愉しむ漢詩

漢詩をあるテーマ、例えば、”お酒”で切って読んでいく。又は作るのに挑戦する。”愉しむ漢詩”を目指します。

閑話休題415 漢詩で読む『源氏物語』の歌 (三十帖 藤袴) 

2024-07-29 09:20:41 | 漢詩を読む

 【三十帖の要旨】源氏、実父・内大臣ともに入内を勧めているが、玉鬘はためらっている。入内したとしても帝の寵の熱い秋好中宮と弘徽殿の女御のおられる中、後ろ盾の薄弱な自分は心もとない。

 

玉鬘には多くの男が求婚している。源氏は、玉鬘を実父に引き合わせた後、憚りがなくなり好色癖を露わにする。夕霧も玉鬘に近づき、文を送るが色よい返事は貰えていない。なお夕霧は、源氏自身の胸中の秘事を探りたくなる。「玉鬘を正式の妻にはできないので、世間体だけ官職に就けておいて、いつまでも愛人で置いておきたいのだ、そう人が言うのを聞きましたよ」と探りを入れる。源氏は、「曲解だよ」と笑って言ったが、的を射た話に、内大臣に潔白であることを知らせなくてはと思った。

 

玉鬘の入内は十月と決まった。だが男たちは、玉鬘の夫となる可能性がなくなったとは考えていない。黒髭大将は、春宮の母・女御と兄弟であり、さらには紫の上の異母姉を夫人としており、源氏、内大臣に続く勢力者である。曽て、柏木のいる右衛府長官を務め、内大臣へも心の内を述べていた。大将は、本妻とは別れたいと思っており、夢中になって玉鬘を得ようとしている。

 

光源氏の弟・蛍兵部の宮は、宮仕えが決まった以上、自分の出る幕はないと、あきらめたように、玉鬘に次の歌を贈った:

 

    朝日さす光を見ても玉笹の 

       葉分の霜は消たずもあらなん 

 

多くの求婚者から手紙が届いたが、玉鬘が短いながら返事を書いたのは、蛍兵部卿の宮に対してだけでした。源氏と内大臣は、多数の求婚者の中から蛍兵部卿の宮だけに返事を書いたことに 躱(カワ)し方が絶妙であると玉鬘を評した。

 

本帖の歌と漢詩:

ooooooooo   

  朝日さす光を見ても玉笹の 

    葉分の霜は消たずもあらなん (蛍兵部卿の宮)

   [註] 〇朝日さす光:朝日のような帝、冷泉帝; ○玉笹:笹の美称;

    〇葉分:風や月光などが葉と葉を分けて、間に入り込むこと、また一

    枚一枚の葉。

   (大意) 朝日のような主上のお側へいかれても 玉笹の葉分の露のよう 

    な私を忘れないでください。  

xxxxxxxxxx  

<漢詩>       [下平声七陽韻] 

   可惜意       可惜(ザンネン)な意(オモイ)

行行是皇后, 行行(ユクユク)は是(コ)れ皇后(キサキ)とならん,

君耀若朝陽。 君(ミカド)は朝陽(アサヒ)の若(ゴト)く耀(カガヤ)く。

願別忘留下, 願(ネガワク)は留下(ノコサレ)しを忘れ別(ナキ)よう、

人如竹葉霜。 竹(ササ)の葉におく霜(シモ)の如き人を。

 [註] 〇留下:残す; ○竹葉:笹竹の葉。

<現代語訳> 

 残念な思い 

行く行くあなたは 后(キサキ)となるであろう、

朝日の如く光輝く君主の。

どうか取り残された者をお忘れにならないで下さい、

笹に置いた霜の如き人を。

<簡体字およびピンイン> 

 可惜意      Kěxī yì                            

行行是皇后, Xíng xíng shì huánghòu,                            

君耀若朝阳。 jūn yào ruò zhāoyáng.   

愿别忘留下, Yuàn bié wàng liú xià,  

人如竹叶霜。 rén rú zhú yè shuāng.  

