愉しむ漢詩

漢詩をあるテーマ、例えば、”お酒”で切って読んでいく。又は作るのに挑戦する。”愉しむ漢詩”を目指します。

からだの初期化を試みよう 42 アローン操体法 余話-3 運動と認知能-7

2016-06-28 15:30:13 | 認知能
先に胎児期以降、脳内での神経ネットワーク、すなわち“塗り絵用キャンバス”が出来上がる過程を追ってきました。その中で、“ニューロン同志のつながりが出来て….云々”と再三述べてきました。シナプス形成は、 “学習する”ことに関わる根本的な点と言えますので、このシナプス形成過程について、少し掘り下げて見ていきます。

軸索や樹状突起の発達は、方向性はなく、“ヤミクモ(?)に”進んでいて、軸索の先端は、アメーバのように蛇行しながら成長していくようです。勿論、他のニューロンとのつながりを作り、ネットワーク構築にあずかるという目的で成長しているわけでしょうが。

あるニューロンの軸索先端が、成長し、伸びていった先で別のニューロンに近づくと、時には肘鉄を食らい反発され、遠ざけられることもある。馬が合えば、“相思相愛”となり、さらに接近していき、接着、結合、シナプス形成へと進んでいく と。

結合が成立した暁には、下位の相手ニューロンは結合部位でBDNFを遊離する。このBDNFは、結合の間隙を移動していき、伸びてきた軸索に取り込まれて、軸索の中を上流に流れていき神経細胞体に至ります。そこでシナプス形成が伸展するように上位の細胞機能の調整をする と。

BDNAは、神経幹細胞の分化促進や、軸索、樹状突起の成長を促進するという働きばかりでなく、シナプスが形成される過程では、下位のニューロンの意思を上流に伝えるメッセンジャー役もこなしていることになります。

さて、接近したニューロン同志がシナプス形成に向けて“相思相愛”の仲となる条件とは何であろうか?恐らく、それらニューロンを取り巻く外部環境の何らかの変化が主たる原因に違いないと思われます。外部環境の変化とは、本人の意思・意図によってもたらされた変化ではないでしょうか。

このシナプス形成に至る前の接近する状況は、まさしく“相思相愛”でテレパシーを通じて想いを伝えているような‘相惹きあう’状態にあるという。接近して偶然につながるものではないようです。

「なせばなる なさねばならぬ 何事も ならぬは人の なさぬなりけり」(江戸期、上杉鷹山)と、やる気の大切さが説かれています。シナプス形成の環境作りには、まさにこの‘なそう’とする本人の意思・意図が大事であるということでしょう。

以上の議論を踏まえて、“学習する”ということの状況の再確認を兼ねて、具体例でシミュレーションを試みてみます。

英語の学習を始めて2,3年が経っている一小学生を想像します。この生徒が新しい英単語“red:赤い”を学習・記憶しようとしている状況です。

まずキャンバスについて。

キャンバスは、生涯のいずれの時点であれ、シナプス形成・消滅が繰り広げられている中での一時点です。つまり“常ならず変転の渦中”にある一時点での神経ネットワークであることをまず再確認しておきます。

この生徒は、日本語の“赤い”という色の概念、またアルファベット”a, b, c, ~x, y, z”の知識は持っており、アルファベットの一定の組み合わせで英単語が出来上がること などなど、十分に理解できるレベルにあります。

ということは、これらの情報に関わる神経ネットワークがすでに出来上がっていて、記憶として納められていることに他なりません。

すなわち、この生徒のこの時点での‘塗り絵用キャンバス’は、色とかアルファベットなどの関連する無数のニューロンがシナプスを形成し、ネットワークとしてまとまって入っている三次元の構造体を想像するとよいでしょうか(前回に示した写真1、2を参照)。

さらにこの‘塗り絵用キャンバス’の中では、すでに繋がりの完成したシナプスとは別に、絶えず相手を求めて成長し、伸びている‘婚活中’の軸索や樹状突起も存在している状況です。

