僕らは近くの地方競馬場にタクシーを乗りつけた。周りはみな新聞をもったおじさんたち……と思いきやけっこう若いカップルも多いので僕達二人はそんなに浮いていなかった。
「名前がかわいいからこの馬―」
「ピンクの帽子がいかしてるからこの馬―」
アサコさんはそんなアホな理由で、全然人気のない馬に平気で五千円もかけている。当然あたらない。アサコさんは派手に笑いながら自分の買った馬を応援して、負けると馬券を細かく破いて桜吹雪をまわしている。
「オレ何してんだろこんなとこで……」
アサコさんのはしゃぐ声をききながら自問自答する。なんで死を決心したその日に競馬場で知らない女の人と遊んでるんだ?
まずいコーヒーを飲みながら(死んでしまったらこれをマズイと思うこともないんだなあ……)なんて考えていると、
「今度は正ちゃん選んでよ」
マークシートカードをつきつけられた。
「……じゃ、あの馬」
パドック中継をみながら一頭を指差した。小さいが栗色の毛並みがとてもつややかな馬。
「二番のライトファンサーね。んじゃあと一頭は……五番の『アサコクイーン』にしよっと。名前がいいでしょ?」
二―五の倍率は……六十三倍。来るわけないなこれは。
「そんじゃこんどは一万えーん。きたら六十三万かあ。そしたら焼肉いこう。焼肉」
「無理ですって。そんな皮算用して裏切られたらがっくりきますよ……っていてててて」
「なーに夢のないこといってんの」
頬をつねられてそのまま上にひっぱられる。
「自分の目、信じなさいよ」
アサコさんのまっすぐな瞳とぶつかる。驚くほど澄んだきれいな瞳だ。
動悸がやまない僕をほっぽりだしてアサコさんは馬券を買いにいってしまった。
「……自分の目なんか信じられないよ」
誰にいうでもなく僕はつぶやいた。
「名前がかわいいからこの馬―」
「ピンクの帽子がいかしてるからこの馬―」
アサコさんはそんなアホな理由で、全然人気のない馬に平気で五千円もかけている。当然あたらない。アサコさんは派手に笑いながら自分の買った馬を応援して、負けると馬券を細かく破いて桜吹雪をまわしている。
「オレ何してんだろこんなとこで……」
アサコさんのはしゃぐ声をききながら自問自答する。なんで死を決心したその日に競馬場で知らない女の人と遊んでるんだ?
まずいコーヒーを飲みながら(死んでしまったらこれをマズイと思うこともないんだなあ……)なんて考えていると、
「今度は正ちゃん選んでよ」
マークシートカードをつきつけられた。
「……じゃ、あの馬」
パドック中継をみながら一頭を指差した。小さいが栗色の毛並みがとてもつややかな馬。
「二番のライトファンサーね。んじゃあと一頭は……五番の『アサコクイーン』にしよっと。名前がいいでしょ?」
二―五の倍率は……六十三倍。来るわけないなこれは。
「そんじゃこんどは一万えーん。きたら六十三万かあ。そしたら焼肉いこう。焼肉」
「無理ですって。そんな皮算用して裏切られたらがっくりきますよ……っていてててて」
「なーに夢のないこといってんの」
頬をつねられてそのまま上にひっぱられる。
「自分の目、信じなさいよ」
アサコさんのまっすぐな瞳とぶつかる。驚くほど澄んだきれいな瞳だ。
動悸がやまない僕をほっぽりだしてアサコさんは馬券を買いにいってしまった。
「……自分の目なんか信じられないよ」
誰にいうでもなく僕はつぶやいた。