土地が変われば品も変わる。旅の楽しみはやはり未経験の事象に遭遇することである。このカナダ旅行では、ナイアガラの滝、アイスワイン、ロッキーの山々など、想像以上の感動を覚えたが、それらに劣らず感動的であったのは、カナデイアン ロッキーの麓に点在する湖の美しさである。まず写真1および2、両湖の湖水の色を見て頂きたい。
写真1(氷河を映すモレーン湖)
写真2(どこまでも美しいボウ湖)
モレーン湖(Moraine Lake)(Rockies(2)の地図写真を参照)は、最初に訪ねた湖であることにもよるのであろうか、特に印象的であった。バス駐車場から岩場の遊歩道を登ってロッジポウルパイン(?)の木々の間に垣間見えた湖面、早速最も高い岩に上がってパチリ と(写真1)。表現の仕様のない、柔らかい色合いのターコイズ ブルー(turquoise blue)。この湖の背には、さきに紹介したテン ピークスの峰々が連なっているのである。写真右には背の山の氷河が影を映している。湖面の色・バックの氷河の残る山々、絶景である。ブリテイッシュ コロンビア州、ヨホ国立公園(British Columbia, Yoho National Park)内にある。
モレーン湖は、山々の谷間にある比較的小さな(面積0.5km2)湖であるが、バンフ国立公園内のボウ湖(写真2)は、長径3.2kmの長く伸びた大きな(面積3.2km2)湖で、一望の中には入らない。空の青よりもっと深いターコイズ ブルー。左(西北)から右(東南)のほぼ全長に亘って写真2に見るような眺望なのである。ボウ川の源流は、その西北の山にあるボウ氷河で、そこで融解した水がボウ湖に流れ込み、そこを流れ出てボウ川となってバンフ近傍を流れていく。ボウ川としては全長623kmとのことであるが、さらに名を変えてハドソン湾に注ぐ、大陸をほぼ横断している川の源流である。前々回のRockies(1)の写真2は、“多分ルイーズ湖”と紹介しましたが、ボウ湖の誤りでした。
ペイト湖(写真3)。ボウ湖につづいて訪れたのはペイト湖(Peyto Lake)で、ボウ湖展望台からの眺めである。開拓初期のころの猟師でガイドであったBill Peytoに因んで名づけられたとのことである。やはり近くのペイト氷河が融解して流れこんだ湖である由。モレーン湖やボウ湖に比較して、湖水の色がやゝ乳白色がかっている。
写真3(ペイト湖)
バンフの街から高速道ですぐのルイーズ湖という名の村。そこから西に入ったところに本当の湖、ルイーズ湖(Lake Louise)がある(写真4)。ビクトリア女王(Queen Victoria)の4女、カナダ総督ジョン キャンベル(John Campbell)夫人であるルイーズ キャロライン アルバータ(Louis Caroline Alberta)に因んで名づけられた由。なお通常の湖の名称は”xxx Lake”であるが、ルイーズ湖に関しては“Lake Louise”である。写真4で真正面奥の氷河の残った山はビクトリア山である。さほど大きな湖ではない(0.5km2)が、この湖水の色はやゝ淡いグリーンであり、これまでの湖とは異なるようである。物の本ではエメラルド グリーン(emerald green)としている。
写真4(ルイーズ湖)
最後にヨホ国立公園にあるエメラルド湖(Emerald Lake)を訪ねた(写真5)(Rockies(2)の地図写真4も参照)。湖名の如くにエメラルド グリーンであった。ルイーズ湖よりやゝ緑が濃いようである。この湖で非常に印象的であったのは、向かいの山々を湖面に映しこんでいる情景である(写真6)。湖の周辺では、高山植物が色とりどりの花をつけていたことも忘れられない。
写真5(エメラルド湖)
写真6(向かいの山を映すエメラルド湖)
通常、湖面の景色のイメージとしては、冷たく、吸い込むような青色がまず思い浮かぶ。ロッキー山脈の麓で見る湖面はターコイズ ブルーと呼ばれる柔らかい青緑色、または淡いエメラルド グリーンであった。幸いにこの旅行では好天に恵まれ、各湖の個性を充分に観賞することができたように思う。ただ、これら湖面の色は、太陽光線の具合により、また見る時間・方向・角度によっても異なるという。このような美しい色を演出している本体は、氷河の流れで砕かれた岩屑が、さらに微粉化された岩粉(rock-flour)であるという。岩粉が、氷河の融解水に溶け込んで湖に流れ込み、水中に浮遊していて、太陽光線を反射して独特の色として目に映る と。これら湖が“氷河湖”と呼ばれている所以であり、氷河の存在とは切り離せないのである。
