17歳の誕生日前日、約束通り、諒の家に泊まりにいくことになった。誕生日プレゼントを受け取るためだ。
「お前の初めて、オレにくれ」
2週間前、そういったオレに、諒はぎゅううっと抱きついてきて、
「うれしい」
と、ため息まじりに言ってくれた。実は諒もそのつもりだったということは後から聞いた。
ただでさえ諒は女性経験が豊富だ。ガッカリさせないためにも何とかしないと……と、ずっと考えていたのだけれども、結局、なんの対策も立てられないままこの日を迎えてしまった……
方法は噂通り尻穴を使うということは侑奈から聞いた。他は男女と変わらないというので、一応、手持ちのAVやエロ本を見返そうとは思ったんだけど、なんかそれも違う気がして……。
それで兄のパソコンをこっそり使って男同士の方法の検索をかけてみた。でも、見つけたサイトがちょっとエグくて見続けることができなくて……
「変なプライド捨てて、諒にまかせれば?」
「変なプライドって」
誕生日前日、夕飯を食べた後、コソコソと言ってきた侑奈に、ムッとして返す。
「オレはただ諒をガッカリさせたくなくて……」
「別にドーテー君に期待なんかしてないでしょ」
「……………」
「それに」
侑奈は真面目な顔をして言ってくれた。
「諒は泉とそういうことできるってことだけで満足なんだから大丈夫だよ」
「……そういうもんか?」
「そういうもんです」
そして、侑奈は洗い物をしている諒のところにいって、何かコソコソ話しはじめた。諒と侑奈、すっかり小学校の時のノリに戻った感じがする。元恋人とはとても思えない。どちらかというと女子同士のような感じだ……
こうして、侑奈の家で夕飯とケーキを食べて、ガッツポーズの侑奈に見送られ、二人で諒の家に移動したんだけど……
「…………。遅い」
ポツーンと、諒の部屋のベッドに腰かけたまま待つこと30分……。いい加減、緊張の糸も切れて、バタッと横になった。
『シャワー浴びてくるね。ちょっと時間かかるかもだけど、部屋で待ってて』
そう言って諒は浴室に消えていった。『ちょっと時間かかる』って、もう30分だ。ちょっとじゃないだろ……
「まさか嫌になったとか……」
そんなことも薄ら思う。思いながらも、横になったベッドから諒の匂いがしてきて、なんだか幸せな気持ちに包まれてウトウトしてきてしまった。
(そういや昨日の夜、緊張して全然眠れなかったんだった……)
侑奈の料理とケーキでお腹もいっぱいで、余計に眠気が……
それからどのくらいたっただろう。
(………?)
部屋の電気がいつの間に消されていた。体にタオルケットがかけられている。そして、背中に温かいぬくもり………
「………諒?」
「……ん」
体を反転させ、ぬくもりの方に向く。石鹸の良い匂い……
「………懐かしいな」
「うん?」
寝ぼけたように、諒が目をこすった気配がした。そんなところも、懐かしい。こうして泊まるのは小6の時以来だ。
「まだ寝るか?」
「ううん……」
「寝てもいいぞ?」
「寝ないよ……」
「………」
諒の首の下に腕を入れて頭を引き寄せる。諒のぬくもり。諒の匂い………
(あの時も、こうして頭引き寄せてたんだよな……)
諒を恋愛対象として「好き」だと気が付いた小6の夏休み……。
そんなことを思い出しながら、諒の頭を撫でていたら、
「オレね……」
ポツンと諒が言った。
「最後に優真が泊まりに来た時……初めて出たんだよ」
「出た?」
「こうして優真にくっついてたら扱きたくなって、それでコッソリ扱いて……」
「え」
そ、それって……
「あ。呆れてる?」
「あ、いやっ」
心配げに言った諒の頭を再び撫でながら、当時のことをよくよく思い出す。
あの時の諒は、いつもと違ってなんだか妙に色っぽくて……
「それでだったのか……」
「え?」
「もしかしてその後部屋から出て行ったのって」
「あ、うん。下着汚しちゃったから……って、え?」
パッと諒が顔をあげた。
「優真、あの時起きてたの?」
「起きてた」
「うそっ」
叫んだ諒の頬をつーっと撫で、少しおどけて言う。
「んで、お前が部屋戻ってきてから、隠れてシコってた」
「え」
案の定ビックリした様子の諒。ヒヒと笑って続けてやる。
「あの時、お前で勃っちゃってさ」
「………」
「それで、お前のこと好きだって気がついたから、オレ」
「…………」
諒は息を止めたまま、暗闇の中でオレのことをジッと見続けて……
「………同じ時だったんだね」
ため息のように、つぶやいた。
「同じ時?」
「うん………」
諒は泣きそうな声で肯いた。
「オレもあの時、優真のこと好きだって、気が付いたんだよ」
「…………え」
そ、そうなのか?
