「マーティン=ホワイト……」
入ってきた白人男性に憎悪の目を向ける白龍。その体からは白いオーラが大量に立ち上っている。
マーティンはそんな白龍には気がつくこともなく、クリスが抱きかかえている香を見ると、
『……洋平に似てるな』
「……ようへい?」
何を言っている?とクリスが視線を返した先に……
「……夏美さん?」
マーティンから遅れて部屋に入ってきたのは、香の母親であった。
「香……っ」
あわてて香の元にかけよる夏美。
「夏美さん、どうしてここに?」
「マーティン様に連れてきてもらったのよ。それより、香は……」
「今、魂抜けてるとこ。たぶん、魂は月の女王の元にいる」
クリスがあごで指し示す先には、輝く球体。そこに集められていく光たち。
『イーティルが地上からいなくなるのは大いに結構だが、オーラまでなくなるとは……』
マーティン=ホワイトの神経質そうな声がドーム状の部屋に反響する。
「いいじゃないか」
織田将はニヤリとすると、両手を月の女王に向かって突き出した。
「さあ、持ってけ持ってけ。……おお。体が軽くなってきた感じがするぞ?」
『お前は無駄にオーラがありすぎなんだよ。これでその妙な威圧感もなくなるんじゃないか?』
織田将は日本語で、マーティン=ホワイトは英語で話している。それがこの二人の会話のスタイルらしい。
「オーラは……」
その様子を見ていた菅原司が、崩れるように床に座り込んだ。
「オーラは王家の象徴……。誰よりも、オレのオーラは父上に似ている……」
自分の手から立ち上る漆黒のオーラを逃したくないように、両手を胸に抱え込む。
「オレこそが、王である父上に一番近いオーラの持ち主……」
「司様……」
本庄妙子がそっと司の背に寄り添う。
「そのオーラがなくなってしまう…。月の王子に選ばれたのもミロク………」
司のつぶやきに、忍が、ああ、と思いついたように、
「ミロクはデュール王家直系の血筋だから月の王子の遺伝子を持っていた、というのは分かりますが……」
クリスに抱きかかえられた香とその横にいる香の母に視線を向けた。
「香さんはどうして月の姫に選ばれたのでしょう?」
「それは……」
口ごもる夏美の横で、マーティンが何でもないことのように、
『それは、斉藤香も直系の血筋だからだよ』
「え?」
驚くクリスたちに見られ、夏美は大きくため息をついた。
「実は……香の本当の父親は、マーティン様、エレン様、カレン様の母違いの兄なのよ」
「ええええ?!」
驚きの声が上がる中、香はピクリともせずクリスの腕の中で横たわっていた。
香の父は、里中洋平という。
先代のテーミス王、マイケル=ホワイトの落とし胤である。
マーティンが幼いころには時々遊びにきていたが、そのうち音信普通になったらしい。
夏美と香の戸籍上の父・斉藤政之と里中洋平は大学時代からの友人であった。
夏美が洋平の子を身ごもった直後、洋平が事故で亡くなり、紆余曲折を経て、夏美と政之が結婚することになる。お腹の子は政之の子として育てることにする。
「香はまだ知らないの。高校を卒業した後で話そうと思っていたから……」
「…………」
沈黙の中、皆のオーラだけが、ぐんぐんと月の女王に向かって流れていっている。
「………あ」
いきなり、何かを思い出したようにイズミがつぶやいた。
「なんだ?」
「いや……たいしたことじゃないんだが」
イズミはまじまじとクリスを見ながら、
「以前、香が、クリスのことは昔から知っている人みたいな感じがすると言っていたな、と思って。弟がいたらこんな感じじゃないか、とも言っていた」
「お、弟……」
クリスがガックリと肩を落とす。
「二人は祖母違いのいとこに当たるってことだから、まあ、あたらずといえども遠からずかな、と」
「…………」
クリスがズーンと落ち込んでいるところに、
『そういえば、クリストファー。ジーンから聞いたぞ。王位継承権を放棄する、と』
「…………」
そんなことどうでもいい、と言わんばかりの視線をマーティンに向けるクリス。
『放棄は許さないぞ。お前にはカトリシアと共にテーミス家を……』
『テーミス家の存在意義はなくなる』