 

ooooooooo   

  玉鬘は、自分は、自ら喜んで入内するのではありませんから、あなたの 

ことを忘れることはありませんよ と次の歌を返した:  

 

心もて 日かげに向かふ 葵だに 朝おく露を おのれやは消つ (玉鬘) 

 (大意) 自ら望んで日の光に向かっていく向日葵でさえ 朝置くつゆを 

  自ら消してしまうことがあるでしょうか。 

 

 

【井中蛙の雑録】 

○光源氏37歳の秋。

〇「藤袴」の帖名について。夕霧が、“藤袴”の花を持って、玉鬘に思いを訴えた折に詠った次の歌に因む: 

  おなじ野の露にやつるる藤袴哀れをかけよかごとばかりも 

   (大意) あなたと同じ野の露に濡れて萎れている藤袴です。どうか 

    ほんの一言でもやさしい言葉をかけてください。 

〇“玉鬘の対応が絶妙であった”との評について。かつて蛍の宮の玉鬘への思いは深いものであった(「二十五帖 蛍」参照)。しかし玉鬘の入内決定で、第三者の求婚の可能性は低く、蛍の宮も諦めの想いに傾いている。以後、蛍の宮が求婚することはなかろう”と 判断して、蛍の宮だけに返歌されたことを評している。

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閑話休題414 漢詩で読む『源氏物語』の歌 (二十九帖 行幸)  

2024-07-22 09:23:05 | 漢詩を読む

 

時に雪が舞う十二月に冷泉帝の大原野への行幸が行われた。玉鬘も行列の見物に出かけた。ここで初めて実父・内大臣の姿をみる。帝は、源氏にそっくりな顔であるが、一段崇高な美貌に思えた。

源氏は玉鬘に宮仕えを勧めているが、玉鬘は、後宮の一人としてではなく公式の高等女官になってお仕えすることはよいと思っている。源氏は再び玉鬘に宮仕えを勧め、玉鬘の裳着の儀の準備をする。

これを機に、源氏は、内大臣(曽ての頭中将)に本当のことを知らせようと期しており、内大臣に腰結役を依頼するが断られた。源氏は内大臣の母・大宮を訪れ、玉鬘と内大臣の関係を語る。大宮の仲介で源氏と内大臣は対面し、昔のように心を通じ合った。源氏は玉鬘のことを内大臣に告げた。

源氏と玉鬘の関係を疑う内大臣だが、結局は二月十六日の吉日に裳着の儀は行われ、内大臣は腰結役を果たします。大宮からばかりでなく、中宮からも目と心を楽しませる素晴らしい品々の贈り物が届けられた。

内大臣は、一刻も早く逢いたいと言う父の愛が働き、当日は早く出てきた。単に裳の紐を結んでやる以上のことはできないのであるが、万感が胸に迫る風であった。杯を進められた時、内大臣は、「無限の感謝をお受け下さい。しかしながら今日までお知らせ下さいませんでした恨めしさを添うのも止むを得ないこととお許しください」といった:

 

  うらめしや 沖つ玉藻を かづくまで 

    磯隠れける 海女の心よ   (内親王) 

 

 式場では晴れがましく、父のこの歌に答えることができないと見て、玉鬘に代わって源氏が返歌を贈るのであった。玉鬘の素性が明らかになるにつれ、想いを寄せていた人々の胸の内は複雑になっていきます。

 

歌と漢詩:

ooooooooo   

うらめしや 沖つ玉藻を かづくまで 

    磯隠れける 海女の心よ       (内大臣) 

 [註] ○かづく:貴人から衣服を頂戴する; ○磯隠る:海辺の岩石の陰に隠

  れる。 

 (大意) 玉裳を着るその日まで 隠れていた娘の心が恨めしいです。 

 

xxxxxxxxxx  

<漢詩>   

     喜復恨       喜び復(マタ)恨む    [上平声十一真韻]     

長到穿裳礼, 長じて裳(モ)を穿(キ)る礼に到り,

終于顕隠身。 終于(ヤット) 隠(カク)した身を顕す。 

莫辞斟慶酒, 慶酒(イワイザケ)斟(ツ)ぐを辞する莫れ, 

還恨女兒神。 還(ヤハリ)女兒の神(ココロ)が恨(ウラ)めしい。

 [註] ○穿裳礼:裳着(モギ)の儀式、

<現代語訳> 

  喜びあり又恨めしさも感じる

長じてここに裳着の儀式を迎え、

隠していた身を初めて見せてくれた。

お祝いの酒を注ぐのを辞さないでくれ、

それにしても、これまで身を隠していた娘の心が恨めしい。

<簡体字およびピンイン> 

 喜复恨        Xǐ fù hèn

长到穿裳礼, Zhǎng dào chuān cháng lǐ,

终于显隐身。 zhōngyú xiǎn yǐnshēn.

