目次↓
R18・読切は、本編中の出来事ではありますが、読まなくても大丈夫です。ご参考までに載せてみました。
R18 『風のゆくえには~R18・聖夜に啼く』
あいじょうのかたち1(浩介視点)
あいじょうのかたち2(樹理亜視点)
あいじょうのかたち3(慶視点)
あいじょうのかたち4(浩介視点)
あいじょうのかたち5(樹理亜視点)
あいじょうのかたち6(慶視点)
R18 『風のゆくえには~R18・負傷中の…』
R18 『風のゆくえには~R18・リベンジ』
あいじょうのかたち7(浩介視点)
あいじょうのかたち8-1(南視点)
あいじょうのかたち8-2(南視点)
あいじょうのかたち9(慶視点)
あいじょうのかたち10(浩介視点)
R18 『風のゆくえには~R18・黒い翼』
あいじょうのかたち11(慶視点)
あいじょうのかたち12(浩介視点)
あいじょうのかたち13(樹理亜視点)
あいじょうのかたち14(慶視点)
あいじょうのかたち15(浩介視点)
読切 『風のゆくえには~あいのしるし』
あいじょうのかたち16(樹理亜視点)
あいじょうのかたち17(慶視点)
あいじょうのかたち18-1(浩介視点)
あいじょうのかたち18-2(浩介視点)
あいじょうのかたち19(戸田先生視点)
あいじょうのかたち20(浩介視点)
あいじょうのかたち21(慶視点)
あいじょうのかたち22(谷口さん視点)
あいじょうのかたち23(浩介視点)
R18 『風のゆくえには~R18・嫉妬と苦痛と快楽と』
あいじょうのかたち24(慶視点)
あいじょうのかたち25(樹理亜視点)
あいじょうのかたち26(浩介視点)
あいじょうのかたち27(慶視点)
読切 『風のゆくえには~カミングアウト・同窓会編』
あいじょうのかたち28-1(浩介視点)
あいじょうのかたち28-2(浩介視点)
あいじょうのかたち29(慶視点)
あいじょうのかたち30-1(浩介視点)
あいじょうのかたち30-2(浩介視点)
あいじょうのかたち31(慶視点)
あいじょうのかたち32(浩介視点)
あいじょうのかたち33(慶視点)
あいじょうのかたち34(浩介視点)
あいじょうのかたち35(慶視点)
あいじょうのかたち36(浩介視点)
あいじょうのかたち37(慶視点)
あいじょうのかたち38(浩介視点)
あいじょうのかたち39(慶視点)
あいじょうのかたち40-1(浩介視点)
あいじょうのかたち40-2(完)(浩介視点)
あらすじ↓
高校時代からの恋人、桜井浩介と渋谷慶。
約8年間、東南アジア某国で暮らしていたけれど、訳あって帰国。
浩介の両親との長きにわたる確執にとうとう向き合うことになる。
人それぞれの「あいのかたち」を追求しました。
私の一番お気に入りの話は、「あいじょうのかたち15」です。慶がねーもーねー……
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クリックしてくださった方、本当にありがとうございます!!
今朝も画面二度見して、うおえ?!という意味不明な声をあげてしまいました。
20年前は、一人でこっそりノートに書き綴り(誰にも読んでもらったことありません)、
読み返してはただ自己満足に浸っていたわけですが(いまだにその感覚で、よく自分の書いたものを読み返してはニヤニヤしてます)…
そうして生まれでた慶と浩介の行く末を、こうして見ず知らずの方にも読んでいただけるなんて……なんて幸せなんでしょうか。夢にも思いませんでした。本当に本当にありがとうございます。
彼らは私の中にリアルに存在しているという感覚なので、特別にものすごい事件が起こったりはしません。。
なので、読みに来てくださる方がつまんないかな退屈かな……と悩んだりもしたのですが……。
でも!これまで通り、日常を綴らせていただきます。引き続き、二人が幸せになれるようお見守りいただけると嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします!
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してくださった方、ありがとうございました!