一方、‘ミツバチ’役のBDNFはどうか?この生徒は成長期にあります。したがって、‘塗り絵用キャンバス’の中でニューロンを浸している脳脊髄液中にはBDNFが豊富に存在する環境と考えられます。神経幹細胞の分化や軸索の成長などには適した環境でしょう。

今、この生徒が、英単語“red:赤い”を学習し覚えようと決心します。これは生徒本人の意思・意図であり、神経ネットワークに対して“外部環境の変化”をもたらす原因となるでしょう。

この “外部環境の変化”は、他ならぬ色の概念やアルファベットなどの関連情報に関わる無数の神経細胞やシナプスによるネットワークが詰まった‘塗り絵用キャンバス’の中で適切に処理されるようになるのが自然の成り行きと言えるでしょう。

つまり‘塗り絵用キャンバス’内にあって‘婚活中’の細胞、軸索や樹状突起の間での新しいシナプス形成が促されることになります。勿論、“red:赤い”の概念を形作るには、複数のニューロンが駆り出されてネットワークを構築することになるでしょう。

近づき‘相引き合う’ようになった“相思相愛”の関係は、学習を‘繰り返す’ごとに一層深くなり、やがてシナプス形成、ネットワーク構築と進み、記憶として固定されていくことになる。しかし、‘繰り返し’学習することがなければ、出来たつながりは消滅していく運命となる。

“継続は力なり”とよく言われます。記憶を確かなものにするのに、継続して、繰り返し実行(学習)することが重要な所以はここにあると言えるでしょう。

以上、“学習する”ことについて述べましたが、これまでに述べてきたことと運動とはどのような関わりがあるのか、続いて考えていきます。
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からだの初期化を試みよう 41 アローン操体法 余話-3 運動と認知能-6

2016-06-22 17:07:20 | 認知能
“学習する”ということは、どのように理解されるか、少々ややこしい課題ですが、“塗り絵用キャンバス”と“ミツバチ”の働きを絡ませながら、シミュレーションを交えてマンガチックに噛み砕いて見ていきます。

以下、読み進むに当たって、前回提示したニューロンやシナプスについての写真1および2を参照されますようお勧めします。

まず“塗り絵用キャンバス”は、固定的なものではなく、刻々と変化しているものであることを押さえることから始めます。それには、受精後、胎児での成長過程、また出生後の成長・発達過程を見ていくことが最良の方法かと思われます。

胎生期にあっては、神経細胞は分裂を繰り返して増殖し、移動もする。また軸索を伸ばしていくとともに、樹状突起も発達させていきます。最終的に、ニューロンとして機能するための生化学的特性を発現させます。

生化学的特性とは、本稿に関連して言うなら、神経伝達物質や神経栄養因子の産生など、生命活動を自己調節するに必要な化学物質を産生する能力、あるいはそれら化学物質によるニューロン同志の情報のやり取り(化学物質による“会話”と言えるか?) などが可能となるような特性と考えればよろしいでしょうか。  

ニューロン自身の成長と相まって、他のニューロンとのシナプス形成も進み、神経ネットワークが出来上がっていきます。その際、脳内の部位により、機能の分化も進み、部位による機能の特殊化や、他の部位との連絡もまた特化が進んで行きます。

神経細胞の増殖、軸索や樹状突起の発達は無方向性に、“ヤミクモ(?)に”進み、過剰に作られていく。しかし後に、シナプス形成につながらなかったニューロンでは神経細胞は死滅し、軸索が退縮していくという。

胎児期におけるネットワークの構築は、ほぼ遺伝子のプロガラムで決定されたもののようです。またこの段階で出来たネットワークは非常に大まかなものであって、細かいことは、後に修正されていくようです。

この状況は、塑像を作製する過程に譬えられています。すなわち、まず柔らかな素材で大まかな像を作ります。十分に固まったところで、作者の意図に合わせて不要部分を削り取り、表情豊かな塑像の輪郭に仕上げます。先に、写真で紹介させてもらった、井上楊彩作『目覚めの刻』の作製過程が想像されます。

