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BL小説・風のゆくえには~巡合12-1(浩介視点)

2016年03月20日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 巡合


『嫉妬に怒り狂った恋する男の顔をしてる』

 そう、橘先輩に指摘された日、おれは自分自身と一晩中向き合ってみた。でも、何度否定しても、出てくる結論は同じだった。


 慶のことが好き。


 そう認めたら、何もかもに合点がいった。バラバラだったパズルのピースが一気に正しくはめ込まれた感じだ。
 けれども、おれたちは親友で、しかも男同士で。そんな気持ちを打ちあけたら、嫌われて、今までの関係が崩れてしまうと思った。
 それだけは嫌だった。おれは慶のそばにいたい。それだけは譲れない。だから、自分の気持ちを押し隠すしかないと思った。

 だけど……どうしても会いたくて、会いたくて、触れたくて………。
 我慢できずに、12月23日の祝日、バスケ部の練習の帰りに慶の家に行った。でも、慶は外出中で……。

 気が抜けた拍子に思わず慶の妹の南ちゃんに、思いの一端を話してしまったら、南ちゃんに冷静に諭された。

『思いっていうのは、言葉にしないと伝わらないよ。ちゃんと言葉にしないと』

 南ちゃんの言葉には説得力がある。
 でも、伝えて嫌われたら………

『そんなことで嫌われるような関係じゃないでしょ? 二人の絆ってそんなもん?』

 言われて、はっとする。
 そんなものではない……はずだ。何があっても、一緒にいられる。一緒にいたい。

『頑張って!』

 思いきり背中を押された。
 そのまま勇気をだして、駅前のクリスマスツリーの下で慶を待ち伏せして………


『慶のことが好き』


 一世一代の告白をした。



 そして………



 昨晩は、一睡もできなかった。

『ずっとずっと好きだった』

 慶がいってくれた言葉が頭の中をグルグルグルグル回っている。

 両想い。そんな夢みたいなことがあっていいのだろうか。
 眠ったら、夢から覚めてしまうのではないだろうか。

 そう思ったら、まったく眠れず、ひたすら、慶との今までのことを思い出しながら夜が明けるのを待った。

 一年以上前からおれのことが好きだったと言ってくれた慶……
 一年以上前……。おれのことを『浩介』と名前で呼んでくれるようになったころだろうか……
 おれと一緒にいるときが一番楽しいっていってくれたのも、おれのことを全部知りたいっていってくれたのも、そういうことだったのかな、と思うと、気がつかなくてごめんねって気持ちと、すっごく嬉しい。嬉しすぎるって気持ちで、顔がニヤケてしょうがなくなる。


 でも、本当に夢みたいで……慶に会わないと信じられない。
 そう思ったらいてもたってもいられなくて、いつもよりも30分早く登校した。

 窓際の自分の席に座りながら、ボーっとしていると、頭の中は昨日の慶のことでいっぱいになってくる。

 昨日、少しだけ寄った川べりの土手。二人で並んで座って、ギュッと手を強くつないで、何度も何度もキスをした。
 こめかみのあたりにキスをすると、慶がくすぐったそうに首をすくめる。それが可愛くてしょうがなくて、こめかみや瞼や頬やおでこにキスの嵐を降らせていたら、

「お前しつこいっ」

 慶が笑いながらおれの胸にぎゅうっと頬を寄せて、腰に手を回して抱きついてきたので、よいしょって慶を持ちあげて足の間に座らせて、後ろからぎゅううっと抱きしめて、うなじにキスをして……



「はよーっす」
「!」

 慶の声に我に返る。慶……いつもより早い。

「おー?渋谷早いなー?」
「ちょっとな」

 委員長の長谷川に声をかけられ、軽く手を挙げて答えた慶。
 いつも通り……いつも通りだな。いつも通り爽やかだ。

 慶はそのまま真っ直ぐにおれのところまで歩いてくると、

「………はよ」
「………慶」

 立ったまま、座っているおれをジッと見下ろしてきた。

「あの……」
「うん」

 慶の左手が、机の上に置かれたおれの右手の上に、そっとのせられる。
 そして、ボソリ、といわれた。

「昨日のこと……夢じゃ……ないよな?」
「………」

 慶の瞳が不安げに揺れている……

(夢じゃないよなって……)

 慶……慶。

(か……可愛すぎるっ)

 思わずニヤケてしまいそうなのをこらえて、のせられた手を掴む。

「夢じゃないよ」
「…………」

 ぐっと引っ張り、寄ってきた耳元にささやく。

「大好きだよ」
「……………」

 慶の瞳に安堵の光が灯る。

 ああ、可愛い。可愛い慶。


 慶の温かい手がおれの目元をスッとなでてきた。

「お前、目、赤いな。寝不足か?」
「うん。寝たら夢が覚めちゃいそうで怖くて眠れなかった」
「………ばーか」

 慶は柔らかく笑うと、おれの頬をきゅっとつまんだ。

「夢じゃない。夢じゃない……」
「慶………」

 慶の笑顔……

 ああ、もう、我慢できないっ!

「けいーーー! 大好きーーー!!」
「うわっ」

 立ち上がってぎゅううっと抱きしめると、慶がバタバタと暴れ出した。

「お前何すんだよっ!離せっ」
「えーいいじゃんいいいじゃんっ」
「よくねーよ!!」

 二人で揉みあっていたら、後ろの席の山崎が登校してきて、呆れたように言った。

「二人とも何やってんの?」
「おおっ山崎っ助けてくれっ浩介が壊れたっ」
「壊れてないっ慶っ大好きだよっ」
「はーなーせええええっ」

 本気で押されて、腕の中から慶が出ていってしまった。あーあ……

 むーっとしていたら、今度は溝部がやってきた。

「男同士でじゃれあっている、そこの寂しい二人」
「ああ?」

 慶が「あ」に濁点をつけて振り返る。

「何だと?」
「寂しい二人に朗報です。今夜のクリスマスイブ、パーティをします。もちろん女子も誘って!」
「…………」

 横目で慶を見る。
 昨日、おれたち「明日はクリスマスデートしよう」って約束したんだけど……
 慶、どうするのかな……パーティ行くって言うのかな……

 内心ドキドキしながら、慶の様子を見ていたら、慶はあっさりと、

「ああ、悪い。おれパス。今日予定入ってる」
「なんだとー!!」

 溝部が慶に掴みかかる。

「ま、まさか、デートとか……」
「そうそう。デート」

 慶、溝部の手を剥がしながら、無表情に肯いている。

「誰だよ!相手誰だよ!」
「教えねー絶対教えねー」

 表情を崩さない慶に、溝部が今度はおれに掴みかかってきた。

「お前知ってるだろ? 渋谷の相手! 誰なんだよ?!」
「あー……うん」

 必死な溝部に、ニッコリと笑いかける。

「おれ。デートの相手、おれだよ?」
「はあああ? 冗談言ってねーで教えろって!」
「だからおれだってー」

 言っても一向に信じてもらえない。本当なのになあ……。
 笑いをこらえている慶を見て、溝部が怒り出した。

「もういい! お前らは誘ってやらねえ! 山崎! お前は来るよな?」
「女子って誰がくるんだ?」
「とりあえず、鈴木は決定」
「鈴木?」
「鈴木!?」
「鈴木さん!?」

