大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・セレクト№22『親の離婚から175日』

2012-10-14 07:51:54 | 小説
ライトノベル・セレクト№22
『親の離婚から175日』
    
 


 親の離婚から175日。もう数えるのはやめ。だって、今日はイナゴ(175)だ。
 いなごの佃煮をお母さんが買ってきた、離婚の一週間前。
 デパートの物産展で、珍しそうだったからって。
 そのイナゴの佃煮を前に、食卓は数秒、こじれた国際会議のような沈黙になった。
 で、数秒後、ヤバイと思って、わたし食べちゃった。

 ガリ、グチュ……あの食感は忘れられない。それから、家族みんなが少しずつ食べた。それを食べれば、とんでもないことを言わずに済むかというように。
 わたしは、もう一生、イナゴの佃煮は食べないだろう。
 だからイナゴの日をきっかけに数えることは止め。

『第六十一回浪速高等学校演劇研究大会』
 看板がまぶしかった。

 おとつい、リハに来たときは看板もなく、雑然とした中でマイクも使えなくて、スタッフの人や、実行委員の先生や生徒が右往左往。
 本選に出るんだという実感は、当日の今、看板を見てようやく湧いてきた。

 出番は、初日の昼一番。二つ驚いたことがあった。

 朝一番に道具の確認に一ホリの裏側にまわった(会場のLホールは、テレビの実況ができるように奥行きが二十五メートルもある。そこで真ん中のホリゾントを降ろして、後ろ半分を出場校の道具置き場にしている。ちょっとした体育館のフロアー並)
 わたしたちが、ささやかに畳一畳分に道具を収めたときは、まだ半分くらいの学校が搬入を終わっていなかったが、スペースはまだ三分の二くらい余裕で残っていた。
 さすがLホールと思ったのだが……。
 そのときは、溢れんばかりの道具で、担当のスタッフが苦労していた。
 R高校などは、四トントラック二杯分の道具を持ち込んでいた。
 お陰で、わたしたちの道具は奥の奥に追い込まれ、確認するのも一苦労。
 で……ウソ、衣装が無かった!?

「衣装はこっち!」
 道具の山のむこうにタロくん先輩の声。
 実行委員を兼ねている先輩はR高校の搬入を見て、「こら、あかんわ」と思った。
 それで、すぐに必要になる衣装と小道具は、駅前のコインロッカーに入れておいてくれたのだ。さすが大手私鉄合格の舞監である。

 もう一つの驚きは、パンフだった。
 予選からの出場校百二校のプロフィールが書いてある。
 三分の一ほど読んで、「?」と、思った。
 創作脚本ばかりなのである。
 数えてみた。
 なんと出場校百二校中、創作劇が八十七校。
 なんと八十五パーセントが創作劇。
 後日確認すると、卒業生やコーチの作品が十校あり、創作劇の率は九十五パーセント!
 この本選に出てきた学校で既成の脚本はわたしたちのY高校だけ。
 大橋先生は、コーチではあるがれっきとした劇作家である。『すみれ』は八年も前に書かれた本であり、上演実績は十ステージを超えていた。
 タマちゃん先輩が、予選の前に言っていた。
「浪高連のコンクールは、創作劇やないと通らへん」
 ジンクスなんだろうけど(わたしたち予選では一等賞だったもん)この数字は異常だ。

 本番の一時間前までは、他の芝居を観ていいということになった。
 出番は昼の一番なんで、午前中の芝居は全部観られる。

 わたしは、午前の三本とも観た。ナンダコリャだった。
 例のR高校、幕開き三十秒はすごかった。なんと言っても、四トントラック二杯分の大道具。ミテクレは、東京の大手劇団並み。
 しかし、役者がしゃべり始めると、アウト。台詞を歌っている(自分の演技に酔いしれている)ガナリ過ぎ。不必要に大きな動き。人の台詞を聞いていない。
 だいいち、本がドラマになっていない。ほとんど独白の繰り返しで劇的展開がない。
 わたしは、大阪に来て八十本ほど戯曲を読んだ。劇的な構造ぐらいは分かる。

