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(GL小説)風のゆくえには~光彩3-1

2015年03月02日 11時00分36秒 | GL小説・風のゆくえには~ 光彩
(ばかばかばかばかっ私のばかっ)

 運動会の能天気なBGMが余計に腹立だしい。

(なんであんなこと言ってしまったんだろう……)

 って、原因は分かっている。昔から自己分析は得意だ。
 今回の失言の原因は、若さへの嫉妬とあかねに対する苛立ち、だ。

 20年前は、あかねが誰にちょっかいだそうが気にならなかった。
 いや、気にならなかった、というのは語弊がある。本当は内心面白くなかったのだから。でも、「気になっていないように見せる」ことに苦はなかった。

 なぜなら、私は、あかねの一番の理解者でありたかったから。

 あかねの女癖の悪さは、母親との確執が原因だと分析している。おそらく本人は無自覚だろう。
 彼女は愛情を欲している。欲しているのに、いざ過度に愛情を受けると、愛され慣れていない彼女は逃げ出したくなってしまう。

 あかねは束縛を嫌っていた。だから『自分を追い求めない綾さん』のことをあかねは好きだったのだろう。

 私も私で、家庭環境の影響か、我慢すること・求めないこと、が身についてしまっているので、『追い求めない余裕のある年上の女性』という立ち位置は居心地が良かった。いつでも一歩引いて、溺れすぎないよう気をつけていた。

 どんな女の子でも、私にはかなわない。私だけがあかねを理解している。あかねは必ず私のところに帰ってくる。そんな妙な自信もあった。

 でも、それは私が若かった時の話。
 由衣先生の張りのある肌、艶やかな髪。当時の私にあって、今の私にはないもの。
 彼女があかねに寄り添うように座った姿を見て、自分でも驚くほどカッとなった。

「あかねっ」

 思わず叫んでしまってから、慌てて「……先生」と付け加えた。
 ああ……自己嫌悪、だ。
 もう恋人でもなんでもないくせに、何を嫉妬しているのだろう。おとなげない。

 それにそれ以前に、私たちはもう、担任と保護者という関係だ。これからどうこうできる話でもない。

 前回再会した個人面談から今日までの約1か月、あかねから何の音沙汰もなかった。あったらあったで困っただろうに、勝手に期待して、勝手に落ち込んでいた。やはり、劣化した私をみて幻滅したのだろう、と……。

 もう気持ちを切り替えようと思っていたのに、さっきのあかねの『3月に綾さんを見つけてからは、全員手を切った』というセリフ…。

 なぜ、あかねは私を惑わせる言動ばかりするのだろう。由衣先生のような若くてかわいい女の子が近くにいるくせに……と猛烈に腹が立った。そうしたら、自然と言葉が出てきてしまったのだ。

『あかねが誰と何をしようと、私には関係のない話』

 まあ、これはともかくとして……

『付き合ってたころだって、あなたは散々遊んでたものね?』

 こちらは、本当に悔やまれる失言だ。
 なぜ今さら20年も前のことを言ってしまったのだろう。やっぱり、内心面白くなかったという恨みが、20年で熟成されて出てきてしまったのか……。
 「大人で余裕の綾さん」像があかねの中で崩れてしまったに違いない。