 思わず3人で声を揃えてしまう。

「お前ら仲悪いんじゃねえの?」
「べ……つに、悪くねえよ……」

 溝部が照れてる……。へええ……。

「まあ、頑張れ」
「うるせえっ」
 慶の言葉に溝部は怒りながら席に戻っていってしまった。


「鈴木かあ……難しいだろうな」

 席につきながら山崎が言うので「なんで?」と二人で聞くと、

「前に文化祭のメニュー班で喋ってた時に言ってたんだけど、鈴木、同じ歳の男は眼中ないんだって。年上の大人の男が好きなんだって」
「あー……そうなんだ……」

 残念ながら、溝部は言動その他かなり子供っぽい……。

「好きな人に好きって思ってもらえるのって、ホント奇跡みたいなことだよなあ」
「…………」
「…………」

 山崎が頬杖をつきながらつぶやいた言葉に、思わず慶を見ると、慶もおれのことを見ていて……

「ホントだな。奇跡だな」
「うん……奇跡だね」
 
 誰からも見えないところで、キュッと指を絡める。
 愛おしい気持ちが伝わってくる……

 奇跡だ。

 慶との何もかもは奇跡としか言いようがない。

 でも……

「……慶」
「ん」

 慶の恥ずかしそうな瞳に、愛おしさがあふれてどうしようもなくなる。

 慶の隣にはおれがいる。おれの隣には慶がいる。それは奇跡なんかじゃなくて、これからはもう、当然のことにしたい。





-------------------


お読みくださりありがとうございました!
まだ、「キスをした」っていっても、触れるだけのカワイイキスしかしてない初々しい二人です。

クリスマスイブイブの告白の話が終わったので、今まで非公開にしていた読切『影日向(南視点)』を公開にしました。
2014年12月1日に書いた、南視点のお話です(1年3ヶ月前の私、今と違って改行空欄少ない。そして文章がアッサリしてる……)。
上記の『思いは言葉にしないと伝わらないよ』って話の詳細です。南ちゃん、影となり日向となり2人の関係を応援しています。

今後のことなんですが…。
約4か月前に「高校時代に作ったプロットを元に高校時代の話を書こう」と思った時には、両思いになるこの『巡合』まで書ければいいや、と思っていました。
でも実はこのプロットには続きがありまして……。ええ。続きがあるんです。高校2年生の終わりまで。
でも、なんというか、話が地味で、後半は特に全然BLじゃなくなっちゃうし……。
ということで、書くのを迷っていたのですが、この際だから書くことにしました。つまんないけどいいの。私が読みたいから!

ただ、これから春休み期間に入りパソコンを使える時間が限られる関係で、更新頻度が落ちるか、一回の更新量が減るか、どちらかになると思われます。
それでもお付き合いくださる心優しいお方、もしいらっしゃいましたら今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

とりあえず、明後日『巡合』は最終回です。どうぞよろしくお願いいたします。

クリックしてくださった方、本当にありがとうございます!おかげさまで次回最終回になります。どうぞよろしくお願いいたします。ご新規の方もどうぞよろしくお願いいたします!

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BL小説・風のゆくえには~巡合11(慶視点)

2016年03月18日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 巡合

 浩介の様子が変だ。

 今思えば、木曜日の体育の時、らしくなくムキになっていたことが始まりかもしれない。
 写真部に顔を出したあとの帰り道では、妙に暗く沈んでいて、いつものバスケの練習もせずに帰ってしまった。

 金曜も土曜も心ここにあらずで……
 それでいて、何か言いたげにおれを見るので「どうした?」と何度か聞いたのだけれど、「なんでもない」と首を横に振るばかり……。

 なんなんだろう……。まさかおれの気持ちに気がついて距離を置こうとしてるわけじゃないだろうな……。

 そんな不安な気持ちのまま、日曜を過ごし、そして祭日の月曜日……


 母に頼まれて、姉の家に届けものにいった。
 今日は12月23日。姉夫婦の一周年の結婚記念日だ。思えば、一年前、姉が結婚して家を出ていったことに落ち込んでいたおれを、浩介は優しく抱きしめて慰めてくれたんだよな……。なんて、頭の中はすぐに浩介のことでいっぱいになってしまう。

 4月下旬出産予定の姉のお腹はだいぶふっくらしてきている。そんな幸せいっぱいの姉に、浩介のことを愚痴るのも気が引けたんだけれども、

「何かあったでしょう?」

と、すぐに見破られ、話すよう促されたので、浩介が男であることだけ伏せて現状を話した。

 姉は、キスをしてしまったくだりでは「まあ」と目を輝かせたけれど、その後、結局友人関係が続いていると話すと「あらら」とため息をついた。

「どうしてキスしたところで、もう一押ししなかったの……」
「………。友達じゃなくなるのが怖かったから」

 姉の問いに素直に答える。そう。おれが一番恐れていることは、浩介のそばにいられなくなることだ。

「慶は、本当にその子と友達のままでいいの?」
「いい」

 浩介の恋愛対象は女性だ。おれの気持ちを受け入れられるわけがない。拒絶され、友達でいられなくなるくらいなら、おれのこの想いなんかいくらでも隠し通してやる。

「ただ、そばにいたいだけだから」
「そう……。でも……」

 姉は頬に手をあてて何か言いかけたけれども、ふっと笑顔になった。

「それが慶の選んだ道なら、応援するわ」
「……ありがとう」

 コクリと肯く。
 本当は、そばにいるだけじゃ嫌だ。触りたい。抱きしめたい。キスしたい。でも、そんなことはできない。そんなことは知ってる。
 でも一緒にいたい。それが一番の望みだから。だからそれ以上は望まない。望まない……


***


 姉の家の最寄り駅からうちの駅までは電車で30分ほどかかる。電車を降りると、外はもう真っ暗だった。駅前の大型スーパーの入り口近くにある大きなクリスマスツリー。赤や青の電飾が余計に目立ってキレイに光っている。……と?

「………え」
 そのツリーの横に……浩介が立っていた。驚きのあまり心臓が止まるかと思った。

「浩介……」
 今にも泣きだしそうな顔をしている浩介。駆け寄って、抱きしめたくなる衝動をどうにか抑え、静かに歩み寄る。

「……どうした?」
「うん……」
 手を伸ばされ、反射的に身をすくめてしまう。伸ばした手が空を切り、ますます泣きそうな顔になる浩介。

「慶……おれのこと、嫌い?」
「え」
 そんなこと、あるわけがない。

「何言って……」
「最近、ずっとおれに触られるの避けてるよね」

 気がついてたのか……

「それは……」

 お前に触られると、心臓が跳ね上がって、血のめぐりが3倍になって大変なことになるからだ。なんて言えるわけがない。
 木曜日から様子がおかしかったのは、そのことに気がついて、理由を聞きたかったからなのか……。でも本当のことなんて答えられない。

 黙っていると、浩介が眉を寄せたまま聞いてきた。

「もしかしてなんだけど……後夜祭の……あのことが原因?」
「………」

 今さらそれを言うか。
 こっちはあのキス以来、感情が渦巻いてどうしようもなくなっているというのに、浩介は今までとずっと変わらなかった。変わらなくて有り難いという気持ちと、こいつにとってあのキスはなんでもないことなんだ、という微妙に腹立だしい気持ちが入り混じって、ずっと複雑な心境でいる……なんて言えるわけもなく……。

「……お前、なんでここにいんの?」
 質問には答えず、ツリーの飾りを意味もなくいじりながら尋ねると、浩介も横に立ち、同じようにツリーにかかった星をなぞりはじめた。人通りはそこそこあるけれども、みな忙しそうに歩いていて、男子高校生2人がツリーの陰にいることには誰も気に留めていない。

「部活の帰りに慶のうちに寄ったら、お姉さんのうちに行ったって南ちゃんが教えてくれて……」
「おれのうちに? 何か用だったのか?」
「うん………」

「!」
 ふいに、飾りをいじっていた手をつかまれた。とっさに振り払おうとしたが、思いの外、強い力で握られていてほどけない。

「何……」
「聞いて」
 真摯な浩介の瞳がまっすぐにこちらを向いている。

「何を……」
「おれね、すっごい悩んだ。慶のこと」
「…………」

 浩介が何を言い出す気なのか、聞くのがこわい。逃げだしたいけれど、逃げられない。

「後夜祭の後、慶、何も言わないから今まで通りにしようと思ってたけど……一か月くらい前からおれに触られるの避けるようになったよね?」
「…………」

「それで、おれ、嫌われたのかなあって……」
「そんなことあるわけないだろ……っ」

 ふるふると頭を振ると、浩介がやわらかく微笑んだ。

「良かった。嫌いになったわけじゃ……ないんだよね?」
「……当たり前だろ」

 うなずくと、浩介がホッとしたようにため息をついた。

 ああ、なるほど。だから今まで通りの友達に戻ろうって話だな? ……良かった。友達やめたいとか言われたらどうしようかと思った。

 そう、安心したのも束の間、

「あのね……慶」
 浩介が真剣なまなざしで、言った。

「おれ………慶の友達やめたい」




「…………は?」

 なんだと?

