くノ一その一今のうち
甲斐善光寺を出て、三村紘一(課長代理が化けてる)の車で甲府市内のホテルに戻ってロケチームと合流する。
「なにか面白いことあったぁ?」
顔を見るなりまあやが聞いてくる。
ロケチームで借り切っている喫茶室なので、遠慮も警戒も無い。
「信玄の心を覗いてしまったかも……」
「え、信玄の心!?」
反射のいいまあやは、鼻がくっ付きそうなところまで顔を寄せて話を聞きたがる。
「実はね……」
まあやの好奇心に応えるべく、ことさら、秘密っぽく善光寺でのあれこれを話してやる。
むろん裏稼業のことは秘密にしてね。
「わたしも行ってみたいなあ、心の字の形の地下迷路って、そそられるよね!」
「三村先生は、大いにインスピレーション掻き立てられたみたいだけどね」
「うん、三村先生って、結末で九個謎解きしても一個は謎のままにしてるでしょ。それって視聴者にも人気だけど、やっててもワクワクするのよねぇ。ほら、第二十回の『お玉が池由来』で、千葉道場ができたころの話があるでしょ?」
「ああ、龍馬たちが無茶ばっかりやるんで、師範が昔話して意見するとこだね」
「うん、建築費まけてもらうために神田祭の警備係りやったり、お化け退治やったり」
「うん、立ち回りやったら『その、すごみ過ぎ!』って怒られた(^_^;)」
「いっぱい、仕掛けのある回だったけど、肝心の――なぜ、お玉が池に道場を開いたのか!?――って謎解きは無かった」
「あ、そう言えば」
「でね、撮影が終わって先生が見えた時に聞いてみたの『なんで、お玉が池だったんですか?』って……ふふ、そしたらね(〃艸〃)」
「そしたら?」
「こっそり教えてくれたの」
「なんてなんて!?」
「江戸に来た時に、周作は、宿の飼い猫に『お玉が池がいいよ』って勧められるの」
「猫に?」
「うん、その猫の名前がね『お玉』って云ってね『お玉が行けと申したからだ』ってオチになるんだって! あ、これは最終回まで秘密だから、ノッチも人に言っちゃダメだよ」
「う、うん」
それって、絶対に咄嗟の言い訳だよ(^_^;)。なんせ三村紘一の本業は徳川物産の課長代理、徳川忍者部隊の元締めだからね。
寂しがり屋のまあやは、その後も話を聞いたり話したりで喜んでくれたんだけど、肝心の事を忘れていた。
「あ、いっけない!」
「どうしたの?」
ちょっと待ってと、打合せから戻ってきた監督になにやら相談。
「ノッチが戻ってきたら、さな子さんのお墓に行こうと思ってたんだけどね、もう日が落ちて天気も悪くなってきたから今度にしなさいって」
「あ、ごめん、わたしも話し込んじゃったから!」
「ううん、めっちゃ楽しかったし、また今度。アハハ、『お玉が行け』といっしょ!」
いい子だ、まあやは。
けっきょく、その日は、お天気も崩れてきたので、撮影も無くなって、二人でお風呂入って晩ご飯。
明日からは、遅れた分を取り返す。
がんばろう。
☆彡 主な登場人物
- 風間 その 高校三年生 世襲名・そのいち
- 風間 その子 風間そのの祖母(下忍)
- 百地三太夫 百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
- 鈴木 まあや アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
- 忍冬堂 百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
- 徳川社長 徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
- 服部課長代理 服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
- 十五代目猿飛佐助 もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者