「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
写真撮影の3日前。
慶と二人で陶子さんのバーを訪れた。このバーは普段は女性専用なのだけれども、偶数月の最終土曜日のみ、男性のカップルも入店が許されるのだ。
「フォトウェディングっていうんでしょ?」
「そうそう。流行ってるわよね」
偶然来ていたおれの友人、一之瀬あかねが、カウンターの中でリンゴを切っている目黒樹理亜に向かってうなずいている。あかねによると、今回のおれ達のように、結婚式はせずに写真だけ残すカップルは今多いらしい。
「いいなあ。見に行きたーい」
「ねー。私も行きたーい」
「ダメ」
一刀両断に断ってやる。
「なんで?!」
「まず、目黒さんは絶対に慶とのツーショット写真撮ろうとするからダメ」
「ぶー」
ぶーぶー言う樹理亜を前に、おれの右に座っているあかねが「私は?私は?」と聞いてくる。まったく何言ってんだ。
「あかねはおれの元カノでしょ。元カノが元彼のウェディングにきてどーすんの」
「えーいいじゃないの」
「え、元カノ?!」
樹理亜がげげげっとツッコんできた。
「そうなの? え、2人そうだったの?!」
「そうよー。大学2年の終わりから10年くらい?」
「だね」
「うそー!」
きゃーと悲鳴をあげる樹理亜に、おれの左に座っている慶が面白くなさそうに言う。
「ウソだよ。親の手前、恋人のフリしてただけ………だよなあ?」
「痛っ」
カウンターの下で足を蹴られた。
「もー当たり前でしょっ。なんでおれがあかねなんかと」
「なんかとは何よっ」
「痛っ」
反対側からも蹴られた。
「もー!二人とも!暴力反対! だいたい、恋人のフリする計画持ってきたの二人でしょー!」
「おお。そうだったな」
「懐かしいわね~」
おれを挟んで2人が「ねー?」と笑い合っている。この2人、親しいのか親しくないのかイマイチわからない。
と、そこへ
「ちょっと……いいかしら」
静かな落ちついた声がカウンターの中から聞こえてきた。クレオパトラみたいな髪型をした、このバーのママの陶子さんだ。
「ララのことなんだけど……」
「…………」
ララ、というのは陶子さんの姪の三好羅々のことだ。おれに睡眠薬を飲ませて、おれと性行為をしているように見える写真を撮った女の子。おれはその写真を見たことがないのだが(トラウマになるから、と慶がおれには絶対に見せないようにしてくれている)、見てしまった慶はその後しばらく様子がおかしくなってしまった。
それ以降、おれ達の間では禁句になっている三好羅々の名前に、慶がピクリと眉を寄せた。
そのことに気がついたであろう陶子さんは、慶には視線を向けず、おれとあかねに向かって話しはじめた。
「ララ、休学してた専門学校に復学したの」
「え!」
思わず叫んでしまう。
引きこもりから脱却したのか!
「それは良かったです。でも……」
なぜ急に………。
おれの言葉に、陶子さんがなぜかさみしげに微笑んだ。
「浩介先生のお母様の言葉が響いたらしくて」
「僕の母、ですか?」
訳が分からない。あの人なにか言ったっけ?
先月、父が退院するときに、羅々が突然現れ、おれの両親と少し話したは話した。でも何も心に響くようなことは言っていなかったけど………
陶子さんは引き続き寂しげに、小さく言った。
「お母様に言われたんですって。『お嫁に行くときにこんな写真が出回ったら大変よ』って」
「…………え」
それ?
