愉しむ漢詩

漢詩をあるテーマ、例えば、”お酒”で切って読んでいく。又は作るのに挑戦する。”愉しむ漢詩”を目指します。

からだの初期化を試みよう 37 アローン操体法 余話-3 運動と認知能-2

2016-04-25 16:23:44 | 健康
著者のジョン J. レイテイーが『脳を鍛えるには運動しかない』を著す契機となったと思われる米国のさる中・高校の体育授業と学業成績との関連について、同著書の内容の一部に触れておきます。

米国イリノイ州シカゴの西、ネーパービル203学区セントラル高校。入学時に “読解力”が標準以下であった新入生の中で志願者を対象に特別の運動プログラムを実施した。正規の“1時限”の授業には、読解力を養う授業を行うようにして、その授業が始まる前に“0時限授業”と称して、対象の生徒に8~10分間の長距離走の有酸素運動を行わせる。


すなわち、ウオーミングアップに続いて、グランドを4周走らせるのである。その際、各人に心拍数計と送信機を装着させて、平均心拍数が185以上、最大心拍数(220―年齢)の80~90%となるように、走りを自分で調節する。

走る速さは当然個人差がある。同じ早さで走ることを要求したのでは運動負荷量に差があり、走りの不得意な人にとっては運動負荷量が多くなることとなる。そこで個人の能力に合わせて運動の負荷量を課するようにしているのである。

学期の最後に試験したところ、正規の体育授業のみを受けた生徒に比較して、“0時限授業”を受けた生徒の読解力が伸びた という。その成果を基に、学校では、“0時限授業”を「学習準備のための体育」と名付けて、正規の教育課程の中に組み入れて、継続して実施しているとのことである。

その成果は米国内で広く注目されて、これがモデルとなって、他の学校でも同趣旨のカリキュラムが取り入れられ、実施が広がっているという。

“0時限授業”は、1990年に開始されたが、この取り組みを始めるきっかけとなったのは、当時の新聞記事で、「米国の子供の健康状態が下降しつつあり、それは子供たちがあまり動かないからである」と記載されていたのである。

一方、脳科学の研究で、運動、特に有酸素運動が刺激となって、脳内のニューロン(注)を結び付けることが解ってきていた。このようなニューロンの新しい結ぶ付きができるということは、脳が学習することであり、環境の変化に適応できるようになることを意味している。[注:ニューロンの詳細については追って触れることにします。]

これら周囲の状況を踏まえて、子供たちの健康増進を図ることと合わせて、読解力の強化に繋がることを期待して“0時限授業”を設けたようである。ただ、当時、国あるいは学校ともに、体育の授業時間を減らそうという動きがあったようだ。正規の体育授業時間を増やすことができず、正規外に時間を設定して“0時限”としたようにも想像される。

この“0時限授業”を着想し、推進したのは、203学区の中学および高校の体育教師たちであった。長距離走の有酸素運動を実施するに当たって、当時、父兄をはじめ周囲からの反対も強かったようであった。先生方の熱意がより強かったようである。

“0時限授業”の成果と言えるのではないかとする注目された出来事は、1999年に実施されたTIMSSの結果である。

TIMSSとは、「国際数学・理科教育動向調査」の略記である。1995年に始まり、4年ごとに実施されている。第2回目に当たる1999年には、世界38か国が参加し、23万人が受験し、うち米国受験生は、59,000人であった由。

1999年のTIMSSで、203学区の生徒が、理科では1位、数学では6位となった。理科ではわずかの差でシンガポールが2位、また数学ではシンガポールが1位で、以下、韓国、台湾、香港、日本と続き6位ということであった。因みに、米国の生徒の平均は,理科18位、数学19位とのことであった。

この結果が、“0時限授業”の効果であると、断定はできない。しかし203学区の8年生生徒の約97%が参加したということで、対象者が特別優秀な、選ばれた生徒に限られたわけではない。また、地域や家庭環境などの背景要因のみでは説明できないとしている。

当然ながら、203学区の子供たちは、健康状態も良好であるようだ。たとえば、肥満の指標として用いられるBMIについて見れば、2001年および2002年において、203学区の生徒の97%が正常範囲内にあった。また2005年に高校最終学年時の270人を抽出して調査した結果、肥満児は130人中1人の割合であったと。