 昼休みは、道具の立て込み(と言っても、平台二個だけ)をあっという間に終えて、お握り一個だけ食べて、静かにその時を待った。
 乙女先生は、台詞だけでも通そうと言った。
「静かに、役の中に入っていけ、鏡でも見てなあ」
 大橋先生の言葉でそうなった。
 わたしは、眉を少し描き足し、念入りにお下げにし、静かにカオルになっていった……。


 本ベルが鳴って、お決まりのアナウンス。
 客電がおちて、山中先輩のギターでうららかな春の空気が満ちてきた。
 そして、タロくん先輩のキューで幕が上がった……。
 肌で感じた。観客の人たちと呼吸がいっしょになり、劇場全体が『すみれ』の世界になっていく。
 スミレの宝塚風の歌は、いっそうの磨きがかかって、大拍手。進一に進路のことを言われたときは、本気でむくれているみたいだった。

 アラブの戦争が始まり、上空をアメリカ軍の飛行機が飛んでいく。
 ついこないだの、マサカドさんとの体験が蘇り、恐怖が湧いてくる。そして、カオルとしてしみじみと語る十七年間の人生、宝塚への夢。
 その夢を無惨に打ち砕かれた、あの夜の空襲……そして互いの生き方への理解と共感が自然にやってきた。
友情と共感の象徴として、でも、互いにそうとは気づかずに、無邪気に紙ヒコーキを折って、新川の土手に……。
「いくよ。いち、に、さん!」
 紙ヒコーキを飛ばす。
「すごい、あんなに遠くまで……!」
 荒川での視界没と重なる感動。そして透けていく身体……。

「おわかれだけど、さよならじゃない」
 新大阪の思い出が予選のときよりも強く蘇ってくる。
「わたし、川の中で消えていく……そうしたら海に流れて、いつか雨か風になってもどってこられるかもしれないから……」
「カオルちゃん……!」
 スミレの渾身の叫び……。
 そして、ここで初めて種明かし。
 消え去る直前に、カオルはゴ-ストジャンボ宝くじの一等賞に当選!
 賞品は、新たな人間としての生まれ変わり!
「これで、また、宝塚を受けることができるじゃない!」
 そして、もうひとつどんでん返しがあって。人間賛歌のフィナーレ!
 満場の手拍子、予選とちがって裏拍。予選以上に観客のみなさんが共感して、手拍子は満場の拍手にかわった!

 楽屋にもどって、びっくりした。
 たくさんの人たちが、楽屋、そしてその前の廊下に溢れていた。
 真由さんに、仲鉄工のおじさん。「Z情報」の伯父さん……そして、お父さんと秀美さん。タキさんにトコさん。竹内先生に亜美と綾まで……由香と吉川先輩は、ちゃっかりと、楽屋の奥でお弁当を広げていた。
 そうだ、わたしってば、メールを一斉送信にしたんだ!

 こうやって、午後の二本は見損ねてしまった。
 時間を決めて、その夜は有志の者が(けっきょくほとんど全員になっちゃったけど)志忠屋に集まって、気の早い祝賀会になった。
 わたしも、仲間も、これはいけると手応えを感じていた。栄恵ちゃんなど、
「近畿大会は、土曜にしてくださいね。わたし日曜は検定やから」
 で、これを皮切りに、お父さんとかまで、それぞれに都合を言い立てた。
 出演するのは、わたしたちなんだけどね……タマちゃん先輩と目配せをした。


 二日目の芝居は全部観た。
 正直、ドラマになっているものは一つもない。
 想像妊娠や、引きこもり、新型インフルエンザの流行の悲喜劇、親子の断絶。アイデアというかモチーフは様々だが、人物描写が類型的。
 ドラマとは、人の対立と葛藤があり、互いに関係しあって、最後には人間に変化があるもの。この五ヶ月で、わたしが学んだドラマの基本である。
 みんな、そこを踏み外している。ただ刹那的なギャグや、スラプスティック(ドタバタのギャグ)、劇的な台詞が、なにも絡むこともなく、散りばめられているだけ。