「お嫁さんって、当然のように言われて嬉しかったんですって。女の子として認められてる感じがして」
「…………はあ」
そんなことで? 女の子の気持ちはよく分からない………。
「それに『他に相手なんていくらでもいる』って言ってもらえて、うちにとじ込もっているのがもったいないって思えるようになったって」
「…………」
意味が分からない……
似たようなことは陶子さんだって何度も言ってきただろうに……
陶子さんの寂しげな表情はそこからきてるのだろうか。今まで自分が言っても駄目だったのに、一度しか会ったことのない他人の一言で心動かされてしまったことに対するやるせなさというか……
陶子さんは心を読まれたくないように、下をむいたままカクテル作りをしている。
「まあ……さ」
あかねがぽつりと言った。
「言われるタイミングもあるわよね。同じセリフでも、もっと前に言われてたら受け入れられなかったかもしれないし。何がきっかけになるかはわからないわ。……ねえ、陶子さん」
カクテルを差し出した陶子さんの手をふいに掴んだあかね。
「それを受け入れられる下地作りをしたのは、間違いなく陶子さんだよ?」
あかねはにっこりとすると、両手で陶子さんの手を包み込んだ。
「だからそんな顔しないで。ララにとっての今のお母さんは間違いなく陶子さんなんだから」
「……あかね」
一瞬泣きそうな顔になった陶子さんだが、すぐにいつものクールさを取り戻すと、すっと手をひっこめた。そして、からかう調子で言う。
「今さら口説いてもなびかないわよ?」
「あら。ダメだったか」
あかねも笑って言うと、グラスを片手に立ち上がった。
「そろそろお邪魔虫は退散しまーす。樹理もおいで?」
「あ、うん」
一生懸命リンゴの皮剥きをしていた樹理亜が、切り終えたものをタッパーにつめながら慶を振り仰いだ。
「慶先生、写真できたら見せてね?」
「わかった」
慶が肯いている。あいかわらず慶と樹理亜、仲が良くてムカつく。
「じゃ、二人とも撮影頑張ってね」
「うん。紹介ありがとね」
テーブル席に移動するあかねに手を振り、振り返ったところで、
「色々とご迷惑をおかけして、本当にごめんなさいね」
陶子さんがあらたまった感じに、おれ達に頭をさげてきた。
慶が今度は、いえいえ、と対応すると、陶子さんは伏し目がちに話を続けた。
「ララね、カウンセリングにも通わせはじめたの」
「あ……そうなんですか」
「今、猫も杓子もカウンセリングって感じで、正直ちょっと抵抗あったんだけどね。他人の力を借りるなんて……って思って」
「…………」
言いたいことはわかる気がする。
「でも……猫も杓子も、だからこそ、行ってもいいかもって逆に思ったりして」
「なるほど」
それもわかる。
陶子さんは目を伏せたまま、言葉を続けた。
「お二人には迷惑かけて申し訳なかったけれど、ようやく一歩進めた気がするの」
「……はい」
「本当に、ありがとうございました」
陶子さん、深々と頭を下げながら、碧くて綺麗なカクテルを差し出してきた。
「これはお詫びとお礼と、ウェディングのお祝いね」
「わあ。綺麗……」
カクテルに見惚れていたら、現れた時同様、陶子さんはすうっといなくなってしまった。あいかわらず不思議な人だ。
(……大丈夫)
あの陶子さんがクールな仮面をかぶり切れずに心配するくらい母として愛しているのだから、羅々はきっと大丈夫な気がする。
おれはもう関われないので、せめて、遠くから幸せを祈っていよう。
「甘くておいしい」
慶が一口飲んで、感嘆の声をあげた。そして、世間話の一つというさりげなさで言葉を継いだ。
「お前のお母さんって、良い意味でも悪い意味でも、すごい正直なんだよな。だから言われた方はその言葉が心に響いてくる」
「…………」
おれには悪い意味しかなかったけど……
「美幸さんも……」
「え」
慶が毛嫌いしている、おれの初恋の相手、美幸さんの名前を慶が口にしたのでビックリした。
「お前の母さんに『大丈夫』って言われて、気持ちが楽になったっていってただろ」
「………うん」
以前、美幸さんの息子さんを遊ばせていた母の姿を思い出す……
「それってすごいことだよな。お前の母さん、ただ者じゃねえよ」
「なにそれ」
笑ってしまう。
でも慶は、真面目な顔で慎重に言葉を選びながら先を続けた。
「まあ、だから、なんだ。良い事は受け止めて、そうじゃないことは流せるようになればいいんだろうな」
「あ………うん」
慶はたぶん、これを言うのに、今まで色々悩んでくれてたんだろうな……。
そう思ったら、今すぐ抱きしめたくなってきた。けど、我慢我慢……。
「あとな……」
「うん」
慶が迷ったように言う。
「お前の父さんと、こないだ二人だけで話したんだけど……」
「えええ?!」
あの、恐ろしい父と二人きりで?! 慶と父のツーショット……想像できない。でも慶は、毎週火曜日に父の送迎をしてくれていたので、そんな時間があってもおかしくはない。
おれの驚きを置いて、慶がポツポツと続ける。
「養子縁組とか考えてるのかって聞かれたから、それはないって答えたんだよ。そしたら、遺言書を作っておいたほうがいいって……」
「へえ……」
あの人がそんなことを……
「お前の父さん、どうも、お前とどう接していいのかわからないって感じがする」
「え」
どう接していいか?