莫辞斟庆酒, Mò cí zhēn qìng jiǔ,  

还恨女儿神。 hái hèn nǚ'ér shén.   

ooooooooo   

 

 源氏は、「御無理なお恨みですよ」と言い、玉鬘に代わって次の歌を返した: 

 

寄辺なみ かかる渚に うち寄せて

       海女も尋ねぬ 藻屑とぞ見し   (光源氏) 

 (大意) 寄辺なく このような渚に身を寄せた姫君は 海女も採ろうとしない藻         屑のように 誰の目にも留まることがなかったのです。 

 

内大臣は、「もっともです」と苦笑するほかなかった。こうして裳着の式は終わったのである。 

 

【井中蛙の雑録】 

○腰結とは、裳着の儀式の時、袴や裳の腰の紐を結ぶ衣紋奉仕の人。徳望のある人が選ばれた。

 

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閑話休題413 漢詩で読む『源氏物語』の歌 (二十八帖 野分)

2024-07-15 10:34:03 | 漢詩を読む

 【二十八帖の要旨】中秋、例年になく激しい野分が襲い、六条院の庭の見事な草花もすっかり倒れてしまっている。男たちは気遣って女性の各所を見廻っている。源氏が明石の姫君の所に出ている間に、夕霧は、紫の上の居所にやって来た。偶然、女房たちの間に紫の上を認め、その美貌に衝撃を受ける。父は、こんな美貌の継母と自分を近づけないようにしていたのだと思うと怖くなってきた。

翌朝、源氏は夕霧と共に六条院の女性たちを見舞う。玉鬘の元を訪れた時、野分の風で夜通し寝づらく、寝過ごした玉鬘は鏡の前に居た。夕霧の目に映る玉鬘は、夕映えの許に咲き乱れた盛りに露を帯びた八重の山吹の花を思い出させる美貌である。

女房達がそばへ出て来ない間、源氏が玉鬘に対し、親とは思えない睦み合う態度をしていることに夕霧は驚き、不審に思う。玉鬘が、

吹き乱る 風の景色に 女郎花 

    萎れしぬべき ここちこそすれ (玉鬘) 

と詠った。玉鬘の声は、夕霧には聞こえなかったが、源氏が口ずさんでいて、聞き取れたのである。この歌に源氏は心の痛くなるのを覚え、歌を返します。

  次いで夕霧は、明石の姫君を訪ねる。淡紫の着物を着た小さい姿が可憐で、妙齢になったらどれほどの美人になるであろうかと思われた。先の二麗人をそれぞれ桜と山吹に譬えるなら、明石の姫君は、藤の花と言え、高い木にかかって咲いた藤が風に靡くさまを想像するのであった。

 

歌と漢詩:

ooooooooo   

  吹き乱る 風の景色に 女郎花 

    萎れしぬべき ここちこそすれ   (玉鬘) 

   (大意) 荒々しく吹き乱れる風に 女郎花は今にも萎れて死んでしまい

    そうである。

 

xxxxxxxxxx  

<漢詩>

   秋大风       秋の台風         [上平声一東韻]

桓桓秋大風, 桓桓(カンカン)たり秋の大風,

悶悶胸有忡。 悶悶(モンモン)たり胸に忡(ウレイ)有り。

草木総披靡, 草木 総て披靡(ミダレナビ)き,

柔花欲命窮。 柔花(オミナエシ) 命 窮(キワマラン)と欲す。

 [註] ○桓桓:猛々しいさま; 〇悶悶:鬱鬱として; 〇忡:チュウ、憂う; 〇披靡:乱れ靡く; 〇柔花:なよやかな花、ここでは 女郎花。

<現代語訳> 

 野分 

野分が激しく吹き、

鬱鬱として憂えている。

草木はすべて靡き、

女郎花は死にそうである。

<簡体字およびピンイン> 

 秋大风    Qiū dàfēng

桓桓秋大风, Huán huán qiū dàfēng

闷闷胸有忡。 mènmèn xiōng yǒu chōng

草木总披靡, Cǎomù zǒng pīmǐ,   

柔花欲命穷。 róu huā yù mìng qióng.   