 最後の芝居の半ばごろ、頭が痛くなってきた。なんとか見終わって、ロビーに出た。
「はるか、大丈夫?」
 乙女先生が心配げに顔をのぞき込む。
「ちょっと芝居あたりしたみたいです。大丈夫、すぐによくなりますから」
 ロビーのソファーに座り込んだ。
 昨日、今日の二日間で観た芝居や、『すみれ』が、頭の中でグルグル回っている。
「はるか、芝居も終わったこっちゃし、いっしょに先帰ろか」
「講評とか聞きたいんです……」
「わたしが、代わりに聞いといたるから。な、そないし」
「さ、いくぞ」
 早手回しに、栄恵ちゃんが、わたしのバッグを持ってきた。
「大丈夫ですよ。いい結果、家で待っててください」
 その笑顔に押されるようにして、わたしは、大橋先生と家路についた……。
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高校ライトノベル・セレクト№21『親の離婚から168日』

2012-10-14 06:59:01 | 小説
ライトノベル・セレクト№21
『親の離婚から168日』
   


 親の離婚から、168日目。ゴロ合わせでイロハ。
 そのイロハの日に停学があけた。
 
 細川先生は、ちょっと不満げな顔をしていた。
 乙女先生は、大喜び。
「さあ、本番は明後日や、きばっていかなあかんで!」

 一回通しただけで勘がもどってきた。
「はるか。なんや、らしなってきたな。停学になって、よかったんちゃうか」
 と、大橋先生。みんなが笑った。
「アハハ」
 わたしも笑ったが、マサカドさんとやったとは言えない。
「しかし、コンクールはシビアや、腹くくっていきや」
 と、乙女先生はくぎを刺す。

 本番の一時間前には控え室で衣装に着替え、スタッフ(といっても、音響の栄恵ちゃんとギターの山中先輩。そして照明の乙女先生)との最終チェックを兼ねて、台詞だけで一本通した。
 大橋先生は、お気楽に観客席で、お母さんといっしょ(NHKの子ども番組みたい)に観劇しておられました。

 本ベルが鳴って、客電がおちる。
――ただ今より、Y高校演劇部によります、大橋むつお作『すみれの花さくころ 宝塚に入りたい物語』を上演いたします。なお、携帯電話など……と、場内アナウンス。
一呼吸おいて、山中先輩にピンがシュートされたんだろう、うららかなギターが、舞台袖まで聞こえてきた。
 そして十五秒、舞監のタロくん先輩のキューで、緞帳が十二秒きっちりかけて上がった。

 あとは夢の中だった。
 舞台に立っているうちは、演じている自分。それを冷静に見つめ、コントロールしている自分がいたはずなんだけど。
 あとで思い出すと、マサカドさんから受け止めたものがヒョイとカオルの気持ちとなって蘇ってきていた。
 わたしは、あの時間、カオルとして生きていた。
 新しく増えて六曲になった歌。自然な気持ちの昇華したエモーションとして唄うことができた。
『おわかれだけど、さよならじゃない』ここは、新大阪でのお父さんとの別れ。それが蘇り、辛いけど爽やかな心で唄えた。
 そして観客の人たちの拍手。
 全てが夢の中。

 そして、講評と審査結果の発表。

 個人演技賞が三つ。わたしは、それでもいいと思った。精いっぱいやったんだから。

 そして最優秀、つまり一等賞の発表。
 わたしは、上の空だった。由香との約束がある。これが終わったら、白羽さんに会わなきゃならない。
 正直、気が重い……たそがれがかっていた。

 と、そこにどよめきと拍手……。
 二拍ほど遅れて分かった。

 最優秀賞、Y高校『すみれの花さくころ』
 ……感動がサワサワとやってきた。

『はるか 真田山学院高校演劇部物語・第21章』より
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高校ライトノベル・セレクト№20『写メの意外な波紋・停学2』

2012-10-12 06:21:04 | エッセー
ライトノベル・セレクト№20
『写メの意外な波紋・停学2』
   



「ゲ、なに、これ!」
 停学課題の袋を開けてタマゲタ。反省文の原稿用紙二十枚、これはチョロい。
 あと国、数、英、そして、社会(細川先生の教科) 量がハンパじゃなかった。まるで、夏休みの宿題並だ。社会なんか、教科書百ペ-ジを写せ……。
 自分の停学二週間論が通らなかった細川先生の意趣返し……怒っても仕方がない。
 昼ご飯も、晩ご飯も抜いてとりかかった。

