明神男坂のぼりたい
なんで関根先輩が居るの!?
「そりゃ、明日香がリレーのアンカーやるっていうから見に来ないわけにはいかんだろ?」
サラッと先輩。
「だって……あたしがリレーの代走に決まったのは、ついさっきですよ。アンカーの子が休んでしまったから」
「え、あ、そうだったっけ(^_^;)?」
焦ってとぼける先輩。ウソ見え見え。
胸のポケットに家族のIDカードが覗いてる。あ、なんかドキドキしてきた。
「あ、ちゃんと写真撮ったぞ。ゴール前でこけたのはビックリして撮りそこなったけどな」
で、先輩は、スマホを出してスライドショーをやってくれた。競技中のは狙うのがむつかしいようで少なかったけど、応援席にいてるのやら、入場門のところで乙女チックに出番を待ってるのやら。
そして……中学時代の懐かしくもおぞましい写真まで( ゚д゚ )。
障害物競争で麻袋穿いてピョンピョン跳ねてる明日香。そんで麻袋脱ごうと思って、うっかりハーパンとパンツ脱ぎかけて半ケツになったやつ!?
「な、なんで、こんな古い写真……なんで、ここだけ鮮明に!?」
「いや、たまたまや、たまたま。写真は消し忘れ!」
焦ってる先輩も可愛い(〃▽〃)。
って喜んでる場合じゃない!
―― まあ、半ケツと言ってもお尻の本体が丸々見えてるわけではないぞ ――
さつきが囁いて、言い損ねる。
「そうだ、二人で撮ろうか」
「うん」
そう言って自撮りしようとしたら、声がかかった。
「あたしが撮ろうか?」
ブラジルの制服姿の新垣麻衣が、あたしらの前に立った。
「あ、麻衣ちゃん、お願い」
「じゃ、いきますよ~」
カシャ
再生すると青春真っ盛りの二つの笑顔。先輩の笑顔も見たことないほどいい。いや、良すぎる……。
「あたし、明日香のクラスに転校してきた新垣麻衣です。こちらは、明日香の彼?」
「あ、この人は……」
説明しかけると、教務の先生が麻衣を呼んだので、アイドルみたいな返事して、校舎の中に消えていった。
「か、可愛い子だなあ……」
魂もっていかれたような顔して関根先輩。
「あたし、麻衣の世話係だから、よかったらサイン入りの写真でももらっとこうか?」
「え、あ、いや、それは……あの子の明るさは日本人離れしてるなあ」
「ブラジルからの帰国子女!」
「ああ、ブラジルか。情熱のサッカー大国だな」
そのあと閉会式になったので、先輩とは半端なまま別れた。気まぐれでも見に来てくれたのは嬉しい。だけど、正直に麻衣に鼻の下伸ばしたのは胸糞悪い。
―― ま、いいではないか。坂東の男は、こういうことには正直なもんだ(^▽^) ――
さつきが姿も見せずに言う。
団子屋のバイトはどうしたの!?
―― つつがなくやっておるぞ。だから、姿は見えないだろうが ――
こいつ、なんか進化してない(-_-;)?
月曜からは大変だった。
麻衣は、TGHの制服着ても華やかさはまるで変わらない。朝のショートホームルームの自己紹介も華やかで明るくって、ほんとに、このままAKRのMCが務まりそうなぐらいだった。クラスの男子の好感度は針が振り切れてしまったし、女子も自然な明るさに好感を持ったみたい。
あたしは慣れない日本にやって来て、さぞかし心細いだろうと、気遣いと心配は十人分くらい用意してきた。どうも、いらない心配だったみたい。
で、心憎いことには、あたしへの心遣いも忘れていない。授業や学校のことで分かないことがあったら、必ずあたしに聞きにくる。
要は、見かけも気配りも言うことないんだけど、その完璧さが面白くない。
嫉妬だというのは自分でも分かってるので、なるべく表に出さないように気をつけた。
友達は、いきなり増えても麻衣が気疲れするだろうと思って、積極的に紹介したのは、伊東ゆかりと中尾美枝の二人だけ。
すると、クラスの子たちからは「麻衣の取り込みだ」というような顔をされる。で、そのクラスの子たちとの仲を取り持つのも、いつの間にか麻衣自身とかね。
めでたいことなのに、こんなにイラついた経験は十七年の人生で初めてかもね。
神田明神に『イラつき封じのお守り』は無かった。