愉しむ漢詩

漢詩をあるテーマ、例えば、”お酒”で切って読んでいく。又は作るのに挑戦する。”愉しむ漢詩”を目指します。

閑話休題 249 飛蓬-145 次韻 蘇軾「海棠」 「通红芙蓉」

2022-02-07 09:26:05 | 漢詩を読む
地球上では、生物は環境に合わせつつも、異種間で、お互い助け・助けられつつ生きる、独特の生態系を形成しています。ここでは、南国の“情熱の花”ハイビスカスと美装を纏った旅する蝶・アサギマダラ(下写真)の交歓を話題にします。

   
作・著作権者:Andrzej Kaim 
リンク先:アサギマダラ - Wikipedia

蘇軾「海棠(カイドウ)」に触発されて、同詩に次韻する作詩に挑戦しました。海棠の原産地が、自らの故郷・蜀であったこともあろう、蘇軾は殊の外、海棠の花・木を愛していたようである。流刑の地・黄州にいたころ(1083)、そこで一株の海棠を見出し、詠んだ詩である と。

「通紅芙蓉」の詩は、舞台として本邦・南西諸島の一小島・喜界島の東沿岸を念頭に書いています。同島では、アサギマダラが繁殖し、同蝶が海を渡り、本州を含む多くの地方と行き来していることが確認されています。アサギマダラの長旅の助けにと、密を蓄えて待っているハイビスカスの“思い遣り”の心を想像しました。

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 次韻蘇軾《海棠》 通紅芙蓉  [下平声七陽韻]
太洋瀲灔曙瑞光, 太洋 瀲灔(レンエン) として曙(アケボノ)の瑞光,
蛱蝶飄飄旋転廊。 蛱蝶(キョウチョウ) 飄飄(ヒョウヒョウ) として廊に旋転(センテン)す。
芙蓉猶恐蜜充否, 芙蓉(フヨウ) 猶(ナ)お恐る蜜の充なるや否やを,
更待旅蝶耀紅粧。 更に待つ 旅蝶(リョチョウ) 紅粧(コウショウ)を耀かして。
 註] 芙蓉:ハイビスカスのこと。アオイ目アオイ科 フヨウ属 (Hibiscus) に属する、 
  熱帯・亜熱帯性の植物。真っ赤な花の種“ブッソウゲ(仏桑華)とも言われる; 
  瀲灔:広々とさざ波を湛えたさま。; 曙:夜が明け始めるころ。; 飄飄:漂い翻 
  るさま。;  旋転:ぐるぐる舞まわる。; 旅蝶:旅する蝶、ここではアサギマダラ 
  のこと、大海を渡って旅する蝶。     
<現代語訳>
  蘇軾《海棠》に次韻する 真っ赤なハイビスカスの花 
波静かな大洋の水平線に日が顔を出すと、海面では瑞光を映して漣の如くに光が揺れる、
廂の向こうには、大小、色取りどりの蝶がひらひらと活動を始めた。
ハイビスカスは、蓄えた密が充分であるか 気にしながら、
真っ赤な装いを輝かして、これから旅に出る旅蝶の来訪を待っている。
<簡体字およびピンイン> 
 次韵苏轼《海棠》 Cìyùn SūShì “hǎitáng”  
   通红芙蓉 Tōng hóng fúróng   
太洋潋滟曙瑞光, Tàiyáng liànyàn shǔ ruì guāng,
蛱蝶飘飘旋转廊。 jiádié piāo piāo xuánzhuǎn láng.  
芙蓉犹恐蜜充否, Fúróng yóu kǒng mì chōng fǒu,  
更待旅蝶耀红妆。 gèng dài lǚ dié yào hóng zhuāng.
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<蘇軾の詩>
 海棠  [下平声七陽韻]
東風嫋嫋泛崇光、 東風 嫋嫋(ジョウジョウ)として崇光(スウコウ)泛(ウカ)び、
香霧霏霏月転廊。 香霧(コウム) 霏霏(ヒヒ)として 月 廊(ロウ)に転ず。
只恐夜深花睡去、 只だ恐(オソ)る 夜深くして花の睡(ネム)り去らんことを、
高焼銀燭照紅粧。 高く銀燭(ギンショク)を焼(ヤ)いて紅粧(コウショウ)を照らさん。
 註] 嫋嫋:風が柔らかに吹くさま; 泛:うごく; 崇光:海棠の気高い光沢; 
  香霧:花の香りがする夜霧; 霏霏:霧などでぼんやりするさま; 紅粧:赤く紅
  をさした化粧、海棠の花のつぼみは赤く、咲くと花びらの先が淡く赤い。 
 ※ 転句:玄宗が楊貴妃の寝起きの姿を「海棠 睡り未だ足らず」と言った話に拠る と。  
<現代語訳> 
 海棠 
夜風がやさしくそよぐ春宵、海棠には気高い光が仄かにゆらめき、 
夜霧は芳ばしい香りを秘めて降りそそぎ 月影は回廊を巡る。 
夜が更けゆく中 海棠が眠ってしまうのが心配で、 
高々と銀色の蝋燭を灯して その紅の粧(ヨソオ)いを照らす。 
<簡体字およびピンイン> 
 海棠        Hǎitáng 
东风嫋嫋泛崇光、 Dōng fēng niǎo niǎo fàn chóng guāng, 
香雾霏霏月转廊。 xiāng wù fēi fēi yuè zhuǎn láng. 
只恐夜深花睡去、 Zhǐ kǒng yè shēn huā shuì qù, 
高焼银烛照红妆。 gāo shāo yín zhú zhào hóng zhuāng. 
               [白 雪梅「詩境悠游」に拠る] 
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喜界島は、鹿児島―沖縄間の中間位、北緯ca.28.3°東経ca.130°に位置、太平洋に面していて、西に辿ると奄美大島を飛び越え、中国・浙江省・玉環島の辺り、東に大洋を渡っていくと北米カリフォルニア半島の根っこ辺りに突き当たる。温暖な亜熱帯に属する、周囲ca.49km面積ca.57km2の小島である。

