大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

明神男坂のぼりたい・71〔関根先輩曇り のち 新垣晴れ過ぎ〕

2022-02-13 06:00:46 | 小説6

71〔関根先輩曇り のち 新垣晴れ過ぎ〕 

     

 

 なんで関根先輩が居るの!?

「そりゃ、明日香がリレーのアンカーやるっていうから見に来ないわけにはいかんだろ?」

 サラッと先輩。

「だって……あたしがリレーの代走に決まったのは、ついさっきですよ。アンカーの子が休んでしまったから」
「え、あ、そうだったっけ(^_^;)?」

 焦ってとぼける先輩。ウソ見え見え。

 胸のポケットに家族のIDカードが覗いてる。あ、なんかドキドキしてきた。

「あ、ちゃんと写真撮ったぞ。ゴール前でこけたのはビックリして撮りそこなったけどな」

 で、先輩は、スマホを出してスライドショーをやってくれた。競技中のは狙うのがむつかしいようで少なかったけど、応援席にいてるのやら、入場門のところで乙女チックに出番を待ってるのやら。

 そして……中学時代の懐かしくもおぞましい写真まで( ゚д゚ )。

 障害物競争で麻袋穿いてピョンピョン跳ねてる明日香。そんで麻袋脱ごうと思って、うっかりハーパンとパンツ脱ぎかけて半ケツになったやつ!?

「な、なんで、こんな古い写真……なんで、ここだけ鮮明に!?」
「いや、たまたまや、たまたま。写真は消し忘れ!」

 焦ってる先輩も可愛い(〃▽〃)。

 って喜んでる場合じゃない!

―― まあ、半ケツと言ってもお尻の本体が丸々見えてるわけではないぞ ――

 さつきが囁いて、言い損ねる。

「そうだ、二人で撮ろうか」
「うん」

 そう言って自撮りしようとしたら、声がかかった。

「あたしが撮ろうか?」

 ブラジルの制服姿の新垣麻衣が、あたしらの前に立った。

「あ、麻衣ちゃん、お願い」
「じゃ、いきますよ~」

 カシャ

 再生すると青春真っ盛りの二つの笑顔。先輩の笑顔も見たことないほどいい。いや、良すぎる……。

「あたし、明日香のクラスに転校してきた新垣麻衣です。こちらは、明日香の彼?」
「あ、この人は……」

 説明しかけると、教務の先生が麻衣を呼んだので、アイドルみたいな返事して、校舎の中に消えていった。

「か、可愛い子だなあ……」

 魂もっていかれたような顔して関根先輩。

「あたし、麻衣の世話係だから、よかったらサイン入りの写真でももらっとこうか?」
「え、あ、いや、それは……あの子の明るさは日本人離れしてるなあ」
「ブラジルからの帰国子女!」
「ああ、ブラジルか。情熱のサッカー大国だな」

 そのあと閉会式になったので、先輩とは半端なまま別れた。気まぐれでも見に来てくれたのは嬉しい。だけど、正直に麻衣に鼻の下伸ばしたのは胸糞悪い。

―― ま、いいではないか。坂東の男は、こういうことには正直なもんだ(^▽^) ――

 さつきが姿も見せずに言う。

 団子屋のバイトはどうしたの!?

―― つつがなくやっておるぞ。だから、姿は見えないだろうが ――

 こいつ、なんか進化してない(-_-;)?

 月曜からは大変だった。

 麻衣は、TGHの制服着ても華やかさはまるで変わらない。朝のショートホームルームの自己紹介も華やかで明るくって、ほんとに、このままAKRのMCが務まりそうなぐらいだった。クラスの男子の好感度は針が振り切れてしまったし、女子も自然な明るさに好感を持ったみたい。

 あたしは慣れない日本にやって来て、さぞかし心細いだろうと、気遣いと心配は十人分くらい用意してきた。どうも、いらない心配だったみたい。

 で、心憎いことには、あたしへの心遣いも忘れていない。授業や学校のことで分かないことがあったら、必ずあたしに聞きにくる。

 要は、見かけも気配りも言うことないんだけど、その完璧さが面白くない。

 嫉妬だというのは自分でも分かってるので、なるべく表に出さないように気をつけた。

 友達は、いきなり増えても麻衣が気疲れするだろうと思って、積極的に紹介したのは、伊東ゆかりと中尾美枝の二人だけ。

 すると、クラスの子たちからは「麻衣の取り込みだ」というような顔をされる。で、そのクラスの子たちとの仲を取り持つのも、いつの間にか麻衣自身とかね。

 めでたいことなのに、こんなにイラついた経験は十七年の人生で初めてかもね。

 神田明神に『イラつき封じのお守り』は無かった。


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