愉しむ漢詩

漢詩をあるテーマ、例えば、”お酒”で切って読んでいく。又は作るのに挑戦する。”愉しむ漢詩”を目指します。

閑話休題 430 漢詩で読む 『源氏物語』の歌  (三十七帖 横笛)

2024-09-26 09:05:45 | 漢詩を読む

[三十七帖 横笛 要旨]  (光源氏 49歳)

柏木の死を悼む者は多く、源氏にとっても、ある問題は別として、愛すべき男として心に登ることが多かった。一周忌の法事には黄金百両を贈った。源氏や夕霧の好意に、事情を知らぬ柏木の父・致仕大臣は、感激してお礼を申しあげた。柏木の忘れ形見・薫は日に日に成長し、源氏は、纏わりつく薫の姿に自身の老いを感じる。

 

ある秋の夕、夕霧は女二の宮の元を訪ねる。月が上ってきて、冷ややかな身にしむように吹き込んでくる風に誘われて、宮は十三弦をほのかにかき鳴らすのであった。この情趣に惹かれて、夕霧は琵琶を借りて想夫恋を弾き出し、合奏を勧めるが、宮は手を出そうとはしなかった。琵琶の音に深く身にしむ思いを覚えている宮に:

 

  言に出でていはぬも言うにまさるとは 

    人に恥じたる気色をぞみる    (夕霧) 

 

と言うと、宮は、ただ想夫恋の末の方だけを合わせて弾き、返歌を贈った。夕霧は、無限にお邪魔しては故人に咎められよう とお暇することにした。

 

女二宮の母君・一条御息所は、「こんな女住居に置くのは、楽器のために気の毒である」と、柏木遺愛の横笛を夕霧に贈った。その晩、夕霧の枕に柏木が立ち、その笛はしかるべき人に贈りたいと語る。

 

笛の処置に困った夕霧は六条院・源氏を訪ねる。源氏は、「その笛は私の所へ置いておく因縁があるものなのだ」、「いずれ静かな時をみて、君の夢の細かな説明をしましょう」と言った。

 

本帖の歌と漢詩 

ooooooooo    

言に出でて いはぬも言うに まさるとは 

  人に恥じたる 気色をぞみる     (夕霧)

 [註]○言(コト)に:琴(コト)の掛詞。

 (大意) 言葉に出して言わないことも、言うに勝る深い思いであるからだ 

  と、恥らうご様子から察しられます。   

xxxxxxxxxxx   

<漢詩>  

  心懐恋慕    心中の恋慕      [上平声十三元 韻 ]

默而持不語, 默(モク)而(シ)て不語(カタラズ)を持(ジ)す, 

無乃勝於言。 無乃(ムシロ) 言う於(ヨ)り勝(マサ)ると。 

看到羞挙措, 羞(ハ)じらいの挙措(キョソ)を看到(ミ)るにつけ, 

方知隱意存。  方(マサ)に知る 隠(カク)せし意(オモイ)存(ア)るを。  

 [註]〇無乃:むしろ; ○挙措:振る舞い、様子; ○方:まさに。

<現代語訳> 

  胸に仕舞った恋心 

黙して語らずにいる、むしろこれは語るに勝ることではないか。恥じらいの様子を見るにつけ、まさに想いを語らず 隠していることが察しられる。

<簡体字およびピンイン> 

  心怀恋慕  Xīnhuái liànmù  

默而持不语, Mò ér chí bù yǔ,   

无乃胜于言。 wú nǎi shèng yú yán.   

看到羞举措, Kàn dào xiū jǔcuò, 

方知隐意存。 fāng zhī yǐn yì cún.    

ooooooooo   

女二の宮の返歌:

 

ふかき夜の あはればかりは 聞きわけど 

  琴よりほかにえやは言ひける     (落葉宮)  

 (大意)深き夜に聞くこの曲の情緒ばかりは聞き分けていますが、琴を

   弾くよりほかに、何を言うことができましょう。    

 

