少女は森の中、帰途を急いでいた。
もうこんな時間ではとうてい日が暮れるまでに森を抜けることは出来ないよ、という街道で出会った猟師の言葉を思い出した。
一人暮らしだから遠慮する必要はない、悪いことは言わないからうちに泊まっていきなさい、そう猟師は少女の身を案じて優しい言葉を掛けてくれた。
だが少女は、家でおばあさんがあたしの帰りを待っているのです、と猟師の誘いを丁寧に断った。
年をとり、すっかり体が弱ってしまったおばあさんをいつまでも家に一人きりにしているのが心配でならなかったのだ。
そうか、それなら仕方ない、くれぐれも用心しなさい、最近は何かと物騒だから、そう言ってくれた猟師に別れを告げ、少女は一人森へと続く道を選んだ。
街では年端もいかない女の子達が何人も行方知れずになっているという噂を耳にした。
彼女たちはどうしたというのだろう?
もしかしたら道に迷ってこの森の中を彷徨っているのかもしれない・・・。
そんな埒もないことを考えていると本当に誰かに見られているような気さえしてくる。
はぁはぁ、先を急ぐあまり少女の息が荒くなっていく。
少女のまとっている赤い外套が、暗い森の中で誘蛾灯のように揺れる。
その時ガサリと行く手の草むらが音を立てた。
少女は一瞬息を飲むが音の正体を知ってほっとする。
森の入り口で別れたはずの猟師がそこに立っていたのだ。
「まぁ、おじさん、私のことを心配して追いかけてきてくれたの?」
そう言いながら少女は自分の言葉をいぶかしんだ。
猟師は少女の行く手から現れたではないか…。
「そうだよ、お嬢ちゃん。おじさんはどうしてもお嬢ちゃんのことが心配になってね。森の中は本当に物騒なんだ。盗賊や人さらいだけじゃない、人外の化け物だって出るのだから。でももう安心だ。おじさんの家はほんのすぐそこなんだ。さぁ、一緒に行こうじゃないか」
そう言って猟師は少女の手首を掴んだ。
痛い、少女は顔をしかめたが、猟師は特に気に留めることもなく、少女の手を半ば強引に引っぱっていく。
しばらく森の中を連れ立って歩いてから少女がぽつりと言った。
「本当はね」
少女の言葉に先を行く猟師が振り向いた。
「誰かが現れてくれないかなぁって思っていたのよ」
少女は無邪気な笑みを猟師に向けた。
「だってお腹がペコペコだったんですもの…」
*
「ただいま、おばあさん」
少女の帰りが遅いのを心配して寝ずに待っていた老婆は少女の姿を見てほっと安堵の息を漏らした。
「どうしたっていうんだい、ずいぶん遅かったじゃないか」
「ごめんなさいね、おばあさん。森の中で急に食事をすることになったものだから」
「おやまぁこの子ったら!けれど仕方のないことなのかもしれないね。お前たちの年頃なら、すぐにお腹は減るものだからね。でもちゃんと言いつけは守っただろうね」
少女はにっこりと笑ってみせた。
「もちろんよ、おばあさん。誰にも見られなかったし、それに食事が終わってからの後始末も忘れなかったわ」
「そうかい、そうかい、お前はいい子だね…」
そう言いながら老婆は皺ばんだ手で少女の頭を撫でた。
少女の外套が赤い理由を、少女と老婆以外誰も知らない。
もうこんな時間ではとうてい日が暮れるまでに森を抜けることは出来ないよ、という街道で出会った猟師の言葉を思い出した。
一人暮らしだから遠慮する必要はない、悪いことは言わないからうちに泊まっていきなさい、そう猟師は少女の身を案じて優しい言葉を掛けてくれた。
だが少女は、家でおばあさんがあたしの帰りを待っているのです、と猟師の誘いを丁寧に断った。
年をとり、すっかり体が弱ってしまったおばあさんをいつまでも家に一人きりにしているのが心配でならなかったのだ。
そうか、それなら仕方ない、くれぐれも用心しなさい、最近は何かと物騒だから、そう言ってくれた猟師に別れを告げ、少女は一人森へと続く道を選んだ。
街では年端もいかない女の子達が何人も行方知れずになっているという噂を耳にした。
彼女たちはどうしたというのだろう?
もしかしたら道に迷ってこの森の中を彷徨っているのかもしれない・・・。
そんな埒もないことを考えていると本当に誰かに見られているような気さえしてくる。
はぁはぁ、先を急ぐあまり少女の息が荒くなっていく。
少女のまとっている赤い外套が、暗い森の中で誘蛾灯のように揺れる。
その時ガサリと行く手の草むらが音を立てた。
少女は一瞬息を飲むが音の正体を知ってほっとする。
森の入り口で別れたはずの猟師がそこに立っていたのだ。
「まぁ、おじさん、私のことを心配して追いかけてきてくれたの?」
そう言いながら少女は自分の言葉をいぶかしんだ。
猟師は少女の行く手から現れたではないか…。
「そうだよ、お嬢ちゃん。おじさんはどうしてもお嬢ちゃんのことが心配になってね。森の中は本当に物騒なんだ。盗賊や人さらいだけじゃない、人外の化け物だって出るのだから。でももう安心だ。おじさんの家はほんのすぐそこなんだ。さぁ、一緒に行こうじゃないか」
そう言って猟師は少女の手首を掴んだ。
痛い、少女は顔をしかめたが、猟師は特に気に留めることもなく、少女の手を半ば強引に引っぱっていく。
しばらく森の中を連れ立って歩いてから少女がぽつりと言った。
「本当はね」
少女の言葉に先を行く猟師が振り向いた。
「誰かが現れてくれないかなぁって思っていたのよ」
少女は無邪気な笑みを猟師に向けた。
「だってお腹がペコペコだったんですもの…」
*
「ただいま、おばあさん」
少女の帰りが遅いのを心配して寝ずに待っていた老婆は少女の姿を見てほっと安堵の息を漏らした。
「どうしたっていうんだい、ずいぶん遅かったじゃないか」
「ごめんなさいね、おばあさん。森の中で急に食事をすることになったものだから」
「おやまぁこの子ったら!けれど仕方のないことなのかもしれないね。お前たちの年頃なら、すぐにお腹は減るものだからね。でもちゃんと言いつけは守っただろうね」
少女はにっこりと笑ってみせた。
「もちろんよ、おばあさん。誰にも見られなかったし、それに食事が終わってからの後始末も忘れなかったわ」
「そうかい、そうかい、お前はいい子だね…」
そう言いながら老婆は皺ばんだ手で少女の頭を撫でた。
少女の外套が赤い理由を、少女と老婆以外誰も知らない。