大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・秋物語り・21『……禁じ手』

2018-08-09 06:05:44 | 小説4

秋物語り・21
『……禁じ手』
        

 主な人物:水沢亜紀(サトコ:縮めてトコ=わたし) 杉井麗(シホ) 高階美花=呉美花(サキ)

 ※( )内は、大阪のガールズバーのころの源氏名


 家族に知れたら、もう一度家出の覚悟だった。


 学校の写真は消えているが、わたしと、わたしの首と麗の体を合成した写真は、あいかわらずネットに載っていた。むろんアダルトサイトだが、今日日小学生だってフィルターを外して見ている。うちはお父さんがしっかり管理しているので、弟は知らない。多分お父さんも……でも、時間の問題だろう。コンビニで、時々いっしょになるオッサンが、レジに並んだとき変な目つきで、わたしの体の上から下までねめまわした。

「なんか、付いてますか?」

 穏やかだが、厳しい目つきでオッサンを睨んでやった。大阪時代にメグさんから習った「メンチの切り方」である。わたしは、麗とは違って、一見おとなしそうな高校生に見えるので、この豹変ぶりは意外に効果がある。
 でも、こんなオッサンが何人も出てくるようじゃ、間に合わなくなるだろう。

 コンビニからの帰り道、スマホがメール着信を知らせてきた。わたしは歩きスマホはしない主義なので、家に帰るまで辛抱した。

――天気予報、東京地方は、しだいに回復の見込み。銀座方面から快晴の兆し。S・Y――

 吉岡さんだ!

 わたしは、自身禁じ手にしていたけど、藁にもすがる思いで、吉岡さんにメールを打っていた。アドレスは保存していたけど。こちらから、ううん、吉岡さんからメールが来ることもなかった。大阪のことは断ち切った気持ちでいたからだ。

 さっそく、スマホで、例のサイトを開いてみた。無くなっていた……だけじゃなかった。

――掲載していた写真は合成したものでした。写っていた女性の方に深くお詫びいたします。管理人――

 と、5ポイントの青い文字で書かれていた。よく見ると左下にY・Kのイニシャル。木村雄貴に間違いないだろう。銀座方面からの回復。これは、銀座で働いているめぐさんも協力してくれたという意味に違いない。
 しかし、削除されるまで、十日近くたっている。何十、何百とコピーされているのに違いない。安心はできない。

 明くる日、バイトに行くと、秋元君の顔が明るかった。

 さては雫さんといいことあったのかな……そう思ってカマを掛けると、意外なものが飛び出した。
「オレも、あのサイトのことは心配してたんだ」
「え~ 秋元君も、あれ見てたの!?」
「い、いや、あくまで心配してのことだから!」
 二人の顔は信号のように、忙しく変化した。

 下校するとき、机の中は空にして帰る。

 学校の言いつけを守ってのことではない。なにを入れられ、なにを取られるか分からないからだ。
 その日、いつものように早めに登校し、机の中に、その日必要な教科書やなんかを入れると、奥の方でクシャっと、紙が押しつぶれるような手応えがあった。
 入れようとしたものをいったん出して、ひしゃげたプリントが入っているのに気づき、出して見たら頭に血が上った。例の首すげ替えの写真がA4のサイズで入っていた。

 わたしが、教室に入る前にHという男子が、後ろの扉から出てきた。あいつは前の方の席だから、出てくるんなら前の方だ。わたしの姿には気づいていない様子だったが、男子特有のイタズラをしましたオーラが出ていた。
 わたしは、わざと、シオらしく俯いてスマホを構えて待っていた。やがてチラホラと入ってきたクラスメートに混じってHが入ってきた。明らかに、わたしの方を見てほくそ笑んだ。あとで、入ってきたIという男子に、なにか耳打ちして、二人でなにか忍び笑いをし、わたしの方をチラ見した。

 Iも共犯か……。

 江角が入ってきて、起立礼をしたあと、わたし一人、立ったままでいた。
「なにしてんの、もう座んなさい」
「三十秒だけ、時間ください」
 江角が、なにか言う前に、Hの前に立った。
「こんな、スケベなイタズラして、スカしてんじゃねえよ!」
 例のA4をHの机に叩きつけた。一瞬で周りの生徒の反応を見た。驚き方が違ったのは、Iだけだった。江角は、どう対応していいか分からず、手を前に泳がせるだけだった。わたしはHの耳を掴んで立ち上がらせた。これはタキさんに教わった対処法。女の力で襟首を掴んでも立たせることはできないが、耳を掴んだり、鼻の穴に指を入れてやると、一瞬で立ち上がらせられる。
「てめえは、イニシャル通りのHだよ!」
 耳を放したその手で平手打ちをかました。ストロークは短く、渾身の力をこめて。これもタキさん伝授。ストロークを大きくすると狙いが外れて、ケガをさせることが多いからである。

「ちょっと、二人とも生指にきなさい!」
「それなら、Iもです。二人でケッタクしてますから」

 スマホで、わたしが撮った動画を見せると、あっさり二人は認めた。こうやって、取りあえずは、終わった。

 秋は、確実に、その色合いを濃くしていった……。


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