【井中蛙の雑録】

〇「想夫恋」:日本では、男性を慕う女性の恋情を歌う曲とされる。 雅楽、唐樂:かつては詠があったが途絶え、現在は管絃によって奏される と。

『蒙求』と『蒙求和歌』-7  『蒙求和歌』-① 

 『蒙求和歌』は、『蒙求』において“韻”で分類された四字句をその“内容”によって分類し直した作歌教本と言えようか。『蒙求』596句から半数少々の251句を選び、先ず、句の内容に従って、『古今和歌集』など、先行和歌集の伝統に従い、春・夏・秋・冬・恋・旅等々、9部に部立、さらに四季の部では、“春”部で、立春、子日、霞、鶯等々、の“歌題”に細分し、四字句を再分類します。なお、四季以外では、特に“歌題”の設定はない。例)●「蒼頡制字」:“冬部”、歌題は“千鳥”;●「呂望非熊」:羇旅部。 

 

 

 

 

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閑話休題 429 漢詩で読む 『源氏物語』の歌  (三十六帖 柏木)

2024-09-21 09:36:46 | 漢詩を読む

[三十六帖 柏木 要旨]  (光源氏 48歳正月~秋)

柏木は、光源氏を裏切り、宮へ密通するという重大な過ちを犯す。その罪の意識に苛まれて病に伏し、死を覚悟する。床に伏しながらも宮への思いは募り、震える手で認め、宮に歌を贈る。「哀れとだけ言ってください。暗い闇の世界へ入る道の光明にいたしましょう」と書き添えて: 

 

 今はとて 燃えん煙も 結ぼほれ 

   絶えぬ思ひの なほや残らん   (柏木)

 

宮は、この日の夕方頃から産気づき、翌朝、男児(後の薫)を出産した。宮の秘密は、源氏意外誰も知らず、高貴な内親王を母とする最後の若君ということで、盛大な出産祝いが催された。源氏は、若君を特に見ようとすることはなかった。

 

源氏の訪れは疎となり、さらに過去の自身も恨めしく、宮は尼になろうと考える。一方、宮出産の報に接した法皇(朱雀院)は、宮の御殿を訪れる。その折、宮は源氏の反対を振り切り、法皇に髪を切ってもらい、仏の戎を受け、尼となった。

 

夜明け前の勤行の時、また六条院御息所の物怪が現れ、「紫の上と女三の宮に憑りついたのだ」と笑った。宮の出家を知った柏木は重体に陥る。柏木は見舞いに訪れた夕霧に、源氏への取りなしと女二宮の後見を依頼し、まもなく息を引き取った。

 

三月には若君の五十日の祝いの日がきた。柏木によく似た顔立ちの若君と尼姿の女三宮を前に源氏は複雑な思いにかられます。夕霧は柏木の遺言を守ってしばしば女二宮を慰めに通い、ほのかな恋心さえ抱き始めます。

 

本帖の歌と漢詩 

ooooooooo    

今はとて 燃えん煙も 結ぼほれ 

  絶えぬ思ひの なほや残らん   (柏木) 

  [註]○結ぼほる:解けなくなるほどしっかりと結ばれる。

 (大意) 今を限りと私を焼いて葬る煙は消え去ることなく漂い、 あなたをあきらめきれない私の思いもずっとこの世に残ることになるでしょう。 

xxxxxxxxxxx   

<漢詩>  

  死不瞑目          死して瞑目できず 

[下平声一先‐上平声十五刪通韻]

就此予命有誰憐, 就此(ココ)に予が命 誰 有りて憐(アワレ)まん, 

焚煙飄蕩止人寰。 焚く煙 飄蕩(タダヨ)い人寰(ジンカン)に止ろう。

無奈難消予恋慕, 無奈(イカンセン) 予が恋慕 消え難く,

斯懐留下在人間。 斯の懐(オモイ) 人間(ジンカン)に留下(トドマ)らん。

 [註]○死不瞑目:(成) 死んでも死にきれない; ○就此:ここで、これで; ○飄蕩:漂う; ○人寰:人間の世界; 〇無奈:如何せん; ○人間:この世、現実の世界。

<現代語訳> 

  浮かばれぬ魂 

これで わが命をあなた以外誰か憐れんでくれる人がいるであろうか、火葬の煙はこの世に留まり漂ったままであろう。どうしようもなく、私のあなたを恋しく思う気持ちは消えがたく、その想いはこの世に留まり続けることでしょう。

<簡体字およびピンイン>  

  死不瞑目           Sǐ bù míngmù 

就此予命有谁怜, Jiù cǐ yú mìng yǒu shuí lián,  

焚烟飘荡止人寰。 fén yān piāodàng zhǐ rénhuán. 