ooooooooo   

 

上掲の玉鬘の歌は、言い寄って来る源氏を、吹き乱れる風に見立てて、諍っている歌である。それに対して、源氏は、自分に靡いていたなら、荒々しい風などに倒れることはなかったものを、と歌で返します:

 

下露になびかましかば女郎花 荒木風には萎れざらまし (光源氏) 

  (大意) 木の下露に靡いていたならば 女郎花も荒々しい風に萎れずにいたことだろうに。

 

【井中蛙の雑録】 

○二十八帖 光源氏 36歳の秋。

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閑話休題-412 喜界島春景

2024-07-12 17:36:13 | 漢詩を読む

  『源氏物語』の和歌について、その漢詩化に挑戦、逐次紹介していますが、その半ば、54中27帖を通過した。それを機に、ちょっと一休み、先の春、久方ぶりに帰郷、喜界島を訪ねました。その模様を写真で、併せて、漢詩・七言律詩として紹介します。

  喜界島は、東経130度、ちょうど明石の真南、北緯28度、鹿児島より約300mに位置する小島である。隆起サンゴ礁の島で、今日なお成長しているという、興味ある島である。

ブーゲンビリア満開

たんかん 未だ残っていました

文旦 花咲き始める頃

バナナ 収穫にはまだ早い

ウフヤグチ鍾乳洞 入口

洞 天井に生えた木の根っこ

洞 入口付近 木の根っこ

ooooooooooooo  

<漢詩> 

   喜界島春景        喜界島春景     [上平声十三元-上平声十一真通韻]

燦燦陽光橘柚村, 燦燦(サンサン)たる陽光 橘柚(キツユウ)の村,

欣欣木葉招手人。 欣欣(キンキン)たり木の葉 人を招手(テマネ)く。

聞言成長珊瑚島, 聞言(キクナラク) 成長する珊瑚の島,

時想経年大陸新。 時に想う 年 経(ヘ)て大陸 新(アラタ)なるを。

山頂裂開生奇景, 山頂 裂開し 奇景を生じ, 

巌間做洞鍾乳頻。 巌間に洞を做(ナ)し鍾乳 頻(シキリ)なり。

飄飄嫋嫋蝶蜓舞, 飄飄(ヒョウヒョウ)嫋嫋(ジョウジョウ)と 蝶蜓(チョウテイ)舞い,

白白紅紅花発辰。 白白紅紅たる 花 発する辰(トキ)。

 [註] ○喜界島:南西諸島の一小島、; 〇燦燦:太陽が明るく光り輝くさま; 〇欣欣:植物が生気あふれるさま; 〇招手:手を振ってまねく; 〇聞言:聞くところでは; ○飄飄:風に吹かれてひるがえるさま; 〇嫋嫋:風が柔らかに吹くさま; 〇蝶蜓:蝶やトンボ; 〇白白紅紅:色とりどり。   

<現代語訳> 

 喜界島 春の情景 

春の陽光が燦燦と降って 橘(タチバナ)や柚(ユズ)が栄える村、

生気溢れる木々の葉が そよ風に揺れて人を招く。

聞くところでは、今なお成長を止めないサンゴの島、喜界島、

時に思う、幾億万年の時を経て、新大陸となっていようか と。

山頂付近では地が割れて、奇観を呈しており、

巌の間は洞をなし、鍾乳石や石筍が豊かに成長している。

そよ風にひらひらと翻りつつ蝶やトンボが舞っており、

色取り取りの花が開く時節である。

<簡体字およびピンイン> 

 喜界岛春景         Xǐjièdǎo Chūnjǐng  

灿灿阳光橘柚村, Càn càn yángguāng jú yòu cūn,  

欣欣木叶招手人。 xīn xīn mùyè zhāoshǒu rén.  

闻言成长珊瑚岛, Wén yán chéngzhǎng shānhú dǎo, 

时想经年大陆新。 shí xiǎng jīng nián dàlù xīn

山顶裂开生奇景, Shān dǐng lièkāi shēng qí jǐng, 

岩间做洞锺乳频。 yán jiān zuò dòng zhōngrǔ pín.  