上記の事柄は、結果を統計的に処理できるよう慎重に企画された大規模試験の結果ではない。同著書でも記載されているように、感触を探るケース・スタデイーである。とは言え多くの示唆を提供しているように思われる。参考として念頭に置いておくのに十分価値のある事柄であると思われる。

高齢化が進む中で、運動と健康や認知能との関りが注目を引いています。最近、認知能を高める目的の運動の工夫や、その成果も散見されるようになっています。それに関わる事項の理解に役立つ解説となるよう話を進めていくつもりです。

続いて、ブラックボックスの中、絵を描くキャンバスはどのようなものか、ちょっと覗いて見ることにします。

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からだの初期化を試みよう 36 アローン操体法 余話-3 運動と認知能-1

2016-04-15 17:05:31 | 健康
数年前に『脳を鍛えるには運動しかない』 (2009、野中香方子 訳、NHK出版)という衝撃的な書名の本が出版されました。ジョン J. レイテイー(米国・ハーバード大、医学部臨床精神医学准教授、医学博士)の著書『SPARK The revolutionary New Science of Exercise and the Brain』の翻訳書である。

これまでも運動と脳活動の関連について、興味がないわけではなかった。しかし巷間で語られる断片的な話題の域を出るものではなかった。

たとえば、ジョギングを楽しんでいると、しばらく走った後、フンワリと気分が快く感じられる時期が来る。これは運動により血中にモルヒネ様物質が増えるためである とか。またはピアノ練習をやっている子、あるいは、運動をしている子は、学業成績が良いようだ、とか の類であった。

上記の書物の出版を機に、運動と脳活動の関係が、一般人にとってもより具体的な形で想像できるようになったのではないでしょうか。筆者もその一人である。近年は特に、高齢人口の増加に伴い、世の認知能に関する関心も高まっています。運動を積極的に勧めている者の一人として、これは避けては通れない話題であると言える。

脳の働きについては、筆者にとっては、やはりブラックボックスであることに変わりはない。しかし、少なくとも、運動と脳活動、特に“認知能”との関係が、身近に語らなければならない話題となったことは確かである。

これまでは運動を、主に“フィットネス”、すなわち、“身体を鍛える”あるいは“体調を整える”という肉体的な面での健康の維持・向上に目を向けてきました。これからは“認知能”を高める という視点も、「頭の片隅に」ではなく、常に念頭に置いて運動を実践していく必要があるように思われる。

詳細な専門的事項は専門家に委ねて、運動とその結果、脳で起こっているであろう変化、特に認知能との関係を、上記書を参考に、先人たちの研究成果を基に、素人なりに思い描いてみたいと思います。

ここでは “運動”と“認知能”との関係を整理しやすいように、仮に“脳”を描画用のキャンバスに例えます。絵を描くには、さらに絵の具や筆等々、多くの材料が必要です。どのような絵を描くか決めるのは“本人”の意思であり、“運動”は、キャンバスの状態を整え、また必要な材料を調達するのに一役買っていると想像します。

一方、認知能を考える上での鍵となる事柄は、“学習・記憶”であり、さらには“蓄えた記憶の呼び出し”であろう。これらの鍵となる事柄が綾をなして一幅の絵ができる と想像をたくましくして、思い描いていきます。
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からだの初期化を試みよう 35 アローン操体法 余話-2 ウオーキング-5

2016-04-06 15:07:04 | 健康
散歩は、最も身近で、時間に縛られることなく、いつでも実施できる運動として多くの人に親しまれています。普段の運動不足の解消に、有酸素運動の一つとして、「一日一万歩」以上を目標に歩数を増やすとか、または歩行速度を上げるなど、各個人の意思で、自由に対処されています。

一方、高齢化が進む中で、歩行時に足先で物に“つまずく” ことが心配されています。足先を挙げる前脛骨筋が弱っていることも“つまずく”原因の一つでしょう。しかし先に触れたように、普通の歩き方では、前脛骨筋が十分に鍛えられているとは思われません。

そこで散歩を、有酸素運動としてだけでなく、物に“つまずく”機会を減らすことにより健康運動としての意義を高めることはできないか と思いを巡らしているところです。その第一歩として、前脛骨筋を意識的、かつ積極的に鍛えることを念頭に、二つの新歩行法を前回提示しました。