无奈难消予恋慕, Wúnài nán xiāo yú liànmù,  

斯怀留下在人间。 kělián liú xià zài rénjiān.   

ooooooooo   

柏木の歌に 女三の宮が返した歌:

 

立ち添ひて 消えやしなまし うきことを

  思ひ乱るる 煙くらべに    (女三の宮)  

 [註] ○“し”:強意の副助詞; ○煙比べ:煙を恋の炎から立つ煙に見立てて恋心の強さを比べ合うこと。

(大意)私もあなたの煙とともに消えてしまいたい あなたに比べられないほどに、私も思い乱れております。

  

 

【井中蛙の雑録】

『蒙求』と『蒙求和歌』-6  『蒙求』日本での受容-② 

 『蒙求』の日本での受容について、先に触れたように、i) 中国歴史・文化の学習教材としての活用。次にii) 作詩・歌の参考資料としての意義。詩・歌は、諸々の事象に触発された作者の‘思い’を短い(韻)文にしたもの。日本に白居易の「長恨歌」等の詩が紹介されると、その詩中の“句”に触発された和歌・“句題和歌”が作られるようになりました。この“作歌技法”を『蒙求』を対象にして、初学者のための実践的な教材にと意図した著書が『蒙求和歌』である。1204年、北条政子の指示に従い、13歳の源実朝の和歌の教育に必要な教本として、源光行によって著された3部作のうちの一著書である。

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閑話休題 428 漢詩で読む 『源氏物語』の歌  (三十五帖 若菜下-2)

2024-09-16 09:32:46 | 漢詩を読む

[三十五帖 若菜下-2 要旨]  (光源氏 41歳春~47歳冬)

今は中納言となり衛門督を兼ねる柏木は、女三の宮の姉君・女二の宮を妻に迎える。しかし柏木は、先に垣間見た女三の宮への執着を断ち切れずにいる。源氏の不在に乗じて小侍従の手引きで六条院へ忍び入り、密通する。

 

源氏は、病に伏していた紫の上が俄かに息絶えた旨の報に接する。優れた修験僧を集め祈祷させると、物の怪が子供に憑りついて、大声を出し始める、と同時に、夫人は息を吹き返した。昔見たことのある、六条御息所の物怪であった。

 

紫の上の体調は徐々に回復し、暑い時分、髪を洗って爽快な気分となり横になっていた。庭の池では蓮の花が咲き、青葉には露がきらきら玉のように光っているのが見える。「こうして元気なあなたを見ることが出来るのは、夢のようだ」と源氏が、目に涙を浮かべて言うと、夫人は下の歌を詠い、源氏は、「いつまでもあなたとともに」と歌を返します。

 

消え留まるほどやは経べきたまさかに 

  蓮の露の掛かるばかりを   (紫の上) 

 

夏の終わり、女三の宮を訪れた源氏は、宮の懐妊を知って驚きます。柏木の恋文を発見して事の真相を知ることになる。自分と藤壷の宮との密事と思い合せる源氏は、その事情を知らぬ風で通す。却って柏木と女三の宮は懊悩し、柏木は病に倒れる。

 

延期が続いていた法皇(朱雀院)の五十の賀の試楽が行われ、病を押して出席した柏木は、酒席で源氏からそれとなく皮肉られて、病はさらに重くなり、臥す。十二月の賀宴は、柏木不在のままで催された。

 

本帖の歌と漢詩 

ooooooooo    

消え留まる ほどやは経べき たまさかに 

  蓮(ハチス)の露の 掛かるばかりを    (紫の上) 

 (大意) 蓮葉に留まる露が消えないで残っている間だけでも生きおおせるでしょうか、とは言え、私の命は、たまたまその露が消え残っているほどの儚いものですが。

xxxxxxxxxxx   

<漢詩> 

  無常命数     無常の命数(サダメ)     [上平声十三元韻] 

