オカブは蕎麦は大好きだが、この蕎麦搔というのは苦手だった。
冬になると、祖母がそば粉に湯を注いで練って作ってくれたが、粉っぽさが残る中で、かおるエグ味の何とも言えない野趣と言おうか、洗練されない味わいが嫌いだった。
しかし、蕎麦搔の風情は大好きである。
素朴なまでも素朴な冬の夜、この素朴な食べ物を味わうのは、子供心にも、俳味があろうと感じられた。
今は、蕎麦搔は大好きである。
歳を重ねるにつれ、好みも変わるものだ。
深大寺に行くと、そば粉を仕入れてくる。
それで蕎麦搔を作る。
季節の醍醐味と言える。
蕎麦搔や静か静かが静夜なり 素閑
師走入り人形町の蕎麦搔や 素閑
鉄瓶に湯気の上がりぬ蕎麦搔や 素閑
古里のなき江戸ものの蕎麦搔や 素閑
スキー宿茶請けと出すは蕎麦搔や 素閑
蕎麦搔や暮の町屋の雪模様 素閑