ポナの季節・48
『関東大会を目指そう!』
ポナ:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとって新子が自分で付けたあだ名
「やるからには、関東大会を目指そう」
達孝は、遠足の目的地を挙げる程度の気楽さで言った。
「関東大会ですか!?」
勘のいい美智は驚き、訳が分かっていないモクとチイはポカンとした。
「関東大会ってのは、関東の代表を決めるコンクールで、そのあとは日本一を決める全国大会しかないんだよ!」
美智が唾を飛ばしながら解説。
「え、ウッソー!」
モクとチイは、女子高生の常套句で驚きと感激を現して、顔にかかった唾を拭いた。
「本当は全国大会って言いたいけど、それは来年の夏。オレは、もう定年を過ぎていないからな」
「でも『幕が上がる』じゃ、吉岡先生は全国大会を保証してましたよ」
「自分が居ない時のまで保証するのは無責任だし、顧問の影響力というのは、そこまで大きいものなんだ。オレは無責任なことは言わない。それまでに後継の顧問を探せる保証もないしな(本当は育てると言いたかった)」
そこまで言ったところで、優奈が大学の放送同好会を連れて視聴覚教室に入ってきた。
「ウワー、テレビ局!?」
美智たちが感動するくらい、機材は本格的だった。
大学の放送部だと言うと、ちょっとガックリし『ジョーナンデス!』というネット番組を持っているというと、少し株が上がった。
「ウィークリーだけど、アクセス一万ちょっとはある。関東大会までドキュメント撮らせてもらうから」
優奈が言うと、美智、モク、チイは再び歓声を上げた。
「うちの演劇部もブログをつくろう。タイトルは『ミモチのドラマブログ』だ」
「あ、あたしたちの頭文字ですね!」
「ベースは、このジョーナンデスの人たちが立ち上げてくれる。あとは、おまえらが毎日更新するんだ。じゃ、優奈、進行台本見せてやってくれ」
「先生、この人のこと呼び捨てにしてるけど、教え子なんですか?」
「いや、オレの娘だ」
「え、ウッソー!」
「あのな、今月中でいいから、別の驚き方できるようにしとけ。おまえら表現力なさすぎ」
「でも、親子にしちゃ、似てませんね」
モクが遠慮なく言う。
「ああ、オレとは血の繋がりないからな」
「ええー!?」
ここで、ジョ-ナンデスのみんなが笑った。
「今、驚いた後、瞬間でいろいろ想像したろ。その驚きと想像力が演劇の基本なんだ。この五分で、おまえらは七回ほど驚いた。美智は関東大会のことは知ってたから感動のレベルが違うけどな。見ろ、ジョ-ナンデスのみんなも笑ってるだろ。おまえらの驚きが新鮮だからだ。さあ、舞台に上がれ『とことん自己紹介』をやるぞ」
三人は、いそいそ舞台に上がって自己紹介したが、通り一遍でまるで面白くない。
「おまえたちは、友だちぶってるけど、その程度だ。もっとアピールと、相手への疑問を持て。感動は自然にやってくる。チイから話し始めてみろ。まず、なんでチイなんてニックネームなんだ?」
「えと、苗字が地井なのと、背がチッコイから。でも背の高さはAKBのたかみなと同じです!」
「それでチイって言われても平気なんだ」
「そうだよ、センターとれなくても総監督はやれるぞ!」
チイの精一杯の背伸びに、みんなが笑った。それから、互いの肉体的やらプライベートの告白やら暴露大会になった。美智が出べそなことや、モクが三日目の便秘であることから、スキンケアの話へ、四日を超えると切れ痔になりやすいこと「あたしは鉄の肛門してんだ!」などと、日常が丸出しになって、とてもいい絵が撮れたとジョーナンデスの一同は喜んだ。
三人は自己解放と、自然なコミニケーションの有り方を実感した。
「最後に、あたしから。あたしはお父さんとは血の繋がりはないけど、お母さんとは血のつながりがあるの。さ、ここから考えられる寺沢家の問題はなんでしょう?」
三人とも興味津々になった。
あいつら、思ったより初心で良い感性をしていると感心した達孝であった。
ポナの周辺の人たち
父 寺沢達孝(59歳) 定年間近の高校教師
母 寺沢豊子(49歳) 父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男 寺沢達幸(30歳) 海上自衛隊 一等海尉
次男 寺沢孝史(28歳) 元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。
長女 寺沢優奈(26歳) 横浜中央署の女性警官
次女 寺沢優里(19歳) 城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女 寺沢新子(15歳) 世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ 寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。
高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜 ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀 ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長
浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊
吉岡先生 美術の常勤講師、演劇部をしたくて仕方がない。
佐伯美智 父の演劇部の部長
蟹江大輔 ポナを好きな修学院高校の生徒