 お母さんがパートから帰ってきても、わたしはまだ続けていた。
「はるか、食事もしてないの……」
「うん、でも、がんばらなきゃ、三日で終わらない……」
 お母さんが、鍋焼きうどんを作ってくれた。

 夜中の十二時をまわったころ、さすがに居眠りをしてしまった。
 カーペットの上で、腹這いになってやっていたのが良くなかったのかもしれない。

 カリカリ鉛筆を滑らせる音で目が覚めた。

 ボンヤリ目のピントが合ってくる……机に向かって、課題をやっている人の姿が見えた。
 軍足の靴下にモンペ……セーラー服にお下げ、襟に太い白線と細い白線が二本。チラッと見えるリボンは赤だ……マサカドクン?

――あら、起こしてしまったわね。
「あなた、普通にしゃべれんの?」
――やっとね。
「マサカドクンて、女の子だったの?」
――まあね、こうやって姿を取り戻すのに、十二年もかかってしまったけどね。
「十二年……」
――そうよ、あなたと将門さんのところで出会って十二年。
「わたしの課題やってくれてるの?」
――わたし、やりたくても、こういうのできなかったから、楽しいの。さあ、はるかちゃんは寝て。わたし夜の間しか手伝えないから。
 そこで記憶が途絶えた。

「はるか風邪ひくわよ」お母さんが半天をはおって起きてきた。
「え……え、わたし……」
「めずらしく、机に向かってやってたのね」
「わたし……」
 課題は三分の一近くできていた。そして、そこに書かれている字は、紛れもなくわたしの字だった。
「タキさんがね、停学中のプレイスポットての教えてくれたわよ」
 眠そうに目をこすりながらメモをくれた。学校の先生に見つかりそうにない、映画館やゲーセン。ごていねいに各館共通の割引チケットがついていた。
 わたしは課題の山を写メに撮り、「ご厚意には感謝しますが、こういう状況ですので」とメッセをつけて送信した。
「シャレのわからん学校やのう」
 と、折り返しの返事。タキさんも宵っぱりだ。
「やったね、こういう停学は、勲章ものだよ」
 と、真由さんからもメールがきていた。タキさんが伝えたんだろう。
 タキさんてば、停学をなんだと思ってるんだろう。オッサンたちの時代とは違うんだよ。
 しかし、ありがたい激励であることは確かだった。
 由香をはじめ、他の面々からも。
 停学中の生徒とは連絡禁止なんだけど、さすがにそこまでイイ子ちゃんをやろうとは思わない、みんなもわたしも。
 目覚ましがわりに、みんなに返事を打っておいた。
「稽古は大丈夫! 山中が代役に入ってくれている。早よ戻らんと役取られるで」
 タロくん先輩のメールは心強かった。稽古のことが一番気になってたから。
 そして、またひとしきり、課題の山に取り組んだ。
 朝、目が覚めると、課題は半分近くできていた。
 わたしが自分でやったのか、あれからマサカドクンがやったのか……。