 ああ、だから会いたくなかったのだ。
 あかねの記憶の中には、昔のまだ若くて、それでいて大人な私のままでいたかったのに……。


「綾!」
「!」

 考え事に没頭していてまわりが見えていなかった。夫に呼ばれ、驚いて飛び上がる。

「早く来てくれ。美咲がどこにいるのか分からなくて、母さんが苛立ってる」
「は、はい」

 だーかーらー、立ち位置は昨日プリントで説明したでしょ!……って言葉を飲み込み、急いで観客席にいる義母の元にいく。

「ああ、綾さん、どこ行ってたのよ!」
「すみません……」

 義母がオペラグラスを片手に目を吊り上げている。

「みんな同じ格好しているから分からないわ。えーと? 左から7列目の……?」
「前から2番目です。あ、ほら、今、立ち上がって片手をあげている……」

 一応プリントを見ようと努力していたところは買いましょう。
 義母は「分かりにくいわね……」とブツブツ言っていたが、すぐに気がつき、パッと表情を明るくした。

「あ!いたわ!まあ~~かわいいわね~~」
「…………」

 良かった良かった……。まあ、同じ衣装を着た似たような子が150人以上いるのだ。見つけるのは大変だ。
 去年はどうしてたのかしら? と不思議になる。
 私は去年の運動会は見に来ていない。義父の介護があって家を空けることができなかったのだ。
 それで後でビデオで見たのだけれど……

「健人は?」
「あっちでビデオ撮ってる」

 夫が美咲の姿を目を細めてみながら答える。

 私達、まわりからは何の問題もない仲の良い家族に見えるんだろうな、と思う。
 孫の応援に必死のおばあちゃん。愛おしそうに娘を見つめる父親。妹のためにビデオを撮る兄。
 美咲のおかげで何とか形を保っている家族。

 演技の最後、美咲は本当にど真ん中のセンターだった。ミラミッドの頂点で両手を挙げてポーズ。そしてそこから宙返りをしながら降りてきた。会場がワッと盛り上がる。美咲は小さいころからダンスを習っていて、かなり本格的に鍛えているので、この程度のことは何の苦も無くやってのけてしまうのだ。
 中央で拍手を浴びる美咲。美咲の明るさ、華やかさは、義母や夫譲りだ。私には存在しないオーラ。

「やっぱりラストはもうちょっと引きで撮ればよかったかな……」
 健人がビデオを確認しながらブツブツいっている。健人は高校・大学と映画部に所属していて、ビデオやカメラの撮影にはちょっとうるさい。

「ああ、みいちゃん可愛かったわね~良かったわ~」
 義母が満足そうにうなずいていると、夫がその横に立ち、
「じゃ……母さん、おれ、もう行くから……」
「あらそうなの?」
「うん、実は……」
 何かコソコソと話している。

(行くんだったら、健人に気づかれる前にさっさと行けってのっ)
 内心イライラしながら夫を見ていると、
「じゃあ……」
 私にも軽く手をあげてから、夫はそそくさと人ごみの中に紛れていった。
 ちょうど午前の部が終わり、昼休みに入るところだ。

「なに、あの人……こんな日まであっちに行くんだ?」
 父親が行ってしまったことにすぐに気がついた健人が呆れたように言う。すると義母がフォローするように、
「保育園の父親参観なんですって。でも、美咲を見たいから今までこっちにいたけど、これから遅刻して行くって」
「はあ?なにそれ。それで恩売ってる感じ? 意味わかんなくない?」
「健人」

 そっと健人の腕に触れると、勢いよく振り払われた。

「一番意味わかんないのはお母さんだよ。なんで……」
「おばあちゃーーーん!!!」

 びっくりするくらいの大きな声が聞こえてきて、私も健人も動きが止まってしまった。美咲だ……

「!」

 振り向いて、さらに固まった。
 美咲が、あかねの腕を引っ張ってこちらに向かってきている。

(き……気まずい……)
 もう、色々な意味で気まずい。何もかもが気まずい。

「おばあちゃーん! 美咲どうだったー?」
「可愛かったわよ~みいちゃ~ん」

 きゃあきゃあと騒ぐ二人。やっぱりこの二人、似ていると思う。

「あかね先生! うちのおばあちゃん。美人でしょっ若いでしょっ」
「はじめまして。担任の一之瀬あかねです」
 あかねがニッコリと義母に笑いかけると、義母が、まあまあ!とはしゃいだ声をあげた。

