永遠女子高生・29
《塔子の場合・4》
焼き芋が再びのグラビアに繋がるとは思いもしなかった。
「あ、今日も停まってる」
角を曲がったところで、交差点の向こうに、あの焼き芋屋さんの軽トラを見つけた。
「おじさん、今日も!」
いちばんオッキイのを買って、ナオタンと半分ずつに。レギュラーサイズ二つ買うよりも安いのだ。
「ハハ、考えたね」
気をよくしたおじさんは、軽トラック荷台からキャンパス地の庇を伸ばして、その下に折り畳みの椅子を置いてくれた。
歩きながら食べるのは、やっぱ、どこか恥ずかしい。
プラタナスと軽トラに挟まれて、程よく隠れているのでノビノビと焼き芋を楽しむことができる。
「ハハ、焼き芋カフェテリアね」
プラタナスの向こうから声がかかった。
「あ……瀬戸内さん!」
そこには、ポッペティーンの瀬戸内美晴さんがカメラをぶら下げて立っていた。
「また、撮らせてくれるかなあ?」
「え、またグラビアに載るんですか!?」
ナオタンの目が活き活きとする。
「あー、今は企画はないんだけどね、あたしのブログとかに使わせてもらおうかと思ってる。だめ?」
「「いいえ、いいえ」」
焼き芋屋のおじさんや、御通行中のお婆さんとかも入って、数百枚の写真を撮った。
そして、このブログの写真が雑誌のグラビアよりもヒットした。
もちろん瀬戸内さんの腕なんだろうけど、あたしたちの写真は「見ていてホッとする」という評判で、あくる春には『ホッと女子高生』のタイトルで写真集になった。
『ホッと女子高生』は『ホッとうこ』の企画に発展していった。
タイトルから分かると思うんだけど、漢字で書くと『ホッ塔子』になる。つまり、あたしの個人写真集。
ナオタンも人気があったんだけど「ホッと直子じゃインパクトないもんね」と言って、いつの間にか自分が写ることよりも、マネジメントの方が面白くなってしまった。世話焼き上手なナオタンには向いていたのかもしれない。
こうして、あたしはモデルと女子大生という二足の草鞋になり、大学卒業のころには女優になってしまっていた。
正直、女優と言う意識は、さほどには持たなかった。なんというか、ありのままの自分でやってきたように思う。
一世を風靡したというような女優人生じゃなかったけど、塔子が出ていると、なんだかホッとする……そんな役をもらってばかりだった。これは、マネージャーとしてのナオタンの腕だったと思う。
97歳になった。
「いい人生だったわ……」
《塔子の場合・4》
焼き芋が再びのグラビアに繋がるとは思いもしなかった。
「あ、今日も停まってる」
角を曲がったところで、交差点の向こうに、あの焼き芋屋さんの軽トラを見つけた。
「おじさん、今日も!」
いちばんオッキイのを買って、ナオタンと半分ずつに。レギュラーサイズ二つ買うよりも安いのだ。
「ハハ、考えたね」
気をよくしたおじさんは、軽トラック荷台からキャンパス地の庇を伸ばして、その下に折り畳みの椅子を置いてくれた。
歩きながら食べるのは、やっぱ、どこか恥ずかしい。
プラタナスと軽トラに挟まれて、程よく隠れているのでノビノビと焼き芋を楽しむことができる。
「ハハ、焼き芋カフェテリアね」
プラタナスの向こうから声がかかった。
「あ……瀬戸内さん!」
そこには、ポッペティーンの瀬戸内美晴さんがカメラをぶら下げて立っていた。
「また、撮らせてくれるかなあ?」
「え、またグラビアに載るんですか!?」
ナオタンの目が活き活きとする。
「あー、今は企画はないんだけどね、あたしのブログとかに使わせてもらおうかと思ってる。だめ?」
「「いいえ、いいえ」」
焼き芋屋のおじさんや、御通行中のお婆さんとかも入って、数百枚の写真を撮った。
そして、このブログの写真が雑誌のグラビアよりもヒットした。
もちろん瀬戸内さんの腕なんだろうけど、あたしたちの写真は「見ていてホッとする」という評判で、あくる春には『ホッと女子高生』のタイトルで写真集になった。
『ホッと女子高生』は『ホッとうこ』の企画に発展していった。
タイトルから分かると思うんだけど、漢字で書くと『ホッ塔子』になる。つまり、あたしの個人写真集。
ナオタンも人気があったんだけど「ホッと直子じゃインパクトないもんね」と言って、いつの間にか自分が写ることよりも、マネジメントの方が面白くなってしまった。世話焼き上手なナオタンには向いていたのかもしれない。
こうして、あたしはモデルと女子大生という二足の草鞋になり、大学卒業のころには女優になってしまっていた。
正直、女優と言う意識は、さほどには持たなかった。なんというか、ありのままの自分でやってきたように思う。
一世を風靡したというような女優人生じゃなかったけど、塔子が出ていると、なんだかホッとする……そんな役をもらってばかりだった。これは、マネージャーとしてのナオタンの腕だったと思う。
97歳になった。
「いい人生だったわ……」
病室の壁に掛けた写真に呟いた。写真は去年逝ってしまったナオタンのだ。
あ……写真がぼやけて……また意識がなくなるんだろうか……この一週間、あたしの意識はおぼろになって来た。今度目をつぶったら、もう二度と開くことはないだろうよいう感じはしている。
廊下の方から人の気配がした。
「……お待たせ」
一人の女子高生が入って来た。
「……あ………凛子」
「憶えていたのね」
あ……写真がぼやけて……また意識がなくなるんだろうか……この一週間、あたしの意識はおぼろになって来た。今度目をつぶったら、もう二度と開くことはないだろうよいう感じはしている。
廊下の方から人の気配がした。
「……お待たせ」
一人の女子高生が入って来た。
「……あ………凛子」
「憶えていたのね」
憶えていたのではない……80年の時間の末に思い出したのだ。
15分まで待って来なかったので放ってきたことを。
「遅かったじゃない、凛子」
「塔子も直子もがんばりすぎたから……」
「がんばったかなあ…………楽しかったわよ」
「よかった……」
凛子は、穏やかだけども、とても安心した目になった。
思い出した……凛子は、あの家に住んでいたんだ。
あたしたちは戦っていたんだ、この時代に足場を置いて、時空を超えて戦っていた。
3人のうち2人が犠牲になって踏みとどまらなければ、世界が滅んでいた。
15分まで待って来なかったので放ってきたことを。
「遅かったじゃない、凛子」
「塔子も直子もがんばりすぎたから……」
「がんばったかなあ…………楽しかったわよ」
「よかった……」
凛子は、穏やかだけども、とても安心した目になった。
思い出した……凛子は、あの家に住んでいたんだ。
あたしたちは戦っていたんだ、この時代に足場を置いて、時空を超えて戦っていた。
3人のうち2人が犠牲になって踏みとどまらなければ、世界が滅んでいた。
「凛子が生き延びたら、どこかのパラレルで、あたしたちを生かしてくれたらいいからね……泣かないで凛子、じゃ、いくよ」
凛子は約束を守って、17年に満たなかったあたしたちに人生の続きを見せてくれたんだ。
ありがとう…………凛子。
凛子は約束を守って、17年に満たなかったあたしたちに人生の続きを見せてくれたんだ。
ありがとう…………凛子。