白龍が強い口調でマーティンの言葉を遮った。
『オーラもなくなる。予言も終わる。もう我々にテーミス家を守っていく義理はない』
『お前は……』
「は、は、は。言われちまったなあ。マーティン」
わざとらしい笑い声をたて、茶化すように織田将がマーティン=ホワイトの肩をたたく。
「そうだそうだ。もうテーミス家だのデュール家だの、昔話のような世界から解放されるのだ。我々は自由だ!自由になるのだ!」
「父上……」
司、忍が驚いたように父王を見返す。
「オレはもううんざりなんだよ。このオーラも、デュール王家も、王位も、何もかも」
誰よりも大量のオーラを上に吸い上げられながら、織田将は爛々とした瞳で言い放つ。
「オレはオレの力で、世界を手にする」
それを聞いたマーティンが大量のため息をついた。
『お前はあいかわらずそんな夢みたいな話をしてるんだな……』
「夢ではない。この予言のおかげで夢も現実に向かってきたではないか。お前も協力しろ。これからはテーミスだのデュールだので牽制しあわなくてよくなるんだ。大手を振って手を組める」
『そんなこと……臣下達がなんというか……』
「だから!そこの小僧もいったではないか。もう、王家もなにも関係なくなるのだ。これからはマーティン=ホワイト個人として生きろ。お前はもう王ではない」
『………』
「そしてオレも、もう王ではない」
空を見上げる織田将。その先には月の女王。
つられてその場にいた全員が空を見上げた。
光り輝く球体。
地上のあちらこちらから光が吸い寄せられていたが、それもだんだんと少なくなってきたようだ。
「そろそろ終わりそうだな……」
クリスたちのオーラが消えるのと同時に、まぶしい光が香とミロクの元に飛び込んできた。
「……香?」
「…………」
クリスの腕の中で、ゆっくりと香の瞳が開く。
東の空が、明るくなりはじめている。夜明けがくるのだ。
新世界への夜明けが………。
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はあ。なんか緊張した。
次でラストです。
入ってきた白人男性に憎悪の目を向ける白龍。その体からは白いオーラが大量に立ち上っている。
マーティンはそんな白龍には気がつくこともなく、クリスが抱きかかえている香を見ると、
『……洋平に似てるな』
「……ようへい?」
何を言っている?とクリスが視線を返した先に……
「……夏美さん?」
マーティンから遅れて部屋に入ってきたのは、香の母親であった。
「香……っ」
あわてて香の元にかけよる夏美。
「夏美さん、どうしてここに?」
「マーティン様に連れてきてもらったのよ。それより、香は……」
「今、魂抜けてるとこ。たぶん、魂は月の女王の元にいる」
クリスがあごで指し示す先には、輝く球体。そこに集められていく光たち。
『イーティルが地上からいなくなるのは大いに結構だが、オーラまでなくなるとは……』
マーティン=ホワイトの神経質そうな声がドーム状の部屋に反響する。
「いいじゃないか」
織田将はニヤリとすると、両手を月の女王に向かって突き出した。
「さあ、持ってけ持ってけ。……おお。体が軽くなってきた感じがするぞ?」
『お前は無駄にオーラがありすぎなんだよ。これでその妙な威圧感もなくなるんじゃないか?』
織田将は日本語で、マーティン=ホワイトは英語で話している。それがこの二人の会話のスタイルらしい。
「オーラは……」
その様子を見ていた菅原司が、崩れるように床に座り込んだ。
「オーラは王家の象徴……。誰よりも、オレのオーラは父上に似ている……」
自分の手から立ち上る漆黒のオーラを逃したくないように、両手を胸に抱え込む。
「オレこそが、王である父上に一番近いオーラの持ち主……」
「司様……」
本庄妙子がそっと司の背に寄り添う。
「そのオーラがなくなってしまう…。月の王子に選ばれたのもミロク………」
司のつぶやきに、忍が、ああ、と思いついたように、
「ミロクはデュール王家直系の血筋だから月の王子の遺伝子を持っていた、というのは分かりますが……」
クリスに抱きかかえられた香とその横にいる香の母に視線を向けた。