「まあ~!いつも美咲がお世話になってます~。本当に女優さんみたいな先生ね!」
「でしょでしょ?!」

 あかね、先生モード。よそいきの顔で澄ましてる。
 クルリとこちらを向くと、

「佐藤さん、先ほどはありがとうございました」
「あ……いえ……」

 わざとですか?!その落ちつきっぷり!おちょくってんの?!
 内心色々ぐるぐる回っているのを、どうにかこうにか押し込める。

「先ほどって、綾さん、何かしたの?」
「そうそう、ママすごかったんだよー! あっという間にこの服作っちゃったの!」
「え?」

 事情が飲み込めず首をかしげている義母をおいて、美咲は今度は健人の腕を引っ張ると、

「でね!先生、私のお兄ちゃん! 大学一年生! かっこいいでしょ?」
「はじめまして」
 にっこりと、女優オーラ満開であかねが微笑む。あかねは自分がどうすれば一番魅力的に見えるのか分かっている。

「はあ……どうも……」
 案の定、健人がドキマギしたように頭を下げる。

「ねえ、お兄ちゃん、写真撮って!写真! あかね先生とツーショット~」
「ああ……」
 美咲のテンションの高さに押されたまま、健人がカメラを取り出す。

 校舎を背に、あかねに肩を抱かれながらピースサインをする美咲。
 我が娘ながら、かわいい。天真爛漫という言葉がよく当てはまる。
 そして、あかねはあいかわらず、写真を撮られ慣れている笑顔。

「せっかくなので、おばあ様、お母様もご一緒に?」
「え……」

 にっこりと他意などまったくありません、という顔をしてあかねが言う。
 一緒に写真なんて……

「あら!こんなおばあちゃんが一緒でいいのかしら?」
 義母が嬉しそうにあかねの横に並んだ。

「ほら綾さんも!」
「いえ、私は……」
「ほら、早く! 先生だってお忙しいでしょうっ」
「ママ、早くー」

 二人に手招きをされ渋々美咲の横に行く。
 義母、あかね、美咲、私、と並ぶと、あかねだけが頭一つ高い。

「もうちょい寄って」
 健人に手で寄せる仕草をされ、義母と美咲がきゅっとあかねにくっついた。私も美咲と重なるように立つ。

「んじゃ、撮るよー」
「はーい」
「!」

 ざわっと背筋に電気が走った。 

(この……っ)
 チラッとあかねを見たが、素知らぬ顔をして正面を向いている。

「お母さん? いーい?」
「う、うん」

 なんとか冷静を装おうとしたが、絶対顔が赤くなっていると思う。
 背中から腰にかけて、すうっと手の甲がすべり落ちてきた。そして細い指が腰のあたりをいやらしくなぞっている。
 知ってる。この指を知っている。何度も何度も愛撫してくれた指。私が一番感じるところに触れることのできる指。

(あーかーねーっ)

 なんなのよーーー!!

 写真を撮り終わり、「先生にもあげるからねっ」とはしゃいで言う美咲に、「よろしくね」と何事もなかったかのようにニコニコしているあかね。そして、「午後も頑張ろうね」と、先生らしく言うと、

「それじゃ、おばあ様、お母様、お兄さん、午後も応援よろしくお願いします」
 完璧な先生スマイルで会釈をし、校舎の中に向かって歩きかけた。が、ふと、思いついたように振り返った。

「佐藤さん、先ほどの件なんですけど……」
「…………」
 睨み気味に見上げると、あかねは、おそろしく嬉しそうににーーーーーっこりと笑い、

「決めました。私」
「はい?」
 この顔………見たことある。これは、オーディション前の戦闘モードのあかねの顔。
 あかねはすっと身をかがめると、私の耳元に顔を寄せた。

「…………あなたをもう一度手に入れる」
「?!」
 はっとふり仰ぐと、あかねは指を一本立てて口元にあて、極上の笑みを浮かべ、

「なーんて、ね」
「………………………」
 そして鼻歌まじりに行ってしまった。

 ……冗談? 何? なんなの?!

「マーマー、お弁当食べようよー」
 美咲の声が聞こえてくる。私の頭の中はパンク寸前だ。



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うーん。あかねを制御できなくなってきた私。
最後のとこ絶対、綾さんに睨まれてゾクゾクしてんだろーなー。Mですな。

ということで。続きは明々後日。5日(木)に。
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