「なんで……」

 なんで、もないか。キスなんかしたからか? そんな奴とは友達続けられないってことか?

 足が震える。浩介の瞳から目をそらせない。

 なんでだよ……今、良かった、って、お前、良かったって言ったのに……
 おれはそばにいられるだけでいいのに。何も望まないから、そばにいられるだけで……
 だから、お願いだから、お願いだから、浩介……っ


「こう……」
 何か言おう、と思ったその時……

「慶……」
 ぎゅっと、繋いでいた手に力がこめられ……そして……

 浩介の唇が下りてきた。軽く、触れるだけの……キス。


「……え?」

 なに……?
 今、なにが起きた……?

「慶」
 呆気にとられたおれに、浩介がささやいた。

「おれ……慶のことが、好き」



 浩介の揺るぎない瞳……


「え……」

 今、なんて……?

 聞き返すと、浩介は真面目な顔をしたまま言葉を継いだ。

「慶のことが好き」
「……え?」

「手つなぎたい。頭なでたい。抱きしめたい。キスしたい」
「は?」

 え?

「………え?」

「それってもう、友達に対する感情じゃないと思って」
 浩介の瞳にイルミネーションが映りこむ。

「こんなこと言って嫌われたらどうしようって思ったんだけど、でもこの蛇の生殺し状態が続くのは、もう無理だから」
「生殺し?」
「生殺しだよ。こんなに近くにいるのにふれられない。抱きしめられないなんて」
「…………」

 浩介の瞳の光。とてもキレイだ。

「慶……」
 浩介のおれの手をつかむ手に力が入る。

「こんな風に思われるの……嫌?」
「…………」

「正直にいって。それならおれ……極力我慢するから」
「我慢……?」

「あまり自信ないけど……」
「…………」

 何を……言えばいいんだろう。
 何を……思えばいいんだろう。

 まわりの音がすべて消えて、この世界におれ達二人しかいないような感覚に陥る。

 浩介……おれは……


 言葉にならないまま、その誠実な瞳を見上げていたら、

「慶?!」
 ぎょっとしたように浩介が手を離した。

「そ、そんなに嫌だった?!」
「え?」

「慶……泣いてる」
「あ………」
 無意識のうちに涙があふれだしていた。ただただ流れ落ちる。浩介の姿がにじんでいる。

「ごめん。そんなに嫌なら、もう言わない。もう触らない」

 浩介が降参、というように両手を挙げた。

「でも、近くにいることは許して」
「………浩介」

「おれ……どうしても、どうしようもなく、慶のことが好き……なんだ」
「………」

「……ごめんね」
 悲しそうにいう浩介。なんだ……なんだそりゃ。

「……ごめんってなんだよ、ごめんって」
「んーーー好きになって、ごめん?」

「ばかっ」
 ちょっと笑った浩介の胸をどんと叩く。

「でも……ごめん。慶のことが、好き」
「ばかっあほっ」

 涙が止まらない。

「だから、ごめんって」
「ごめんじゃないっ」

 浩介の胸に両手をおいたまま、見上げる。久しぶりに間近でみる浩介の瞳。おれの大好きな瞳。
 その瞳に向かっておれは一気にまくしたてた。

「おれなんてもう一年以上前からお前のこと好きなんだぞっ。好きになってごめんっていうなら、おれはどんだけ謝んなくちゃなんねえんだよっ」
「……え?」

 今度は浩介が呆ける番だった。

「今、なんて……」
「だーかーらー」

 ババッと涙を手の平でぬぐい、胸倉を掴んで顔を見上げる。

「お前のことが、好きだっていってんの」
「………うそ」

 ぽかんとしてる浩介の胸をグリグリと押す。

「なんでうそつかなきゃなんねえんだよ」
「……本当に?」

 こっくりとうなずく。

「うそだあ……」
「なんでだよっ」

 浩介が戸惑ったように言う。

「だっておれ、男だよ……?」
「おまえなーーー!!」

 それをお前がいうか!!

「あほかっおれはそんなこと百も承知で一年以上片思い続けてきたんだよっなめんなっ」
「け……」

 掴んでいた胸倉をぐっと引っ張り、近づいた浩介の唇に素早く口づける。

「おれがどんだけお前のこと好きか思い知れ!」
「わわわ……っ」

 浩介がよろけるのも構わず、ぎゅううっと抱きつく。背中に手を回し、ぎゅうううううっと力を入れる。肩口に額をぐりぐりぐりと押しつける。

「慶……」
 ぎゅっと抱きしめ返される。久しぶりの浩介の腕。浩介の匂い。

 ずっと、ずっと、ずっと、こうしたかった。

「慶……夢みたい……」

 耳元で浩介の優しい声が聞こえる。

「それはこっちのセリフだ」
 背中に回した腕に更に力をこめる。

「ずっとずっと好きだった」
「慶……」
 またぎゅっと強く抱きしめ返される。

「慶……幸せすぎる」

 それもこっちのセリフだ。

 ああ、でも、と、ふと思いつく。

「でもおれ、お前と友達やめたくないぞ?」
「ああ……そうだよね」

 浩介は笑い、腕の力を緩めると、おれの頭のてっぺんにキスをした。

「なにもやめることはないよね。じゃあねえ……親友兼恋人、は?」
「親友兼恋人?」

 おれも笑う。それはいいな。



「それにしても……」
 浩介がポツリといった。

「早く言ってくれればよかったのに……」
「何だよそれ」
「だって!」

 コツンとおでことおでこをくっつける。

「そうしたらおれこんなに悩まなくてすんだじゃん」
「たかだか数日で何言ってんだよ。おれなんて一年以上悩んできたんだぞ。途中でお前、美幸さんのこと好きになるし」
「それはっ」
「なんだよ」

 眉間にシワを寄せて見上げると、浩介が真面目な顔をして言った。

「……スミマセンデシタ」

 棒読みな謝罪の言葉に、思わず吹き出す。

「心こもってねー」
「だってー……あーおれ一生言われ続けるんだろうなー」

「一生って」
 何でもないことのように「一生」という浩介。嬉しくなる。

「……そうだな。一生言ってやるよ。だって、好きだったのは本当だろ?」
「んー……」

 おれの髪を弄びながら浩介はうなると、
「今考えると……アイドルとかアニメのキャラとか好きっていうのと同じ感じだったのかなーとも思うんだよね」
「そうなのか?」

「んー…だって……」
 再びぎゅーっと抱きしめてくる。

「こんな風に抱きしめたいって思わなかった」
「…………」

「慶のことは、抱きしめたいって思う。いつでもそばにいて触れていたいって思う」
「…………」

「キスしたいって思う」
 頬を囲まれ、上を向かされる。

「キス……しても、いい?」
「…………………………………ちょっと待った」

 ぐりぐりぐりと浩介を押しかえす。

「え、ダメ?」
「ダメ」

「なんで!?」
「なんでも! まわりみろっ」
 そうだ。冷静に考えてみたら、ここは駅前のスーパーの前。ツリーと建物の間でわりと目立たないとはいえ、まったく人目につかない場所というわけではない。