胎生期におけるこれらニューロンの成長、シナプス形成、ネットワークの構築には、やはり脳由来神経栄養因子(BDNF)を含めた多くの栄養因子が関与していることでしょう。

ただし、これらの栄養因子はどのように供給されるか?遺伝子のプログラムに従って胎児脳内で生成されるのか、または母体からの供給によるのか?両方が働いているように思われますが、詳細は不明です。

10か月の胎児期を経て、生まれ落ちる頃には、脳内の神経ネットワークは大まかに完成している状態にあります。以後、神経細胞が分裂を繰り返して増えることはないというのが、ほぼ定説のようです。しかし少年期・青年期を通じて経験、学習を積むにつれて、新しいネットワークの構築が進み、より複雑になっていくことでしょう。

出生後、分裂による神経細胞の増加はないにしろ、神経幹細胞の分化による新しい神経細胞の誕生はあるようです。さらに軸索や樹状突起の成長は胎児期と同様に進行していきますが、その進行は年齢とともに速度、量ともに減少していくのでしょう。

いずれにせよ、生涯を通じて、その起源は同一でないにせよ神経細胞は増える可能性があり、また軸索が伸び、樹状突起が成長して、シナプス形成からネットワーク構築へと進んでいきます。ただ、それぞれの変化の大きさや速度は、胎児期、少年期、青年期、壮年期以後で異なるでしょうが。

以上のように“塗り絵用キャンバス”とは、現在進行形で変化している動的状態の一時点の状況と言えます。実際には、ここでは認知能が話題となる出生後、壮年期以後の一時点を念頭においています。

認知能を考える上で非常に重要と思われるので、次回では、“学習する”ということについて、シミュレーションをしながらもう少し詳しく考えていくことにします。
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からだの初期化を試みよう 40 アローン操体法 余話-3 運動と認知能-5

2016-06-02 16:10:29 | 認知能
もう一つの材料、キャンバスに触れます。通常絵を描くキャンバスとしては、二次元の平面であり、白紙の状態を想像します。ときに、紙製ではあるが、人や動物、家、山等々、輪郭が前もって印刷されたものもあり、塗り絵の勉強に使われています。

学習や記憶に関わる脳のキャンバスを考える時、白紙の状態と言うよりは、むしろ‘塗り絵’の原稿に近いものと考えたい。その‘こころ’は?

本論に入る前に、基礎的な点をいくつか押さえておきます。

神経の基本となる構造は、神経細胞と神経線維(軸索)からなり、両者を合わせた神経単位はニューロンと呼ばれています(写真1)。

写真1 神経単位(ニューロン)


一個のニューロンの神経細胞体から出た軸索は別のニューロンとつながっており(写真2)、そのつなぎの部分はシナプス(接合部)と呼ばれていて特殊な構造と機能を持っています。

写真2 ニューロンとシナプス


写真1で、中央上部に示した一個の神経細胞から、神経線維(軸索)が右方に伸びており、また木の枝のような突起(樹状突起)が上下前後左右へ幾つも伸びている。このようなニューロンが、ほぼ無数(140億個!)集まった立体的な三次元構造が、すなわち、脳実質であると言えます。ただし、神経細胞の形や大きさは場所によって異なっていますが。

写真2では、軸索は3本に枝別れして、次の神経細胞の細胞体および樹状突起とシナプスを形成しています。さらに黒丸(●)を付した部分は、その他の複数のニューロンの軸索末端がそれぞれの細胞体や樹状突起とシナプスを形成してつながっていることを示しています。

ニューロン内での情報の伝わり方は、まず神経細胞が興奮する。この分野で、‘興奮する’とは、電気信号を発生することを意味します。この電気信号は、軸索を通じて非常な速さで軸索末端まで伝わります。この情報の伝わり方は、‘伝導’に当たります。

一方、軸索末端では、電気信号に触発されて神経伝達物質が遊離され、それがシナプスの間隙を移動して、下位の神経細胞に達してその興奮を惹き起こすことにつながります(注)。このような情報の伝え方は、‘伝達’と呼ばれています。神経伝達物質は、脳内外で数多くの種類が知られています。