飘飘嫋嫋蝶蜓舞, Piāo piāo niǎo niǎo dié tíng wǔ,  

白白红红花发辰。 bái bái hóng hóng huā fā chén

ooooooooooooo   

 

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閑話休題411 漢詩で読む『源氏物語』の歌 (二十七帖 篝火)

2024-07-08 08:55:55 | 漢詩を読む

本帖の要旨】近江の君について、大騒ぎして迎えておきながら、今や世間に物笑いの材料を提供していると、内大臣の態度を源氏は非難する。玉鬘は、わが身に照らして、親とは言え、性格も知らぬまま、内大臣に接近することに不安を覚える。また玉鬘は、源氏の無理強いのない愛情を感じ、次第に源氏を慕うようになりますが、男女の関係に至ることはない。

 

初秋の夕暮れ、源氏は玉鬘を訪れ、断ち切れぬ思いを庭の篝火の煙によそえて訴えるのでした:

 

   篝火に立ち添ふ恋の煙こそ 

     世には絶えせぬ焔なりけり  

 

源氏は世間から悪い評判が立たないように乱れる心を抑え、玉鬘のもとから帰らなければなりません。「さあ帰ろう」と、御簾から出ると、東の対の方で、十三弦の琴に合わせて笛の音が聞こえてきた。声を掛けると、夕霧、柏木、弁少将ら3人の公達が揃ってきた。

 

夕霧の笛、柏木の琴、弁少将が拍子を打つ合奏を、玉鬘は御簾の内で聞いた。血の繋がった人たちであったが、柏木および弁少将は、そんなことは夢にも知らないのである。

 

合奏が始まる前に、源氏が「今夜は私への盃は控えてくれ。青春を失った者は酔い泣きと一緒に過去の追憶が多くなって取り乱すだろうから」と言うのを姫君も身に沁みて聞いた。

 

本帖の歌と漢詩:

ooooooooo   

  篝火に立ち添ふ恋の煙こそ

    世には絶えせぬ焔なりけり   (源氏) 

   (大意) この篝火とともに立ちのぼる恋の煙こそは、いくつになっても

    燃え尽きることのない私の恋の炎だったのです。  

xxxxxxxxxx  

<漢詩>

   不断恋情     断えざる恋情           [下平声一先韻]

篝火上升煙,  篝火(カガリビ)から上升(タチノボ)る煙,

応知余念連。  応(マサ)に知るべし 余の念(オモイ)連なるを。

永遠決不断,  永遠に決して断(タエ)ることなく,

心中一直燃。  心中 一直(ズット)燃えている。

 [註] ○一直:一貫して、ずっと。

<現代語訳> 

 絶えざる恋情 

篝火から立ち上る煙、

我が胸の思いを表すものだ。

何時までも途絶えることなく、

胸の奥深く 篝火の下燃えのごとくに ずっと燃え続けているのだ。 

<簡体字およびピンイン> 

 不断恋情     Bùduàn liànqíng

篝火上升烟, Gōuhuǒ shàngshēng yān

应知余念连。 yīng zhī yú niàn lián

永远决不断, Yǒngyuǎn jué bùduàn,  

心中一直燃。 xīnzhōng yīzhí rán.  

ooooooooo   

 

源氏は、「いつまでもこの状態でいなければならないのでしょうか、苦しい下燃えというものですよ」と言って、上掲の歌を送り、想いを訴えました。これに対して、玉鬘は、“また奇怪なことがささやかれる”と思って、次の歌を返し、源氏の恋心を巧みに逸らします。

 

行方なき 空に消ちてよ かがり火の たよりにたぐふ 煙とならば (玉鬘)

  (大意) そんな煙のような恋ならば、果てしない空にあとかたもなく消し

  去ってください。 

 

 

【井中蛙の雑録】 

○二十七帖 光源氏 36歳の秋。

○このシリーズ、『源氏物語』54帖の丁度半ば、27帖に至りました。その“佳さ・面白さ”が漸う解りかけて来たかな と。

○曽て「……恰も酒飲みが、行きつけの店々をハシゴするように、光源氏が女の所を渡り歩くという物語に嫌気がさした……が、想いが変わりました。」と記しました。その心は、本居宣長が的確に説明しています:{……物語に不義の恋を書いているのも、その濁っている泥を愛でようとしてではなく、「もののあはれ」の花を咲かせようとするための材料なのだよ。……}(『源氏物語玉の小櫛:もののあはれの論』](古文古文現代語訳) 

 

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