蓮上沒消露玉繁, 蓮上(レンジョウ)沒消(キエノコ)る露の玉 繁(シゲ)し,

我能活否間露屯。 我 露の屯(トド)まる間 活(イ)き能(アタウ)や否や。

偶我命数真有定, 偶(タマタマ) 我が命数 真の定め有り,

是何如露所留存。 是(コ)れ何ぞ 留存(キエノコ)りし所の露の如(ゴト)からん。

 [註] ○命数:運命、巡り合わせ; 〇留存:存在する、保存する。 

<現代語訳> 

 儚い命 

蓮葉に消え残る露が夥しい、私は この露が留まっている間、生きることができるであろうか。とは言え、たまさかに 私の命には定めが有って、何とそれは 消え残っている露と同じく儚いのであるが。

<簡体字およびピンイン> 

  无常命数        Wúcháng mìngshù

莲上没消露玉繁, Lián shàng méi xiāo lù yù fán,  

我能活否间露屯。 wǒ néng huó fǒu jiān lù tún.  

偶我命数真有定, Ǒu wǒ mìngshù zhēn yǒu dìng,

是何如露所留存。 shì hé rúlù suǒ liú cún.  

ooooooooo   

  紫の上の歌に対して光源氏が返した歌:

 

契りおかむ この世ならでも 蓮葉(ハチスバ)に 

玉いる露の 心へだつな        (光源氏)

  [註] ○露:水玉の“露”、と副詞の“少しも、まったく”と掛詞。

(大意) 今から約束しておきましょう この世ばかりかあの世においてまでも蓮葉に玉となっている露のように同じ蓮葉の上にいますこと つゆばかりも私の心を疑わないでください。

 

【井中蛙の雑録】

『蒙求』と『蒙求和歌』-6  『蒙求』日本での受容-① 

 『蒙求』の内容をもう少し覗いて見ます。先に触れた222「蒼頡制字」についての『蒙求』の記載:

史記。蒼頡、黄帝時人。観鳥迹作文字也。≫ 

最も短い記載の例であるが、項目によっては、100字以上の例もある。本例では、≪史記によれば、蒼頡なる人物は、黄帝時代の(伝説上の)人で、鳥の足跡を見て、文字を創案した≫との内容である。この例の内容から類推できるように、日本伝来後、日本においては、まず、幼童ばかりでなく、成人も含めて、i) 中国歴史・文化の学習の教材として活用されていたと想像される。平安時代当時、「勧学院の雀は蒙求をさえずる」と言われていた と。TVドラマ『光の君へ』で、まひろ が囀っていたように。

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閑話休題 427 漢詩で読む 『源氏物語』の歌  (三十五帖 若菜下-1)

2024-09-09 09:10:26 | 漢詩を読む

[三十五帖 若菜下-1  要旨]  (光源氏41歳春~47歳冬)

柏木は、先に唐猫が引っ掛けて開けた御簾内に垣間見た女三の宮への思いを募らせる。柏木は、女三宮の乳母子の小侍従に逢う機会を作るよう働きかけるが、断られる。そこでせめて件の唐猫を譲り受け、懐けて傍に置き、女三宮の形見にと、猫を手にいれます。

四年後、在位18年を経た冷泉帝は、後を継ぐ息子がなく、朱雀院の息子・春宮に譲位、今上帝の世となる。そこで今上帝と明石の女御の第一皇子が春宮に即位し、明石の入道の宿願が叶った。

源氏は紫の上や明石女御たちを伴って住吉神社に御願果たしに詣で、一行は終夜を歌舞に明かす。十月二十日、月の明かりで遥かに海が見え渡り、松原には白霜が厚く置いて、快く身にしむ社前の朝ぼらけであった。紫の上が詠うと他の人々も和してそれぞれ詠います。

 

  住之江の 松に夜深く 置く霜は 

    神の懸けたる 木綿(ユフ)かづらかも (紫の上) 

 

朱雀院(法皇)は、このまま亡くなっては心名残りであり、今一度女三の宮に逢いたいと望む。源氏も、「ごもっともなことである」 と思い、来年、朱雀院は五十歳になることから、若菜の賀を姫君から奉らせるよう思いつき、その計画を進める。それに備えて、女三の宮に琴を教授する。年が明け、六条院の女君たちで女楽(オンナガク)が華麗に催された。