 二日目の夜は、深夜になってマサカドクンが現れた。
 わたしは、リビングのテーブルで反省文を書き終えていた。
「ようし、できあがり……」
 疲れのせいか、一瞬意識がとんでしまった。
 気づくと、昨日と同じように、わたしの机でマサカドクンがカリカリと課題をやっていたのだ。
――あ、わたしも今終わったところ。
「これって……」
――難しいことは考えなくていいわ。こうやってお話ができる。それだけでいいじゃないの。
「でも、あなたのこと、マサカドクンじゃ……」
――それでいいわよ。こうやって本来の姿を取り戻して、お勉強ができて、はるかちゃんと、お話ができる。それで十分。
「だって、きちんと名前で呼ばなきゃ失礼だわ」
――わたし、代表のつもりなの。
「代表……なんの?」
――こうやって、命を落としていった仲間達の……だから、名前を言っちゃったら、わたし一人だけの奇跡になっちゃう。幸せになっちゃう。
「あなたって……カオル?」
――びっくりしたわ、わたしによく似た話だったから。おかげで、こうやって早く元の姿に戻れたけどね。
「戦争で死んだの……」
――うん、三月十日の空襲で。でも、わたしはカオルちゃんみたいな夢はなかった。十六歳で、学徒勤労報国隊に入って、毎日、課業と防空演習。考えることは、せいぜい、その日まともなご飯が食べられるのかなって……そんなんで死んじゃったから、せめて、叶えられなくてもいい。なにか、夢が、生きた証(あかし)を持ちたかった。だから五歳だったはるかちゃんにくっついてきちゃった。
「わたしみたいなのにくっついても、楽しくなんかなかったでしょ」
――ううん、楽しかったよ。特に大阪に来てからの五ヶ月あまりの泣いたり笑ったり。
「でも、わたしは苦しかった……」
――その苦しみさえ、わたしには楽しかった。
「もう……」
――ふふ、怒らないの。その苦しみって、生きてる証じゃない。青春だってことじゃない。そして、はるかちゃんは成長したわ。だから、わたしも元の姿で、出られるようになった。
「そうなんだ。でも、わたしってこれでいいのかなあ……ね、マサカド……さん」
――……もう一回呼んでみて、わたしのこと。
「マサカド、さん……」
――ありがとう。「さん付け」で、呼ばれたなんて何十年ぶりだろ。わたしたちずっと「戦没者の霊」で一括りにされてきたじゃない、あれってとても切ないの。呼ぶ方はそれで気が済むんだろうけど。わたしたちは、みんな一人一人名前を持った人間だったんだもん。泣きも笑いもした人間だったんだもん。
「だから、名前を教えてちょうだいよ」
――ううん、それは贅沢。「さん付け」で十分よ。それから一つお願い。
「なあに?」
――こうやって姿現しちゃったから、わたしのことだれにもしゃべらないでね。しゃべっちゃったら、二度とはるかちゃんの前には出られなくなっちゃうから。
「うん、今までだってだれにも、あなたのことはしゃべったことないもん」
――そうだったわね。はるかちゃん、そういうところしっかりしてるもんね。例のタクラミだって、ギリギリまで言わなかったもんね。
「あ、それはもう言わないでよ。恥ずかしいただの思いつきだったんだから」
――そんなことないわ、原付に乗りたいってことで誤魔化してたけど、あれが、はるかちゃんの本心。そして……あれで、みんなの心があるべきところに収まった。それに、あれは、はるかちゃんには、どうしても通っておかなきゃならない道だったのよ。
「ひょっとして……マサカドさん、わたしの未来まで分かってるんじゃない。あのタクラミの実行も、あなたのジェスチャーがきっかけだった」
――本の目次程度のことはね。でもそのページの中で、はるかちゃんがどう対応するかまでは分からない。はるかちゃんの人生なんだもの。せいぜい何ヶ月先のことまで、それもこのごろ予測がつかなくなってきた。はるかちゃんが自分の足で歩き始めたから……ほら、見て、目玉オヤジ大権現様があんなに神々しい……。
「ほんとだ、いつの間にライトアップするようになったんだろう……」

「ねえ、マサカドさん……」
 振り返ると、もう彼女の姿は無かった。


 朝、目が覚めると、きちんと課題はできていた。ちゃんとわたしの字で。
 そして、わたしらしくなく、きちんと行儀良く教科別に耳をそろえて積んであった。

『はるか 真田山学院高校演劇部物語』
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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ映画評『アウトレイジ・ビヨンド』

2012-10-06 15:32:24 | 映画評
タキさんの押しつけ映画評
『アウトレイジ・ビヨンド』


 これは、悪友の映画評論家滝川浩一が、身内仲間に個人的に送っている映画評ですが、もったいないので本人の了承を得てアップロードしたものです。


 なんだ 馬鹿やろう! 今時のヤクザが こんな単純な訳ゃねえだろが。
 
 それに いきなり出てくる外国人フィクサーってな何なんだよぉ。大友(たけし)がなんぼか自由に動ける言い訳じゃねぇか。片岡(小日向)が知らねえってのはおかしいじゃねぇか。大体が中途半端なんだ。
 何さらしとんじゃ ボケィ!
 脚本も演出も たけしが一人でやっとるんじゃ、こんなもんで上等やろがい! それより、関西の会が「花菱会」っちゅう名前なんはどないやねん! アチャコかっちゅうんじゃ ボケィ!……。
 
 と言う、まぁ、お話でござりました。役者さんは気持ち良さそうに、実にノビノビと演ってはります。特に西田敏行なんてなアドリブ連発、一番気持ちよさそうに演ってはります。
 ある意味、どうしようもない閉塞状況にある日本のガス抜きを狙ったギャグ映画とも言えそうですが、残念ながら半歩足らずです。
 ギャグとリアルのギリギリラインを狙ったんでしょうが、結局 前作と同じように役者の力で助けられてはいるものの設定が甘すぎて、ストーリーテリングもご都合主義。
 バンバン殺される割には陰惨なイメージにならないのだが、もう少し説得力が欲しい。ここまで見え見えで警察が動かないはずが無い。アイデアとしては面白い(但、使い古しやけどね)、後は発展のさせかたでもっと面白くなるはず…少々残念、原案たけしで脚本は切り離した方が絶対良かった。 ただ、今回 大友の悲しみが表現されており、前作に比べてこの点は評価出来る。
 結局、何をどう足掻こうともヤクザの泥沼から抜けられない大友の姿を描けなければ本作の意味は無い訳で、さて それをリアルバイオレンスに仕立てたとのたまうが…それこそ悲しいかな コメディアンたけしの魂はどこかで笑いに繋げてしまう。
 問題はたけし自身にその自覚が無い事なんだと思う。それにしても、石原(加瀬亮)の処刑シーンには大笑いしそうになった。最高のブラックギャグでした。
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タキさんの押しつけ書評・のぼうの城

2012-10-02 20:48:58 | 読書感想
タキさんの押しつけ書評
 のぼうの城


 これは、友人の映画評論家の滝川浩一が個人的に仲間内に流している書評ですが、もったいないので、本人の了解を得て転載したものです。

ハードカバー発売時、目には留まったんだけど手にはしなかった。
 おそらくは同じように目に留まった “ど(「石弓」を現す字が出てこない)”がイマイチだったのが原因かと……来月映画公開されるのでまぁ読んどこかいと思って読み出したら、これがなんとも良い!

 “のぼう”ってのはデクノボウの事、時は戦国の再末期 秀吉の北条攻めが舞台である。
 北条方の一枝城「忍城(おしじょう)」守兵500人対秀吉方 石田三成・大谷吉継以下20,000人。この忍城守護のトップが“のぼう様”こと成田長親(なりたながちか)。
 デカい身体をしているが武術・体術からっきし、城代の倅ながら 城下の村をうろつき百姓仕事を手伝いたがる。それがまともに出来るならまだしも、麦踏み程度の作業にも失敗する。 百姓にしてみれば有り難迷惑も良いところで 本人にメンと向かって「のぼう様は手を出さんで下され」と言い放つ。言われた長親、悲しそうではあるが一向に怒る気配なし。
 
 さて、この話 れっきとした史実であり、成田側、石田側はたまた公式の戦記にもはっきり記載されている。江戸期の書物には 公方に逆らった者として、必要以上に石田三成を貶めた書き方がされているが、戦闘があった当時のリアルタイム資料が五万と残っている。 本作の面白さは、合戦のスペクタクルと、“のぼう様”が本当に馬鹿者なのか稀代の将器かトコトン最後まで解らないというこの二点。
 時にハラハラ、時に爆笑(こっちの方が多い)しながら最後まで一気に読ませる。作中 長親が内心を吐露する部分は一切ない。その場に一緒にいる人間の評価が示されるだけで、読者にも全く判断が付かない形になっている。一読、隆慶一郎の何作かが浮かんだが…隆さんの作品にも この小田原攻めを扱った部分は多くあるのだが、また違った趣の小説である。
 映画では この“のぼう様”を野村萬斎が演じる、さほどの巨漢ではない彼が いかなる“のぼう様”振りを見せるのか、今からムズムズしている。
 他の配役も、なる程なあ~と思わせるのだが…ただ一点、石田三成が上地雄輔ってのが引っかかる。さて上地君、大化けして大向こうを唸らせる事が出来るか、彼にとってはキャリアの分かれ目になるとおもいます。本の内容にはあまり触れませんでしたが、面白いのは保証致します。是非とも御一読ありたい!
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