学術会議の新メンバー候補者の内、政府が6名だけ任命を拒否したことはご承知の通りである。爺はその任命されなかった学者の内、加藤陽子氏の名前だけはかろうじて記憶にあった。そのわけは、同氏の著書「それでも、日本人は『戦争』を選んだ」(新潮文庫)が拙宅の書棚に鎮座しているから。
同書の発行日を見ると2016年7月だから、今から3~4年前に購入したと思われる。爺は買った本はよほど優れた内容でない限り処分してしまうが、この本が残っているのは内容を高く評価したからだろう。しかし、年のせいかその内容は全く記憶にないので、この機会に再読することにした。
同書は高校における近代史講義の体裁をとっており、加藤先生と生徒との問答を軸にして、日清戦争から日露戦争、第一次世界大戦、満州事変、日中戦争を経て第二次世界大戦へと続く歴史を綴っている。対象が高校生とはいえ、内容はかなり高度であり、先生の質問に対する生徒の受け答えの質が高いことには爺が白けるほどである(笑)。
題名には反戦的・自虐的ニュアンスがあるが、実際の内容は日本の近代史を淡々と語るだけであり、この題名は新潮社の編集者が考えたものと想像する。
本書の特徴は、戦争そのものの経過、例えば日本の連合艦隊がどのようにしてロシアのバルチック艦隊を撃滅したか、には触れず、なぜ戦争になったのか、その時の国際情勢はどうだったか、戦争のあとの社会状勢はどうだったか、などに重点を置いていること。
学術会議の会員に任命されなかったという事実から判断して、加藤氏にはなにか政府が不快に感じる特別な思想的傾向があったように推測するが、少なくとも本書には偏向した歴史観は感じられない。したがって、任命されなかった理由は別件でなくてはならない。
「文芸春秋」12月号で、佐藤優氏が「6名の内、3名は極左的傾向があるが、その3名だけを対象にすると狙いがあまりにも露わになるから、そうではない3名を“まぶして”、理由が曖昧になるようにした」という趣旨のことを述べているが、爺はその説には半信半疑である。政府がそんな姑息なことをするとは思えないからだ。
さて、本日の産経新聞は「勝負あった学術会議問題」と題した阿比留瑠比氏の論考を掲載した。その論考は毎日新聞、読売新聞、JNNなどが実施した世論調査によれば、「任命拒否は問題」が37%(毎日新聞)でありながら、「学術会議を行政改革の対象にする」政府の方針を「評価する」が70%であり(読売新聞)、内閣支持率が多少ダウンしたとはいえ60%近いこと、立憲民主党などの支持率が変わっていないこと(読売新聞)を指摘している。
端的にいって、国民は任命拒否には疑問を感じつつも、学術会議の暗部をこじ開けたことを高く評価しているわけだ。手前味噌だが、世論調査の結果は爺のこれまでの主張そのものであり、国民の良識が示されたと考える。
【お知らせ】次回の投稿は11月29日の予定です。