創作小説屋

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月の女王-38

2014年10月15日 23時07分18秒 | 月の女王(要約と抜粋と短編)
「マリアの弟? マリアって誰?」
 スタンがキョトンと聞きかえす。

「月の戦士だった女性です」
 押し黙っているアーサーに代わって忍が答える。

「だった?」
 ハテナ?と首をかしげたスタンに、忍は確かめるように、

「君は……三年ほど前に急に能力が芽生えたんですよね?」
「うん。いきなり。朝起きたら突然。忍サマ、よく知ってるね~」

「夢を見なかった?」
 アーサーが震える声で問いかけてくる。

「夢?」
「浜辺の少女の夢だよ」

「うーん。オレ、夢って見ないんだよね~。いつも寝て起きたら朝だもん」
「………」

 アーサーがジッとスタンを見つめる。
「君の瞳……マリアと同じ緑。髪の色も同じ。面差しも少し似ている」

 切ないアーサーの眼差し。
「三年前、マリアが亡くなったことにより、能力が移動したんだろうね。君の作り出すオーラはマリアそのものだ。昼間、織田家で君のオーラを見たときには驚いた」

「そういえば……」
 クリスがふと思い出したように、

「あの時もオレ、お前のオーラ見えたんだよな。今ほど赤くはなかったけど……。オレにちゃんと見えるってことは、お前、テーミスなのか?」
「なにそれ?」

 スタンが眉間にシワを寄せる。

「なんか、あんたたちが話してる内容、全然わかんなくてヤダ。それよりあの手の気持ち悪いやつ、あそこから動かないんだけど、落ちてこないよね?」

「リンクス=ホウジョウの使役魔か。まだ大丈夫だと思うよ。リンクス=ホウジョウは入口近くで菅原司の指示を待っていたから」
「司の指示、司の指示」

 ケッとスタンが吐き出すように言う。

「リンクはいつでも司の指示待ち。あーやだやだ」

「アーサーさん……あなたは父上の指示でここまできたのですか?」
「いえ……」

 忍の質問に、アーサーが苦笑して答える。

「正直、予言のことは二の次でした。とにかくマリアのオーラの君に会いたかった」

「お前の目的は何だ? アーサー。何がしたいんだ」
 クリスの鋭い言葉に、アーサーは柔らかく視線を向けた。

「だから言っただろう? 私は新世界を見てみたい。それがマリアの望みでもあるからね」
「……織田の大将を世界の王にするとか言ってなかったか?」
「だから、言っただろう?」

 アーサーがふっと笑った。

「私は長いものに巻かれるタイプだ、と。昨晩、予言が成就しなかった時点で、君たちに見切りをつけて織田の指示に従ったが、予言を成就させられるのなら、喜んで君たちに巻かれよう」
「………。なんだそれ」

 クリスが複雑な表情でつぶやいたのと同時に、

「クリス、スタンさん」
 鋭く、白龍に名前を呼ばれた。

「姫がもう少しのところで進まない、と言ってる。もっと本気でオーラ放出してください」
「悪い。やる」

 クリスが両手を上に突き出し、精神を集中させる。

「え、オ、オレも?!」
 スタンが動揺したように後ずさる。

「何すればいいの?」
「こちらに来てください」

 忍が香たちの足元にスタンを誘導する。
「ここで上に向かってオーラを放出してください」

「オーラを?何で?というか、何で香ちゃん寝てるの? それにあの丸いの何?」
 質問攻めのスタンに、忍は安心させるようにうなずくと、

「今、香さんの魂はあの丸い物体に向かって進んでいます。それを手助けできるのが、あなたを含め、4人の月の戦士なんです」
「月の戦士……」

 スタンは、ふーんと言うと、

「なんかよく分かんないけど、香ちゃんの助けになるっていうならやるよ」

 そして、えいっとばかりに天井に向かって、オーラを放出した。


 その数秒後……


「……着いた、そうです」
 ポツリ、と白龍が報告する。

「おおっ着いたんだ」

「………で?」

「………」

「………」

 特に何も起こらない……。

 黄色い物体はかなりの近さまで下りてきていて、まぶしい光を放っているが、それは先ほどから変わらないことである。
 とりあえず、オーラの放出をやめてみる4人。


「何も起こらないんだよ?」
 今まで木の根の影にいたアル=イーティルが忍の肩にぴょこんと飛び乗った。

 初めて見る生き物に、アーサーが驚きの目を向ける。

「……小人?」
「小人じゃないんだよ。イーティルの王子、アル=イーティルだよ?」

 アルが偉そうに言うと、忍が困ったように、

「アル……君の存在を父上に知られたくなくて、危険を冒してまで織田家を逃げ出してきたというのに、ここで君がそういう自己紹介をしてしまっては元も子もないでしょう」
「もともこ?もこもこ?」
「元も子も」