「お父さん、あまり自分のお父さんと仲が良くなかったんだってな。だから余計に父親と息子の距離感が分からないというか……」
「そう……なんだ」
祖父はおれが小さい頃に亡くなったからほとんど覚えていないのだけれども、とても厳しい人だったという話はきいたことがある。
それにしても、あの父が慶とそんな個人的な話をするなんて……
慶が、「だからな」と言葉を継いだ。
「せっかくこれだけ時間も空いたことだしさ、お前とお父さんは、大人と大人として新たな関係を築いていけたらいいなって思うんだよ」
「新たな……関係」
そんなことが可能なんだろうか……
想像しただけで今までの恐怖心がよみがえってきて、ぞわぞわしてくる。……が。
「浩介」
沈み込んだおれを拾いあげるかのように、慶の優しい手がおれの左手に絡めてつないでくれた。
「大丈夫。おれがついてる。一緒に歩み寄っていこう」
「………慶」
ぎゅっと握り返す。慶の温かい気持ちが本当に嬉しい。
でも……。あの父と歩み寄れるものだろうか。あっちも歩み寄る気などないだろう。写真撮影も来ないって言ってたし……。
と、思っていたのに。
「……お父さん」
写真撮影当日……。来るはずないと思っていた父が、やる気満々(!?)でモーニングなんか着ているから、本当に驚いた。
「来て、くださったんですね……」
「ああ……渋谷君に言われてな……」
不承不承、という顔をした父。この父を引っ張りだすなんて、慶はどんな魔法を使ったんだろう。
「先にお母様方、よろしいですか~?」
「あ、はい。じゃ、行ってますね」
「ああ」
スタッフの声に、母がカメラの前に行くのを見送りながら、父が言葉を続ける。
「………俺ももう80を過ぎた。順番から言って、佐和子より俺が先に逝くだろう」
「…………」
何を急に………
「俺がいなくなったあと、この写真を見返した時に、俺が写っていなかったら佐和子がさみしく思うだろう、と渋谷君が言ってな」
「…………」
…………慶。
「だから、今日はお前のためにではなく、佐和子のために来たんだ」
「………」
父が不貞腐れたように続けた。
「お前………俺がいなくなった後、佐和子のこと頼んだぞ」
「あ………はい」
父が母のことをそんな風に大事に思っていたなんて意外だ。
父はムッとしたまま言葉を継ぐ。
「俺はお前と渋谷君のことは理解できない。だが、お前がこの道しか選べないというなら、もう何も言わん」
「……お父さん」
驚いた。事実上の容認だ。父がそんなこと言ってくれるなんて……。
「ただ、将来のことはちゃんと考えろ。金のことはきちんとしておけ」
父はこちらを見ようともしない。
『大人と大人として新たな関係を……』
慶の言葉を思いだし、ぐっと腹に力を入れる。
「お父さん」
「……なんだ」
相変わらずの冷たい目にひるみそうになったけれど、その奥底に戸惑いが見えて思い直す。この人だって戸惑っているんだ……
「近いうちに、遺言書を作成したいと思っています。相談にのっていただいてもよろしいでしょうか?」
「…………。相談料とるからな」
「…………」
ちょっと照れてる? 父は心なしか少し赤くなりながらおれの前を通りすぎ、慶と慶の父親のところへ行ってしまった。
こうやって少しずつでいいから歩み寄っていけるだろうか……
慶のおかげで父の愛の形が少しだけわかった今、昔とは違う気持ちで父と向き合える気がする。
「え……うわ……」
撮影の場所を見ると、母と慶の母が並んで椅子に座りながら、裾の位置を直してもらったりしていた。その様子をみて思わず驚きの声をあげてしまう。何か小さく言い合い、クスクス笑っていたりする二人。20年ほど前、大げんかをしたらしい二人と同じとは思えない穏やかさだ。
「女なんてそんなものよ。どんなに腸煮えくり返っていても、笑顔で話せちゃう」
「……南ちゃん」
おれの心を読んだかのように南ちゃんがいい、パシャリと二人の姿を写真に撮った。そして、あら、と気が付いたように言う。
「浩介さんのお母さん、3月に見た時よりもずっと表情が柔らかくなったね」
「………そうだね」
母の行動にはさんざん悩まされ続けたけれども、これからは少しはマシになっていくのかな。……いや、マシになっていなくても、おれはもう逃げない。逃げないで向き合う。母の重すぎる愛に。自分勝手すぎる愛に。それが母の愛の形なのだから。
