「使役魔が……っ」
リンクスが目を見開く。
手の形をした異形の物たちが、光る球体の中に吸い込まれていく。
「僕たちも月の女王の元にいってくるんだよ~~」
「アル!」
まぶしい光に目を細めながら、忍が手を伸ばす。アル=イーティルはその手に一度乗るとポンッと飛び上がった。
「アル!!」
「行ってきまーすだよ~~」
鳥のように、アルやアルの仲間の小人たちも光に向かって飛び立っていく。
「なんで……っ」
忍が珍しく表情を露わにした。
「なんで僕は行けないんだ……っ」
小さな小さな叫び。絞りだすような、まるで子供のような……。
「今……小人みたいなのがいなかった?」
「……いたな」
ジーンとリンクスが顔を見合わせる。でも視界が白くてお互いの顔もよく見えない。
「これはいったい……」
「予言が成功したんだよ」
クリスが2人に言い切る。
「どうするんだ?お前ら。もう予言は成就したんだから、戦う必要ないよな?」
「………」
「………」
リンクスは押し黙り、ジーンは軽く肩をすくめた。
二人とも毒気を抜かれたような顔をしている。
「………予言とはいったいなんだったんだ?」
リンクスの問いに、クリスが白龍に視線を移した。
「白龍?」
「魂世界の扉が開いた……と」
白龍は声を聞きもらさないよう目をつむっている。用心深くセリフを皆に伝える。
「地球上にいる魂世界の住民の移住を許可する、と」
「移住……」
「もしかして……今、イーティルの奴らはどんどんこの球体に吸い込まれていってるのか?」
「そう……みたいだな」
クリスの言葉に白龍がうなずく。
アーサーがはっとして、白龍に詰め寄る。
「今までイーティルに吸収された魂もいるのか?!」
「………」
ちょっと待って、というように手で制して、白龍はしばらく目をつむっていたが、
「………いるそうです」
『オレがそこに行くことはできないのか?!月の姫たちはそこにいるんだよな?!』
アーサーは慌てるあまり英語になり言葉使いも荒くなっている。
「…………それは」
しばらくの沈黙の後、白龍が答える。
「できないこともないけれど命の保障はできない、と言ってます。月の姫と月の王子は交わった状態なので往復も可能ですが、魂一つでは耐え切れない可能性が……」
「構わない。一目でいい。マリアに会いたい。それができればどうなってもいい」
「…………」
アーサーの思いが苦しいほど伝わってくる。
しばらく目をつむっていた白龍が、ゆっくりと目を開ける。
「姫たちが一度戻るといってます」
「分かった。………忍サン?」
クリスがぼんやりとしている忍に声をかける。
「ミロクのそばにいた方がいいんじゃないか? こないだミロク、あんたの気配を頼りに下りたっていってたから」
「ああ………そうですね」
忍らしくないのっそりとした動作でミロクを抱き上げる。
その横でクリスがそっと香の手を取る。
「………スタン」
リンクスが腕組みをしたまま、スタンに声をかけた。
スタンがビクーッと飛び上がる。
「な、なに?」
「お前、いつまでそいつらと一緒にいるつもりだ?」
「そ、それは……リンクが司の部下を辞めるまでだよ!」
「………」
「………」
「………それは無理だな」
「………っ」
言い捨てると、リンクスは出口に向かっていく。
「どこ行くの?」
「司様の指示を仰ぎに」
聞いた途端、スタンがあーあ!と大げさにため息をつく。
「でーたーよー。司の指示、司の指示、つーかーさーの、しーじー!」
「様をつけろ」
いつものリンクスの注意に、べーッだ!とスタンがしてみせる。ふっと笑みがこぼれるリンクス。
「早く帰ってこい、スタン」
「…………」
あげかけた手をおろすスタン。
リンクスの背が見えなくなってもそこから動けなかった。
「じゃ、ボクも行ってこようカナ」
ジーンが明るく言う。
「ちょっと予想と違う展開だから、これから家族会議になるナ」
「さっき……気になる言い方をしたな」
イズミが冷静に言う。
「ワルター家、といったな? ホワイト家、ではなく」
「言ったヨ。ホワイト家は昔も今も保守的すぎるからネ……我々ワルター家が正しい方向に導かなくてはならない」
「正しい方向って……?」
「それを今から決めるんダヨ?」
バイバイ、と手を振って、ジーンも出て行った。
残された部屋では、香とミロクの魂が、無事それぞれ本人の体に入っていったところだった。
「香! 良かった!元にもどった!」
まわりの目も気にせず、クリスが香をギューッと抱きしめて、
「何するのよ!!」
と、香に思いっきり突き飛ばされ、ひっくり返っている。
そして……
「ただいまだよ~~」
アル=イーティルが座っている忍の膝の上にピョコンとのぼった。
「アル………」
笑うような泣くような忍の顔。
「あっちは居心地良さそうだったけど、僕はやっぱり地球がいいんだよ。だって忍がいるから」
「アル……」
忍がアルの小さな頬に優しく頬をすり寄せた。
「……おかえり」
「忍が泣いてたから急いで戻ってきたんだよ?」
いたずらそうに笑うアルに、ミロクが驚きの声を上げた。
「忍兄様、泣いてたの!?」
「泣いてないよ」
忍が苦笑していい、ミロクをあらためて抱きしめた。
「無事で良かった……」
「それで……」
待ちきれないように、アーサーが香に問う。
「私をそこに連れて行っていただけますか? 月の姫」
-----------------------------------
ここで切りまーす。
忍様にとって、アルは家族同然なんです。
忍様は母親を小さい頃になくして、祖父と暮らしていたんですね。
祖父も研究に忙しい人だったので、アルが唯一の心許せる人だった。
中学生の時に祖父も亡くなって、織田家に引き取られるんだけど、そこでも孤独で。
それを支えてくれたのが、やっぱりアルだった。
でもアルのことはずっと隠していたので、
ミロクも桔梗も、真田でさえも、アルとは「初めまして」だったんですね。
で、真田は、忍様と話しているアルを見て、
「忍様とあんなに親しく話すなんて……」
と、アルに嫉妬心をメラメラと燃やしていたわけです。
↑の、アルと忍のほっぺすりすりの姿なんて見たら卒倒しちゃうかも^^;
いなくてよかったね真田。
そんなこんなで、次回は20日(月)です。
リンクスが目を見開く。
手の形をした異形の物たちが、光る球体の中に吸い込まれていく。
「僕たちも月の女王の元にいってくるんだよ~~」
「アル!」
まぶしい光に目を細めながら、忍が手を伸ばす。アル=イーティルはその手に一度乗るとポンッと飛び上がった。
「アル!!」
「行ってきまーすだよ~~」
鳥のように、アルやアルの仲間の小人たちも光に向かって飛び立っていく。
「なんで……っ」
忍が珍しく表情を露わにした。
「なんで僕は行けないんだ……っ」
小さな小さな叫び。絞りだすような、まるで子供のような……。
「今……小人みたいなのがいなかった?」
「……いたな」
ジーンとリンクスが顔を見合わせる。でも視界が白くてお互いの顔もよく見えない。
「これはいったい……」
「予言が成功したんだよ」
クリスが2人に言い切る。
「どうするんだ?お前ら。もう予言は成就したんだから、戦う必要ないよな?」
「………」
「………」
リンクスは押し黙り、ジーンは軽く肩をすくめた。
二人とも毒気を抜かれたような顔をしている。
「………予言とはいったいなんだったんだ?」
リンクスの問いに、クリスが白龍に視線を移した。
「白龍?」
「魂世界の扉が開いた……と」
白龍は声を聞きもらさないよう目をつむっている。用心深くセリフを皆に伝える。
「地球上にいる魂世界の住民の移住を許可する、と」
「移住……」
「もしかして……今、イーティルの奴らはどんどんこの球体に吸い込まれていってるのか?」
「そう……みたいだな」
クリスの言葉に白龍がうなずく。
アーサーがはっとして、白龍に詰め寄る。
「今までイーティルに吸収された魂もいるのか?!」
「………」
ちょっと待って、というように手で制して、白龍はしばらく目をつむっていたが、
「………いるそうです」
『オレがそこに行くことはできないのか?!月の姫たちはそこにいるんだよな?!』
アーサーは慌てるあまり英語になり言葉使いも荒くなっている。
「…………それは」
しばらくの沈黙の後、白龍が答える。