「こんな風に話せるイーティルが存在するなんて……」
 アーサーが呆然としていう。

「マリアを取り込んだ奴は、意志疎通できる能力は皆無だったが……」
「取り込んだっていうのは、魂を吸い込んだってことだよ? その中で意志疎通できるんだよ?」
「その中で……?」
「色々な魂がその中で意志疎通してるんだよ?」
「……それって……」

 アーサーが苦しいかのように胸を押さえて言葉を継ぐ。

「まさか……マリアの魂は、まだその取り込んだ奴の中にあるってこと?」
「当たり前だよ?」
「………っ」

 息を飲み、アーサーが思わずといった感じに、祈るように手を組んだ。

 ああ、神様……

 アーサーのつぶやきが、静寂を作った、その時。


「落ちてきたーー!っていうか、何匹いるの?!気持ち悪っ」
 スタンがギャーッと叫んでわめいた。

 リンクスの使役魔である手の形をした異形の物が、天井からボトボトと落ちてきたのだ。

「ちょっと待て、攻撃するな」
「えーーっ無理無理っ」

 クリスの停止も聞かず、スタンが異形の物に攻撃をしようとしたときだった。

「オヤオヤ、皆さんお揃いで……」
 ヒョイと、出入り口から顔をのぞかせたのは……

「………ジーン!!」
 クリスとイズミが同時に叫ぶ。

 そこに立っていたのは、ジーン=マイルズ=ワルター。
 テーミス王マーティン=ホワイトの甥であり、クリスのいとこであり、イズミの姉の夫の弟である。

「なぜここに……」
 アーサーが思わず言うと、ジーンは肩をすくめて、

「カトリシアはキミのウソ情報に踊らされてまだ九州にいるヨ。ボクはね、別の情報網があるんだヨ」
「別の……情報網?」

「ジーン、勝手に先に行かれては困る」
 憮然とした表情で現れたのは……

「リ、リンク!」
 今度はスタンが叫んだ。

 リンクス=ホウジョウはわざとそちらには視線を向けず、忍に向かって、

「忍様、予言はどうなったのですか?」
「……さあ?」

 忍が小首をかしげてみせる。

「また失敗ですか?」
「どうだろうね?」
「どちらにせよ………」
 リンクスの体から紺青のオーラが立ち上る。

「失敗してもらうことに決まりました」
「!? 何?!」
 クリスが臨戦態勢に入る。

「ワルター家も同じ考えダヨ」
 ジーンの体からも透明なオーラが立ち上りはじめる。

「予言は失敗してもらうヨ。月の姫も……もう、いらない」
「!!」

 とっさにクリスが香を後ろにかばい、イズミと白龍がバリアーを張る。

 そこへ、

「うわっ手がきた!もーやだーーー!気持ち悪ーーー!!」

 またしても現在の緊迫した雰囲気をまったく読まずに、スタンが一人でギャアギャアと騒ぎ立てた、その時。

「……!!」
「なに?!」

 まぶしい光が、雨のように嵐のように、降りそそいできた!





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なかなか切れずに長々と書いてしまった…。

スタンの「オレ、夢見ないんだよね~」発言も書きたかったセリフの一つだったので、書けてうれしい。


スタンは複雑な家庭環境に育ちながらもあっけらかーんと生きている強い男の子です。
夢なんか見ません。毎日眠るときに「あー今日も一日楽しかった!」って思いながら速攻でぐーっと寝て、
翌朝バチッと目が覚めて、朝っぱらから公園のバスケットコートでシュート練習とかしちゃう子です。

どちらかというと陰気なリンクスは、そういうスタンの明るいところが羨ましくもあり鬱陶しくもあり……って感じ。


マリアもスタンと同じく、あっけらかーんとした子です。さすが姉弟。
アーサーはマリアのそういうところが愛おしくて大好きなんです。

アーサーもリンクスも良い血筋の家の子なので、色々と窮屈な思いをしながら育ってるのね。
だからマリアやスタンのような自由でのびのびとした子に惹かれるのかもしれません。

リンクスとスタン、早く仲直りできるといいね。


次回は10月17日(金)予定です。よろしくお願いいたします。

コメント
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