いたのは日本に帰ってからでした。
くそ!
☆・・主な登場人物・・☆
- 酒井 さくら この物語の主人公 聖真理愛女学院高校一年生
- 酒井 歌 さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
- 酒井 諦観 さくらの祖父 如来寺の隠居
- 酒井 諦念 さくらの伯父 諦一と詩の父
- 酒井 諦一 さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
- 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
- 酒井 美保 さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
- 榊原 留美 さくらと同居 中一からの同級生
- 夕陽丘頼子 さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
- ソフィー ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
- ソニー ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
- 月島さやか さくらの担任の先生
- 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
- 百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
- 女王陛下 頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
- 江戸川アニメの関係者 宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)
- さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん)