すぎなの風(ノルウェー編)       ∼北欧の北極圏・トロムソから∼

北欧の中のノルウェー、
北極圏でも、
穏やかで住みやすいトロムソから
お届けいたします。

わしゃ、鬼の親戚や!

2011-05-05 | 素老日誌

2011.05.02.より

母:鬼みたいな顔して!
  人にばっかええ顔して、うちの中ではめちゃくちゃや。
  世話になっとる旦那に礼の一つも言わんとおいたら、
  えらい死に目にあうでー!
  よう覚えとき!

それはそれは、凄いど迫力!

しかし、私が母に何をしたわけでもなく、突然である。
(私はいたって普通の顔でいたので、あしからず)。

ここで、「おかしい」と思えばいいのだが、
たじろぐ私がいる。

「いやいや、ちょっと待てよ」。
ともう一人の私がいさめてくれる。

「そりゃ、あんたは、内と外の顔は違うわ。
でも、そりゃ普通やで。
そりゃ、別れた旦那にも養育費のこともよくしてもらった。
でも、あんたかて、
子どものそばでできることはやった。
ようがんばった。
自信持ち!

それより・・・
今、お母さんは、お母さんか?」

そうだっ!

そこで、私は「母」でもない、他の何者かに向かって、毅然と聞いた。

娘:あなたは、どなたですの?
母:わしゃ、鬼の親戚や。
娘:鬼の親戚ですか・・・
  鬼の親戚が何の用やの。
  ここは、あんたのくるとこやない!
  鬼は鬼の場所がある。
  とっとと、帰って!

私も負けじと、どすを効かせて言う。

すると、母の表情が急に変わった。

しばらく、じっと私の顔を見ていたのだが、徐に口を開いた。

母:鬼さんがねえ、仲良くしたいわって、言うてたよ。
娘:えっ、なんやあ、仲良くしたかったんやって?
  それならそうとわかるように言ってくれやんとなあ。
母:鬼はこわい、鬼はこわいって決めつけやんといてって、泣いとったよ。
娘:あ、そうなん。
母:鬼にも優しい鬼もおるでなあ。
娘:そうやわ。確かに・・・。
  そう言えば、鬼はこわいって、いつからなったんやろ・・・?

ふとそこで思い出した。

酒瓶、杯片手に大口で笑っている二人の鬼の人形。

以前行っていたデイサービスの玄関に置いてあったのだが、
それを見るたびに母が毎回毎回大笑いしていたそうだ。
ところが、その鬼にそんなに反応する人は他にいないからと、
母が辞める時に記念にくださったのだ。
それを持ってくると・・・

母:なあ、こんなにニコニコかわいい鬼もおるもんなあ。

それからしばらく、母と私は「鬼」で大笑い。
盛り上がった、盛り上がった。

そして、最後に母は言った。

「ああ、よかった。
やっぱり、あんたは鬼の子やいうて、喜んでたわ。
よかったねー」。

一線引けた自分、そして、否定せず母の世界に行けた自分に拍手!

それにしても、認知症の人の物語作りは、実に巧みだ。

コメント (2)
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