言うと、諒はクスクスと笑いながら、
「だから、優真にくっついてたら扱きたくなったっていったじゃん」
「あ……そっか」
そういう、ことか……
ため息が出てしまう。
「オレ達、5年も一緒に遠回りしてたんだな」
「うん……」
「…………」
「…………」
そっと唇を重ねる。愛しい感触……
頬を囲み、おでこを合わせ、そしてまた、唇を重ねる……
あの時こうしていたら……
なんて後悔は、もうしたくない。覚悟を決めよう。
「……諒、おれも風呂入っ……、っ」
言いかけて、止まってしまった。諒が首筋に唇を這わせてきたからだ。充分な刺激すぎて、途端に硬化が始まってしまう。
「諒、待……、風呂」
「あとで一緒に入ろ?」
「でも、オレ、バイトから走って帰ってきて、汗かいて……っ」
首筋を舐められ、震えてしまう。諒の唇、諒の舌……
「りょ、汚いって」
「優真の味がする」
「何言って……っ」
「ずっと、こうしたかった。中学の時もね、部活で汗かいてる優真のことみて……ここのとこ、吸いつきたくてずっと我慢してた」
「……っ」
鎖骨の上の柔らかいあたりに舌を這わされ、鎖骨に吸い付かれ、くうっと出そうになった声をこらえる。
代わりに諒の着ているTシャツを捲りあげ、直接肌に触れようとした。……のだけれども、
「ま、待って。待って、優真」
「え」
慌てたように、諒がオレを押しのけた。暗いのでよく見えない。……なんだ?オレなにかまずいことしたか?
「何……」
「あの、オレ……胸とかないからね?」
「……………は?」
言葉の意味が分からない。
「何のことだ?」
「あの……だから」
諒は言いにくそうに言葉を詰まらせると、
「オレ、女の子と違って胸ないけど……いい?」
「何言ってんだ?お前」
意味が分からない。
「当たり前だろ」
「でも……」
つぶやいた諒……暗くて顔が見えないから、どんな表情をしているのかわからない。うーん、と思って立ち上がる。
「ちょっと電気つけてもいいか? さっきから暗くて何も……」
「え、ダメダメダメ!」
暗闇の中、ガシッと腰のあたりを掴まれた。なんなんだいったい。
「なんだよ? これじゃ何がなんだか……」
「このままでいいからっ見えない方がいいから……っ」
「は?」
必死な様子の諒の頭をグチャグチャと撫でてやる。
「さっきっから何言ってんだよ?」
「だから、だから……っ、オレのこと見て優真がやる気なくしたら困るから……っ」
「へ?」
「オレ、男だし、女の子と違って胸もないし、その……っ」
「そんなこと知ってる。毎年プールだって一緒に行ってるだろ」
「………あ」
あ、そっか、とつぶやいた諒。
何を今さらなことを言ってるんだこいつは。
「諒」
暗闇の中、チュッと音を立ててキスをくれてやる。
「お前さあ、さっきっから、女の子と違う、女の子と違うっていってるけどさ」
「うん……」
「あいにくオレは、お前と違って女の胸を触ったこともなければ生でみたこともないからな。比べようないぞ」
「…………あ」
ご、ごめん……、という諒……
いや、謝られるのもフクザツだけど……
「電気、つけるぞ?」
「…………」
部屋の電気でなく、勉強机のライトをつける。眩しいのですぐに背を向け、ベッドの方を向くと、諒は不安げにベッドの脇に腰かけていた。
「諒?」
「優ちゃん……」
不安な瞳に唇を落とすと、諒は泣きそうな声で言った。
「優ちゃん、ホントにいいの……?」
「何言ってんだよ」
こめかみに、頬に、耳たぶに、首筋に、唇を落としながら、重心をかけ押し倒す。
「オレはお前を初めて見たときから、お前と結婚するって決めてたんだからな」
「優ちゃん……」
大好き、と言う言葉は、キスと一緒に吸い込んだ。
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お読みくださりありがとうございました!
一気に最後まで書きたかったのですが、ついつい長くなってしまったため、二回に分けました!
続きは明日お送りいたしますっしつこくてすみません~~っ
泉君ドーテー卒業記念ということでご容赦くださいませっ。
明日、泉視点最終回でございます。ようやく、ご卒業!!
そのあと2回くらい?でこの「嘘の嘘の、嘘」は終わりなのですが、
しばらく書く余裕がないため、2月6日(月)から再開しようと思っております。
でもその前にとりあえず明日、よろしくお願いいたします~。
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