「えーいいじゃん。あ、ほら、あそこのカップルもしてたよ」
 浩介があごで指した先には、手を繋いで歩いている男女のカップル。

「お前なーあれは普通のカップルだからいいけど……」
「おれ達もいいじゃん」
「いや、よくないだろ」
「えーいいじゃん」

 むーっとふくれた顔をしている浩介。嫌な予感がしてきた……

「お前……くれぐれも言っておくけど、明日学校で……」
「隠すなんて無理だよ。おれウソつけないもん♪」
「…………」

 本当にケロッと言いそうで怖い……
  
「おれはウソつくからな」
「なんで?!」
「なんでって、あのなあ、男同士なんて世間的にはまだまだ認められる関係じゃないだろ? 色々言われるのめんどくせーよ」

「えー」
 浩介はぶつぶつ言っていたが、渋々と結論つけた。

「じゃあ付き合ってること『だけ』は内緒にするよ」
「付き合ってる?」
 なんだかしっくりこない響きだ。

「え、だっておれ達これから付き合うんでしょ?」
「付き合うって……なにするんだ?」

「うーん……」
 二人で首をかしげる。

「一緒に下校するとか?」
「部活ないときはしてるよな?」

「休日一緒に出かけるとか」
「出かけてるよな……」

「抱きしめるとか!」
「今までも散々してたな」

「…………」
「…………」

 顔を見合わせ、吹き出してしまった。

「今までとあんまり変わらないね」
「だな」

「あ、でも、キスはしてない。これからはしてもいいよね♪」
「………人目につかないところでな」

「あー、あと手つないで歩きたい♪」
「人目につかないところでな」

「えー……肩抱くのはいいよね?」
「人目に……」

「ええ!肩は人前でもありでしょ!」
「なしだろ」

「ありあり!寒いしくっついて歩いてるってことで」
「……んー……冬の夜ならあり?」
「あり!」

「!」
 ぎゅっと肩を強く抱かれ、今さらながらドキリとする。

「送っていくよ。自転車、駐輪場に停めてあるんだ」
「……おお」
 赤くなっているであろう顔を見られないように下を向く。

「ちょっと遠回りして帰ろ? 川べり行こうよ~」
「川べり? 寒いぞ?」
「いーのいーの。だから人がいないでしょ♪」
「お前な…………」

 不思議な感じだ。なんだこの自然さは。
 一年以上もかかってようやく両想いになったというのに、ずっと前からそうだったような気がする。
 そう思っていたら、同じようなことを浩介が言い出した。

「なんかさーこれが正しい関係って感じがする」
「え」
「何ていうか……パズルが正しい位置に戻されたっていうか……」
「それ、言えてる!」

 思わず叫んでしまった。
 それだ。微妙に違っていたものが正しくなった感じ。

「まさにそれだ!」
「わ~慶も同じこと思ってたんだっ嬉しいっ」

「わわわっ」
 後ろからギューギューと抱きしめられる。

「だから浩介、人目につくところでは………」
「寒いからあり!クリスマスだからありあり!」

「……なんだそりゃ」
 回された腕をギュッと掴み、顔をうずめる。

「慶~~幸せ~~」
 後ろから頬を寄せられる。心が温かい。

「うん………」
 ツリーの光がきれいだ。クリスマスの夜にふさわしく……

 ………あれ?

「なあ……クリスマスって言ってるけど、今日クリスマスじゃないよな?」
「………そういえば」

「…………」
 顔を見合わせ笑いだす。

「じゃ、明日の夜、あらためてクリスマスデートしようね」
「……なんだそりゃ」

「デートデート、初デート♪ いいでしょ?」
「…………ん」

 小さくうなずく。
 明日の約束ができる幸せをかみしめる。

「大好き。大好き。大好きだよ、慶」
「…………ん」

 この広い世界の中で巡りあえたおれ達。これからはずっとずっと一緒にいよう。



-------------------


お読みくださりありがとうございました!
2014年12月10日に書いた読切を加筆修正したため、最近とは文の書き方が若干違うかも。
ちなみに、その読切での後書きがこちら↓↓

延々とラブラブモード全開の2人。キリがないから終わりにした^^;
このあと、自転車おしていくときに、慶が左のハンドルを持って、その上から浩介もハンドル持って、コッソリ手繋いでるって話もあったんだけど。
今後、浩介は学校でも慶にベタベタしまくってて、慶は否定して隠しててっていうことになるわけです。
浩介は一応慶の気持ちを尊重して、付き合ってることも慶が自分のことを好きなことも秘密にしましたが、自分が慶を好きなことは猛アピールします。
なぜなら、浩介は独占欲の塊みたいな男。アピールすることで慶に他の男女を寄せつけないようにしていたのでした。
慶は人前では浩介のことを邪険にしますが、二人っきりのときはわりとデレます。雰囲気に流されるタイプなので、夜とかデレデレです。浩介にしてみればそのギャップがたまらなかったりするんだろうなー。

↑↑
以上でした。いらっしゃらないとは思うのですが、前にそれ読んだよ!という方いらっしゃいましたらスミマセン……。

さて次回で『巡合』は最終回……のつもりでしたが、長いので2回にわけました。よって残り2回になります。続きは明後日。どうぞよろしくお願いいたします。

クリックしてくださった方、本当にありがとうございます!皆様に背中を押していただいたおかげで、ようやく目標の両想いまでたどり着くことができました。ありがとうございました!次回もどうぞよろしくお願いいたします。ご新規の方もどうぞよろしくお願いいたします!

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BL小説・風のゆくえには~巡合10(浩介視点)

2016年03月16日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 巡合


 最近、また、慶の様子が変だ。
 おれが触ろうとするのを避けている気がする。

 以前にも同じようなこと……慶がおれと二人きりになるのを避けたことがあった。理由を問いつめたら、おれに執着し過ぎて嫌われないため、という意味の分からない理由を言われた。おれ的には執着してくれた方が嬉しいんだけど……。

 今回はなんだろう。今まで通り話しかけてくれるし、今まで以上に一緒にはいる。ただ触らせてくれないのだ。触ろうとすると、ふっと避けられたり、手で軽く払いのけられたりして………。

 やっぱり原因はあれだろうか………後夜祭でのキス。

 後夜祭で、おれと慶はキスをした。
 おれはもちろん初めてのことで、想像を遥かに越えた気持ち良さに呆然としてしまったんだけど……
 慶は、中学時代モテモテだったというし、キスの経験くらいあったんだろう。
 翌々日、慶はいつもとまったく変わらない爽やかさで現れて……緊張していたおれが馬鹿みたいだった。

 あれからそのキスの話はしていない。慶にとっては何でもないこと……あの場の雰囲気に流されてしちゃっただけのことなのに、それを今さら言って呆れられるのも嫌だな……と思ったからだ。

 でも、おれにとっては大事件だった。キスがあんなに、体が震えるほど気持ちいいものだったなんて……。

 おれは昔から対人潔癖症なところがあって、人の触ったもの……例えば電車の吊革とかにつかまることが苦手だ。
 バスケ部内で、ジュースの回し飲みとかすることがあるんだけど、それも本当はすごく嫌で、飲んだふりをして次の人に回してしまうこともしばしばだ。

 だから、キスなんて一生できないと思っていた。
 片想いをしていた美幸さんに対してさえ、キスするとかそういうことをまったく想像できなかったのは、潔癖症が原因なのかなあとは薄々思ってはいた。

 それが、慶とのキスは………

 なんなんだあれは。唇と唇を合わせただけなのに、愛しさがつのって心臓がぎゅっとなって………ふわふわ気持ちよくて……。

 他の人としてもそう思うんだろうか?
 そう考えて、あのキスを他の人……美幸さんとか真理子ちゃんとかに置き換えてみた、けれども………

(ちょっと……気持ち悪い)

 ものすごく失礼なんだけど、そんなことを思ってしまった。

(慶だから大丈夫なんだ……)

 慶だから。
 でも、親友なのに。男同士なのに……。

 それ以上のことを突き詰めて考えると、今までの関係を続けられなくなりそうで怖い。
 だからあまり深く考えるのはやめよう。今まで通りでいよう。そう思っていたのに……。


 よくよく考えてみると、触らせてくれなくなったのは、期末テスト一週間前の、英語の授業の後からだ。

 あの時、慶がおれのことをちゃんと見てくれているってことに感動して……

(……キス、したい)