この旅行のいま一つの目玉は、“氷河”に接することである。バンフの北に位置するジャスパ国立公園(Jasper National Park)内にあって、高速道のそばにあるアサバスカ氷河(Athabasca Glacier)(写真7)の上に立つことができた。写真正面の谷間を覆う白い広がりがアサバスカ氷河、その奥、峠の向こうはブリテイッシュ コロンビア州に属していて、コロンビア大氷原。コロンビア大氷原は、北極を除いて最大の氷原である由。アサバスカ氷河の下流部、平坦な個所まで雪上車で運んでくれるのである。
写真7(アサバスカ氷河)
アサバスカ氷河に降り立った場所は、上流側より2m近く一段と低くなった、一見平坦な広場である(写真8)。この段差は、本来滝であったのか、あるいは下流表面を削り、平坦にして観光に便となるようにした結果なのか?いずれにせよ、強い日差しの下、やゝ和らいだ表面は、砕けた氷粒の層で、歩くたびにザクザクと靴音がするかと思うと、デコボコ表面で滑って転びそうになる、オッカナビックリする所である。風が強いと寒いということで、観光者は皆防寒の装いであったが、幸いに風は弱く、寒さを感ずることはなかった。
写真8(氷河の上)
写真8で、滝状の上流側氷河の下層が淡い青緑色に見える。“この色がグレイシア ブルーと言われる色です”とガイドさんが紹介したように思う。やはり氷河の中に含まれる岩粉に反射された結果であろう。また街の土産物店で‘グレイシア クリーム’と表示した化粧品を見たように思うが、これは登山者、特に雪山に登る登山者が必要とする紫外線除けの肌クリームとのこと。それらの名称は、glacier(氷河)に由来するようである。
氷河に案内してくれるバスは、特別仕立ての大型バスであり、特にその車輪が特徴的である(写真9)。ヒトの身丈ほどの大車輪6個を備えていて、滑り止めの役目とともに、氷河へのダメージを少なくすることを狙っている と。特注品であるため、かなり高価であったようだが、金額は聞き漏らした。
写真9(雪上車)
この雪上車は3代目に当たるとのこと。初代はバスの発着場に展示されており、車輪(?)は、戦車を思わせるキャタピラ仕様である(写真9)。キャタピラでの走行は、地面や氷河表面に少なからぬダメージを与えるであろうことが想像される。
写真10(初代の雪上車)
このアサバスカ氷河は、全長6km、面積6km2の広さで、厚み(深さ)は300mに及ぶ所もあり、1日数cmの速さで流れている と。このような超低速で流れながら、岩を砕き、微粉の岩粉を生成しているわけである。ただ、氷は徐々に融解していき、氷河の末端が毎年2~3m宛、後退しているとのことである。
本稿の締めくくりに街中のお土産店を覗いてみます。目を引きつけたのは、巻貝の形をした、赤・緑など虹色の鮮やかな、直径約20cmのアンモライト(ammolite)(写真10)。アンモナイト(ammonite)の化石の一種である。写真11ではC$21,000.-(カナダ$)の値札があり、日本円にして210万円相当である。かなり高価である。
写真11(アンモライト)
アンモライトとアンモナイト、‘ラ’(‘l’)と‘ナ’(‘n’)だけの違いであるが、少々説明が要る。お土産店に展示されたアンモナイトの模型を写真12に示した。イカに似て、頭から6本足が伸びている軟体動物である。ちょっと調べてみると、アンモナイトは、巻貝の一種で、地球上には約4億年前に出現した地質時代の海中生物である。陸上での大型恐竜の出現が約2億年前であるから、ナントカザウルスより遥か以前に現れている。それ以後、両者ともに大繁盛したのち約6,500万年前にそろって絶滅している。
写真12(アンモナイトの模型)
ロッキー山脈の中の若い山ができたのが、約6,500万年から1億年前のようですから、そのころ海中で死滅したアンモナイトは、海底地下に埋まっていた。造山活動の結果、その地殻が陸上に現れ、今に至ってアンモナイトが化石として発掘されているのであろう。
アンモナイトの化石は、地球上至るところで産出するが、写真11に見るような色鮮やかな虹色の化石は、アルバータ州で始めて発見された。そこでアンモライトと名付けて区別していた。1981年、国際貴金属宝飾連盟において、一宝石としての固有名詞“アンモライト”が公式に認定されるに至っている。ロッキー山脈の東斜面では他の地域でも産出されているが、アルバータ州産出が最も良質であると言われている。化石化が進む過程で表層部に蓄積する無機物質が他所とは違っていて、鮮やかな虹色を呈するようになっているらしい。なお“アンモライト”は、2004年に同州の“州の石”に指定されている。(Rockiesの稿 完)