「香さんはどうして月の姫に選ばれたのでしょう?」
「それは……」
口ごもる夏美の横で、マーティンが何でもないことのように、
『それは、斉藤香も直系の血筋だからだよ』
「え?」
驚くクリスたちに見られ、夏美は大きくため息をついた。
「実は……香の本当の父親は、マーティン様、エレン様、カレン様の母違いの兄なのよ」
「ええええ?!」
驚きの声が上がる中、香はピクリともせずクリスの腕の中で横たわっていた。
香の父は、里中洋平という。
先代のテーミス王、マイケル=ホワイトの落とし胤である。
マーティンが幼いころには時々遊びにきていたが、そのうち音信普通になったらしい。
夏美と香の戸籍上の父・斉藤政之と里中洋平は大学時代からの友人であった。
夏美が洋平の子を身ごもった直後、洋平が事故で亡くなり、紆余曲折を経て、夏美と政之が結婚することになる。お腹の子は政之の子として育てることにする。
「香はまだ知らないの。高校を卒業した後で話そうと思っていたから……」
「…………」
沈黙の中、皆のオーラだけが、ぐんぐんと月の女王に向かって流れていっている。
「………あ」
いきなり、何かを思い出したようにイズミがつぶやいた。
「なんだ?」
「いや……たいしたことじゃないんだが」
イズミはまじまじとクリスを見ながら、
「以前、香が、クリスのことは昔から知っている人みたいな感じがすると言っていたな、と思って。弟がいたらこんな感じじゃないか、とも言っていた」
「お、弟……」
クリスがガックリと肩を落とす。
「二人は祖母違いのいとこに当たるってことだから、まあ、あたらずといえども遠からずかな、と」
「…………」
クリスがズーンと落ち込んでいるところに、
『そういえば、クリストファー。ジーンから聞いたぞ。王位継承権を放棄する、と』
「…………」
そんなことどうでもいい、と言わんばかりの視線をマーティンに向けるクリス。
『放棄は許さないぞ。お前にはカトリシアと共にテーミス家を……』
『テーミス家の存在意義はなくなる』
白龍が強い口調でマーティンの言葉を遮った。
『オーラもなくなる。予言も終わる。もう我々にテーミス家を守っていく義理はない』
『お前は……』
「は、は、は。言われちまったなあ。マーティン」
わざとらしい笑い声をたて、茶化すように織田将がマーティン=ホワイトの肩をたたく。
「そうだそうだ。もうテーミス家だのデュール家だの、昔話のような世界から解放されるのだ。我々は自由だ!自由になるのだ!」
「父上……」
司、忍が驚いたように父王を見返す。
「オレはもううんざりなんだよ。このオーラも、デュール王家も、王位も、何もかも」
誰よりも大量のオーラを上に吸い上げられながら、織田将は爛々とした瞳で言い放つ。
「オレはオレの力で、世界を手にする」
それを聞いたマーティンが大量のため息をついた。
『お前はあいかわらずそんな夢みたいな話をしてるんだな……』
「夢ではない。この予言のおかげで夢も現実に向かってきたではないか。お前も協力しろ。これからはテーミスだのデュールだので牽制しあわなくてよくなるんだ。大手を振って手を組める」
『そんなこと……臣下達がなんというか……』
「だから!そこの小僧もいったではないか。もう、王家もなにも関係なくなるのだ。これからはマーティン=ホワイト個人として生きろ。お前はもう王ではない」
『………』
「そしてオレも、もう王ではない」
空を見上げる織田将。その先には月の女王。
つられてその場にいた全員が空を見上げた。
光り輝く球体。
地上のあちらこちらから光が吸い寄せられていたが、それもだんだんと少なくなってきたようだ。
「そろそろ終わりそうだな……」
クリスたちのオーラが消えるのと同時に、まぶしい光が香とミロクの元に飛び込んできた。
「……香?」
「…………」
クリスの腕の中で、ゆっくりと香の瞳が開く。
東の空が、明るくなりはじめている。夜明けがくるのだ。
新世界への夜明けが………。
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はあ。なんか緊張した。
次でラストです。