 そう思ってしまって、我慢できなくて唇に指で触れた。でも、触れただけで我慢した。


 考えてみたら、あれからだ。慶がおれが触ることを避けるようになったのは。

 おれがキスしたい、なんて思ったのがバレたんだろうか。そもそも、後夜祭でキスなんかしたせいじゃないだろうか……。

 でも、それ以外は今まで通りだ。今まで通り、仲の良い親友。だから何も不満はない………はずだったのに。



***


 あと一週間で2学期が終わる。

「今日の体育、楽しみだな!」

 慶は朝からずっと機嫌がいい。今日の4時間目の体育でバスケをやるのがそうとう楽しみらしい。

「おれ、お前と同じチームでバスケ、ずっとずっとやりたかったんだよー!」

 そんな嬉しいことを言ってくれている。
 体育は男女別のため、2クラス合同で行われる(だから、慶が毛嫌いしている隣のクラスの上岡武史とも一緒だ)。
 普段、体育は出席番号順で区切られた5人組の班で行動している。おれと慶は11、12と出席番号が続いているので同じ班だ。だから、

「いつもの練習の成果を見せつけてやろうな! おれ達ゴールデンコンビのな!」

と、張り切って言っていたのに………。

「上野先生………」
 慶が気の毒なくらいガックリしている。

「どうしていつもの班じゃないんですか……」
「いつもの班だと、実力にバラツキがありすぎるだろ。そこで、おれが独断と偏見でチーム分けをした!」

 得意そうな上野先生に、慶が食ってかかる。

「じゃあ、何でおれと武史を同じチームにしたんですか! おれ達仲悪いの先生だって知ってるでしょ!」
「わざとだ」

 ケロリと言う上野先生。

「これをきっかけに仲直りしろ」
「そんなの無理っ」
「まあ、おれが個人的に、かつての緑中コンビを見たかったってのもあるんだけどな。お前ら中学の時、コート内では良いコンビだっただろ」
「……………」

 慶と上岡武史は中学時代、同じバスケ部でプレーをしていた。でも当時からものすごく仲が悪くて、殴りあいの喧嘩を何度もしたことがあるらしい。
 上岡の方は、もう仲良くしたいと思っているんだけど、慶は、上岡がいるからバスケ部に入らなかったくらい、まだまだ嫌っている。

 上野先生は、バスケ部顧問をしている関係か、中学時代の二人のことを知っていた。
 おれも一度だけ二人の試合を見たことがある。何も言わずに連携が取れていて、まさかプライベートではそんなに仲が悪いなんて想像もできない感じだった。


 そんな二人の、2年以上ぶりの連携プレーは………

「うわっすっげー」
「かっけー!!」

 歓声が上がっている。おれはもう一つのコートで審判をやっていたので、見ることができなかったんだけど、確実に慶と上岡のことだ。

 見たい。のに、見れない。

 今回、8チームに分けられ、4チーム1ブロックで総当たり戦をして、それぞれのブロックの1位のチーム同士が最後に試合をすることになっている。

 慶のチームとおれのチームはブロックが違うので、審判や試合で慶達の試合を見れないまま総当たり戦は終了してしまった。
 でも、お互いブロック優勝したので、最後に試合をすることになった。

 慶、目が完全に戦闘モードに入っている。
 こちらのチームの面子を見ながら、上岡と何かコソコソ話している……

(仲良いじゃん……)

 なんだか複雑………

「桜井、渋谷が突っ込んできたら渋谷について」
「あ、うん………」

 同じチームの斉藤に言われうなずく。そうは言っても、いまだかつて慶に勝ったためしがない。悪い予感しかしないんだけど……。


 悪い予感を払拭できないまま試合ははじまった。

「すげーっ」
「渋谷はえー!」

 ギャラリーはものすごく盛り上がっているけれど、試合をしているこっちはたまったもんじゃない。

 慶と上岡は、バスケ部員であるおれと斉藤以外のメンバーのいる場所をとことん狙って攻めてくる。「渋谷が突っ込んできたら渋谷について」と言われていたけれど、あまりにも速くて対応しきれない。

 こちらも何とか攻め返すけれども、慶と上岡の反応が速すぎてすぐに止められてしまう。

(くそ……っ)

 ゴールを決める度、こちらのゴールを阻止する度、慶と上岡がハイタッチをする。慶が無表情なのがまだ救いだけど、その姿を見る度に腸が煮えくり返ってどうしようもなくなる。どうしておれじゃない? どうしてそこにいるのがおれじゃないんだ……

「残り1分!」
 試合時間が短すぎる。二人の攻撃の癖を見抜く前に終わってしまう。

(あ、そうか)
 でも、おれは慶の癖は知ってるじゃないか。慶の得意なシュートコースも知ってるじゃないか。

 ゆっくりとドリブルをしながらどう攻めるか考えている風の上岡……
 そこへ慶がサッと走りこんだ。走る先を分かっていたかのように鋭いパスを送る上岡。当然パスは繋がる。でも……っ

(ここだっ)
 慶よりも先にゴール前に入りこみ、立ちふさがる。慶がシュートしようとジャンプした先に手を伸ばし……

「え……」
 ニッと慶が笑った。これ、もしかして………っ

「!」
 慶がおれから視線を逸らさずジャンプをしたまま、ふっと斜め後ろにパスをした。そこにはいつの間にか上岡がいて……

(やられた!)
 ノーマークの上岡が楽々とシュートを決めた。
 うわあああっと歓声があがる。

「うわー!なんだ今の!」
「かっこよすぎ!」

 歓声の中で試合終了のホイッスルが鳴った。当然おれたちのチームの負けだ。

(あれは……)
 最後のあのフェイント……中学の時に見た。あの時も慶がパスした先には上岡がいた。緑中コンビ……

「渋谷ナイスパス!」
「ナイシュー武史」

 慶と上岡が両手でハイタッチしてる。そして……

「お前まだまだ現役いけるじゃん。やっぱバスケ部入れよ」
「やなこった。お前がいるから入んねーよっ」
「なんでだよー!」

 上岡が慶の頭をくしゃくしゃとして……、慶……笑ってる……

「慶………」

 どうしておれじゃない奴が慶の頭なでてるんだ?
 どうしてそこにいるのがおれじゃないんだ?
 どうしてあのパスをもらうのがおれじゃないんだ?
 どうして、どうして慶、笑ってるんだよ。
 どうして上岡の手を払いのけないんだよ。
 どうして頭なでられたままでいるんだよ。
 どうしておれ以外の奴に笑いかけてるんだよ。

 どうして、どうして、どうして、どうしてどうしてどうして……っ

 嫌だ……っ 慶……っ


「くっそおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 こらえきれなくて、腹の底から出てしまった叫びに……

「あ……」

 体育館の中がシーンと静まり返ってしまった……

 し、しまった……っ おれ、何叫んでるんだ……っ


「うわ……びっくりしたー桜井がキレたー」

 お調子者の溝部が沈黙を破ってくれたので助かった。次々に「初めてみた!」だの「そんなにムキにならんでもっ」だのみんなに口々に言われ、最後に上野先生から、

「桜井、お前は部活でもそのくらいのガッツ見せろよ。そうすりゃスタメン上がれるぞ」

と言われて、「すみませーん」と頬をかいて誤魔化す。


「そんなに悔しかったかー?」
 おれの気持ちなんか知らない慶が、おれの腕をポンポンとたたいて気軽に言ってくる。

「今度は同じチームでやりてえなあ?」
「………うん」

 何とか肯いて、たたかれた腕をぎゅうっと掴む。そうしないと我慢できそうになかった。

(抱きしめたい。抱きしめたい。抱きしめたい……)

 今すぐに慶を抱きしめたい。痛いと悲鳴をあげさせるほど強く抱きしめたい。それから……それから……

(慶……)