(注):ところによっては、むしろ抑制的に働く箇所もある。神経伝達物質の違いにより興奮的に働く箇所と抑制的に働く箇所が巧みに組み合わさって、情報の行き先や強さなどを微調整する効果を生み出しているようです。

このような神経のつながりは、脳の外部でも基本的には同じです。ただ、神経線維(軸索)の長さは、脳内では非常に短いが、脳の外部では長い。

例えば、足指先を動かそうと意識すると、その情報は、大脳皮質の運動を司る司令塔から発せられ、脳内で複数のニューロンを経て後、脊髄内に入る。脊髄内で腰の辺りまで下ってきて、またニューロンを変えて、脊髄外に出て、足先まで情報を運ぶことになる。脳や脊髄内・外での神経線維(軸索)の長さがいかほどかは、凡そ想像できるでしょう。

このように脳(中枢)からからだの末梢まで情報を運ぶ神経系を、遠心性神経と呼んでいます。

一方、足先の痛みやかゆみとかの末梢からの情報を大脳皮質の感覚を統合する箇所まで運ぶのも、逆方向ではあるが、同様にいくつかのニューロンを経て伝えられていきます。このような神経系は求心性神経と呼んでいます。

脳内では、無数のニューロンが複雑なつながりをしつつ、写真1に見るように立体的な三次元構造の網目(ネットワーク)を作っています。しかしニューロンは無造作に集まっているわけではなく、ある目的を有機的に果たせるように、機能的なネットワーク構造をとった集合体を形作っています。

脳全体として見た時、脳の表面(大脳皮質)では、運動の司令塔、あるいは感覚の統合箇所、さらに足や手、顔等々からだの各部の運動や感覚に関連する部位など、機能に応じてニューロンが集合、局在していて、あたかも領土地図を見るように、、機能地図が描かれています。

脳の中心部に行くと、四六時中、呼気と吸気を交互にリズムよく維持するとか、血圧を適度に保つなど生命の維持に関わる部位があります。さらにからだの各部から求心性に届けられた感覚情報を上位に橋渡しするとか、あるいは運動の司令塔から届けられた情報を中継してからだの各部に遠心性に送るような機能をもつ神経細胞が集まった部位があります。

このような部位は、神経核と呼ばれていて、脳内の多くの部位と連絡路を作っています。これら神経核では情報の中継点としてだけでなく、上下前後左右の関係のある部位に情報を伝える配電盤の役割も担っているものと考えてよいでしょう。

さて、学習や記憶との関連で見ると、本稿第3回で触れた、大脳基底核や海馬体などが、記憶情報の中継点または配電盤として、非常に重要な役割を持った部位とされています。届けられた情報は、これらの部位を中心にして、他の関連部位と情報のやり取りを繰り返し、練った後に記憶事項として固定されていくとされています。

今一つ忘れてならない点は、脳の形態を維持し、また機能を十分に発揮できるよう、環境を整える脇役を演じるグリア細胞と言われる特殊な細胞が神経ネットワークの間を満たしています。

本論に戻って、学習・記憶の絵を描くための、想像上のキャンバスとは、予め絵図の輪郭が印刷された塗り絵のようなものであると考えると理解しやすいようです。予め印刷された輪郭とは、誕生時にはすでに出来上がっていて、さらに生後、時と経験を経て修正されてきた個人特有のニューロンネットワークを主体とした三次元の構造体を意味しています。

ニューロンのネットワークは、永久不変なものではなく、その「つながりは使えば強くなり、使わなければ消滅していく」構造体であり、さらに「絵描き人の意図により、部分的に修正が可能」な状態にあると考えたい。

絵を仕上げる、すなわち、学習し、記憶するに当たって、材料としてのミツバチやキャンバスの用意はできました。そこで最も大事なことは、何をどのように描くか、描く人の‘意図’でしょうか。続いてその辺を考えていきます。
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