ただし、現在、新歩行法の実践者は、筆者のみである。読者も試行して頂き、それらの利点、欠点など聞かして頂けると有難く思います。以下、ご参考までに、両新歩行法について、筆者の体験から気のついた点を挙げます。

§ “つまずき”の可能性
通常の歩行で、遊脚相で足を運ぶ際、足底と地面との距離が意外と小さいことは、筆者自身驚きの発見であった。アスファルト舗装の平坦な道路であることに助けられて、ほとんど“つまずく”ことなく、無事に過ごすことができているようです。

前脛骨筋を鍛え、足の爪先が地面からできるだけ離れるような工夫が必要であろうことが痛感されます。

新法1でも、体軸の点に来るまでの遊脚相では、足の爪先が十分に上がっているとは言えないようです。しかし体軸を過ぎた後、爪先は踵着地まで高く保たれており、“つまずき”の機会を減らすであろうことは期待できます。

新法2は、全遊脚相を通じて、足部が地面から十分に離れており、“つまずき”を防ぐという点では最良の歩行法と言えます。

§ 有酸素運動として
歩行時に動員され、主として働く筋が多くなり、また積極的に動きが大きくなれば、仕事量が増えて、有酸素運動としての効果は大きくなる筈です。したがって、本項で提示した歩行法について言えば、「通常の歩行<新法1<新法2」の順に効果は大きくなることは想像されます。

新法1では、長距離を歩くと、下腿の前方に負荷が掛かっているとの感じがある意外、からだ全体として、さほど負荷が高まったということは感じられません。あとで触れるように、同距離を歩くに要する歩数は通常の歩行とほぼ同等でした。比較的容易に散歩を継続することができます。

新法2について、写真で示したような、足をかなり挙げる歩法では、軽いジョギングとほぼ同等のエネルギー消耗ではないかと考えられます。たとえば、真冬の早朝、寒冷の中でも、10分ほど歩行を継続すると、全身がかなり汗ばんできます。

ただし、新法2とジョギングでは明らかに違う点があります。軽いジョギングとは言え、踵着時の際、踵に対する衝撃はやはり大きい。しかし新法2では、さほど衝撃を感じません。その点、新法1で歩行の途中に、時に数分間新法3を差し挟んでいくことで、運動量を増やしていくことは有用と考えられます。

§ 姿勢との関連
散歩の際、合わせて“前かがみ”/“腰曲がり”の姿勢を矯正することも目標に掲げています。その点から見ると、新法1で問題はないようであるが、新法2は注意が必要と思われます。

新法1では、自然に上体を後方に反らそうとする力が働くようです。蹴り出した後、足先を直ちに前方へ前進させようとする“意図”があるためであろう。サッカーボールを蹴ろうとするとき、上体を後方に反らして、足を蹴り出す補助の力とすることと同じ理屈と考えてよいでしょうか。

一方、新法2では、蹴り出した直後に足を上に挙げる動作があり、その際に上体が“前かがみ”となる傾向が感じられます。特に、緩やかな傾斜とは言え、登りの続く箇所ではその傾向が強く、上体を直にする意識を強く持つ必要があるように思われます。

§ 歩行歩数
同じ距離を走破する歩数についてみれば、新法3については、いまだ検討していませんが、新法1では、通常の歩行とほとんど変わらないようです。たとえば、通常の歩行で4,145歩の距離を、新法1の場合、4,121歩でした。

§ 理想的な歩行法
目標は、有酸素運動としての効率を高め、さらに“つまずき”の危険性をできるだけ低くした歩行法を考え出すことにあります。

提示した新法3は、写真では足の運びがやや強調し過ぎです。その歩法の趣旨は活かしながら、遊脚相の期間中、足の高さを路上の障害物を跨ぐに十分な高さに保つよう工夫を重ねるならば、目標は達成できるでしょう。足を挙げる適切な高さは、日常の散歩で経験を積み、体得していくことが“王道”と言えるでしょうか。

高齢化が進む中、 “脳を活性化し、認知能を高める” という面からの散歩の意義がよく話題に上がります。続いてその点を考えてみたいと思っています。
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