慶が一緒にいてくれるから、向き合っていける気がする。
「では、新郎様方、お父様方もこちらへ」
「はい。じゃ、南ちゃん」
「はーい。プロとは違う視線からとるから楽しみにしててー」
南ちゃんがニコニコと手を振ってくれる。
南ちゃんがおれ達を撮りはじめてからもう何年になるだろう。高校卒業の時に門の前で撮ってくれた慶とのツーショット写真は、今でもお気に入りで寝室にコッソリと飾ってある。南ちゃんの写真には愛がある。
6人での写真にはじまり、両親と息子だけの写真とか、母とツーショットの写真とか、丁寧に色々な取り合わせで撮ってくれ、かなりの時間を要したけれども、とりあえず、両親との写真撮影は終了した。
疲れ切った様子の父と、興奮した様子で頬を赤らめている母が、着替えのために退出していく。その寄り添う姿……感慨深いものがある。おれが日本にいない間に、両親の距離はずいぶんと縮まったようだ。それだけの年月が経っている。この年月は無駄ではなかったのだと思いたい。
「では、お二人の写真撮りますので」
カメラマンに呼ばれ、慶と二人でカメラの前に立つ。「目線こちら」だの「あっちを見て」だの「見つめあって」だの様々な要求をこなしていたが、
「あとはお二人の自然な感じを撮りたいので適当に話してください」
「え」
いきなりそんなことを言われて、顔を見合わせてしまうおれ達……
後ろのスクリーンはいつのまに教会から砂浜に変わっている。
「適当に話せと言われても……」
「あ、さっき、父に遺言書の話したよ」
「そうか。じゃあ、近いうちにお願いしような。どうせ書くならちゃんとした紙に書きたいから……」
「こらー二人ともー!」
苦笑しているカメラマンさんの横で、南ちゃんが手を振り上げ怒っている。
「なんの話してるのよ! ちゃんとロマンティックな話しなさーい!」
「ロマンティックって」
再び顔を見合わせ、笑ってしまう。でも、カメラマンにも促され、
「えーと……」
顔を近くによせ、声をひそめた。たぶんこの音量ならカメラマンにも南ちゃんにも聞こえないだろう。
あらためて、慶に思いを打ち明ける。
「慶、今まで本当にありがとうね」
「何が?」
小首をかしげる慶。……かわいい。
「ずっとずっと支えてくれて。おかげで両親とこんな写真まで撮れて」
「写真、撮ることにして良かったよな」
慶がふっと優しく笑った。
「おれも親にちょっとだけ恩返しができた気がする」
「うん………」
慶の両親は、今日も終始楽しそうだった。慶と慶の両親のような適度な距離感が羨ましい。おれもこうなれたらいいな……
「これからもたくさんよろしくね?」
「ああ」
慶と見つめ合う。ああ、今日の慶はいつもにも増して完璧だ。美しくて格好良くて。おれみたいな平凡な男が隣にいるのは申し訳ない……
「お前さ」
そんなおれの気持ちを読んでいるかのように、慶の視線が真っ直ぐに向かってきて、ドギマギしてしまう。慶がふっといたずらっぽく笑った。
「実はそういう格好似合うのな。いいじゃん。王子っぽくて」
「ええええっ」
そんな完璧王子の人に言われても、全然素直に受け取れないんですけどっ。
言うと慶は肩をすくめた。
「何言ってんだよ。おれにとってお前は、唯一無二の王子様だよ」
「…………え」
途端に自分が赤面したのが分かった。
でも、慶、ニヤニヤしてる。これは……
「慶……からかってるでしょ」
「いや、そんなことねえよ。本心本心」
いやいや、その顔、絶対からかってる! おれを照れさせて動揺させる気だなっ。それなら……
「慶……」
真面目な顔を作って慶を見下ろす。
「これからもずっとずっと一緒にいてね?」
「当たり前だろ?」
「うん………」
半笑いのままの慶の耳元に唇を寄せて、カメラマンと南ちゃんからは見えない角度でその白い耳に口づける。
「………大好きだよ」
「……………」
慶、ちょっと笑った。
ああ、愛しい慶……
「あー……」
じっと見つめていたら、慶がいきなり大きくため息をついた。
「どうしたの?」
聞くと、慶はボソボソと、
「あー今、すげー言いたい言葉がある」
「何? ………わっ」
