真凡プレジデント・57
ごくろうさま。
控えめな労いの声に顔を上げると藤田先生だった。
倉庫の中に居てはうだってしまいそうなので、とりあえず廊下に出すことに専念したので乱暴な積み方になった。残り1/3というところで、廊下に積んだ荷物が崩れそうになって、支えているところだ。タンクトップ一枚の腋が丸出しで恥ずかしい。
先生は、言葉だけでなく、瞬間迷ってから、崩れそうになった荷物の上の方を積み直してもくださった。
その間、先生もわたしも無言。
声を掛けた先生も気まずいようで、目線が逃げている。
でも、こういう気まずい状況でも、生徒が汗みずくで働いていたら声を掛けずにはおれないのも先生の好ましい個性だ。
春先の中庭で、生徒会選挙の候補者で悩んでいる先生に出くわさなければ、生徒会プレジデントになっていることも無かっただろう。
「生徒会の資料とかがあるんで整理しているんです」
中谷先生が言っていた建前だけを笑顔と共に述べる。中谷先生の私物処理がメインだとは言わない。
「あ、えとね……」
気の毒そうな顔をしたまま、先生は倉庫の中に入りゴソゴソやり始めた。
「あ、もう終わりかけで、一人で出来ますから」
先生の善意をけん制したつもりだったが、物事はよく確認しなければならない。
「あ、いや、手伝ってあげられるといいんだけどね、これから会議なもんで……」
「あ、あ、そうですか、それはそれは……(^_^;)」
早とちりに不得要領な返事になる。
「あったあった」
先生は、倉庫の奥から二つのものを出した。
「この台車で運べばいい、それからエレベーター使っていいからね。それと、PTAで作ったタオル。それじゃ間に合わないだろう」
「あ、ありがとうございます!」
もうタオルハンカチじゃ間に合わないくらいの汗だったので助かる、それに、台車とエレベーターは百人力だ。
「ごめーーーん、助かった!」
台車一杯の荷物を運んでくると、中谷先生も正直な礼を言ってくれる。先生の机の上には退学届けと退学に関わる上申書などが載っている。学期末で退学者が出て、その処理に追われていたようだ。先生にも事情があるんだと納得。
「あ、これ、ホテルのケーキバイキングの優待券。良かったら使ってみそ」
「ありがとうございます!」
これでチャラ。
藤田先生にボヤいたりしなくて正解だと思い、お相撲さんのような手刀きって頂戴する。
職員室のもう一つのドアから、会議の終わった藤田先生が入って来る、微妙な目配せが中谷先生との間に交わされる。
これは、藤田先生から一言あったんなあと思うが、ペコリとお辞儀だけして生徒会室に戻る。
さあ、新品エアコンの恩恵にあずかろう!
意気揚々と生徒会室に戻ったんだけど……。
☆ 主な登場人物
- 田中 真凡 ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
- 田中 美樹 真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、いまは家でゴロゴロ
- 橘 なつき 中学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
- 藤田先生 定年間近の生徒会顧問
- 中谷先生 若い生徒会顧問
- 柳沢 琢磨 天才・秀才・イケメン・スポーツ万能・ちょっとサイコパス
- 北白川綾乃 真凡のクラスメート、とびきりの美人、なぜか琢磨とは犬猿の仲
- 福島 みずき 真凡とならんで立候補で当選した副会長
- 伊達 利宗 二の丸高校の生徒会長