 おれは、どうかしている……


***


 放課後、2人で写真部に顔を出した。引退したはずの橘先輩も普通に来ている。橘先輩は稼業を継ぐため進学はしないので、受験とは無縁で暇なのだそうだ。

「あのポスターも、展示自体も評判良かったから、新規の部員が増えてくれるかと思ったのに……」
「誰もこないねえ……」

 橘先輩の妹の真理子ちゃんと、慶の妹の南ちゃんが、ジュースを飲みながらぼやいている。そこへ橘先輩がいつものようにカメラをいじりながら、ボソッと爆弾発言をした。

「OBの先輩方とも話したんだが……この部は今年で廃部にすべきだと思っている」
「え……」

 廃部って……

「かつては人数も多くて、コンクールで金賞をとるほどの実力のあった部だ。過去の栄光が傷つく前に華やかに撤退というのもありだな、と……」
「なにそれ……」

 一同、キョトンとしてしまう……

「まあ、年明けにOBの先輩方も集めて話し合いをするから、それまでに考えておいてくれ」
「考えてって……」

 突然の話で言葉をなくてしてしまう。でも、確かに、橘先輩が卒業してしまったら、まったくのド素人の集団でしかなくなってしまう。顧問の中森先生はまったくあてにならないし、自分たちでどうにかしようといっても、質が落ちるのは目に見えている。それに、部員最低人数の5人を確保するために新入部員に入ってもらわなくてはならないが、入ってくれたとしてもその指導を誰がするんだ?という話も……


「過去の栄光作品、見ます? 私この前整理したんですよ」
「わあ、みるみる」

 真理子ちゃんの誘いに、渋谷兄妹が食いついて、ダンボールからパネルを出し始めた。

「あ、渋谷先輩、こういうの好きじゃないですか?」
「おおっ!かっこいー」

 慶と真理子ちゃん、あいかわらず仲が良い……。
 二人でああでもない、こうでもない、と話しながら一緒に写真を見ている……

(慶……楽しそう…)

 ぼんやりと眺めながら……
 腹の内側がグツグツと煮えたぎってくるのを止められない。

(慶……真理子ちゃんを抱きしめてたんだよな……)

 文化祭前に見てしまった映像が甦る。あれは真理子ちゃんを慰めていただけだと言っていたけれど………

 慶の真理子ちゃんをみる優しそうな目。頬を紅潮させながら慶を見上げる真理子ちゃん……

(お似合いだな……お似合い、だけど……)

 慶が誰かに笑いかけるのが嫌だ。嫌だ……

(!)

 心臓がぎゅうっと掴まれたようになる。
 真理子ちゃんが慶の腕に触れた……

(やめろ……)

 慶に触るな。慶に近づくな。慶に笑いかけるな。

(慶………)

 微笑み返さないで。おれ以外の人間にそんな顔見せないで。
 おれのことは避けるくせに、他の人には触らせるのはどうして? 慶、おれのことが嫌? キスなんかしたから? だから避けるの?

 慶……慶……っ


「……え?」

 突然、真横でシャッター音がした。
 橘先輩が、カメラを構えて立っている。
 今、おれを撮った……?

「先輩、今……」
「いい顔してるな、お前」
「え」

 きょとんとしたおれに、橘先輩がボソボソとつぶやくように言った。

「今の写真に題名をつけるなら……『嫉妬』」
「……」

 嫉妬……

「今の写真なら、あの文化祭のポスターに載せられたな」
「え?」

 文化祭のポスターとは、『恋せよ写真部』と煽り文句のついた2枚の写真のことだ。一枚は慶が微笑んでいる写真。もう一枚は真理子ちゃんが泣いている写真。
 橘先輩は淡々と、おれだけに聞こえるような小さな声で続ける。

「あれは恋愛の『喜怒哀楽』を表現しようとしたものだからな。渋谷の写真が『喜』、真理子の写真が『哀』。今のお前の写真なら『怒』として載せられた」
「怒……?」

 恋愛の……怒……?

「お前、今、嫉妬に怒り狂った恋する男の顔をしてるぞ?」
「え………」

 恋する男……?

 誰が……誰に……?

「カメラはウソをつかないからな」
 橘先輩はそれだけいうと、暗室に入っていってしまった。


 その姿を目で追っていき、再び慶と真理子ちゃんの姿が視界に入ってしまう……

「…………」
 心臓が痛い。耐えられなくて胸のあたりをぎゅうっと掴む。

(慶………)

 おれは……おれは………

(慶………)

 あなたに触れたい。

 これは……この思いは……




------------------------------------



お読みくださりありがとうございました!
次回は、以前公開していて今は非公開にしている2014年12月10日に書いた読みきりを加筆修正します。
いらっしゃらないとは思うのですが、前にそれ読んだよ!という方いらっしゃいましたらスミマセン……。
続きは明後日。どうぞよろしくお願いいたします。

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BL小説・風のゆくえには~巡合9-2(慶視点)

2016年03月14日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 巡合

 浩介とキスしてしまってから、三週間がたった。

 あれから、おれ達は……何も変わっていない。
 変わっていないどころか、文化祭準備がはじまる前に戻った感じだ。準備期間中にギクシャクしてしまったことも、後夜祭でキスしてしまったことも、一切無かったかのように、普通に仲良しのおれ達……。

 文化祭後に始まったバスケ部の大会で、珍しくうちの学校が勝ち進んだため、その練習に夢中になっていたのも良かったのかもしれない。顔を合わせればバスケの話とバスケの練習しかしてなかったからな……。

 でもそれも、昨日で終わってしまった。
 そして今日から、期末テスト一週間前で部活も停止になる。

 またいつもみたいに一緒に勉強できるんだ。おれの部屋で、2人きりで。2人きりで………

 そう思ったら、なんか鼻血出そうになってきた……

 まずいなあ、と思う。せっかくあんなことがあっても『親友』でいられてるんだから、バレないようにしないと……


 そんなことを思っていた、月曜日の3時間目。英語。

(かっこいいなあ……)

 当てられた浩介が、教科書を読んでいる姿にぽや~と見惚れてしまう。浩介は英語を話すとき、声が少し低くなる。流れるような英語。教科書の文章なのに何かの朗読みたいだ。

 指定された段まで読み終えた浩介が座ろうとしたところ、先生に呼び止められた。今日はアメリカ人の先生が特別にきていて、その先生が何か英語で話しかけてきたのだ。
 でも、それにも動じず、流暢な英語で返事をしていて、クラスのあちこちで「すげー」「さすが学年一位」と声が聞こえてくる。何だか誇らしい。
 外国暮らしの経験があるのか、とか聞かれてるっぽい? いいや。後で聞こう……と?

「?」
 最後に先生に何か言われて、ちょっと微妙な顔をして肯いてから席についた浩介。気になる……。

 でも、休み時間になった途端、案の定、溝部やら鈴木やらウルサイ連中が浩介のところに飛びついてきてしまった。

「さっきシンディ先生と何話してたんだよ!」
「チュータって何?」
「え、そんなこと言ってたか?」
「言ってたじゃん!」

 浩介は困ったように手を振ると、

「大した話してないよ。海外で暮らした経験があるのか?って聞かれたから、旅行には行ったことはあるけど暮らしたことはないって答えて……」
「で、チュータって?」
「家庭教師」
「かてきょー! 桜井君、かてきょーがきてるの?」
「あ、うん……」
「すげー! お前んち、金持ちなんだな!」
「そんなことは……」
「はい!そこまで!」

 浩介がどんどん小さくなっていくのを見かねて、パンパンっと手を打つ。

「次、書道室移動!」
「あ、そっか」

 わたわたとみんなが散っていくのを見て、浩介がホッとしたように息をついた。

「ごめん、慶。ありがとう……」
「いや。おれ達も行こうぜ?」

 言いながら書道の道具を持って教室を出る。

「家庭教師って、外国人?」
「あ、うん、英語はね。幼稚園の頃からイギリス人の先生……父の友人の奥さんなんだけどね。その人が週一で来てて……。だから自分じゃよく分かんないんだけど、おれの発音ってイギリス英語なんだって。あ、今はもう来てもらってないけどね」
「へえ……」

