交通事故をきっかけに、教え子である高瀬諒君と打ち解けられた。そう考えるとこの肋骨骨折もムダではなかったと思える。
いつも一歩引いたようなクールな雰囲気をまとっていた高瀬君。それが実は幼馴染みの彼への恋心を隠すための仮面だったと分かり……、今現在、めでたく両想いになった彼は、次のステップに進むための相談をオレにしてくれた。
彼である泉優真君が、高瀬君よりも背が低いことを気にして先に進んでくれない、ということだったので、
「誕生日に、童貞卒業をプレゼント! これで決まり!」
そうアドバイスすると、高瀬君は、
「え、えええええっ」
と、叫び……それから「うわ、どうしよう……できるかな……」とブツブツブツブツいいながら、彼のところに戻っていった。
二人は少し触れ合うだけでも、赤面してしまうような初々しさぶりで……
(ああ、いいなあ……)
ちょっと羨ましい。おれと慶にもあんな時代があったなあ。彼らとおれ達、ちょうど10歳違いかあ……。
なんて、遠い目になりながら、二人のことを眺めていた、その時。
「え? わあっ」
突然、膝が後ろからの衝撃でガクンっとなり、倒れそうになった。
「!?」
振り返ると、おれの高校時代からの親友兼恋人の渋谷慶がケタケタ笑っている。
「何ボーッとしてんだよ?」
この光景………
「……………。懐かしい」
「は?何が?」
「……………」
どうせ慶は覚えていないだろう。この「膝かっくん」を慶に初めてされたのは、約11年前。高校一年生の時だ。まだ友達になったばかりの頃……
「あの頃の慶、可愛いかったなあ……」
「だから、何なんだよっ」
ムッと口を尖らせた慶。子供みたい。
(うん。前言撤回!)
おれの慶、今もすっごく可愛い!
「なんでもなーい。大好きーっ」
愛しさ募って抱きつこうとしたら、
「アホかっ」
「痛っ」
ゴンッとグーで額を押し返された。
人前ではつれないのも、昔から全然変わりません……。
***
泉君がこれからアルバイトだそうで、二人は帰ってしまい、慶も仕事のため帰らなくてはならない時間になったので、おれも帰ろうと思ったところ、
「先生、片付け手伝ってくれるよねー?」
「このあと、教室で打ち上げやりますよー?」
ヤマダライトと相澤侑奈に言われ、そのまま残って片付けの手伝いをすることにした。
慶とは昨日の夕方からずっと一緒にいることができて、ものすごく嬉しかったけれど……、幸せの反動、というのだろうか。一緒にいられた後は、どうしようもない寂しさが襲ってきて立ち直れなくなる時がある。こうして大勢でいると少しは気が紛れていいかもしれない。
「相澤さんは大丈夫なの?」
「何がですか?」
打ち上げの席で二人きりになれた時に、相澤侑奈に聞いてみたところ、きょとんと返された。何がって……
「元彼と会うの、辛くない?」
「あ、それか。全然です」
ぷっと吹き出した侑奈。無理しているようにはみえない。
「何て言うか……諒、幼くなったと思いませんか?」
「うん。思う」
高瀬君、表情も柔らかくなった。
侑奈は嬉しそうにうなずくと、
「あれが本当の諒なんですよ。私が好きになった諒はクールで大人の顔をした諒で……でも、そんな諒は本当は存在してなかったんだって、今なら分かります」
「…………」
「今、本当の諒が………小学生の時にいた、可愛い諒が、帰ってきてくれたから」
侑奈は優しく微笑んだ。
「だから、嬉しいです」
「…………そっか」
そう思えるようになるには、たくさんの葛藤があっただろう。でも、今の彼女の瞳は吹っ切れたような美しい光を放っている。
強いな。強い子だ。
さらに、侑奈はニッと笑うと、
「なんで、これからは全力で二人の応援をしていくつもりです」
「え?」
応援って………、え、まさかっ
「相澤さん、知って……っ」
「もちろん。だって二人がくっつくキッカケ作ったの私ですよ?」
「え!? そうなんだ!?」
自分が好きな人の恋を応援するなんて偉すぎる。
「私達、『仲良し3人組』なんです。今までも、これからも」
「仲良し……3人組」
「そう。仲良し、3人組」
3本立てた指を口元にあてて、にっこりとした侑奈はとても可愛くて、つられて笑ってしまった。
きっとこの子なら、二人の良き理解者になってくれるだろう。
(だから、頑張れ。二人とも)
しかし…………
これで、めでたく高瀬君が泉君に抱いてもらえたとして……
(もっと具体的な話しをされたら困るな……)
おれは以前、泉君よりも身長の高い高瀬君が、身長を理由に泉君に抱いてもらえないに違いない……と悩んでいたため、「おれ達は両方している」と思わず嘘をついてしまったのだ。
(今は怪我のせいでやれないけど……)
昨日も結局、手で抜きあっただけで、最後まではやらせてくれなかった。騎乗位だったら大丈夫って言ったのに、慶は過保護過ぎるんだ。
(できるようになったら、お願いしてみようかな……)
慶に、抱いて、と言ってみよう。そうすれば嘘じゃなくなる。そうだ。お願いしてみよう……
そう思いながらも、なかなか慶に言うタイミングもなく、できていないまま一ヶ月近くたったある日。
部活が終わった直後、高瀬君がコッソリとおれのところにきてくれた。
「先生ありがとう」
恥ずかしそうに言った高瀬君。
ああ、うまくいったんだ………とホッとする。
「誕生日の魔法、でした」
「そっかあ……」
夢見るように言う高瀬君がちょっと羨ましい。
おれももうすぐ誕生日だ。誕生日にお願いしてみようかな……
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お読みくださりありがとうございました!
進展のない回でm(_ _)m
冒頭「膝かっくん」の話は「遭逢6(浩介視点)」でした。
高校一年生の5月。浩介が学校に馴染もうと頑張っていて……なんだかもう、いとおしい。
この時、慶159センチ、浩介174センチ。15センチも差があったんだ~(今は13センチ差。164と177です)
そして、お願いした話がこちら→「R18・受攻変更?!」
次回は泉視点……誕生日の魔法に行き着くまでに何があったのか、とかそこら辺の話になると思われます。
明後日更新予定です。どうぞよろしくお願いいたします。
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