創作小説屋

創作小説置き場。BL・R18あるのでご注意を。

月の女王-39

2014年10月17日 22時21分41秒 | 月の女王(要約と抜粋と短編)
「使役魔が……っ」

 リンクスが目を見開く。
 手の形をした異形の物たちが、光る球体の中に吸い込まれていく。

「僕たちも月の女王の元にいってくるんだよ~~」
「アル!」

 まぶしい光に目を細めながら、忍が手を伸ばす。アル=イーティルはその手に一度乗るとポンッと飛び上がった。

「アル!!」
「行ってきまーすだよ~~」

 鳥のように、アルやアルの仲間の小人たちも光に向かって飛び立っていく。

「なんで……っ」
 忍が珍しく表情を露わにした。
「なんで僕は行けないんだ……っ」
 小さな小さな叫び。絞りだすような、まるで子供のような……。


「今……小人みたいなのがいなかった?」
「……いたな」
 ジーンとリンクスが顔を見合わせる。でも視界が白くてお互いの顔もよく見えない。
「これはいったい……」

「予言が成功したんだよ」
 クリスが2人に言い切る。
「どうするんだ?お前ら。もう予言は成就したんだから、戦う必要ないよな?」
「………」
「………」

 リンクスは押し黙り、ジーンは軽く肩をすくめた。
 二人とも毒気を抜かれたような顔をしている。

「………予言とはいったいなんだったんだ?」
 リンクスの問いに、クリスが白龍に視線を移した。

「白龍?」

「魂世界の扉が開いた……と」

 白龍は声を聞きもらさないよう目をつむっている。用心深くセリフを皆に伝える。

「地球上にいる魂世界の住民の移住を許可する、と」
「移住……」

「もしかして……今、イーティルの奴らはどんどんこの球体に吸い込まれていってるのか?」
「そう……みたいだな」

 クリスの言葉に白龍がうなずく。
 アーサーがはっとして、白龍に詰め寄る。

「今までイーティルに吸収された魂もいるのか?!」
「………」

 ちょっと待って、というように手で制して、白龍はしばらく目をつむっていたが、

「………いるそうです」
『オレがそこに行くことはできないのか?!月の姫たちはそこにいるんだよな?!』

 アーサーは慌てるあまり英語になり言葉使いも荒くなっている。

「…………それは」
 しばらくの沈黙の後、白龍が答える。

「できないこともないけれど命の保障はできない、と言ってます。月の姫と月の王子は交わった状態なので往復も可能ですが、魂一つでは耐え切れない可能性が……」

「構わない。一目でいい。マリアに会いたい。それができればどうなってもいい」

「…………」
 アーサーの思いが苦しいほど伝わってくる。

 しばらく目をつむっていた白龍が、ゆっくりと目を開ける。

「姫たちが一度戻るといってます」
「分かった。………忍サン?」

 クリスがぼんやりとしている忍に声をかける。

「ミロクのそばにいた方がいいんじゃないか? こないだミロク、あんたの気配を頼りに下りたっていってたから」
「ああ………そうですね」

 忍らしくないのっそりとした動作でミロクを抱き上げる。

 その横でクリスがそっと香の手を取る。


「………スタン」
 リンクスが腕組みをしたまま、スタンに声をかけた。
 スタンがビクーッと飛び上がる。

「な、なに?」
「お前、いつまでそいつらと一緒にいるつもりだ?」
「そ、それは……リンクが司の部下を辞めるまでだよ!」
「………」
「………」
「………それは無理だな」
「………っ」

 言い捨てると、リンクスは出口に向かっていく。

「どこ行くの?」
「司様の指示を仰ぎに」

 聞いた途端、スタンがあーあ!と大げさにため息をつく。

「でーたーよー。司の指示、司の指示、つーかーさーの、しーじー!」
「様をつけろ」

 いつものリンクスの注意に、べーッだ!とスタンがしてみせる。ふっと笑みがこぼれるリンクス。

「早く帰ってこい、スタン」
「…………」

 あげかけた手をおろすスタン。
 リンクスの背が見えなくなってもそこから動けなかった。


「じゃ、ボクも行ってこようカナ」
 ジーンが明るく言う。

「ちょっと予想と違う展開だから、これから家族会議になるナ」
「さっき……気になる言い方をしたな」

 イズミが冷静に言う。

「ワルター家、といったな? ホワイト家、ではなく」
「言ったヨ。ホワイト家は昔も今も保守的すぎるからネ……我々ワルター家が正しい方向に導かなくてはならない」
「正しい方向って……?」
「それを今から決めるんダヨ?」

 バイバイ、と手を振って、ジーンも出て行った。


 残された部屋では、香とミロクの魂が、無事それぞれ本人の体に入っていったところだった。


「香! 良かった!元にもどった!」
 まわりの目も気にせず、クリスが香をギューッと抱きしめて、
「何するのよ!!」
と、香に思いっきり突き飛ばされ、ひっくり返っている。


 そして……

「ただいまだよ~~」
 アル=イーティルが座っている忍の膝の上にピョコンとのぼった。

「アル………」
 笑うような泣くような忍の顔。

「あっちは居心地良さそうだったけど、僕はやっぱり地球がいいんだよ。だって忍がいるから」
「アル……」

 忍がアルの小さな頬に優しく頬をすり寄せた。
「……おかえり」

「忍が泣いてたから急いで戻ってきたんだよ?」
 いたずらそうに笑うアルに、ミロクが驚きの声を上げた。

「忍兄様、泣いてたの!?」
「泣いてないよ」

 忍が苦笑していい、ミロクをあらためて抱きしめた。
「無事で良かった……」


「それで……」
 待ちきれないように、アーサーが香に問う。

「私をそこに連れて行っていただけますか? 月の姫」



-----------------------------------


ここで切りまーす。

忍様にとって、アルは家族同然なんです。

忍様は母親を小さい頃になくして、祖父と暮らしていたんですね。
祖父も研究に忙しい人だったので、アルが唯一の心許せる人だった。

中学生の時に祖父も亡くなって、織田家に引き取られるんだけど、そこでも孤独で。
それを支えてくれたのが、やっぱりアルだった。

でもアルのことはずっと隠していたので、
ミロクも桔梗も、真田でさえも、アルとは「初めまして」だったんですね。

で、真田は、忍様と話しているアルを見て、

「忍様とあんなに親しく話すなんて……」

と、アルに嫉妬心をメラメラと燃やしていたわけです。

↑の、アルと忍のほっぺすりすりの姿なんて見たら卒倒しちゃうかも^^;
いなくてよかったね真田。


そんなこんなで、次回は20日(月)です。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする