『嫉妬に怒り狂った恋する男の顔をしてる』
そう、橘先輩に指摘された日、おれは自分自身と一晩中向き合ってみた。でも、何度否定しても、出てくる結論は同じだった。
慶のことが好き。
そう認めたら、何もかもに合点がいった。バラバラだったパズルのピースが一気に正しくはめ込まれた感じだ。
けれども、おれたちは親友で、しかも男同士で。そんな気持ちを打ちあけたら、嫌われて、今までの関係が崩れてしまうと思った。
それだけは嫌だった。おれは慶のそばにいたい。それだけは譲れない。だから、自分の気持ちを押し隠すしかないと思った。
だけど……どうしても会いたくて、会いたくて、触れたくて………。
我慢できずに、12月23日の祝日、バスケ部の練習の帰りに慶の家に行った。でも、慶は外出中で……。
気が抜けた拍子に思わず慶の妹の南ちゃんに、思いの一端を話してしまったら、南ちゃんに冷静に諭された。
『思いっていうのは、言葉にしないと伝わらないよ。ちゃんと言葉にしないと』
南ちゃんの言葉には説得力がある。
でも、伝えて嫌われたら………
『そんなことで嫌われるような関係じゃないでしょ? 二人の絆ってそんなもん?』
言われて、はっとする。
そんなものではない……はずだ。何があっても、一緒にいられる。一緒にいたい。
『頑張って!』
思いきり背中を押された。
そのまま勇気をだして、駅前のクリスマスツリーの下で慶を待ち伏せして………
『慶のことが好き』
一世一代の告白をした。
そして………
昨晩は、一睡もできなかった。
『ずっとずっと好きだった』
慶がいってくれた言葉が頭の中をグルグルグルグル回っている。
両想い。そんな夢みたいなことがあっていいのだろうか。
眠ったら、夢から覚めてしまうのではないだろうか。
そう思ったら、まったく眠れず、ひたすら、慶との今までのことを思い出しながら夜が明けるのを待った。
一年以上前からおれのことが好きだったと言ってくれた慶……
一年以上前……。おれのことを『浩介』と名前で呼んでくれるようになったころだろうか……
おれと一緒にいるときが一番楽しいっていってくれたのも、おれのことを全部知りたいっていってくれたのも、そういうことだったのかな、と思うと、気がつかなくてごめんねって気持ちと、すっごく嬉しい。嬉しすぎるって気持ちで、顔がニヤケてしょうがなくなる。
でも、本当に夢みたいで……慶に会わないと信じられない。
そう思ったらいてもたってもいられなくて、いつもよりも30分早く登校した。
窓際の自分の席に座りながら、ボーっとしていると、頭の中は昨日の慶のことでいっぱいになってくる。
昨日、少しだけ寄った川べりの土手。二人で並んで座って、ギュッと手を強くつないで、何度も何度もキスをした。
こめかみのあたりにキスをすると、慶がくすぐったそうに首をすくめる。それが可愛くてしょうがなくて、こめかみや瞼や頬やおでこにキスの嵐を降らせていたら、
「お前しつこいっ」
慶が笑いながらおれの胸にぎゅうっと頬を寄せて、腰に手を回して抱きついてきたので、よいしょって慶を持ちあげて足の間に座らせて、後ろからぎゅううっと抱きしめて、うなじにキスをして……
「はよーっす」
「!」
慶の声に我に返る。慶……いつもより早い。
「おー?渋谷早いなー?」
「ちょっとな」
委員長の長谷川に声をかけられ、軽く手を挙げて答えた慶。
いつも通り……いつも通りだな。いつも通り爽やかだ。
慶はそのまま真っ直ぐにおれのところまで歩いてくると、
「………はよ」
「………慶」
立ったまま、座っているおれをジッと見下ろしてきた。
「あの……」
「うん」
慶の左手が、机の上に置かれたおれの右手の上に、そっとのせられる。
そして、ボソリ、といわれた。
「昨日のこと……夢じゃ……ないよな?」
「………」
慶の瞳が不安げに揺れている……
(夢じゃないよなって……)
慶……慶。
(か……可愛すぎるっ)
思わずニヤケてしまいそうなのをこらえて、のせられた手を掴む。
「夢じゃないよ」
「…………」
ぐっと引っ張り、寄ってきた耳元にささやく。
「大好きだよ」
「……………」
慶の瞳に安堵の光が灯る。
ああ、可愛い。可愛い慶。
慶の温かい手がおれの目元をスッとなでてきた。
「お前、目、赤いな。寝不足か?」
「うん。寝たら夢が覚めちゃいそうで怖くて眠れなかった」
「………ばーか」
慶は柔らかく笑うと、おれの頬をきゅっとつまんだ。
「夢じゃない。夢じゃない……」
「慶………」
慶の笑顔……
ああ、もう、我慢できないっ!
「けいーーー! 大好きーーー!!」
「うわっ」
立ち上がってぎゅううっと抱きしめると、慶がバタバタと暴れ出した。
「お前何すんだよっ!離せっ」
「えーいいじゃんいいいじゃんっ」
「よくねーよ!!」
二人で揉みあっていたら、後ろの席の山崎が登校してきて、呆れたように言った。
「二人とも何やってんの?」
「おおっ山崎っ助けてくれっ浩介が壊れたっ」
「壊れてないっ慶っ大好きだよっ」
「はーなーせええええっ」
本気で押されて、腕の中から慶が出ていってしまった。あーあ……
むーっとしていたら、今度は溝部がやってきた。
「男同士でじゃれあっている、そこの寂しい二人」
「ああ?」
慶が「あ」に濁点をつけて振り返る。
「何だと?」
「寂しい二人に朗報です。今夜のクリスマスイブ、パーティをします。もちろん女子も誘って!」
「…………」
横目で慶を見る。
昨日、おれたち「明日はクリスマスデートしよう」って約束したんだけど……
慶、どうするのかな……パーティ行くって言うのかな……
内心ドキドキしながら、慶の様子を見ていたら、慶はあっさりと、
「ああ、悪い。おれパス。今日予定入ってる」
「なんだとー!!」
溝部が慶に掴みかかる。
「ま、まさか、デートとか……」
「そうそう。デート」
慶、溝部の手を剥がしながら、無表情に肯いている。
「誰だよ!相手誰だよ!」
「教えねー絶対教えねー」
表情を崩さない慶に、溝部が今度はおれに掴みかかってきた。
「お前知ってるだろ? 渋谷の相手! 誰なんだよ?!」
「あー……うん」
必死な溝部に、ニッコリと笑いかける。
「おれ。デートの相手、おれだよ?」
「はあああ? 冗談言ってねーで教えろって!」
「だからおれだってー」
言っても一向に信じてもらえない。本当なのになあ……。
笑いをこらえている慶を見て、溝部が怒り出した。
「もういい! お前らは誘ってやらねえ! 山崎! お前は来るよな?」
「女子って誰がくるんだ?」
「とりあえず、鈴木は決定」
「鈴木?」
「鈴木!?」
「鈴木さん!?」
思わず3人で声を揃えてしまう。
「お前ら仲悪いんじゃねえの?」
「べ……つに、悪くねえよ……」
溝部が照れてる……。へええ……。
「まあ、頑張れ」
「うるせえっ」
慶の言葉に溝部は怒りながら席に戻っていってしまった。
「鈴木かあ……難しいだろうな」
席につきながら山崎が言うので「なんで?」と二人で聞くと、
「前に文化祭のメニュー班で喋ってた時に言ってたんだけど、鈴木、同じ歳の男は眼中ないんだって。年上の大人の男が好きなんだって」
「あー……そうなんだ……」
残念ながら、溝部は言動その他かなり子供っぽい……。
「好きな人に好きって思ってもらえるのって、ホント奇跡みたいなことだよなあ」
「…………」
「…………」
山崎が頬杖をつきながらつぶやいた言葉に、思わず慶を見ると、慶もおれのことを見ていて……
「ホントだな。奇跡だな」
「うん……奇跡だね」
誰からも見えないところで、キュッと指を絡める。
愛おしい気持ちが伝わってくる……
奇跡だ。
慶との何もかもは奇跡としか言いようがない。
でも……
「……慶」
「ん」
慶の恥ずかしそうな瞳に、愛おしさがあふれてどうしようもなくなる。
慶の隣にはおれがいる。おれの隣には慶がいる。それは奇跡なんかじゃなくて、これからはもう、当然のことにしたい。
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お読みくださりありがとうございました!
まだ、「キスをした」っていっても、触れるだけのカワイイキスしかしてない初々しい二人です。
クリスマスイブイブの告白の話が終わったので、今まで非公開にしていた読切『影日向(南視点)』を公開にしました。
2014年12月1日に書いた、南視点のお話です(1年3ヶ月前の私、今と違って改行空欄少ない。そして文章がアッサリしてる……)。
上記の『思いは言葉にしないと伝わらないよ』って話の詳細です。南ちゃん、影となり日向となり2人の関係を応援しています。
今後のことなんですが…。
約4か月前に「高校時代に作ったプロットを元に高校時代の話を書こう」と思った時には、両思いになるこの『巡合』まで書ければいいや、と思っていました。
でも実はこのプロットには続きがありまして……。ええ。続きがあるんです。高校2年生の終わりまで。
でも、なんというか、話が地味で、後半は特に全然BLじゃなくなっちゃうし……。
ということで、書くのを迷っていたのですが、この際だから書くことにしました。つまんないけどいいの。私が読みたいから!
ただ、これから春休み期間に入りパソコンを使える時間が限られる関係で、更新頻度が落ちるか、一回の更新量が減るか、どちらかになると思われます。
それでもお付き合いくださる心優しいお方、もしいらっしゃいましたら今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
とりあえず、明後日『巡合』は最終回です。どうぞよろしくお願いいたします。
クリックしてくださった方、本当にありがとうございます!おかげさまで次回最終回になります。どうぞよろしくお願いいたします。ご新規の方もどうぞよろしくお願いいたします!


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