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BL小説・風のゆくえには~将来2-1(浩介視点)

2016年03月28日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 将来


『何があったって嫌いになんかなるわけねえだろ?』

 おれの親友であり、恋人でもある慶が、その揺るぎない瞳で言ってくれた。

『安心しろ。何があっても大丈夫だから。お前はおれが守るから』

 愛に包まれていると実感できる言葉……

(そういえば)
 ふいに思い出して、笑いそうになってしまった。

(合宿の時、慶ってば五十嵐先輩に飛び蹴りしたんだよなあ)

 おれが写真部OBの五十嵐先輩に突き飛ばされたのを見て、慶は問答無用容赦なく、先輩を飛び蹴りで吹っ飛ばしたのだ。あの小柄な体にどれだけパワーがあるのか、あの中性的で美しい顔からはまったく想像できない。

 慶はいつでも守ってくれる。精神的にも肉体的にも。その揺るぎない瞳で。

(今日も会いたかったなあ……)

 でも、用心して止めておいた。
 明日はバスケ部の冬休み最後の練習が朝からある。親に文句を言わせないため、今日は一日家で勉強していなくては………というのもあるのだが、最大の理由は、昨日、慶とキスしているところを、母に見られてしまったからだ。

 ほとぼりが冷めるまで待ってから帰宅したところ、母は普通に夕食の用意をしていた。父も帰宅していたけれど、食事の席でも何も言われることはなく安心したのだが……


(あそこまでの悲鳴は久しぶりだったな……)

 思いだして、うんざりしてしまう。
 慶とおれのキスをみて、母は金切り声で叫び続けた。
 あそこまでの声は、中学三年の夏休みに「高校からは地元の公立高校に行きたい」と話した時以来だと思う。

『今の学校に入学するのがどれだけ大変だったか分かってるの?! 今だって、保健室登校と定期テストだけで進級させてもらうために、お母さんがどれだけ大変な思いをしてるか……っ』

 中3のあの時……母が恩着せがましく騒ぎ立てた上に、いつものように手を振り上げてきたので、

『やめて』
『!』

 はじめて、母の手を掴んだ。すると簡単に母の手は止まった。
 今まで恐怖のため体が動かず母からの暴力を甘んじて受け続けていたけれども、もう、おれはその気になれば、母を止めることができる、ということに、この時初めて気が付いた。背も、とっくに母を越していたのだ。

 母は一瞬怯えたような表情をしたものの、手で敵わないなら口で、と言わんばかりに暴言セリフを大声で吐き続けていた。でも、おれはもう怖くはなかった。


「あの時も……」
 中3のあの時、母に反抗しようと思えたのは、『渋谷慶』のおかげだった。偶然見かけた『渋谷慶』の光がおれを救ってくれた。

「慶は本当に、おれの救世主だな」
 鉛筆をプラプラさせながら一人ごちて、勉強を再開しようとしたところ、

「………?」

 階下から電話の呼びだし音が聞こえてきた。
 3回、4回……とコールするのに、母が出る気配がない。

 なんだろう? 出かけているのだろうか?
 日曜の朝10時過ぎに外出? 珍しい………

 と、そこへ。

「!」
 バンッと隣の部屋のドアが開く音がして飛び上がった。そして、

「おい! 電話!」
「!!」

 廊下に響く怒鳴り声。……父だ。

「は、はい!!」
 一瞬で血の気が引く。転がるように椅子からおり、部屋からでる。と同時に、

「!」
 バンッと、今度はドアが閉まる音。そしていらついたように物を叩きつけたような音が聞こえてきて身を縮める。

「す、すみませんっ」
 慌てて下までかけおりて、玄関に置いてある電話の受話器を取り上げる。

(こわい……)
 父の機嫌を損ねるのは何よりも恐ろしい。それは小さい頃から変わらない。

(母がおれを支配下に置こうとするのは、おれを父が望む子供にするため)

 そのことにも小学生の時には気が付いていた。おれも母も、父の駒にすぎない……


「はい。桜井です。……え」

 日曜の朝から誰だよ、と心の中で毒づいてから名乗ったのだが、その電話の相手の意外さにビックリしてしまう。

「み……みなみちゃん?」
 慶の妹、南ちゃんだった。南ちゃんはいつものように飄々とした口調で恐ろしいことを言った。


『今ねえ、浩介さんのお母さんがうちに来てるよー』
「え?!」

 うちにって、慶のうちに? おれの母が?!

『それで、うちの子を誘惑するのをやめさせてください!とかうちの親に言って、面白いことになってる』
「!」

 なんてこと……


 フラッシュバックがおこり、一瞬倒れそうになる。

 あれは幼稚園の時……
 せっかく仲良くなれそうだった同じ班の男の子。子供同士のたわいもないやり取りの中で、引っ掻き傷をつけられた。そんなのは痛くもなんともなかったのに、

『人に怪我させるなんて、いったいどんな教育してるんですか!』
 母に引きづられるようにその男の子の家に連れて行かれ、母がその子のお母さんを散々罵り、最後には土下座をさせたのを見てどれだけショックだったか……

 そしてその次の日から、その男の子どころか、他の子からも話かけても避けられるようになった。

『浩介君と遊んじゃだめってママに言われてるの。みんなそうだよ』
 お喋りな女の子が教えてくれた。おれと遊ぶと大変なことになるから遊んじゃダメだって。そして……

『みんな浩介君のこと嫌いになったんだよ』



 慶……
 慶は……何があっても嫌いにならないって……


「今すぐ行くから!」

 南ちゃんの返事を待たずして、受話器を乱暴に置く。


 慶……慶。

 慶、お願いだから……お願いだから、おれを嫌いにならないで。





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コメント (2)
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