せやさかい・165
散策部というのがあったの。
ダージリンの紅茶を淹れながら院長先生が言う。
「サンサク……散歩と同義の散策ですか?」
「そうね、ほとんど散歩と同じなんだけど、言葉にするとね『散歩部』というのは、なんだか締まらないでしょ。「散策部」って言うと、なんだか高尚な響きがしない?」
「そうですね……作家や学者が思索しながら歩くって感じがしますね。散歩だったら犬でもやりますという響きがあります」
「最初は『探検部』という名前で部活の申請したんだけど、ちょっと女生徒がやるには過激な印象で却下になって、それで『散策部』で申請し直して認められたの。学校の近所から始めて、遠足のコースの下見に行ったり、夏休みには合宿の名目で泊りがけで出かけたり。まあ、歩き回ってお喋りして、面白そうなものに出会ったら写真に撮って、適当にコメントを付けて文化祭とかで発表するの。まあ、身内で好きなことで盛り上がる言い訳みたいなものだったけど、なかなか面白かった」
「ひょっとして、院長先生がおやりになっていたんですか?」
「まあね、後輩が引き継いでくれて、五年ほどは続いたんだけど、教育実習で戻ってきた時には廃部になってたわ……ほら、これが最初のメンバー」
「拝見します」
机の上の写真たてには、今と同じ制服を着た五人の生徒が映っている。
一見して文系の子たちだと思われて、真ん中で腕組みしたツインテールが院長先生のようだ。
「あ……似て……」
似てると思ったけど、目上の人を軽々しく言ってはいけないと言葉を呑み込んだ。
「ひょっとして、この子に似てると思ったのかなあ?」
院長先生が写真たてにタッチすると、写真が換わった。デジタルフォトスタンドなんだ。
そして現れたのは、まさに思い浮かべたアニメのキャラ。
角谷杏、大洗女子学園の生徒会長にしてガルパンの重要バイプレーヤーだ。
「わたしも一期だけ生徒会長やっていたんだけど、ミテクレもキャラもよく似ていて。散策部の仲間だった子が杏子の写真と一緒に送ってくれたの。それで、わたしもファンになって、夕陽丘さんも『ガルパン』は知っていたのかしら?」
「はい、小学生のころから観ています」
「あなたは誰のファン?」
「はい、五十鈴華です!」
「ああ、お花の家元の娘さんね」
「はい、おっとりして伸びやかな性格と、いくら食べても太らないところが好きです」
「そうね、彼女のご飯て、いつもビックリするくらい多いものねえ」
「最初は大食いなのに気が付かなかったんです。なんども繰り返し観ているうちに、食事シーンの時の彼女の分の多さにビックリして、あれにはあやかりたいって思いました」
「そうよね、だから低血圧の冷泉さんをオンブしたりできるのよね!」
「ええ、さりげなく凄いところに感動しますよね!」
こうやって淹れ過ぎのダージリンを頂いたころ、わたしは散策部に入ることを決心した。