「抱かせて、ほしい」
そう言ったはいいものの……
…………。
どうやるんだ?
噂では、尻穴を使うと聞いている。でも、それが本当のことなのかどうかは分からない。それは単なる噂であって、実際はオレの知らない何かが………
「ありません」
「え、ないのか?」
困った時の侑奈様、で侑奈に聞いてみたら、あっさりと首を横に振られた。
「ないよ。噂通りで大丈夫」
「だ、大丈夫って!」
それメチャメチャ痛そうだし、そもそも入るのか!? ていうか、そのこと諒は知ってて望んでるのか!?
言うと、侑奈はうーん、と言うのをしばし迷ってから、
「……知ってるみたいよ、諒」
「え」
「なんか知り合いで詳しい人がいて、その人から教えてもらって、色々準備してるって言ってた」
じゅ、準備!? ってなんだ!? ていうか、その知り合いって誰だよ!?
「さあ?」
「さあって!!」
部活の誰かか!? オレの知らないところでそんな話………っ
(教えてもらって準備って、まさか、そいつと実践とかしてないよな!?)
頭の中がぐるぐるしている中、侑奈はいたって呑気に、
「まーそういう訳だから、リードは諒に任せればいいんじゃない?」
「何でそうなる!?」
「え、だって分からないんでしょ?」
「でも任せたくないから、聞いてるんだろっ」
そうじゃなきゃ、こんな話しない!
言うと、侑奈はさも面倒くさそうに、
「うるさいなー、じゃあ、諒に聞けば?」
「そんなの聞けるかっ」
「なんで?」
なんでって……
ぐっと詰まってから、本音を言う。
「………。そんなのカッコ悪いだろ」
「は?今さら」
「…………」
鼻で笑われた……
「泉がドーテーってことくらい、諒だって分かってるんだからさー」
「ドーテー言うな!!」
「ホントのことでしょ。ドーテーがカッコつけるなっての」
「だからドーテー言うなーーー!」
わーわー不毛な言い争いをしていたところで、
「何二人でそんな盛り上がってるの?」
「わわわっ」
当の本人が来たので慌てて話を止める。キョトン、とした顔が抜群に可愛い諒。
(なんか、ホント最近可愛くなったよな……)
相当フィルターかかってるのかもしれないけれど、オレと付き合うようになってから、諒は日に日に「可愛く」なってきている。顔の作り自体はクールでカッコいい諒のままなんだけど、オレに向ける表情は、小学生の時の頼りなげなものにすっかり戻っていて、口調までもその頃のものに戻りつつある。
(今まで無理してたんだよな……)
オレへの想いをずっと隠していた、と言っていた諒。そのために、オレの呼び名も変えていたのだそうだ。そんな風に無理して、自分を作ってきたなんて……
(オレが勇気を出していれば……)
オレだってずっと諒のことを想っていた。そのことに気が付いた小学6年生の時、周りの目なんか気にせずに、勇気をだして告白していたら、こんな無理をさせることもなかったのに……
(もう、そんな思いはさせない)
ちゃんと想いを告げて、想いを受け止めて、それで……
………………。
どうやるんだろう……
って、また、ここに戻ってきてしまった……。
***
今日は夏祭り。
侑奈は毎年浴衣を着てくる。亡くなったお母さんから着方を習っていたそうで、自分で着られるのだ。日本に戻ってきて初めての夏祭りの時に、他のクラスメートが浴衣を着ていないことや、着ていても、誰かに着付けてもらっているということを知って、とても驚いていた。
「ママに騙された。日本じゃみんな自分で着るっていうから練習したのに……」
当時、侑奈はそう言って頬を膨らませていたけれど、これこそ確かに残された母親の形見なのだと、今なら分かる。浴衣を着た侑奈はいつもにも増して凛として美しい。
「あ、やだ、ひっかけた?」
待ち合わせの時間寸前、侑奈が髪の毛に手をやって眉をよせた。ぱらついてきた雨に傘をさしていたけれど、止んだので閉じようとしたところ、引っかけてしまったようだ。キレイに結われていたのに崩れてしまっている。
「あ、直すよ」
自然な感じに諒が侑奈の髪を直し始める。
懐かしい。諒は昔はよくこうしてオレの妹や侑奈の髪を結っていた。それに、オレの髪をサルの毛づくろいみたいによくいじっていた。でも、小6の夏休み明けからピタリとそれはなくなり……
(……あ)
考えてみたら、歴代の彼女、全員髪の毛わりと長くないか? そういえば「一回限り」の女には、ショートカットの女がいたことはあったけれど、「彼女」として付き合ってた女は、揃いも揃って肩につく以上の長さの髪の女ばかりだ!
侑奈も髪を肩より短くしたことないし、諒の美人な母親も、ずっと綺麗な長い黒髪だし、諒の周りの女はみんな髪が長い……
「…………」
真剣な表情で侑奈の髪をセットする諒の横顔。オレに見せる幼い表情とは違って、なんだかカッコいい……
(歴代の女にもこういうことしてたんだろうなあ……)
そうして、何人もの女と関係を結んできた諒……
(やっぱり経験値が違いすぎる……)
ため息しかでてこない……
と、そこへ。
「わ~~ユーナちゃん浴衣~!かわい~!」
「!」
ライトの明るい声に我に返った。
10日ほど前に会った時は、暗い声をしていたのに…………、と?
「あ」
「あ」
「あ」
思わず、三人で顔を見合わせて「あ」と言い合ってから、
「ライト!」
一斉にライトと、ライトに肩車された男の子に向かって手を振った。
ライトから少し遅れて、ライトの母親と、オレの父親と同年代くらいの男性、その間に二人に手を繋がれた女の子。
「………馬鹿ねえ」
侑奈が嬉しそうにつぶやいた。
「変な心配しなくても、ちゃんと家族に見えるじゃないのよ」
「だな」
「うん」
オレ達も肯く。
どこからどう見ても、彼ら5人は一つのまとまりとして、そこに存在していた。
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お読みくださりありがとうございました!
まだ続くのですが、長くなってしまったのでとりあえずここまで……
続きは明日、更新したい(希望)。
だってさー、もう、早くやっちゃいなさいよ君たち!って感じじゃん!
そのシーンが書きたくてここまで書いてきたんだからさー(←え)
でもまだ8月18日……泉の誕生日は22日です。
クリックしてくださった方、読みにきてくださった方、本当にありがとうございます!!
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