島の東海岸に立てば、太平洋が一望でき、遥か水平線はやや凸に孤を描き、円い地球が実感できる。朝日や夕の望月が水平線上に顔を覗かせると、海面の漣に揺れる光が映える。「海棠」に出てくる“崇光(スウコウ)泛(ウカ)ぶ”情景を想像させます。

同島で注目される事象の一つに、乱舞するアサギマダラ(上写真)にお目に掛かれることが挙げられる。特に同蝶は、島の台地の森林内に生息(/繁殖)する特定箇所があり、その周囲で秋季に乱舞する情景を楽しむことができるという。

ある研究施設では、網で囲った大空間内で繁殖させ、人は、乱舞する環境に身を置いて間近に鑑賞することができる。この成蝶は、写真に看るように、美麗な装いであるが、幼虫は姿・色合いがいかにも毒々しく、実際、有毒物質を含むと。自己防衛の手段であろう。

同蝶は、好んで有毒物質を含む花の密を吸うという。ハイビスカスの密は、生命維持・活動のための栄養源の補給が目的となろう。「密を十分に蓄えたよ!長旅に耐える体力作りに利用して」と、目印として花を真っ赤に染めて、蝶を待っているのだ。

植物の多くは、独特な色または香りを発して、有翅昆虫や小鳥などを呼び寄せ、密を提供する。その代償に受粉の手助けをしてもらっている。ハイビスカスとアサギマダラの関係もその例から外れることはない、持ちつ・持たれつの生態系の一例と言えよう。

[追記] ”Hibiscus”名で総称される花木の種類は多く、その名称の使用には戸惑うのであるが、学問的には「アオイ目アオイ科の下位分類フヨウ属 Hibiscus 」に属することから、現地の通称“ハイビスカス”、また同花を漢詩中では“芙蓉”と表現して話を進めた。
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1 コメント

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Unknown (Rumi)
2022-02-07 20:46:40
喜界島は、黒船に載ったペリーが立ち寄った際に、あまりの美しさに「クレオパトラ アイランド」と名付けた、との事。
ペリーさんは本当に、この島に立ち寄ったんですかね??
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