お祭りには、途中から桜井浩介先生とその彼女の一之瀬あかね先生も合流した。
桜井先生は何だかやつれた顔で終始ぼんやりしていた。でも、携帯に入ったメールを見た途端、
「ごめん、帰る。じゃあね!」
急に元気になって帰ってしまった。彼女を置いて……(それから少ししてから、あかね先生も帰ったけど……)
「一体なんだったんだろうな?」
桜井先生の謎の行動について言うと、諒は「ああ」とうなずき、
「渋谷さんの仕事が早めに終わったとか、そういうことじゃない?」
「渋谷さん?」
諒の言葉に首を傾げる。なぜ、彼女を置いて友達に会いに行くんだ? しかもあんなに嬉しそうに……
言うと、諒は「あ」と口を押さえた。「マズイ」みたいな顔をして。
「……諒ー?」
「あー……」
両脇を掴んで、ジーーっと正面から顔を見つめてやる。昔から、諒が隠し事をした時はこうして無言で瞳をのぞきこむことにしてるのだ。するといつも一分もたずに白状する。今回も例にたがわず諒は両手をあげると、
「絶対内緒だよ? 侑奈にも内緒だよ?」
と、前置きをしてから、衝撃の事実を教えてくれた。
桜井先生の恋人はあかね先生ではない。あかね先生はカモフラージュ。本当の恋人は、親友の渋谷慶さん、なのだそうだ!
し、しかも……
「ま、マジか……」
あの小柄で中性的な容姿の渋谷さんが、桜井先生のことを抱いている、だってー?!
「ってことは、もしかして!」
諒が色々聞いてる、そういうことに詳しい人って……っ
「桜井先生のことか?!」
「あ、侑奈から聞いたの?」
もー言わないでっていったのにーと口を尖らせながらも、諒はコクンと肯き、
「色々、準備があって……でも、たぶん、大丈夫」
「たぶんって」
「誕生日、あげるからね」
「……っ」
無邪気な笑顔で言われて、くらっときてしまう。
オレと諒以上に身長差のある渋谷さんと桜井先生……そんな二人ができてるってことは、オレも……
(できる……かなあ……)
「泉くーん! 高瀬くーん! おまたせー!」
「おー」
弟の潤君を連れてトイレに行っていたライトに手を振る。ちゃんと兄弟に見えるぞ? ライト。
(血の繋がりとか、肌の色とか、関係ないんだよなあ……)
ふいっと、横にいる諒を見上げる。諒がニコっとしてくれて嬉しくなる。
(性別とか、背の高さとか……)
そういう変な常識に囚われて、ずっと想いを閉じ込めて、嘘に嘘を重ねて……
「諒」
「え」
ぎゅっと手を繋ぐ。
「ちょ、優真、ライトが……」
「………」
慌てた諒の言葉にかぶせるように、さらに手に力をこめる。
「いつかさ」
「う、うん……」
「真っ昼間でも、ちゃんと手繋いで歩ける日がくるといいな」
「………え」
目を瞠った諒に肯きかける。
「いつか、誰にも嘘つかないで、オレ達が付き合ってるって、みんなにちゃんと言いたい」
「…………優ちゃん」
「…………」
もう一度、手に力をこめると、諒も今度はぎゅっと握り返してくれた。
ライトと潤君が目の前にきても手を離さずにいたら、当然ライトがツッコんできた。
「わー、なになに、男同士で手握り合っちゃってどうしたのー?」
「…………」
その言葉に、何か言おうとしたところ……
「それは仲良しだからだよねー?」
潤君がニコニコで言ってくれた。そして、ライトと繋いでいる手をつきだして、
「ほらみて。潤とお兄ちゃんも仲良しになったから手繋いでるんだよー」
「あ、ほんとだ」
「一緒だな」
「え、それとこれとは話が別のような……」
「同じようなもんだ」
「ね」
たたみかけるように言うと、ライトは「え?そうなの?それありなの?」とブツブツいった挙げ句、
「じゃ、オレもユーナちゃんに手繋いでもらおーっと」
いくぞー潤君!と張り切って歩きだした。
「…………。絶対無理だな」
「ね」
二人でクスクス笑いながら、ライト達の後を着いていく。屋台の間の人混みの中、はぐれないように手を繋いだまま……
***
ライトの母親の再婚相手の日村さんは、感じの良いオジサンだった。51歳のオレの父と同年代……と思ったけれど、話を聞いたらまだ46歳だそうだ。髪の毛がかなり後退しているから老けてみえる……。
「こないだ、お祖父ちゃんですか? って言われちゃったんだってー」
と、ライトが楽しそうに話してくれた。日村さんの子供の双子の潤君と実那ちゃんはまだ幼稚園の年長さん。まあ、ない話ではないのか……
「うちの母ちゃんは若くみえるから、そのうち娘さんですか?って言われそうってビビってた」
「…………」
ライトの母親は実年齢は36歳だけれども、見た目は20代前半なのだ。確かに親子に見えなくもなくて、否定してあげることができない。
「それにオレも加わったら、ほんと謎の集団だよね~」
「……確かに」
ライトの言葉に肯いてしまう。
「でも」
侑奈がパンと手を合わせて宣言した。
「一つの集団に見える」
「うん」
「見える」
二人でうなずく。
「家族って言われたら納得する」
「だな」
「うん」
ライトは「そうかなあ……」と首を傾げながらも、少し離れたところにいる母親と日村さん親子を目を細めて眺めていた。
(きっと、家族になれる)
世の中の変な常識とかに流されないで、自分の欲しいものを手にいれられたら、そうしたらきっと、幸せはそこにある。
***
お祭りからの帰り道、いつものように侑奈を送ってから、二人で帰路についた。手を繋いで歩く夜の道。
「潤君、すっかりライトに懐いてたね」
「だなー。それに二人ともライトの母親のことも『あーママ』って……」
「『新しいママ』の略っていうのにはちょっとビックリ……」
うんうん、と肯きながら、手に力をこめる。
「あのぐらいの年齢の子って、なんていうか……余計なものが何もなくていいよな」
「余計なもの?」
「変な常識に囚われてないっていうのかな」
自分があのくらいの年齢だった頃を思い出す。ちょうど諒と出会った頃……
「オレさ……」
「ん?」
振り返った諒の瞳。あの頃と変わらない、守ってやりたくなるような瞳……
「オレ……お前に初めて会った時、『将来、こいつと結婚する!』って思ったんだよ」
「……え」
立ち止まり、目を大きく見開いた諒に、淡々と話し続ける。
「でも、二年生になってからだったかなあ……姉貴たちと母ちゃんに『男同士は結婚出来ない』って聞かされて……」
「………………」
「あの時、そんなこと教えられなかったら、自分の気持ち否定することも、嘘つくこともなかったのにな」
繋いでいる手を両手で包み込む。
「オレが世間の常識なんか気にしないで、ちゃんと告白してたら………そしたらお前も嘘つかないですんだのにな」
「優ちゃん………」
コン、と肩に諒の額が落ちてきた。その愛しい頭を撫でながら、出会った時と同じように、誓う。
「もう、嘘はつかない」
「うん」
「諒、大好きだよ」
「優真……」
大好き、と諒の小さな声が胸のあたりに響いてくる。
なりふりなんてかまってられない。カッコ悪くてもいい。今のオレで、精一杯の愛を伝えよう。
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お読みくださりありがとうございました!
次こそはとうとう!?ああ、ドキドキしてきました……
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