聞き返すのと同時に腕を捕まれ、引っ張られた。頬が触れ合うくらい近くに顔が寄せられ、心臓が跳ね上がる。
「慶?」
名前を呼んだその時………耳元で優しい優しい声がした。
「………愛してる」
「え」
今、なんて………
慶がゆっくり頬を離し、正面からおれを見上げ、柔らかく微笑んだ。
「浩介……愛してるよ」
「!」
うわ……っ
驚きのあまり息が止まりそうになる。
愛してる、なんて、初めて………初めてだ。24年もあったのに初めて言われた。
「慶……」
呆けたおれに、慶が少し笑った。
「………言葉にするとなんか嘘っぽいな」
「いやいやいやいやっ」
思いきり首を振る。
「そんなことない。そんなことないよ」
「そうか?」
微笑んだ慶。愛しい愛しい慶……。
「愛には色々な形があるって戸田先生が言ってたけど………」
慶が静かに言う。
「おれは戸田先生みたいに一緒にいるだけ、なんて無理」
「うん………」
「愛したい。愛されたい。守りたい。そばにいたい。求めたい。求められたい。離れたくない。離さない」
「慶……」
慶の強い目の光。なんて綺麗なんだろう。
「だから、ずっと一緒にいような?」
「うん……」
手を繋ぎ、おでこを合わせる。
「慶……愛してるよ」
「……ん」
気持ちが溢れて、止まらない。愛してる。愛してる……
「はい! ありがとうございました!」
「!」
「!!」
はっとして慌てて飛び離れる。
撮影中だということ、すっかり忘れてたーーーー!!
「ちょっと二人ともーー!」
きゃーっという南ちゃんの声。
「すっごい良い写真撮れちゃった! やっぱり売ってもいい?!」
「売るなっ」
はしゃいだ南ちゃんに、慶が真っ赤になって怒鳴り返している。
ああ、昔から変わらないなあ……
「お前も何とか言えっ」
「んー……」
ムキになっている慶にニッコリという。
「モデル料は売値の80%でどうかな」
「あほかっ」
ガシッと蹴られた。
慶……昔から変わらない。そしてこれからも変わらない……
「慶、大好きだよっ」
「人前で言うなっ」
真っ赤になった慶に怒られる。
ねえ、慶。おれ達、ずっと、ずっと一緒にいよう。一緒に生きよう。求め合おう。愛し合おう。
それがおれの愛の形。
おれ達の愛の形。
<完>
----------------
以上です。
最後までお読みくださりありがとうございました!
最終回やっぱり長くなりました。
あれもこれも書かないとと思ったら案の定……
元々、この「あいじょうのかたち」は浩介救済のためにはじめた話でした。
で、慶に「愛してる」と言わせることが最終目標でした。
だってこの人、この24年で一度も言ったことないんだよ!!
ようやく言いました。ああ無事に言ってくれてよかった。
一年前に再開した慶と浩介の物語ですが、今回書いているうちにどうしても、一番最初の物語も書きたくなってきました。
私が高校生の時は、慶視点のみで書いていたのですが、浩介視点で書いたらそれはまた趣向が変わっていいかな、なんて思ったりして…
もうくっつくことが分かっている二人の話、面白くもなんともないけど、私が読みたいので書きます(`ω´)キリッ
高校生の私が考えた話なので、今よりも更に本当に日常物語で面白くもなんともないけど、私が読みたいから書きます(`ω´)キリッ
この度は、こんな真面目な物語にお付き合いくださり、本当にありがとうございました。
こうして書いてこられたのも皆様のおかげです。
おかげさまでどうにか浩介が両親と再交流できるようになり、安心しました。
これからまた色々なことがあると思いますが、二人の揺るぎない愛は変わらないので、何があっても乗り越えていってくれると思います。
私、今日はちょうど、これから代官山に用事があって出かけます。
彼らが今住んでいる、都立大学を通り過ぎるとき、ますます感慨深い気持ちになるんだろうな。
今日は二人とも休みだから、二人でジムにでも行くのかな。寒いから行きたくないーという浩介を慶が無理矢理引っ張っていくんだろうな。
なんて思いながら……
皆様本当にありがとうございました!!
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