高校ライトノベル
通学道中膝栗毛・2『スカイツリーと東京タワーの間に』
東京タワーとスカイツリーの両方が見える。
どこからでも見えるというんじゃないけど、駅に向かう途中で見えるポイントがある。
むろん、このポイントが特別じゃなくて、我が街のあちこちで見える。
スカイツリーが出来た時こそ珍しく、親友の足立鈴夏といっしょに眺めたもんだけど、いまは、ほとんど街の景色の背景になっている。
スカイツリーは「すごいんだぞ!」と言われていた。
だから、完成するまではワクワクしていた。
「え、あれでおしまい?」
完成した日に買ってもらったばかりの携帯を構えて拍子抜けがした。
「なんかねー」
鈴夏もつまらなさそうだった。
「東京タワーとかわんないじゃない」
「だよねー」
あたしは、完成した時の感動をマックスにしたかったので、二か月ほどは建築中のスカイツリーは見なかった。
だから、琴吹公園のジャングルジムのてっぺんで、満を持して見た時はガックリきた。
「634メートルって、ほんとかなあ」
「うんとね……」
鈴夏は腕組みをして考えたってか、考えをまとめている。
鈴夏はかしこいってか、大人びた小学生で、感動したり発見したことは腕組みして、なにがしかの結論を出す子なんだ。
むろん、いつも正しい結論が出るわけじゃない。「ね、なんでドーナツには穴があるの?」と、ミスドのフレンチクルーラー食べながら聞いたことがある。
しばし腕組みした鈴夏は、オールドファッションを咀嚼してから、こう答えた「それは、ドーナツの誇りなんだよ」「え、誇り?」
「そだよ、穴が無きゃ、砂糖まぶした揚げパンとかわんないじゃない。ぼくはドーナツなんだという誇りの穴なんだ。ぼんやり食べていると、それに気づかない。だから、いま、わたしはドーナツの誇りを食べているんだという気持ちで食べてあげなきゃいけないんだ」
そう言って、半分残っていたオールドファッションの穴の所を「ハム」って食べた。で、とてもおいしそうな顔をしたので、あたしもフレンチクルーラーの穴を「ハム」って食べた。なんだか、それまでの倍くらいおいしく感じた。
「スカイツリーはね、墨田区なんだよ。東京タワーの倍くらい遠いところにあるから小さく見えるんだよ」
正解なんだろうけどね。
「ドーナツの穴とは違うんだね」
「……それはね、後輩のスカイツリーが先輩の東京タワーをリスペクトしてるからなんだよ」
小三のあたしには「リスペクト」はむつかしかったけど、先輩後輩の理屈はしっくりきた。
「なるほどねー」
その六年後の学校の帰り道。
ホームから見える先輩後輩のタワー見て、こう言った。
「あの間にロープ張って、綱渡りする人がいたら偉いよね、やってみる!?」
親友は、あのころのように腕組みをして言った。
こういうぶっ飛び方をする鈴夏が、あたしは好きです。