 まだまだ知らないことがたくさんだ。
 一年半も友達してるのに、まだおれの知らない浩介がたくさんいる。全部知りたいと思ってしまうのは我儘だろうか……

「なあ、最後、何言われたんだ?」
「え?」
「最後、何か言われてお前変な顔してたじゃん。何言われたんだ?」
「……………」

 いきなり浩介が立ち止った。あ、聞いちゃまずかったのかな……と戸惑ったおれの顔を、浩介はなぜかマジマジとみると、

「おれ、変な顔してた?」
「してた……と思ったけど、気のせいか?」
「あ……ううん」

 大きく大きくため息をついた浩介。「まいったなあ……」とボソッというと、ふっとこちらに向かって手を伸ばしてきた。

「!」
 おれの息が止まったことなんか気にせずに、浩介の冷たい指がおれの下唇に触れる。

「普通の顔してたつもりだったけど、慶にはお見通しだね」
「え」

 そして、くるっと背を向けまた歩きだした。慌てて後をついていくと、浩介は下を向きながらボソボソと、

「なんかね、小さい頃から家庭教師に習ってたって言ったら、『両親に感謝しなさい』って言われたの」
「…………」
「習いたくて習ってたわけじゃないんだけどね……でも今、英語がわりと得意なのは小さい頃から習ってたおかげだろうし……」
「…………」
「感謝しないといけないんだろうね」

 寂しい笑顔を残して浩介は書道室に入っていった。
 時々話してくれる言葉の端々から、浩介が両親と上手くいっていないことは感じていたけれども……あんな風に寂しい顔をするのを、おれはどうしてやることもできないんだろうか……。


 おれも書道室に入り、自分の席につく。書道は出席番号順なので、浩介はおれの前の席だ。
 浩介のうなじのあたりを見ながら、さっき触れられた唇に、自分で触る……

(もしかして……)
 こういう風にスキンシップを取るのは外国仕込みなんだろうか……小さい頃から外国人と接していたから、抵抗なく男のおれにもベタベタしてくるんだろうか……

(あのキスも……)
 後夜祭でキスしてしまってから3週間経つ。けれども、浩介の態度はまったく変わらない。

(……挨拶代わり、みたいな?)

 おれはまだまだ、あの時の唇の感触を思いだすたびに、血が逆流してどうしようもなくなるんだけど……。
 浩介にとっては、挨拶みたいなものだったのかな。それとも、何も言ってこないのは、消したい過去、だからかな……。
 おれはあれから、お前がおれに触れてくる度に、今までよりも更に思いが強くなっているのに、お前は何事もなかったみたいにおれに触れてくるんだよな……

 そうして触れられるたびに、もう一度その唇に触れたいと思ってしまうおれの気持ちなんかお構いなしにお前は……

「慶?」
「!」

 何気なく頭におかれたその手を反射的に振りはらってしまった。これ以上、触れられたらもう収拾がつかない。

「慶……?」
「授業はじまるぞ」

 なるべく普通の声で答える。浩介も一瞬キョトンとした顔をしたけれどすぐに前に向き直った。


 せっかく『親友』を続けられているんだ。この関係を壊したくない。
 あの時のキスは、後夜祭の魔法がくれたプレゼントだ。その思い出だけで充分だ。
 これ以上、何も望むな。望むな……


 その日の帰り、浩介はいつものようにおれの部屋に寄った。
 でも一時間もしないうちに帰ってしまった。中間テストの結果があまりよくなかったため、期末テスト期間まで毎日家庭教師をつけられてしまったそうだ。今日は5時間授業だったから寄れたけれど、明日からは6時間が続くので帰りも寄れなくなってしまうという。

 せっかく一緒に勉強できると思ってたのにな……

 浩介の座っていた座布団に座って、テーブルに突っ伏す。


 親友でいれば、ずっと一緒にいられる。だから親友でいい。そう思った気持ちにウソはない。

 でも………

 知ってしまった。あいつの唇の柔らかさを。想像でしかなかったことが現実に起きてしまった。夢だったと思おう、と思ったって忘れられない。あの柔らかい感触……。

 知らなければよかった。知らなければ想像だけですんでいた。知ってしまったから、求めたくなってしまう。もう一度。もう一度、と。

「浩介……」
 今日触れられた唇に手をあてる。あの冷たい指に触れられることを体が期待して疼いている。もう、どうしようもない。もう触られるのは……

「限界だな……」

 何かで発散しないと爆発しそうだ。

 発散……発散……発散……

「よし」

 階段を駆け下り、外へ飛びだす。物置からボールを取りだして公園へ。
 ちょうど空いていたバスケットゴールにシュートを打ちまくる。

「親友……親友。おれたちは親友……」

 でも、ゴールネットにボールが通るたびに、気持ちに反して思いが募っていってしまう。
 100本目を打ち終わったところで、ゴールを使いたそうな中学生たちが来たので退散することにした。

「親友……」
 親友にこんな邪な目で見られていることを知ったら、いくら呑気なあいつでもショックを受けるだろう。だから何としても隠さなくてはならない。そのためには………

「走るか」
 ひたすらダッシュし続けたら、さすがにバテた。

 アホだな、おれ………

 自分でもよくわかってる。でもどうしようもない。




------------------------------------


お読みくださりありがとうございました。
一途な慶君は、女遊びで発散しようとか、そういうことはまったく思いつきません!
一方の浩介は何を考えているのかというと……という話はまた明後日、よろしくお願いいたします。

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BL小説・風のゆくえには~巡合9-1(慶視点)

2016年03月12日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 巡合


 あれ……? おれ今、浩介とキスしてる……?


 気がついたら唇が重なっていた。
 時間にして3秒……5秒?くらい?
 想像していたよりも、もっと柔らかい唇の感触……

「…………」
「…………」

 唇が離れて、顔を見合わせる………
 浩介、目が丸くなってる。たぶんおれもそう。びっくりし過ぎて………

「あの……」
「慶………」

 二人同時に何か言いかけて、同時に黙る。な、なにを、どうすれば………

 奇妙な沈黙に二人身動きがとれなくなっていたところ、

『実行委員長渋谷君、副委員長鈴木さん。至急本部まできてください。実行委員長………』

 おれを呼ぶ放送が緊張感を破った。

「じゃ、じゃあ、おれ行くな」
「う、うん」

 繋いでいた手を離し立ち上がる。

「あ、缶捨てておくよ」
「おお、悪い。サンキュー」

 持ちかけた缶をその場に置く。

「あ、慶。おれこのあとバスケ部の打ち上げ……」
「そっか。じゃあ、明日……は、今日の振り替えで休みか」
「うん。また明後日」
「おお」

 手をあげてから、本部テントに小走りで向かう。一度振り返ったら、浩介がこちらを見ていたのでまた手を振ると、浩介も手を振り返してくれた。

「………」
 下げた手で唇に触れる……

「夢………じゃない……よな」
 思わず一人ごちる。でも夢じゃない。あの感触、本当に本当に……

(うわあああああああっ)

 耐えきれなくて、その場にしゃがみこんでしまう。
 本当に、本当に、本当に……

(キス、しちゃった……)

 想像していたよりも、ずっと柔らかくて、震えるほど気持ちがよくて……

(うわああああっ、ど、どうしよう……)

 あれはおれか? おれが無理矢理した?
 いやいやいやいや。無理矢理はしてない。してないよな?
 あれは、どちらからともなくってやつだよな?
 おれだけの責任じゃないよな? 違うよな?
 浩介どんな顔してた? びっくりしてた……な。びっくりしてただけで、嫌とかそういう顔では……

「渋谷ー何やってんの。具合でも悪い?」
「うわわ」

 しゃがみこんでいたところを、ひょいっと脇腹を掴まれ立たされた。

「か、軽々持ち上げないでくださいよ。真弓先輩っ」

 実行副委員長の3年の鈴木真弓先輩だ。真弓先輩は肩をすくめると、

「軽くはないね。渋谷、見た目より筋肉ついてるね」
「一応鍛えてるんでっ」
「『恋せよ写真部』のくせに?」
「関係ないじゃないですかっ」

 二人で本部の放送席にたどり着くと、放送部の部長さんが時計を見つつおれ達にいった。

「そろそろ時間なので、皆さんから一言ずつ……」
「皆さんはいいよ。委員長だけでいいんじゃない? 長い時間喋ると白けるし」
「そうですね。じゃ、委員長だけで」
「えー……おれもいいですよ」
「よくない。短く締めて」