「できないこともないけれど命の保障はできない、と言ってます。月の姫と月の王子は交わった状態なので往復も可能ですが、魂一つでは耐え切れない可能性が……」
「構わない。一目でいい。マリアに会いたい。それができればどうなってもいい」
「…………」
アーサーの思いが苦しいほど伝わってくる。
しばらく目をつむっていた白龍が、ゆっくりと目を開ける。
「姫たちが一度戻るといってます」
「分かった。………忍サン?」
クリスがぼんやりとしている忍に声をかける。
「ミロクのそばにいた方がいいんじゃないか? こないだミロク、あんたの気配を頼りに下りたっていってたから」
「ああ………そうですね」
忍らしくないのっそりとした動作でミロクを抱き上げる。
その横でクリスがそっと香の手を取る。
「………スタン」
リンクスが腕組みをしたまま、スタンに声をかけた。
スタンがビクーッと飛び上がる。
「な、なに?」
「お前、いつまでそいつらと一緒にいるつもりだ?」
「そ、それは……リンクが司の部下を辞めるまでだよ!」
「………」
「………」
「………それは無理だな」
「………っ」
言い捨てると、リンクスは出口に向かっていく。
「どこ行くの?」
「司様の指示を仰ぎに」
聞いた途端、スタンがあーあ!と大げさにため息をつく。
「でーたーよー。司の指示、司の指示、つーかーさーの、しーじー!」
「様をつけろ」
いつものリンクスの注意に、べーッだ!とスタンがしてみせる。ふっと笑みがこぼれるリンクス。
「早く帰ってこい、スタン」
「…………」
あげかけた手をおろすスタン。
リンクスの背が見えなくなってもそこから動けなかった。
「じゃ、ボクも行ってこようカナ」
ジーンが明るく言う。
「ちょっと予想と違う展開だから、これから家族会議になるナ」
「さっき……気になる言い方をしたな」
イズミが冷静に言う。
「ワルター家、といったな? ホワイト家、ではなく」
「言ったヨ。ホワイト家は昔も今も保守的すぎるからネ……我々ワルター家が正しい方向に導かなくてはならない」
「正しい方向って……?」
「それを今から決めるんダヨ?」
バイバイ、と手を振って、ジーンも出て行った。
残された部屋では、香とミロクの魂が、無事それぞれ本人の体に入っていったところだった。
「香! 良かった!元にもどった!」
まわりの目も気にせず、クリスが香をギューッと抱きしめて、
「何するのよ!!」
と、香に思いっきり突き飛ばされ、ひっくり返っている。
そして……
「ただいまだよ~~」
アル=イーティルが座っている忍の膝の上にピョコンとのぼった。
「アル………」
笑うような泣くような忍の顔。
「あっちは居心地良さそうだったけど、僕はやっぱり地球がいいんだよ。だって忍がいるから」
「アル……」
忍がアルの小さな頬に優しく頬をすり寄せた。
「……おかえり」
「忍が泣いてたから急いで戻ってきたんだよ?」
いたずらそうに笑うアルに、ミロクが驚きの声を上げた。
「忍兄様、泣いてたの!?」
「泣いてないよ」
忍が苦笑していい、ミロクをあらためて抱きしめた。
「無事で良かった……」
「それで……」
待ちきれないように、アーサーが香に問う。
「私をそこに連れて行っていただけますか? 月の姫」
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ここで切りまーす。
忍様にとって、アルは家族同然なんです。
忍様は母親を小さい頃になくして、祖父と暮らしていたんですね。
祖父も研究に忙しい人だったので、アルが唯一の心許せる人だった。
中学生の時に祖父も亡くなって、織田家に引き取られるんだけど、そこでも孤独で。
それを支えてくれたのが、やっぱりアルだった。
でもアルのことはずっと隠していたので、
ミロクも桔梗も、真田でさえも、アルとは「初めまして」だったんですね。
で、真田は、忍様と話しているアルを見て、
「忍様とあんなに親しく話すなんて……」
と、アルに嫉妬心をメラメラと燃やしていたわけです。
↑の、アルと忍のほっぺすりすりの姿なんて見たら卒倒しちゃうかも^^;
いなくてよかったね真田。
そんなこんなで、次回は20日(月)です。