紫の上は今年37歳の厄年を迎えた。源氏は、紫の上と過ごした年月を追懐し、正妻の葵の上、また六条御息所のことなどを語り、御息所については、“付き合いにくい面倒な人であった”と評する。

源氏が女三宮の元で夜を過ごしている間に、紫の上は急に胸を病んで倒れ、回復の兆しが見えない。加持祈祷をさせるが効果なく、病は同じ状態が続き、2月も終わり、紫の上は二条院へ移された。

 

本帖の歌と漢詩 

ooooooooo    

住之江の 松に夜深く 置く霜は

  神の懸けたる 木綿(ユフ)かづらかも   (紫の上)  

 [註]○住之江の松:住吉神社辺の地名を言う時の常套句; 〇木綿かづら:         明け方の雲を譬えていう語、転じて、「神が願いを受け入れた証」を意           味する。

 (大意) 住の江の松に夜深くおく霜は、神がかけた木綿鬘でしょうか。 

 

xxxxxxxxxxx   

<漢詩>  

  還願行    還願行     [下平声七陽韻]

月映住江畔、 月の映える住江(スミノエ)の畔(ホトリ),

青松戴白霜。 青松 白霜を戴く。

猶如幣假髮、 猶(アタカ)も 幣(ヌサ)の假髮(カヅラ)の如し、

看取願意祥。 看取(カンシュ)す願意(ネガイ)の祥(ツマビラカ)なるを。

 [註] ○還願:願解(ホド)き、(神仏への)お礼参り; 〇猶如:まるで…の如し; ○幣假髮:“木綿(ユウ)かづら”の意; ○看取:見てそれと知ること; ○願意:願い、ここでは、願ほどきの願い。 

<現代語訳> 

  願解(ガンホド)きの旅 

月の映える住之江のほとり、

浜の青松には、白い霜が懸かっている。

この霜は、あたかも神が懸けた木綿(ユウ)かづらのようである、

私たちの“願ほどき”の願いが通じたのであろう。

<簡体字表記> 

 还愿行         Huányuàn xíng

月映住江畔, Yuè yìng zhù jiāng pàn, 

青松戴白霜。 qīng sōng dài bái rǔ shuāng.

犹如币假发, Yóurú bì jiǎfà,

看取愿意祥。 kàn qǔ yuànyì xiáng.

ooooooooo   

 

紫の上に和して、中務の君が詠った歌:

 

 祝子(ハフリコ)が 木綿(ユフ)うち紛(マガ)ひ おく霜は 

   げにいちじるき 神の証か     (中務の君)

  [註]○祝子:神に仕える人、神職; 〇いちじるき:明らかな。 

  (大意) 神に仕える人が持つ木綿蔓と見違えるほどに置く霜は、神がお受               けになった証でございましょう。

 

 

【井中蛙の雑録】

『蒙求』と『蒙求和歌』-5  8句が一塊/接着剤は“韻” -(2) 

   蒙求596句の第2塊の8句を下に示しました。

 

 9 匡衡鑿壁、孫敬閉。郅都蒼鷹、寧成乳

 13周嵩狼抗、梁冀跋。郗超髯参、王珣短簿。  

 

この集合体の“韻”(字)は、仄韻 [上声七麌韻]に属する字です。即ち、第一塊では、“平韻”、今回の第2塊では“仄韻”です。以後、蒙求中の各塊は、ほとんど平韻・仄韻の繰り返しに並べられています。声を発して繰り返し読んだ時、ある種のリズムを感ずるのではないでしょうか。幼童が学習し易くするための一工夫か。

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閑話休題 426 漢詩で読む 『源氏物語』の歌  (三十四帖 若菜上-2)

2024-09-02 14:42:55 | 漢詩を読む

[三十四帖 若菜上-2 要旨]  (光源氏 39歳冬~四十一歳春)

新年、明石の女御の産気が近づいて、六条院では読経が元日から始められていた。明石夫人は、これまで姫君の誕生当時の事情など話したことはなかった。明石の尼君が、時に姫君の側を訪れては、涙ながらに昔の話をするのであった。

 

女御は、自らをれっきとした家柄の子であると思い込んでいたが、尼君の話から明石の田舎で生まれたことを知って愕然とする。尼君は立派な美しい姫君に視線をやって、感激の涙をながして、次の歌を認めた。姫君も堪えがたくなって泣きつつ返歌する。

 

  老いの波 かひある浦に 立ち出でて 

    しほたるるあまを たれか咎めん  (尼君)  

 

三月の十幾日、明石女御が春宮の第一皇子を出産します。かつて葵の上の経験から、出産を危ないことのようにして、多くの祈祷が神仏に捧げられていたが、大した苦しみもなく、しかも男宮の誕生である。

 

養祖母の紫の女王は始終皇子を手に抱き、実祖母の明石夫人は産湯の仕度などにかかっている。両祖母の若宮を愛する気持ちの交流が暖かい友情までも育んでいるのである。宿願がかなった明石の入道は、この幸運が夢に予言されていたことや、住吉神社など神仏への祈願等々、さらに自らの消息は不問に付すこと等 尼君に長い手紙を認め、山に入り消息を絶つ。

 

春うららかな日、六条院で蹴鞠が催された。その最中、走り来た唐猫が偶然にも女三の宮の部屋の御簾を引き上げ、柏木が女三の宮の姿を垣間見ることができた。以来、柏木は女三の宮に懸想する。

 

本帖の歌と漢詩 

ooooooooo    

老いの波 かひある浦に 立ち出でて 

  しほたるるあまを たれか咎めん  (尼君) 

  [註]○かひ:甲斐と貝の掛詞; 〇波、かい、浦、しほ、あまは、縁語。

 (大意) 長生きしたかいがあって、こうした晴れがましきに出逢って 嬉し

  涙で泣いている、だからと言って この海女(尼)を誰が咎めることが 

  できましょう。

xxxxxxxxxxx   

<漢詩>  

  喜悅眼淚      喜悅眼淚 (ウレシナミダ)      [上平声四支韻]

乃知長寿效, 乃(スナワ)ち知る 長寿の效(コウ),

遇到絕佳時。 遇(タマタマ)到(デア)う絕佳の時。 

惟落歓喜淚, 惟(タダ)に落つ 歓喜の淚,

誰訶此老尼。 誰か訶(トガメ)ん 此の老尼(ロウジ)を。

 [註] ○效:効果、甲斐; 〇絕佳:ずば抜けてすぐれた。

<現代語訳> 

 嬉し涙  

まさしく長寿の甲斐を知る、偶然にも素晴らしい時期に巡り逢えたのだ。唯に喜びの涙が流れて止まない、この老尼を誰が責められようか。

<簡体字およびピンイン>  

 喜悦眼泪     Xǐyuè yǎnlèi

乃知长寿效, Nǎi zhī chángshòu xiào, 

遇到绝佳時。 yù dào juéjiā shí 

惟落欢喜泪, Wéi luò huānxǐ lèi, 

谁诃此老尼。 shuí hē cǐ lǎo . 

ooooooooo   

 

尼君の昔話を聞いた明石の女御は、尼君の案内で明石の浦を尋ねてみたいと、次の歌を詠う。

 

しほたるる あまを波路のしるべにて 訪ねてもみばや 浜の苫屋を 

(明石の女御) 

 [註] ○しほたるる:しずくが垂れている、みすぼらしいようすの。  

 (大意) 泣いている尼君に海路の案内をしていただいて 私の生まれた浜の

  苫屋を尋ねてみたいものです。 

 

【井中蛙の雑録】

『蒙求』と『蒙求和歌』-4  8句が一塊/接着剤は“韻” -(1) 

  蒙求は596句からなるが、8句一塊の集合とみることが出来ます。その頭書の8句を下に示しました。

1王戎簡要、裵楷清。孔明我龍、呂望非

5楊震関西、丁寛易。謝安高潔、王導公

  この集合体を一塊として繋ぎ留めているのは“韻”(字)です。即ち、“対”にした四字句で偶数番の句の最後の文字、上記例では赤字で示された文字、それらは、同一韻目、この例では‘上平声東韻’に属しています。

 漢詩の形の五言律詩、七言律詩に倣って言えば、この一塊は“四言律詩” 

と言えようか。

 

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