 真弓先輩に無理矢理マイクを持たされる。
 音楽の終わりとともに、放送部の女の子の声がはじまる。

『楽しい時間ももう終わりが近づいてきました。ここで文化祭実行委員長の渋谷君から一言……』

 促され壇上に上がると、当然のように「恋せよ写真部!」とヤジが飛んでくる。

(ああ、めんどくせー……)

 後夜祭だから真面目に締めることもないだろう。ノリだけでいこう。

「文化際も後夜祭も……楽しかったですか?!」

 わああっと拍手が起こる。

「カップル成立した人!」

 あちこちで冷やかしの声。
 それを見渡すフリをして浩介の姿を探す……。いた。
 木に背を預けて、ボーっとこちらをみている。

 何考えてんだろうなあ……浩介……

 そんな思いは腹の中にしまいこんで。興奮気味の生徒達に向かって手を広げる。

「最高の文化祭! 自分たちに拍手!」

 そして、拍手と歓声の中、頭をさげる。

「ありがとうございました!」



 こうして、文化祭も後夜祭も無事に終了した。
 けれども、実行委員にはまだアンケートの集計という仕事が残っている。

 翌日の振替休日、本部役員のオレ、真弓先輩、石川さん、ヤス、の4人に加え、アンケート集計の係になっていた文化祭委員の一年生4人で、集計作業のため、生徒会室に集まった。
 結構な量のアンケート結果を手分けして集計した結果、我が2年10組は見事飲食部門で2位を獲得していることが分かった。

「これ、一位のお好み焼き屋は、家が本物のお好み焼き屋の奴が、材料とか安価で仕入れて店のソースをそのまま使ったってんだから、旨いし安いし一位になるのは当然だよな。そう考えると、実質一位は渋谷たちのクラスっていってもいいんじゃねーの?」

 ヤスがそんな嬉しいことを言ってくれた。みんなに報告するのが楽しみだ。

 一覧表をしげしげとみつめていたヤスがボソッと言った。

「ポスター部門……『恋せよ写真部』ブッチギリだな」
「それはもういい……」

 『恋せよ写真部』とは、写真部のポスターに書かれていたキャッチコピーで、そのポスターにはおれが浩介を見ているところを隠し撮りされた写真と、真理子ちゃんが失恋して泣いている写真が使われている。
 文化祭の最中、かなり目立つところに張られていたため、色々な人に散々冷やかされたのだ。いい加減もう忘れたい……

「『恋せよ』っていっても、渋谷はもう恋してるでしょ?」
「はい?!」

 真弓先輩、いきなり直球。バサバサとアンケート用紙をまとめながら、何でもないことのように言う。

「あの『恋せよ写真部』の渋谷って、好きな人のこと見てるとこ撮られたんでしょ?」
「え……」

 す、するどいっ。

「そ……そうなの?」
 石川さんまで話に食いついてきた。

「渋谷君の好きな人って」
「あの『恋せよ写真部』のもう一人の子だろ?」
「あの泣いてた子ね」
「えええっそうなの?!」

 矢継ぎ早の言葉に、「違います」と大きく手を振ってみせる。そうしてから、はっと思いだした。

「あ、そうだ、ヤス、お前、浩介に変なこと吹き込んだだろ」
「変なこと?」
「理想の……」
「はいはいはい」

 ヤスは悪びれもせず肯くと、

「あの写真部の女の子が渋谷の理想の女子だって話しな。だってホントのことだろ?」
「それは……」
「え、そうなの?!」

 石川さん、まだ食いついてくる。そこへ、真弓先輩がニヤニヤと、

「渋谷の理想の女の子はお姉さんなんでしょ? お姉さんと写真部の子、似てるもんね~。あの写真はあの子のこと見てたとこ撮られたんでしょ?」
「だからそれはー……」
「えええっそうなの?!」

 ああ、面倒くせえ……

 でも、真弓先輩の追及は止まらない。

「後夜祭、どうした? あの子と手、繋いだ?」
「うそうそうそっ!そうなの渋谷君?!」
「手……」

 後夜祭……昨日の夜のことなのに、ずっと前のことのようだ。
 オレンジ色の炎を見ながら、おれは……おれ達は……

(うわわわわっ)

 思いだすだけで全身の血のめぐりが3倍くらいになる。
 繋いでいた手が、触れた唇が、熱くて……

「あ、渋谷が赤くなってきた」
「やだー渋谷君ー」

 真弓先輩と石川さんの声にハッと現実に引き戻される。

「やっぱ、あの子と繋いだんだ?」
「え、マジで? 渋谷」
「繋いでません」

 キッパリと首を横に振る。

「あの子とは繋いでません」
「あの子『とは』……って」

 真弓先輩、石川さん、ヤス、が顔を見合わせてから、わあっと騒ぎはじめた。

「あの子とはってことは他の誰かとは繋いだってこと?!」
「マジで! 誰だよ!」
「うそうそ! 渋谷君、誰なの?!」

 ぎゃあぎゃあぎゃあと騒ぐ3人に、耳をふさいでみせる。
 誰か、なんて教えない。あれはおれの秘密の宝物だ。



 翌日。
 浩介と再会するにあたって、おれはあらゆるシチュエーションを考えた。

 キスの件を追求してきた場合→「なんか雰囲気に流されたよなっ」と笑い話にする。
 よそよそしくなっていた場合→今まで通り接するよう頑張る。

 あとは……あとは何かあるだろうか……。
 そんなことを悶々と考えながら、教室に入り……

「はよーっす」
 近くにいたクラスメートたちが「おはよー」と返してくれるのに「はよーはよー」と返しながら進み……

(浩介、いた!)
 ドキンっと心臓が跳ね上がる。窓際、後ろの席の山崎と喋ってる。
 そして、おれの姿に気がついて、

「あ、慶。おはよう」

 にっこりと笑った。わあ、その笑顔、好き……。血が逆流する……

「アンケート集計お疲れ様。どうだった?」
「お、おう。まだ正式発表はできないけど、2位確定だ」
「わあ。やったね」

 浩介、ニコニコしてる……

 ニコニコ、ニコニコ……

「ああ、そうだ。実行委員用のアンケート書いたんだけど、慶に渡せばいい?」
「あ、ああ、くれ」
「あ、でも一か所浜野さんにも聞きたいところがあったんだ。ちょっと待ってて」
「おう」

 …………。

 普通……普通だ。浩介………。

 浜野さんと喋っている浩介を見ながら、思わず声が出る。

「……普通だな」
「え?何?」

 山崎に問われ、ブンブン首をふる。

「いや、何でもない……」

 浩介………

 そうか………

 こちらに戻ってきて、「はい」と紙を渡してきた浩介を見て、確信する。


(無かったことに、するつもり、だな?)


 そういうことだ。あのキスは後夜祭の魔法。現実ではないってことか……

 そういうことなんだろ?

「おお、さすが丁寧に書いてあるな。助かる」
「うーん、でも、ちょっと細かく書きすぎちゃったかも。適当にいらないとこは外してもらえる?」
「分かった」

 浩介の丁寧で優しい字を指で辿りながら、何度も肯く。

(無かったことに……)

 そうだな。そうだよな。
 親友を続けたければ、無かったことにするのが一番だ。
 あれは、後夜祭の魔法が見せた夢だ。

 忘れよう。忘れよう……




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お読みくださりありがとうございました!
次も慶視点です。続きはまた明後日、よろしくお願いいたします。

クリックしてくださった方、本当にありがとうございます! せっかくの初キス!だったのに、キスはなかったことに……(^-^; 次回もどうぞよろしくお願いいたします!
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